【MWC19 Barcelona】

「Xperia 1」ファーストインプレッション

Xperia 10、Xperia 10 Plusも

 ソニーモバイルコミュニケーションズが新フラッグシップモデル「Xperia 1」などを発表した。バルセロナで開催されている展示会「MWC19」で、岸田光哉社長からプレスカンファレンスで紹介された。

プレスカンファレンスでXperia 1を紹介する岸田社長

 「Xperia 1」は、2019年初夏以降の発売が予定されている新機種。実機はまだ操作できない段階だったが、プレス向けの内覧会では、ソニーモバイルの商品企画部門長の田嶋知一氏らによる説明も行われており、あわせて注目のフラッグシップモデルについてレポートする。

「好きを極めた人々」がターゲット

 ソニーモバイルとしては今回、「好きを極めたい人々に、想像を超えたエクスペリエンスを」というビジョンを掲げている。

グループインタビューでXperia 1のコンセプトを紹介する田嶋氏

 これは万人受けするスマートフォンではなく、強いこだわりを持ち、追求しているユーザー層に真正面から向き合い、その人たちの想像をさらに超えるような体験を届ける、という考えだ。

 とはいえ、ニッチなマーケットだけを目指しているわけではない。まずはメインとなる「好きを極めたい人々」の心を掴み、そこからの幅広いユーザーへの波及効果も狙っている。

 しかし最初から幅広いユーザーを狙って商品を作ってしまうと、「好きを極めたい人々」の心を掴めない。まずは核となるターゲット層を狙って開発した。

Xperia 1の概要。ソニーならではのこだわりが詰まっている

 田嶋氏は、「(シェア上位のメーカーは)規模感がケタ違いなので、そこと同じことをやっていたら、どのユーザーも取れない。まず(好きを極めたい人々を)取ってから広げる。ジャイアントプレーヤーと同じことはせずに、ソニーにしかできないことをやる」と説明する。

 ソニーはクリエイティブエンターテイメントカンパニーとして、さまざまなエンターテイメントコンテンツを作るデバイス、楽しむデバイス、さらにコンテンツ自体も持っている。

 そうしたコンテンツの会社である強みを活かすべく、コンテンツの体験に注力した商品にしよう、というのがXperia 1の基本コンセプトだ。

ディスプレイは21:9

Xperia 1。プレスが手に取れたのは、画面表示を切り替えられない形だったがモックアップではなく実機だった

 「Xperia 1」では21:9のディスプレイを搭載している。21:9という比率は、いわゆるシネスコサイズ(1:2.35)に近い。「Xperia 1」では映画などのシネスコサイズのコンテンツを本来の21:9フォーマットのまま、表示することを目指している。

 かつては4:3という比率が主流だったスマートフォンのディスプレイは、ここ2年ほど「18.5:9」といった比率の製品が増えてきた。

 ソニーでは映画フォーマットを重視し、さらに細長い形状となる21:9のディスプレイを採用している。田嶋氏は「シネマコンテンツは常に最高峰で最先端だとソニーは考えている。そのシネマコンテンツをモバイルに取り入れたいと思った」と説明する。

インカメラは画面外に搭載

 そのため、Xperia 1の見た目は、異様なほど縦長という印象を受ける。インカメラは、直近のトレンドであるノッチ、パンチホールではなく、ディスプレイ外に搭載されていることもあって、その分ボディは縦長だ。しかしノッチやパンチホールを採用しなかったとしないのも、21:9という画面に集中してもらうための、ソニーのこだわりだという。

 異様なほど縦長に見えるXperia 1だが、実機を手に取ってみると、意外にもコンパクトに感じる。重さは約180gと決して軽くはないのだが、本体の幅は73mmと一般的なサイズなので、見た目とのギャップも相まって、手のひらへの収まりの良さを感じるようだ。

背面はガラスパネル仕様。ちなみに同時発表のXperia 10/10 Plusはつや消し仕様

 スマートフォンのコンテンツは縦長のものが多い。たとえばタイムラインで表示されるようなSNSであれば、画面が縦長であればあるほど、表示できる情報量が増える。そうした理由でスマートフォンの画面は4:3から18.5:9まで進化してきたので、21:9となったのはある意味で正統進化とも言える。

 当然、片手での操作には支障が出やすいが、幅はそこまで広くないので、握りやすさも相まって、「ステータスバーの下スワイプ」も片手で問題なさそうな印象を受けた。

マルチウィンドウ表示

 アプリのマルチウィンドウ表示も使いやすくなっている。2分割してもそれぞれのアプリはほぼ正方形で表示できる。このマルチウィンドウ表示もXperia 1の特徴として、2個のアプリを同時に起動しやすいようなUIも搭載される。

フォートナイトの21:9ディスプレイ比較。16:9(右)に比べるとより広い視野が確保できる

 ゲームにおいても21:9は活用される。発表会ではバトルロワイヤルTPSの「フォートナイト」、レースゲームの「アスファルト9」、MOBAの「Arena of Valor」が21:9表示に対応することが紹介された。

 TPS/FPSでは横長表示となることで、より広い視界を確保し、いち早く敵を視認できるという優位性を得られるので、フォートナイトの21:9対応はゲーマーとしてはインパクトのある出来事だ。また、レースゲームも昔からマルチディスプレイを構築してでも横幅のある表示が追求されてジャンルなので、21:9対応に相応しいとも言える。

アスファルト9。レースゲームもウルトラワイドが威力を発揮するジャンルだ
Arena of Valor。MOBAでも表示範囲が増えるので戦闘がより有利になりそう

プロ向け機器のノウハウも投入

 ディスプレイを21:9にしただけでなく、Xperia 1にはソニーならではの要素も盛り込まれている。従来のXperiaシリーズでも、ソニーグループの持つカメラやテレビといった他部門のノウハウが投入されているが、今回のXperia 1では、Xperiaシリーズでは初めて、非コンシューマー機器、プロ向けの映像機器部門の技術が投入されている。

 厚木にあるソニーの拠点には、映画や放送業界で使われているプロ用映像機器の開発部隊がいる。たとえば、ジョージ・ルーカスと開発してスターウォーズ エピソード1の撮影に使われたF900や、ジェームズ・キャメロンと開発し、アバター2以降の撮影に使われているVeniceなど、業界をリードするようなプロ向け機器だ。このようなプロ向け機器の技術が今回、Xperia 1に投入されているという。

 そのひとつは映像表示における「クリエイターモード」だ。映像の製作現場で使われるマスターモニターは、色の再現性が非常に厳密に追求されていて、1台数百万円のマスターモニターも使われているという。そうしたマスターモニターのカラーマネージメント技術を応用し、コンテンツ本来の色を忠実に表示するのが、Xperia 1のクリエイターモードだ。BT.2020規格の色域表示に対応しているという。

 現在撮影中の「Black and Blue」という映画では、Xperia 1を小型マスターモニターとして使う試みもなされているという。ソニーモバイルのブースでは、そうしたマスターモニターとして運用するための遮光フード付きでの展示も行なわれていた。

BRAVIAの技術を応用し、「記憶色」を演出する通常モードとマスターモニターの技術を応用し、「記録色」を忠実に再現するクリエイターモードの2つの使い分けることができる
BRAVIA由来のX1 for mobileではHDRアップコンバートにも対応
クリエイターモードではBT.2020に対応し、10ビットカラー相当の階調表現を疑似的にする
実はディスプレイ自体は8ビット階調対応で、2ビット分はスムージング処理で再現している
左が通常のカメラアプリ、右がシネマプロアプリ。通常アプリだと色彩がいかにビビッドに強調されるかもわかる

 もうひとつは撮影側における「シネマプロ」という専用アプリだ。こちらは通常のカメラアプリとは異なり、プロ向けカメラVeniceをベースとしたUIでかなり細かな設定をしながら、21:9で24fpsというシネマ規格の4K HDR動画が撮影できる。カラーグレーディングという機能も入っていて、製作者の意図した色調での撮影も可能となっている。

 シネマプロアプリはXperia 1専用のもので、通常のカメラアプリとは別に搭載される。こちらもソニーモバイルブースでデモ展示が行なわれていたが、ビビッドさが強調される通常カメラアプリに対し、映画的な色調を選択可能で、より製作者が意図した絵作りができるようになっている。

カラーグレーディングは「ルック」としていろいろなプリセットから選べる
プロ向けカメラベースの操作が可能

 プロ向け機器の技術だけでなく、従来も搭載してきたデジタルカメラαの技術やテレビBRAVIAの技術も搭載されている。たとえば標準カメラアプリでは、処理エンジンBIONZ X for mobileを搭載し、暗所でのノイズ低減が強化されたほか、スマートフォンとしては初めて、瞳オートフォーカスも搭載している。

トリプルレンズ構成

 カメラは今回、トリプル構成で、超広角/広角/望遠の切り替えが可能だ。これまでXperiaシリーズはマルチカメラ分野では遅れを取っていたが、今回はクリエイティビティを重視し、「レンズ交換カメラのように様々な画角で撮影したい」「スマホならばカメラを複数搭載すれば実現できる」というアプローチでトリプル構成にたどり着いたという。

それぞれのレンズでさまざまな被写体をカバーする
センサのピクセルサイズ拡大、レンズの明るさ向上をあわせ、暗所撮影機能が強化された

 また、映像表示においては前述のマスターモードに加え、従来から搭載しているBRAVIA技術としては、新たにX1 for mobileを搭載し、さらに明るくハッキリした色表現も可能となっていて、SDRコンテンツをHDR相当に表示する機能も搭載している。

Xperia 10(左)とXperia 10 Plus(右)。Xperia 10は幅70mm未満と、手に取った印象では画面の大きさに対して非常にコンパクトに感じられる

 マスターモードやシネマプロといった機能は、Xperia 1独自となるが、同時に発表された「Xperia 10」と「Xperia 10 Plus」も21:9比率のディスプレイを搭載し、シネスコサイズコンテンツの表示に対応している(解像度は4KではなくフルHD+でHDRにも非対応)。

 Xperia 10/10 Plusはやや下の価格帯のスタンダードモデルとなっていて、ディスプレイだけでなくカメラやプロセッサもXperia 1ほどの性能とはなっていない。しかし21:9というわかりやすく影響の大きい特徴を共有している。

 Xperia 1ほどのこだわりを必要としないが、21:9ディスプレイによるメリットを享受したい人は、Xperia 10/10 Plusを選べる、というラインナップになっている。

Xperia 10の分解モデル

 なお、Xperia 10/10 Plusについては、日本での発売については言及されていないが、日本以外の一部市場では発表と同時に発売されている。

 Xperia 1は日本を含む全世界での展開がアナウンスされているが、Xperia 10/10 Plusの日本展開について田嶋氏は、具体的な販売の有無については言及を避けつつも、「ミッドレンジ需要があり、そこに好きを極めたい人々がいるのもわかるので、ミッドレンジの日本への導入は検討している」と答えた。

5G Xperiaはプロトタイプを展示

初日のデモでは、5Gプロトタイプ端末で1.5Gbps前後の通信速度を実現していた

 今回のMWCでの展示では、ソニーによる5Gへの取り組みとして、開発プロトタイプによる通信デモも展示されている。こちらは28GHz帯のミリ波を使った通信で、帯域幅は700MHzを用い、だいたい1.5Gbpsくらいの通信速度を実現していた。

 本来このプロトタイプは帯域幅800MHzまで対応しているが、MWCで実際に出力できる無線許可の関係で700MHz幅になっているという。また、本来は3Gpbsくらいの速度を実現できるということだが、発信側の機器のパフォーマンスが十分に発揮できていないようで、1.5Gbpsくらいになっているとのことだった。

デモ環境。こちらはアンテナがやや即興な感じだが、クアルコムブースでは同プロトタイプとちゃんとした簡易基地局の組み合わせでのデモも行なわれていた

 ちなみにこのプロトタイプ、Xperia 1をベースとしていて、上下にさらに長くなり、厚みも少し増している。ベースとなっているXperia 1はチップセットにSnapdragon 855を採用しているが、同チップセットはモデムチップのX50と組み合わせることで5Gを実現できるので、今回のMWCに展示されている5Gスマートフォンの多くが同様の構成となっている。ただし、他社はプロトタイプではなく、製品化の決まったモデルの展示となっている。