法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

改正電気通信事業法に振り回されつつも5G時代への歩みを進めるモバイル業界

~2019年のモバイル業界を振り返る

 モバイル業界のみならず、IT業界も含め、動きが激しいと言われる業界だが、2019年のモバイル業界はおそらく、ここ数年でもっとも大きな転換期を迎えたと言われている。

 しかし、その多くは一般ユーザーにとって、あまり歓迎できるものではなく、「こんなはずじゃない」「それじゃダメだろ」と言いたくなるような話題が多かったのも事実だ。今年のモバイル業界で注目された話題を取り上げながら、一年を振り返ってみよう。

ほぼ成果なく終わった「4割下げられる」発言

 昨年、菅官房長官が発した「4割下げられる余地がある」という発言を起点に、総務省とモバイル研究会は電気通信事業法の改正に取り組み、今年5月に成立、今年10月から施行された。

 法律の内容については、ここで解説しないが、各携帯電話会社は法改正に合わせ、従来の料金プランや販売方法を見直し、今年10月から新料金プランを受け付け、販売方法も端末購入補助の上限を2万円とする時限的な制限を受け入れる形でスタートを切った。

 まず、各社の料金プランについては、おそらく多くの読者のみなさんも同じ印象をお持ちだろうが、「4割下げられる」などという目標を実現できたとは言い難く、なかには新しい料金プランに変更すると、割高になってしまうケースも散見された。

ドコモの料金はどう変化した?

 なかでも筆者が個人的にも今年一番の『失策』だと感じたのは、NTTドコモの「シェアパック」と「docomo with」の廃止だ。

 シェアパックについては、当面、新プランに移行しなければ、シェアパックを継続できる。しかし、ユーザーが新旧料金プランの違いを意識せず、シェアパックの契約者が新プランに移行してしまい、シェアパック対象回線の家族が慌てるといったことも起きているという。

 シェアパック廃止の背景には、「シェアパックはわかりにくい」という意見があったとされるが、NTTドコモが十分に説明を尽くしたとは言えず、新プランでは「ギガホ」と「ギガライト」という二者択一にしたものの、家族での割引なども組み合わせていることから、結局、わかりにくさは解消できていないという指摘もある。

 docomo withは対象機種が限られていたものの、バランスのいい施策として、着実に浸透していたが、新プランへの移行に伴い廃止され、今年5月末の終了時に駆け込み需要を多く生んだ。

auの料金プラン

 auは早くから分離プランに取り組んでいたため、緩やかに移行する形になるだろうと予想していた。

 しかし実は旧プランのほかに、改正電気通信事業法に合わせた新プラン、ユーザーのニーズに合わせた中間的なプランやNetflixバンドルプラン、5G時代を意識した使い放題のプランなどもラインアップに加えたため、よく似た名前の新旧料金プランが並ぶことになり、一段とわかりにくくなってしまった。

 ただ、これもauがある程度、先を見越して計画していた料金プランに対し、総務省が横やりを入れてしまったために料金プランを細々と改定しなければならなかった影響もあると言えそうだ。

ソフトバンクとワイモバイル

 ソフトバンクは50GBの「ウルトラギガモンスター+」、段階制の「ミニモンスター」、スマートフォンにデビューするユーザー向けの「スマホデビュープラン」を展開している。基本的には「ウルトラギガモンスター+」へ寄せたい姿勢が強く、安い料金プランについてはサブブランドのワイモバイルで対応しようという構えだ。

 ただ、同社も従来のプランに比べ、4割の値下げを実現したとは言い難く、他社同様、値下げ幅は菅官房長官や総務省の目論見ほどの結果を得られていない。

楽天

 楽天(MNO)については10月1日に正式にサービスを開始する予定で、今回の菅官房長官の「4割下げられる余地がある」発言の根拠のひとつにも挙げられていたが、残念ながら、試験サービス的な意味合いの強い5000人(+α)限定の「無料サポータープログラム」での提供に留まるのみとなった。

 今年12月3日に楽天モバイル(MNO)の料金プランのWebページが流出したと話題になり、楽天が慌てて「ダミーページで、料金プランなどの情報は仮で入力したもの」と否定したが、ここで示されていた「データ定額料 50GB 900円」という料金設定に近い料金プランが実現できるのであれば、確かに主要3社よりもかなり割安になる。

 ただ、現実的にはエリア展開や通信品質、サポート体制などを鑑みると、すぐに移行できるというレベルとは言えない印象で、つい先日も総務省から通信障害の行政指導を受けたばかりだ。三木谷社長の威勢のいい発言は期待感を持たせるが、それ以前に、今後、楽天として、どのように消費者の信頼感を勝ち取っていけるのかがカギになりそうだ。

MVNO各社の動き

 そして、MVNO各社については、やはり、大手携帯3社の値下げ(実質的な成果は少ないが……)の影響を受け、市場で戦っていけるMVNO事業者が少しずつ限られてきた印象を受ける。

 DMM mobileのように、早々に撤退を決め、他事業者に事業譲渡するケースもあり、今後、MVNO各社がどのように戦っていくのか、何社が生き残るのかが注目される。

行政の取り組み、効果があったのか

 ただ、料金の低廉化を実現するには、MVNOの存在が必要不可欠であり、総務省が政策や税制面などで優遇する施策を考えるべきだが、これといった工夫のある施策は打ち出せていない。あるいは、MVNOへの移行をためらう消費者に対し、総務省がMVNO各社を後押しするような施策も考えられるが、そういうところへの知恵の絞り方が足らない点も総務省の無策ぶりを表わしている。

 総務省の通信行政や競争環境に関する政策については、また別の機会に取り上げたいが、昨年(2018年)、ぶち上げた割に、あまり成果が得られず、逆に主要3社が右往左往させられたおかげで、ユーザーに対する周知が進まず、余計に複雑化してしまった感は否めない。
 総務省やモバイル研究会、関係各所には、今一度、市場で何が求められているのかをよく理解したうえで、どういう手順で進めれば、本当の意味の競争政策を実現できるのかをじっくりと検討することを強く願いたい。

 また、今年は総務省関係以外にも政治的な要素がモバイル業界に大きな影響を及ぼした。そのひとつが米商務省のエンティティリストによるファーウェイの取引制限で、今年5月以降、主要3社及びMVNO各社は一時的に販売を見合わせることを強いられた。

 8月以降、順次、販売が開始されたが、グローバル市場ではGoogle Mobile Serviceを搭載した新製品を投入できないなどの制限があり、米中の貿易交渉も継続中だ。現在、国内で販売されている製品やユーザーが利用中の端末は、特に影響を受けない見込みだが、こうした政治的な摩擦はこの件に限ったことではないため、2020年以降もしばらく目を離せそうにない。

5Gへの期待と不安

 2019年のモバイル業界を語るうえで、ちょっと評価が難しいのが「5G」だ。今年、NTTドコモ、au、ソフトバンクは、5Gのプレサービスを相次いで開始し、10月以降は5Gサービスについてのニュースが数多く報道された。正式なサービス開始は来春に予定されており、楽天モバイル(MNO)も数カ月遅れで、5Gサービスの提供を開始する見込みだ。

 5Gはこれまでのモバイルネットワークで使われてこなかった高い周波数帯域を使い、超高速、大容量、超低遅延、同時多接続を実現する。過去にも何度か触れてきているように、「5Gは電気になる」と言われるほど、我々の生活に深く根ざしたインフラになることが期待されている。

 ただ、こうした5Gに対する『触れ込み』を受け、新聞やテレビなど、一般メディアでは「正式サービスが開始する2020年から、5Gが日本を大きく変える」とばかりに、過度な期待感を持たせる5G関連のニュースが報じられている。

 こうした報道の影響もあり、最近、店頭では「今、スマートフォンを買い換えるのは得策ではない」といった消費者の反応が散見されるようになってきたことも気になるところだ。確かに、通信技術の世代が新しくなれば、誰もが今まで以上に快適に利用できることを想像するはずだ。特に、5Gは各携帯電話会社だけでなく、ローカル5Gと呼ばれる地域限定の展開なども検討されているため、今まで以上に報道が多く、必要以上に期待を持たせる状況になりつつある。

 ただ、過去の2Gから3G、3Gから4Gへの切り替えのタイミングでもサービスイン直後は、技術面の新しさとトレードオフになる要素がいくつも見受けられた。

 たとえば、新しい通信方式に対応した半導体が別に必要だったり、ネットワーク側も十分なチューニングがされていないため、端末の電力消費が大きくなり、すぐにバッテリー残量が減ってしまうことなどが起きた。

 少し古いユーザーなら、NTTドコモがFOMA(3G)サービスを開始したとき、FOMA端末に電池パックを複数、付けていたことを覚えているだろう。LTEサービス開始時も同様で、本領を発揮し始めたのがauが4G LTEのサービスを開始して、約2年後のCA(キャリアアグリゲーション)導入の頃からではないだろうか。

 5Gのチップセットについては、すでにファーウェイがハイシリコン製Kirin 990シリーズで5Gモデムの統合を実現しているの対し、米クアルコムは今年12月に米国ハワイで催されたイベントで、最新のSnapdragon 865を発表したものの、5Gモデムの統合を見送り、別チップで対応する方針を打ち出している。

 4Gから5Gへの移行は、当面、両方式を併用する形になるうえ、「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」と呼ばれる4G向けの帯域を分割せずに、5G向けに共用できる技術の導入が検討されており、これまでの世代移行に比べ、順調に進むだろうと言われている。

 しかし、元々、日本は主要3社の4G LTEの整備がかなり進んでおり、現在の4G LTEと同程度、5Gが利用できるようになるには、設備の入れ替えや基地局の整備など、数年の歳月がかかると言われている。

 5Gについては当面、都市部を中心にエリアが展開される見込みで、それ以外は各携帯電話会社がスタジアムなどで限定的にエリアを展開するケースなどに限られると予想される。これらのことを踏まえると、実際に来春に5Gサービスがスタートしたとしてもメリットを享受できる環境はやや限定的で、わざわざ端末の買い控えをするほどではないというのが大方の予想だ。

 現在の成熟した4G LTE端末を購入しておき、5G対応端末がある程度、手頃な価格になり、魅力的なサービスが提供できた時点で移行を検討すれば、十分という指摘もある。特に、改正電気通信事業法による端末購入補助の2万円という制限は、10月から2年間の時限措置とされているため、これが見直されるタイミングで、5Gを検討するのも悪くない考え方だ。もっとも総務省がまたもや『ちゃぶ台をひっくり返す』可能性は否定できないが……。

2019年に注目を集めたスマートフォン

 毎年、さまざまな端末が登場し、国内外の市場をにぎわせているが、2019年はスマートフォンにおいて、過去に例を見ないほど、話題の端末が多かった一年だったと言えそうだ。

 本誌では「読者が選ぶ ケータイ of the Year 2019」として、キャリア部門とSIMフリー部門について、投票結果を掲載しているので、そちらも参照していただきたいが、ここでは筆者の独断による「俺のケータイ of the Year」を選んでみたい。

フォルダブルと2画面

 2019年のスマートフォンを語るうえで、まず、外せないのが各社の『折りたたみ』端末だろう。

 今年1月にCES 2019で中国のRoyoleが初の折りたたみ端末「FlexPai」を出品したのを皮切りに、2月にはサムスンが自社イベントのUNPACKED 2019で「Galaxy Fold」をお披露目。翌週のMWC Barcelona 2019に合わせ、ファーウェイが「Mate X」を発表し、『折りたたみ』がスマートフォンの新しい形として、注目を集めた。しかし、国内市場に投入されたのはauが取り扱った「Galaxy Fold」のみで、価格も24万円超という、到底、一般ユーザーが手を出せないレベルになってしまった。

 その一方で、ディスプレイ付きカバーという手法を使い、5万円台というリーズナブルな『二画面』を実現したのがソフトバンクのLGエレクトロニクス製「LG G8X ThinQ」だ。チップセットもSnapdragon 855を搭載するハイスペックでありながら、この価格帯にリーチしてきたのはかなり注目に値する。こうした『価格破壊』的なモデルが今後、増えてくることを期待したい。

カメラの進化

 一方、ここ数年、進化が著しいカメラについては、普及クラスのモデルでもマルチカメラによるボケ味の利いた写真を撮影できるようになり、今やスマートフォンの標準機能になってきた印象だが、「OPPO Reno 10x ZOOM」や「HUAWEI P30 Pro」で高倍率ズームを実現するモデルが登場し、月の撮影も可能にするなど、一般的なデジタルカメラでも難しい写真を誰でもスマートフォン一台で楽しめる領域に達しつつある。

 「Xperia 1」や「Xperia 5」のように、プロ仕様を取り込む方向性の進化もあり、今後、どちらがユーザーに支持されていくのかが注目される。

シャオミが日本参入

 こうしたスマートフォンのカメラ競争において、注目されるのが今年12月に国内市場に参入したシャオミの存在だ。

 同社は中国市場において、ファーウェイやOPPO、Vivoなどと激しい販売競争をくり広げてきたメーカーであり、同社製品に搭載されるカメラについてもユーザーに高く評価されてきたことが知られている。

 今回の「Mi Note 10」「Mi Note 10 Pro」では業界最高峰の1億800万画素のイメージセンサーを含む5眼カメラを搭載するなど、積極的に取り組んでおり、今後、これらの製品に続き、同社がどんな製品を国内市場に投入してくるのかが注目される。

Mi Note 10

 ちなみに、2020年はVivoも日本市場への参入を予定しており、2020年は各社の競争が一段と激化することになりそうだ。

eSIMの動向

 また、通信関連では個人的に興味をそそられたのが「eSIM」だ。昨年のiPhone XS/XS Max/XRにも搭載されていたが、今年は「iPhone 11シリーズ」に加え、Googleの「Pixel 4」「Pixel 4 XL」の日本向けモデルでもサポートされ、IIJがeSIMサービスの提供を開始した。

 国内ではまだ対応サービスが限られているが、海外では国際ローミングサービスなどが提供されていて、今後、海外出張や海外旅行の多いユーザーにはeSIM搭載がひとつのチェックポイントになりそうな印象だ。

筆者が選ぶ今年の機種は……

 この他にもいくつも気になる端末があった2019年だが、さまざまな要素を鑑み、筆者が選ぶ今年を代表する機種をいくつか選んでみよう。昨年同様、ハイエンドモデルとミッドレンジに分けて、選んでみることにした。

 まず、ハイエンドについては、「Galaxy S10+」「HUAWEI P30 Pro」「Pixel 4 XL」「AQUOS R3」「Xperia 1」を挙げたい。

Galaxy S10+
HUAWEI P30 Pro
Pixel 4 XL
AQUOS R3
Xperia 1

 各社のフラッグシップモデル勢揃いという印象もあるが、「完成度の高さ」「注目できる新機能」「他機種にない個性」「内容に見合う価格」という要素を鑑みたうえで、選んだ5機種だ。前述の『折りたたみ』端末については、エポックメイクな製品だったものの、価格や実用面などを考えると、個人的には選ぶことができなかった。

 次に、ミッドレンジについては徐々に価格帯の幅が拡がってきているため、少し悩むところだが、「OPPO Reno A」「AQUOS sense3」の2機種を選ぶことにした。

OPPO Reno A
AQUOS sense3

 売れ筋としては「HUAWEI P30 lite」が挙げられるが、やはり、国内市場におけるミッドレンジモデルは、おサイフケータイや防水防塵といった日本のユーザーが求める機能をしっかりとサポートしている必要があり、その点を考慮すると、この2機種にアドバンテージがある。

 最後に、ひとつ残念だったことを挙げたい。今年は前述のように、スマートフォンに『折りたたみ』『二画面』という新しい方向性が見えてきたが、すべてのユーザーがスマートフォンを求めているわけではなく、やはり、一定数はフィーチャーフォンを求めるユーザーが存在する。

 こうしたニーズに対し、ここ数年、Androidプラットフォームをベースにしたフィーチャーフォンが各社から登場したが、もともと製品の買い換えサイクルが長いためか、売れ行きも低空飛行のままで、販売されている製品もあまり目新しさがない。

 しかし、その一方で、海外ではフィーチャーフォンのニーズを組んだコンパクトなモデルなどが発売され、一部は国内市場にも持ち込まれている。

 昨年はNTTドコモの「カードケータイ」が発売されたが、今年は残念ながら、フィーチャーフォンに新しい可能性を示すモデルが発売されなかった。ぜひ、2020年はスマートフォンだけでなく、フィーチャーフォンでもユーザーが「ワクワクする一台」を投入して欲しいところだ。