法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「Rakuten UN-LIMIT VI」と「楽天経済圏」で、3キャリアに挑む楽天モバイル

 1月29日、楽天モバイルは東京・品川でプレスカンファレンスを開催し、新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表した。

楽天モバイルの三木谷浩史会長

 昨年12月以降、ライバル各社が相次いで、新料金プランを発表し、攻勢を強める中、ライトユーザーからヘビーユーザーまで、幅広いニーズに対応する『ワンプラン』にバージョンアップすることで、対抗していく構えだ。

 今回は楽天モバイルが発表した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の方向性や捉え方について、考えてみよう。

『官製値下げ』で追い詰められた楽天モバイル

 この2カ月ほど、国内のモバイル業界は、料金に関する話題で持ちきりだ。

 手法としての是非は議論の余地があるものの、昨年、菅義偉総理大臣と武田良太総務大臣による一連の『携帯電話料金値下げ』発言によって、NTTドコモ、ソフトバンクが相次いで、大幅な値下げに踏み切った新料金プランを発表し、1月に入り、auも3つのカテゴリーで新料金プランを発表し、追随した。

 なかでもNTTドコモの「ahamo」とソフトバンクの「SoftBank on LINE」の月額2980円で20GB、auの「povo」の月額2480円で20GBという構成は、いずれも楽天モバイルがこれまで展開してきた「Rakuten UN-LIMIT V」や「Rakuten UN-LIMIT」の月額2980円でデータ通信と国内通話(専用アプリ「Rakuten Link」使用時)が使い放題という内容を狙い撃ちしたものであり、主要3社発表時はSNSなどで「楽天の無料期間が終わったら、移行する」といった投稿が数多く見受けられた。

 ユーザーとしては各社から割安な料金プランが発表され、通信費の負担が減ることはうれしいが、楽天モバイルとしては何とも皮肉な展開になってしまった印象は否めない。

 ここ数年、モバイル業界の競争環境について、菅総理や総務省は「楽天モバイルの参入で、競争が起き、料金が割安になる」と発言するなど、楽天モバイルは携帯電話料金値下げの根拠に挙げられてきた。しかし、値下げを促す発言が主要3社にも向けられたことにより、主要3社も値下げに踏み切り、逆に、楽天モバイル自身の立場が危うくなってしまった。

 詳しくは後述するが、 いくら楽天モバイルが使い放題、国内通話無料を声高らかに謳っても利用できるエリアは、主要3社と大きな開きがあるため、とても太刀打ちできる状況にはなく 、昨年12月のNTTドコモとソフトバンク、今年1月のKDDIが新料金プランを発表した段階では、楽天モバイルが生き残る道はないかと思われていた。

 また、タイミングが悪いときには悪いことが重なるもので、元ソフトバンク社員が楽天モバイルへ転職した際、ソフトバンクが機密扱いとしているネットワーク情報を持ち出し、1月12日に逮捕されたというニュースが報じられた。新料金プランには直接、関係のないニュースだが、こうした騒動は消費者にもあまりいい印象を持たれないうえ、楽天モバイルが前倒しでエリア拡大を進めることができたのは「ソフトバンクの機密情報を持ち出したから」と言われかねない状況を生み出してしまった。真偽のほどはまだわからないが、少なくともあまり好ましい状況ではないことは、誰の目にも明らかだ。

月額ゼロ円で維持できる段階制プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」

 そんな中、楽天モバイルは1月29日に東京・品川でプレスカンファレンスを開催した。

 このイベントが告知されたのは前々日の1月27日で、表題も「楽天モバイルの新料金プラン発表に関する記者説明会」となっていたため、主要3社の新料金プランへの対抗策が打ち出されることが期待された。ただ、主要3社に比べ、利用できるエリアが限られているうえ、auローミングも順次、終了する状況を鑑みると、楽天モバイルにあまり有効な策はないだろうと予想されていた。

 そして、発表された新料金プランが「Rakuten UN-LIMIT VI」だった。詳しい内容は本誌の速報記事などでお伝えしているので、そちらを参照していただきたいが、従来の「Rakuten UN-LIMIT V」の月額2980円、4G/5Gのモバイルデータ通信、「Rakuten Link」による国内通話無料をベースにしながら、あまり通信を使わないユーザーも利用しやすくするため、月額2980円を上限とした段階制を導入した形となっている。適用は4月1日からで、すでに「Rakuten UN-LIMIT V」を契約中のユーザーは同日に、自動的に新料金プランへ移行される。

 段階制の内容については、月間のデータ利用量が1GB以下なら月額ゼロ円、1GB超~3GBまでが月額980円、3GB超~20GBまでが月額1980円、20GB超は月額2980円という構成になっている。

 段階制ではあるものの、料金プランとしては「Rakuten UN-LIMIT VI」のワンプランのみであるため、 月々の請求額はユーザーの利用状況に応じて、違ってくる。 ちなみに、楽天モバイルとの契約が2回線目以降の場合は、3GB以下の月額料金が980円からスタートするため、一人で月額ゼロ円の回線をいくつも契約することはできない。また、細かい話だが、月間データ利用量が1GB以下のときの月額料金は、ゼロ円ではなく、ユニバーサルサービス料が請求されるため、2021年は月額3円(税別)のコストがかかるはずだ。

 ネットワークについては4G/5Gネットワークのどちらでも同じように利用でき、auのローミングについても従来同様で、最大5GBまで使うことができる。「Rakuten Link」を利用した国内通話無料なども引き継がれる。

 「Rakuten UN-LIMIT VI」はその内容を見てもわかるように、主要3社が狙い撃ちしてきた2980円という月額料金の設定に対し、それよりも割安な月額料金、もしくは同額で無制限のデータ通信が利用可能なプランを提案してきた。しかも月々のデータ通信量が1GB以下のユーザーは、月額ゼロ円にすることで、解約を防ごうというわけだ。採算を度外視した料金プランという指摘もあるが、楽天モバイルとしては主要3社に真っ向勝負を挑んでいく姿勢だ。

楽天モバイルは楽天経済圏のためのサービス?

 利用するデータ通信量が1GB以下なら、月額ゼロ円。最大限利用しても月額2980円という内容に進化してきた楽天モバイルの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」だが、これは事業として、成立するのだろうか。

 ユーザーとしては安く使えれば、それに越したことはないが、データ通信量が1GB以下で、月額料金がゼロ円であれば、楽天モバイルは何も売り上げが立たず、赤字になってしまう。しかし、楽天モバイルの収支だけで判断せず、楽天グループ各社で展開する楽天経済圏にとって、どれだけ楽天モバイルの幅広いユーザー層が有用なのかで判断する方向性も考えられる。

 ユーザーにとって、携帯電話サービスはインターネットを利用したり、通話をしたり、SNSやコンテンツ、ゲームなどを楽しむためのものだが、 これらのネット上で利用するサービスの対象に、楽天グループ各社のサービスが含まれていれば、楽天経済圏としての相乗効果が期待できる。 これは楽天が携帯電話事業参入のときから予想されていた方向性のひとつだが、楽天モバイルとしては、単に主要3社に対抗する携帯電話サービスとして提供するのではなく、楽天経済圏を活性化するサービスのひとつとして、提供しようというわけだ。

 現に、楽天グループでは「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」を提供しており、楽天グループ各社のサービスを利用するごとに、付与される楽天ポイントの倍率が変わるしくみを採用している。

 たとえば、楽天市場で買い物をする場合、その人が楽天カードで支払えば「+2倍」、楽天証券で取引をしていれば「+1倍」、楽天ブックスを利用していれば「+0.5倍」といった具合いに倍率が増えていく。

 もちろん、それぞれの利用には金額や回数などの条件があるが、単純に買い物をする場合より、確実にポイントが貯まっていく。楽天モバイルもこのスーパーポイントアッププログラムの対象であり、 楽天モバイルを契約していれば、付与されるポイントの倍率は「+1倍」になる 。つまり、楽天市場で買い物が多ければ、楽天モバイルを維持しておいても十分、おトクになるわけだ。

 こうした楽天の目論見は、着実に結果が出ているようで、プレスカンファレンス後に楽天モバイル常務執行役員 兼 CMOの河野奈保氏にインタビューした際にもひとつのデータが示された。河野氏によれば、楽天市場を利用するユーザーのうち、楽天モバイルに加入したユーザーは、楽天市場の利用が増える傾向にあるという。つまり、楽天モバイルとの契約をきっかけに、楽天市場をはじめ、楽天グループ各社の利用が増加する見込みがあるというわけだ。

 この考え方と方向性をより突き詰めていくと、今後、楽天モバイルはモバイルビジネスの在り方を大きく変えることになるかもしれない。これまで、主要3社の携帯電話サービスは、基地局やネットワーク、営業、開発など、さまざまなジャンルのコストを積み重ね、そこに利益を乗せることで、携帯電話料金が導き出されてきた。ところが、楽天モバイルの場合、仮に携帯電話サービスの利益がプラスマイナスゼロであったとしても楽天経済圏への利益貢献が明確であれば、それでも良しとできるわけだ。

 ここ数年、各携帯電話会社は少子高齢化や市場の頭打ちなどの影響で、通信サービスとしての売り上げが低下してくることを予想し、非通信分野での売り上げを拡大するべく、さまざまな取り組みをしてきた。コンテンツサービスだけでなく、ショッピングやクレジットカード、金融など、多様なサービスを提供し、新しい事業として利益を上げるべく、力を注いできた。

 これに対し、楽天グループはすでにオンラインショッピングや銀行、証券、クレジットカードなどで、十分な利益を確保しているため、 携帯電話サービスは楽天グループの主要サービスを支える付帯的なサービスとして、展開することも可能 な状況にある。

 たとえば、将来的に楽天証券や楽天銀行で一定額以上の資産を運用していたり、楽天カードで一定額以上の利用があれば、携帯電話サービスを無料で利用できるようなプランも不可能ではないわけだ。

 他社でも一部、実現されているが、すでに楽天モバイルでは楽天ポイントで月額料金を自動的に払うしくみができているわけで、携帯電話サービスを主体としない提供は十分可能であり、今回の1GB以下で月額ゼロ円という料金プランは、新しいビジネスモデルへ転換していく予兆と言えるのかもしれない。

無料期間が終わる楽天モバイル回線をどうするか

 楽天モバイルは2019年10月に無料サポータープログラムでプレサービスを開始し、正式なサービスは昨年4月にスタートしている。そのため、早くから楽天モバイルの利用を開始したユーザーは、4月はじめには1年間の無料キャンペーンが終了し、有料サービスに切り替わる見込みだ。

 自分の契約がいつ有料サービスに切り替わるのかは、[my楽天モバイル]アプリを起動し、右上のメニューから[契約情報]を選ぶと、「お申し込み日」が表示されるので、その1年後ということになる。2019年10月から提供を開始した無料サポータープログラムを契約していたユーザーは、無料サポータープログラムの「お申し込み日」が表示されるので、間違えないようにしたい。

 では、今年4月以降、有料サービスに切り替わるユーザーは、今回発表された「Rakuten UN-LIMIT VI」を受け、現在の楽天回線をどうすればいいのだろうか。

 まず、現時点で楽天モバイルの回線をサブ回線として利用していて、 データ通信量が1GB以下で、ユニバーサールサービス料の3円の負担が気にならないのであれば、キープという判断でいい だろう。特に、前述のように、楽天市場を頻繁に利用するユーザーであれば、スーパーポイントアッププログラムの「+1倍」の恩恵が受けられるからだ。

 次に、ある一定以上のデータ通信を利用するのであれば、後述する エリアのことを考慮し、判断する必要がある。

 たとえば、自宅が楽天モバイルのエリア内で、当面はテレワークなどで、自宅を中心に利用したいというのであれば、これは利用する価値が十分あるだろう。

 逆に、主に利用する場所が楽天モバイルのエリア外だったり、auローミングでの利用が中心であるなら、無理に楽天モバイルをメインに利用することはないだろう。

 主要3社の方が圧倒的にエリアが広いうえ、5Gであれば、値下げされた使い放題のプランも選べるからだ。「いや、主要3社の料金プランは高い」というのであれば、楽天モバイルを選ぶのも手だが、後述するエリアの実状をよく理解したうえで、判断することをおすすめしたい。

 また、筆者が以前、知人経由で相談を受けたケースでは、「複数の回線契約をデュアルSIMやiPhoneのnanoSIM/eSIMなどの環境にまとめ」、「もう片方を楽天モバイルで利用したい」というものがあった。

 特に、eSIMについては、今のところ、IIJmioや楽天モバイルしか提供していないため、iPhone 12/11/XSシリーズなどで、主要3社のnanoSIMカードを利用しつつ、eSIMに楽天モバイルを登録するという使い方を考える人も少なくないようだ。確かに、この方法なら、1台のiPhoneにまとめ、音声通話は主要3社を使いつつ、データ通信はeSIMに登録した楽天モバイルを使い方も可能だが、主要3社が発表した新料金プランはオンライン専用プランを中心に、いずれもeSIMの提供を予定しており、エリアのことなどを考慮すれば、そちらを組み合わせた方が快適という見方もできる。

楽天モバイルにのしかかる「エリア」という課題

 さて、料金プランを段階制の「Rakuten UN-LIMIT VI」に進化させたことで、楽天モバイルは無料期間終了後の大量解約をひとまず回避できそうだが、ここまで指摘してきたように、それでも同社の携帯電話事業には避けられない課題がある。そのひとつは「エリア」だ。

 楽天モバイルは2019年1月に総務省関東総合通信局から1.7GHz帯の免許を付与されて以来、基地局の建設やネットワークの構築を進めてきたが、基地局建設は当初から指摘されていたとおり、かなり難航した。用地の確保を一般ユーザー向けのダイレクトメールで募っていたことは、本コラムでも明らかにしたが、それくらい設置場所探しには苦労したようだ。昨年4月8日から正式サービスを開始時も十分なエリアが確保できないため、auネットワークへのローミングで利用できるデータ通信量を5GBまで拡大し、何とか利用できる環境を整えようとした。

 その後、基地局建設はうまくシステムが構築できたのか、人海戦術が成果を上げはじめたのか、徐々にペースアップし、今回のプレスカンファレンスでは、今年1月現在、同社のネットワークのみで、人口カバー率73.5%を達成したことを明らかにした。今後の計画としては、今年3月末には80%、今年夏には96%を達成する見込みであるとした。

 こう書いてしまうと、「96%まで来れば、大手3社との差もわずか3%だし、変わらない程度に使えるんだろうな」と考える人が多いかもしれない。ネット上でも「たぶん、大丈夫」といった楽観論も散見されるが、 現実はそんなに甘い話ではない

 まず、エリアの評価軸に使われている「人口カバー率」だが、これは必ずしもユーザーが利用できるエリアを面的に示しているものではない。かつて、人口カバー率は市町村役場で利用できれば、その市町村をカバーしたことになるという、非常に大雑把なものだったが、2014年以降は全国を500メートル四方のメッシュで区切り、その区域の過半で利用できれば、そのエリアの人口をカバーしたものとして、計算されている。

 ただし、この「利用できる」という判断は、人が居住していることを考慮しているため、夜間の人口をベースにしている。楽天モバイルのプレゼンテーション資料でも「夜間人口に対する人口カバー率」と記載されている。つまり、夜間に人が居住していないオフィスビルや商業施設、工場などの場所は、そもそも人口カバー率として考慮されておらず、自分の住む街の人口カバー率が90%台後半にまで拡大したのに、街の中心部にある自分のオフィスは圏外といったことが起こり得る。特に、都市部のビルや地下街などが拡がるエリアは、かつて主要3社がエリアを展開していく中でも圏外になってしまうことが少なくなかった。エリアは地図上に表示する『面』ではなく、立体的な『空間』であることを理解しておきたい。

 こうしたことが起きる裏付けとしては、以前、KDDIの前代表取締役社長の田中孝司氏に4G LTEネットワークのエリア展開についてうかがったとき、「エリア整備は99%から先がたいへん」と語っていたことが思い出される。

 つい最近もソフトバンクの代表取締役社長の宮内謙氏が決算会見の席において、「96%から99%にするには、兆単位のお金がかかる」と、エリア展開の難しさを説明していた。つまり、今夏には主要3社との差は3%になるかもしれないが、楽天モバイルが現在の主要3社と同じようにつながるようにエリアを構築するには、まだまだ膨大なコストがかかり、かなりの時間を要するというわけだ。

徐々に終了するauネットワークへのローミング

 そこで、頼りにしたいのがサービス開始当初から提供されてきたauネットワークへのローミングだが、これも楽観視できる状況にない。すでに、本誌でお伝えしているように、楽天モバイルのエリアが70%を超えた地域については、KDDIと協議のうえ、auネットワークへのローミングが終了する約束になっている。

 楽天モバイルとしてはすでに99%超を実現しているauネットワークへのローミングが継続して利用できれば助かるが、免許を受けた携帯電話事業者である以上、自らエリアを構築しなければならないうえ、auネットワークへのローミングには費用も発生する。

 そのため、どこかのタイミングで自社ネットワークに切り替えていく必要がある。楽天モバイルはその切り替えのしきい値を「自社ネットワーク70%」に設定したわけだが、これが意外に厳しいと言われている

 本誌でも昨年、東京・吉祥寺での実地レポートをお伝えしたが、これはあくまでもひとつの例に過ぎず、今後、楽天モバイルのエリアが拡大する中、auネットワークへのローミングが終了し、圏外になる場所がより明らかになっていく見込みだ。

 現在は地域によって、緊急事態宣言が発令されているため、人の移動が制限、もしくは自粛する時期にあるため、人によってはそれほど行動範囲が広くなく、エリアは気にならないかもしれないが、今後、ある程度、外出が容易になってくると、主要3社とのエリアの違いはより顕著になってくるはずだ。

 また、今回のプレスカンファレンスでは、2023年以降に米AST社が手がける衛星通信サービス「Space Mobile」によって、人口カバー率100%を実現する旨がアピールされたが、これはまだ未知数であると考えた方がいいだろう。

 そもそも衛星通信サービスを展開するには、隣国との調整などが必要で、衛星通信を利用したモバイルデータ通信は国際的なルールを決める段階にある。つまり、衛星通信モバイルサービスをエリア展開の切り札のように考えることは、まだ無理があると言わざるを得ない。もちろん、計画としては楽しみだが、実用化できるかどうかは、まだ未知数のサービスであることを理解しておきたい。

楽天モバイルに求められる「信頼」

 そして、もうひとつ課題として挙げたいのは、やはり、サービスとしての「信頼性」だろう。楽天モバイルは新規参入した事業者として、エリア展開を前倒しで進めるなど、かなり積極的に取り組んできたことは確かだ。

 しかし、ここまでのサービスの提供状況を振り返ってみると、ポイント付与の漏れや誤課金、契約ミスなど、さまざまな問題が断続的に起きている。

 ネット上を検索してみると、申し込みから契約、開通、実利用に至るまで、トラブルの事例が数多く報告されている。しかも問題解決のためのサポートもチャットで十分な返答が得られないなど、一般消費者を対象としたサービスとして、十分な対応、体制ができていないことが露呈してしまっている。

 こうした点を前述の楽天モバイルの河野氏にインタビューで聞いてみたところ、「クオリティに対してユーザーさんの声が多く寄せられたことは事実です。それはひとつひとつ、きちんと対応していくことしかないのだと思っています。(中略)今回の発表後、クオリティが何よりも求められるであろうことは承知しておりますので、きっちりやっていきたい。」と答えている。つまり、問題があることは認識しており、今後、しっかりと対応していくことを明確に表明したわけだ。

 ただ、河野氏ご当人が云々というわけではないものの、楽天モバイルに対しては、こうした幹部の発言を額面通りに受け取れないというのが率直な印象だ。

 これまで楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏をはじめ、楽天モバイル代表取締役社長の山田善久氏やCTOのタレック・アミン氏らが事あるごとに述べてきた言葉が後々、変わってしまっていたり、実践されていなかったりといったことが何度となく、起きているからだ。

 たとえば、5Gサービスを開始する前、「当社は5G readyで4Gネットワークを構築している」と豪語していながら、いざ、5Gサービスを発表してみたら、もっとも多い東京でも対応スポットが20箇所に満たず、そのほとんどが楽天本社がある東京・二子玉川周辺のみという状況で、メディア関係者からは思わず「どこが5G Readyなんだ!」と声が聞かれた。

 また、エリアについても当初、会見の質疑応答で、記者から「1.7GHz帯のみでは、他社に対抗することは難しいのでは?」と指摘されたことに対し、「1.7GHz帯のシングルバンドなので、シンプルにネットワークを構築できる。通信速度は5Gが割り当てられれば、対抗できる」と答えていたが、5Gのエリアは前述通りの少なさであるうえ、昨年末に総務省で催された電波政策懇談会では「プラチナバンドがなければ、競争は困難」と訴え、主要3社が持つプラチナバンドを再編し、再配分することを求めている。

 元々、1.7GHz帯しか割り当てられないことをわかっていながら、新規事業者として参入し、一度は「1.7GHzで十分。5Gになれば、カバーできる」と答えながら、ここに来て、「プラチナバンドがないと競争できない」と訴えるのは、さすがにいかがなものだろうか。

 端末についても課題は多い。

 昨年のRakuten Miniの対応周波数の騒動は、携帯電話事業者としての姿勢を問われるような前代未聞のトラブルだったが、楽天モバイルのオリジナル端末以外では、機種によって、利用に制約があるなど、かなり端末を選ぶのが実状だ。

 たとえば、通話やデータ通信、SMSなどは楽天回線でもパートナー回線でも動作するが、機種によっては接続する回線の自動切替ができないため、パートナー回線に接続されたままになってしまい、気が付けば、パートナー回線割り当て分の5GBをほとんど消費していたといったことが起きている。

 アップルによる正式対応ではないものの、楽天モバイルで動作を確認したとするiPhoneについても接続回線の自動切り替えに失敗するため、注意して利用する必要がある。

 しかし、こうした動作確認に関する情報は、Webページのみで公開され、随時、更新されているものの、ユーザーにはあまり認知されておらず、メディアに対しても特段、説明されていないため、自ら情報をチェックするユーザーにしか理解されていないのが実状だ。

 こうした接続できる端末を選ぶ原因は、おそらく楽天がアピールする『完全仮想化ネットワーク』にあると推察されるが、これらの事象はユーザーに対してだけでなく、メディア向けにも十分な説明がされておらず、我々も試しながら、手探りの状態で利用しているのが実状だ。

 これらの点についても「今後はしっかりと情報を発信し、説明する機会を設けてください」と強くお願いをしておいたが、今後、楽天モバイルがどのように対応していくのかをユーザーとしてもメディアとしてもしっかりと注視していく必要があるだろう。