法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「HUAWEI nova 5T」はフラッグシップのDNAを継承したスマートフォン
2020年1月9日 06:00
2019年、米中貿易摩擦の影響を受けながらも数々のモデルを国内市場に投入してきたファーウェイ。そんな同社の2019年を締めくくる端末として、同社のフラッグシップモデルである「HUAWEI P30 Pro」や「HUAWEI Mate20 Pro」と同等のパフォーマンスを実現できるモデル「HUAWEI nova 5T」が昨年末に発売された。筆者も実機を購入したので、レビューをお送りしよう。
ファーウェイを巡る誤解と不安
スマートフォンや携帯電話だけでなく、パソコンなど、IT全般を取り巻く環境において、ライバル企業が訴訟合戦をくり広げたり、各国の政府と企業が争うという構図は、この数十年、何度も見てきたが、2019年は大国間の貿易摩擦によって、ひとつの企業グループが予想以上に大きな制限を受けたことが注目を集めた。あらためて説明するまでもないが、米中貿易摩擦に端を発した一連のファーウェイに対する米商務省の取引制限のことだ。
本誌でも米商務省の動向やファーウェイの主張、関連企業の意向などを伝えてきたが、貿易摩擦の影響が一般消費者の利用する(購入する)製品に直接的な影響を与えたのは、過去数十年を振り返っても珍しいケースであり、それだけ米国が中国とファーウェイを脅威に感じていることの現われだろう。
この米商務省のエンティティリスト(禁輸措置対象リスト)による制限は、昨年5月に始まり、昨年6月以降に発売が予定されていた各携帯電話会社やMVNO各社が扱う製品の多くは、一時、販売が見合わされることになった。その間も「HUAWEI P30 lite」をはじめ、オープン市場向けのSIMフリー端末は販売され、ヨドバシカメラなどの家電量販店では当初の予定通り、新製品を購入することができた。結局、8月に入り、各携帯電話会社やMVNO各社が取り扱う予定にしていた端末は順次、販売が開始された。
ところが、今度は昨年9月にドイツ・ミュンヘンで開催されたイベントで発表した新製品「HUAWEI Mate30」シリーズが「Google Mobile Service」(GMS)を搭載せず、代わりに自社開発の「HUAWEI Mobile Service」(HMS)を搭載したため、一部のメディアが「Googleと決別するのではないか?」と報じ、再び消費者に混乱をもたらすことになった。国内のネット上でも「ファーウェイの端末はGoogleサービスが使えない」「GmailやGoogleマップが使えなくなる」といった誤解を生んでしまったが、実際のところはファーウェイもGoogleも「販売済みの製品については継続してサポートする」と表明している。Androidプラットフォーム向けのセキュリティパッチをはじめとしたソフトウェア更新も継続して提供されており、当面は安心して利用することができる。
こうした背景があるものの、昨年6月の規制開始以降に開発されたファーウェイ製端末は、エンティティリストの対象になるため、中国以外の国と地域に対しては、GMSを搭載した新製品が投入できない状態になっている。そのため、昨年9月発表の「HUAWEI Mate30」シリーズは、国内市場向けの投入が見送られている。
そんな中、昨年11月に国内市場向けに発表されたのが「HUAWEI nova 5T」だ。規制開始後、初の新製品発表だったこともあり「ついに、国内向けにもHMS搭載製品を出すのか?」と、記者をやきもきさせたが、実はこれまでの国内向けファーウェイ製端末と同じように、GMSが搭載され、GmailもGoogleマップも普通に利用できる製品となっている。
HUAWEI nova 5Tが規制開始以降に発売された端末でありながら、GMSを搭載しているのは、ちょっとしたカラクリがある。実は、HUAWEI nova 5Tは規制開始以前に中国をはじめとした市場に、「honor 20」という名称で発売されており、これをリネームし、国内市場に合わせたモデルとして、開発されている。そのため、一連の規制の対象外という扱いになり、国内市場へ投入できたというわけだ。
こうしたネーミングの変更は奇策というわけでもなく、ファーウェイはこれまでも販売する国と地域に合わせたモデル名を付けている。元々、novaシリーズはグローバル市場において、若い世代をターゲットにしたシリーズとして展開されてきたが、国内ではフラッグシップモデルとエントリークラスの間を埋める位置付けのモデルなどを展開してきた。
今回のHUAWEI nova 5Tは、昨年9月にNTTドコモから発売された「HUAWEI P30 Pro HW-02L」、昨年1月にソフトバンクから発売された「HUAWEI Mate20 Pro」、オープン市場向けに投入された「HUAWEI P30」と同じチップセット「Kirin 980」を搭載しながら、5万円台という買いやすい価格帯を実現している。
昨年10月の電気通信事業法改正以来、10万円前後のハイエンド端末は明らかに勢いを失う一方、3万円前後の普及価格帯のモデルが好調な売れ行きを示している。その間に位置する5万円台の『ミッドハイ』とも呼ばれる少しスペックが高めのモデルも少しずつ注目を集めており、今回のHUAWEI nova 5Tはまさにその価格帯を狙ったモデルになる。
実売価格は販路によって、少しずつ違うが、だいたい5万円台半ばであり、同じ価格帯では「AQUOS sense3 Plus」(シャープ)、「iPhone 8」(アップル)、「Pixel 3a」「Pixel 3a /XL」(Google)などが販売されている。同じファーウェイの端末では同じチップセットを搭載した「HUAWEI P30」がわずかに高い6万円強で販売されており、選択を悩むところだ。
フルHD+対応6.26インチ液晶ディスプレイを搭載
まず、外観からチェックしてみよう。ファーウェイ製端末ではHUAWEI P30 ProやHUAWEI Mate20 Proがディスプレイや背面の側面を湾曲させた形状を採用し、新しいデザインの方向性を打ち出しているが、HUAWEI nova 5Tはスタンダードな両面共にほぼフラットな形状のデザインを採用している。ボディ幅は73.97mmと、程々のサイズに抑えられているため、あまり手の大きくない女性などにも持ちやすいサイズ感となっている。
外観の注目点としては、カラーが挙げられる。ブラックとクラッシュブルーはファーウェイ製端末でもおなじみのカラー系統だが、ちょっと面白いのがミッドサマーパープルと名付けられたカラーで、背面に「nova」の文字をあしらったパターンを使いつつ、中央下には「nova」のロゴをシルバーでプリントしている。現在販売されている端末は基本的にシンプルな単色で仕上げられているものが多いが、ファーウェイ製端末はHUAWEI P30 Proのブリージングクリスタルのように、見る向きによって、印象が変わる仕上げを採用するなど、背面のフィニッシュにはかなり凝っている。
今回のHUAWEI nova 5Tも2色はこれまでのファーウェイ製端末の流れを受けた仕上げだが、ミッドサマーパープルはもう一歩先を狙った試みと言えそうだ。ちなみに、筆者は敢えて派手さを重視して(笑)、ミッドサマーパープルを購入した。
ディスプレイは6.26インチのフルHD+対応液晶パネルを搭載し、本体前面の画面占有率は91.7%に達する。ここ数年、ファーウェイのフラッグシップモデルは有機ELディスプレイが採用されることが多いが、コスト面を考慮してか、HUAWEI nova 5Tは液晶パネルが採用されている。
ただし、液晶パネルだからといって、画質や性能面で劣るわけではなく、映像コンテンツなどを視聴しても十分に美しい画質で楽しむことができる。有機ELパネルのようなギラギラした印象がなく、落ち着いて視聴できる画質とも言えるだろう。
ディスプレイで少し特徴的なのは、液晶ディスプレイながら、四隅が角張らず、丸くなっていること、左上にインカメラのパンチホールが開いていることなどが挙げられる。ディスプレイの四隅の処理は好みもあるが、最近では有機ELディスプレイ搭載モデルなどを中心に、四隅が丸く処理されている機種が多く、やはり角張ったデザインに比べ、新しさを感じる。
インカメラのパンチホールについては、Galaxy S10/S10+/Note10+などで採用されているが、ファーウェイは中国向けモデルなどで採用実績があり、国内向けモデルでは初採用となる。水滴型ノッチとどちらがいいのかは判断が難しいが、筆者はすでにGalaxy S10+で慣れているので、あまり違和感なく、使うことができた。未体験のユーザーにとっては見慣れた水滴型ノッチより、パンチホールの方がデザイン的なアクセントになって、面白いという見方もできる。
側面に電源ボタン一体型指紋センサーを搭載
セキュリティについては本体の右側面に電源ボタンと一体化された指紋センサーを内蔵する。国内のユーザーには、かつてのXperiaなどで採用されていた指紋センサー(昨年もXperia 8で採用された)と同じデザインと言えば、わかりやすいだろうか。HUAWEI P30 Proなどでは画面内指紋センサーが採用されているが、HUAWEI nova 5Tは液晶ディスプレイが採用されているため、光学式の画面内指紋センサーが採用できず、側面の電源ボタン一体型が採用されたようだ。
使い勝手に関しては申し分なく、発表時にアナウンスされていた「0.3秒」を裏付けるように、画面オフ時に側面に触れるだけですぐに認識され、画面ロックが解除される。ただ、左手で持つユーザーは左手の中指で認証するなど、ちょっと工夫が必要な面があるかもしれない。ちなみに、端末を右手で持つ場合、基本的には右手親指の指紋を登録して利用することになるが、車載ホルダーなどに端末を固定したとき、右ハンドル車で端末にタッチするには左手を伸ばすため、左手の親指の指紋も登録しておくと便利だ。
また、顔認証にも対応しているので、指紋認証は最小限にしておき、普段は顔認証でロックを解除するという使い方もできる。ただし、顔認証は似た顔でもロックが解除される可能性もあるので、セキュアに使うのであれば、指紋センサーのみを利用するのが確実だ。
チップセットは前述の通り、HUAWEI P30 Proなどと同じKirin 980を採用し、8GB RAMと128GB ROMを搭載する。Kirin 980は2つのNPUを内蔵したチップセットで、7nmプロセスルールで製造されており、高い処理能力と優れた省電力性能を両立する。NPUはAIカメラなどに活かされるだけでなく、アプリの起動や電力消費の最適化などにも活かされているため、端末全般のレスポンスや電池持ちなどにも効果を発揮する。
ストレージは128GBと大容量だが、microSDメモリーカードやNMカードなどの外部メモリーカードに対応していないので、その点は注意が必要だ。ちなみに、メモリーカードはほかのスマートフォンからの移行に利用することが多いが、ファーウェイ端末の場合、「Phone Clone」というアプリが用意されており、これを使うことで、メモリーカードを使わずに、これまで使っていた端末から直接、データを引き継ぐことができる。
バッテリーは3750mAhの大容量バッテリーを搭載する。本体下部のUSB Type-C外部接続端子から充電する。ワイヤレス充電には対応していない。22.5Wの急速充電に対応し、約30分で50%まで充電ができる。付属のACアダプターは5V/4.5Aの充電をサポートしており、端末のバッテリー残量がない状態から、約1時間半で満充電を可能としている。
プラットフォームはAndroid 9ベースのEMUI 9.1.0が採用されており、ホームアプリなどはこれまでのファーウェイ製端末と同じように、カスタマイズができる。日本語入力はAndroidプラットフォーム標準の「Gboard」だけでなく、オムロンソフトウェアの「iWnn IME」を搭載しており、ユーザーの使い方に合わせ、表示やキー設定などを自由に変更できるようにしている。
AI対応クアッドカメラを搭載
ファーウェイ製端末の魅力と言えば、やはり、カメラだろう。Leicaとの協業によるカメラはここ数年のスマートフォンのカメラの進化をリードしてきたと言っても過言ではないが、今回のHUAWEI nova 5TはLeicaとの協業によるカメラではなく、ファーウェイが独自に開発したカメラが搭載される。もちろん、ノウハウは活かされているだろうが、いわゆる「Leicaカメラ」ではない点は、HUAWEI P30 Proなどのカメラとは異なる点だ。
とは言うものの、HUAWEI nova 5Tにはこの価格帯の端末としては異例とも言えるハイスペックなカメラが搭載されている。
まず、本体のもっとも上部側に備えられているのが約1600万画素のセンサーにF2.2レンズを組み合わせた超広角カメラで、画角は117度と広いため、旅先の風景や建物、広いスペースなどを撮影するときに効果を発揮する。
上から2つめは約4800万画素のセンサーにF1.8のレンズを組み合わせたメインカメラで、広角での撮影に対応する。センサーサイズは1/2インチと大きく、4つの画素を組み合わせて撮影する「4in1ライトフュージョン」も利用可能だ。iPhone XS MaxやGalaxy S10+などの1/2.55インチというセンサーサイズと比較して、ひと回り大きく、より多くの光を取り込めるため、暗いところでも撮影にも強い。
上から3つめのカメラはポートレートなどで、被写界深度を測るための200万画素のイメージセンサーで、F2.4のレンズを組み合わせる。その内側に搭載されている小さなカメラモジュールが200万画素のイメージセンサーにF2.4のレンズを組み合わせたマクロカメラで、約4cmまでのマクロ撮影に対応する。
撮影時の機能としては、ポートレートや夜景など、おなじみの機能をサポートするほか、メインの被写体はカラーで捉えつつ、背景はモノクロでぼかす「AIポートレートカラー」などの機能も搭載する。暗いところでの撮影や夕景などもきれいに撮影することができたが、ひとつ残念なのがマクロ撮影で、花などを撮影しても今ひとつピントが合わず、ややクッキリ感に欠ける写真になってしまう。マクロカメラを搭載する機種はまだ少ないが、今後、カメラのチューニングが進んでいくことを期待したい。
インカメラについては前述のように、ディスプレイ左上のパンチホールに3200万画素のイメージセンサーとF2.0のレンズを組み合わせたカメラモジュールを搭載する。このインカメラにも4つのサブピクセルをひとつにまとめて、より多くの光を取り込める「4in1ライトフュージョン」が利用でき、AIとの組み合わせにより、背景をぼかした自撮りを可能にする。もちろん、ファーウェイ製端末でおなじみのビューティーモードや背景の光源をカスタマイズするフィルター機能なども備える。
5万円台半ばのモデルに何を求めるか
さて、最後にHUAWEI nova 5Tの「買い」のポイントについて、考えてみよう。HUAWEI P30 Proなどに搭載されるチップセットを採用し、4800万画素イメージセンサーを含むAI対応クアッドカメラを搭載するなど、フラッグシップに迫るスペックを実現したHUAWEI nova 5T。昨年、懸念されたGoogleへの対応も問題なく、非常に快適に利用できるSIMフリー端末として仕上げられている。
この仕様で5万円台半ばという価格設定は、十分魅力的と言えるだろう。昨年10月の改正電気通信事業法の施行以降、消費者の関心はミッドレンジやミッドハイと呼ばれるような価格帯の商品に移っており、そのニーズにもマッチするモデルと言えそうだ。
ただ、昨年後半のオープン市場の動向として、もうひとつ注目されるのが日本仕様への対応だろう。チップセットのスペックは違うが、「AQUOS sense3 plus」や「OPPO Reno A」のように、4~6万円程度の価格帯には、防水やおサイフケータイに対応したSIMフリースマートフォンが存在する。ユーザーが5万円台半ばの価格に何を求めるのか、どういった用途に使いたいのかにもよるが、実用性と価格、パフォーマンスのバランスを考えると、
日本仕様をサポートしたライバル機種を選ぼうとするユーザーが居ることも理解できる。
ファーウェイは数々の魅力的な端末を国内市場に投入し、国内の携帯電話事業者やMVNO各社のモデルとしても採用されるほど、浸透してきたが、防水防塵やおサイフケータイなどの日本仕様をサポートしたモデルはNTTドコモ向けのモデルに限られており、他社のユーザーは防水防塵をサポートしながら、おサイフケータイに対応していないHUAWEI P30などを選ぶしかなかった。
HUAWEI P20 ProやHUAWEI P30 ProがNTTドコモで扱われることが明らかになったとき、ネット上では「SIMフリー版が欲しい」という声が聞かれるなど、日本仕様を求めるユーザーは少なくない。今後、ファーウェイとして、こうした声にどのように応えていくのかも国内市場での重要なカギになりそうだ。
これらの点を考慮すると、HUAWEI nova 5Tをおすすめできるのは、どちらかと言えば、日本仕様などよりもパフォーマンスを重視するユーザー向けになる。完成度の高さはほかのファーウェイ製端末同様だが、GMSを搭載した最新のファーウェイ製スマートフォンとして、ぜひチェックしておきたい一台と言えそうだ。