インタビュー

「Snapdragon 865で5Gのポテンシャルを全て引き出す」――クアルコムのアモン社長とモバイル担当のカトージアン氏に聞く

 4日(現地時間)、クアルコム社長のクリスティアーノ・アモン氏と、クアルコムテクノロジーズでモバイル分野のジェネラルマネージャー シニアバイスプレジデントを務めるアレックス・カトージアン氏が、グループインタビューに応えた。

アモン氏(左)とカトージアン氏(右)

 主な話題は、グローバルにおける5Gの状況、865にモデムが統合されなかった背景、米中関係の影響など。

5Gがグローバルで広がる理由

アモン氏
 周囲からは「クアルコムは保守的に見積もっていた」との指摘を受けています。

 デバイスのエコシステムはすでに成熟し、準備が整っています。ユーザーがもし、5G対応機種を買おうとすれば、すでにいくつかのメーカーは、5G端末の第3世代目か第4世代目を提供できる状況になります。

 2020年に、最高の4Gスマートフォンを買おうと思ったら、その機種はもう5Gに対応しています。これが5Gを加速させている要因のひとつです。

 もうひとつは、通信事業者の視点で見てみましょう。通信事業者は5Gの導入を決めています。5Gではユーザーの月間平均データ通信量は増加します。通信事業者にとっては、ユーザーを5Gへ導きたい。

 たとえば欧州は過去。使い放題プランはありませんでしたが、今、5Gでは使い放題プランが提供されています。韓国も良い例ですね。そうした形で市場に変化が生まれます。

 私たち自身は、5Gになると、サービスはもっと良くなるだろうと楽観的に見ています。たとえばゲーム内の映像品質は向上していますよね。

865における5Gモデムについて

アモン氏
 Snapdragon 865では、X55モデムを統合しませんでした。865に搭載する技術については、多くの検討を重ねてきたのです。

 私たちは、通信技術の世代移行について、一貫性を保っています。かつて4Gとモバイルブロードバンドの立ち上げ時には、モバイルコンピューターが必要でした。そこでSnapdragonというプラットフォームを生み出したのです。用途を広げていくためには、マルチコアのプロセッサーなどの性能が必要でした。

 現在の5Gでもそれは同じです。我々が選んだアプローチは、865において、5Gの潜在性をフルに引き出すということ。

 たとえばこれから5Gは映像分野に革命をもたらすでしょう。そこで8Kカメラやエンコーディング技術、ギガピクセルカメラが必要になります。あわせて画像処理エンジンのアップグレードも必要でした。5Gが可能性を広げるんです。

 また、AIもあります。信頼性の高い通信でクラウドに繋がれば、多くのデータをクラウドに、デバイスに保持できます。AIの高度な活用が見込めるわけです。

 同じようにゲーミングも、5Gの主な用途のひとつになるでしょう。

 そうしたことを踏まえると865で妥協しないことを選びました。モデムの妥協なし、プロセッサーの妥協なしです。

 今夏、ファーウェイなど競合他社の動向を見ると、モデムをSOCへ統合するため、200MHz幅対応だったものを100MHz幅対応へダウングレードしています。でも我々はフラッグシップでは妥協しないことを選びました。5Gが持つ可能性の全てを引き出すためです。

 Snapdragon 865がパフォーマンスの新しい領域を示すことになるのは、とても良いと感じています。初めて実装される機能が、カメラやAIといった分野で多く見られることは、5Gの全ての可能性にフォーカスしているからなんです。

米中関係について

アモン氏
 2つの重要なメッセージがあります。

 ひとつは5Gは前進しているということです。確かに米中関係は緊張しています。しかし中国でも、米国でも、欧州、韓国、日本でも、経済面でリードするところは全て5Gに向かっています。ここには(米中関係の)何の影響もありませんし、スローダウンもしていません。

 もうひとつは、問題はそれぞれ別のものだということです。2国間の緊張はあります。ファーウェイのこともあります。それらは別々の問題です。そしてクアルコムと繋がるパートナーとの間に問題は何もありません。たとえばシャオミは欧州で、OnePlusは米国で、それぞれ拡がりを見せています。

5Gにおける料金の考え方について

アモン氏
 通信事業者のサービスにコメントはできません。

 ただ、一般的な話として、5Gはアンリミテッド(通信使い放題)向けにデザインされていること、新たなユースケースに適していること、ミリ波やsub6(サブ6、6GHz以下の周波数)を共用するようデザインされていることは、世界各地の通信事業者へ、一貫して伝えてきました。

 経済的に成熟した地域の通信事業者に対しては、5Gでアンリミテッドデータプランをオススメしていますし、産業も消費者にも利益があると思います。

 5Gへの移行を促進するひとつの手法としても、4Gではなく、5Gでアンリミテッドを用意することが挙げられます。4Gから5Gへの移行については、5Gで新しいサービスを提供することや、フォルダブルのような新しいフォームファクターの登場も、乗り換えを促進するでしょう。

865/765搭載モジュールについて

アモン氏
 モジュールはまたちょっと違った用途をもたらすものです。OEMメーカーに向けて提供し、OEMは好みの形にデザインできます。OEMはより多くのデバイスを開発できるようになります。

カトージアン氏
 5Gデバイスの開発負担を軽減する効果もあります。ユーザー体験やソフトウェアなど差別化に集中できるようになります。全てのOEMが優れた開発チームを抱えているわけではありません。たとえばハイエンドモデルに多く取りかかっている状況で、モジュールを活用することで、さらに(ラインアップを)拡大できます。

 スマートフォンだけではなく、IoTや自動車分野でも展開しやすくなります。専門知識がなくともモジュールがあれば開発できますから、IoT環境の自動車向けにモジュールが大幅に利用されると見ています。

 あ、重要な存在を忘れていました。PC方面でもメリットがあると思います。

指紋認証の3D Sonic Max

カトージアン氏
 (前世代から認識エリアが17倍に拡がり、指2本で認証できるようになった指紋認証技術の)3D Sonic Maxは、クルマやドアなど、セキュリティが求められたり、指紋で開閉させたいようなところへ採用されたりする可能性はあります。私たち自身は、まずは検証しています。

 それぞれに適したセキュリティレベルと機能が必要でしょう。

マイクロソフトと共同開発した「SQ1」

アモン氏
 マイクロソフトと共に決めたもので、今の進化においてデバイス(SQ1を搭載する2in1タブレットPCのSurface Pro X)の成功を、我々がどれほど信じているかを示すニュースでもあります。

 Windows対応のSnapdragonとして、それもセカンドクラスではなくベストなWindowsを目指す上で、マイクロソフトが責任を負うのは自然なことでしたね。

カトージアン氏
 たとえばビデオ会議をするとしましょう。マイクロソフトにはSkypeという製品があります。30分通話する中で、目をそらしたりすることがあると思います。

 AIが「画面を見ていない」と判断するような仕組みがある場合、たとえば競合であるIntelのソリューションと比べ、私たちのソリューションは消費電力が1/100、1/100なのです。