特集:5Gでつながる未来
「5Gでは料金が大きく変わる」、4キャリアのトップが語る5Gの世界
2019年10月16日 21:09
結局5Gで何が変わるのか?
モデレーターを務めた、MM総研 代表取締役所長の関口和一氏は、多くのユーザーが最も気にしているであろう質問を投げかけた。
「4Gと5Gで一体何が変わるのか」と問いかけられたNTTドコモ 代表取締役社長の吉澤和弘氏は、誰に会っても真っ先に聞かれる難しい質問だと苦笑した上で「なかなか難しい。テレビを見るだとか、音楽を聴くだとかそういうことが今までとは変わると思う。産業にしても、今までは人がいなければいなかったところでも、鮮明な映像で遠隔操作ができるようになるとか。そういうことなら言えますけど、本当に『キラー』の部分は何なのかと難しい。今まさにパートナー企業とそれを探しているところだ」。
これに対し、KDDI 代表取締役社長の髙橋誠氏は、「吉澤さん、なかなかネタばらしされないもんだからちょっとズルイな、なんて」と、おどけた様子を見せこう語った。「当初のうちはNSA、4Gエリアにプラスした形で5Gエリアができる。そのスペシャルなエリアの中でスペシャルな体験を提供できる。昔も、野球場でラジオ中継を聴きながら観戦する人がいた。これからはそれがスマホの動画になるんじゃないかと思う。そういう新しい体験を提供できる。法人向けについても、IoTによってすべてのものが溶け込んだ通信がある環境で新しいビジネスが始まる」。
ソフトバンク 代表取締役 副社長執行役員兼CTOの宮川潤一氏は、「5Gはスタートした時点と、標準化が一通り終わったあとの2種類があると思う。最初は今のスマートフォンの延長線上に近い。少し高速大容量になってxRが始まる時期がきた後に、人と人、モノとモノがつながるのが当たり前の時代が来る。そうなると、通信容量をいくら使ったからいくら課金する、というビジネスモデルは変わる。つながった先のサービスを提供しなくてはいけないと思う」。
楽天モバイル 代表取締役社長の山田善久氏は「5Gの特長は何よりも低遅延だと思う。たとえばゲームなどが、相手とリアルで何かを体験しているかのような経験が得られる。5GとMEC(モバイルエッジコンピューティング)を組み合わせれば、今までとは圧倒的に違う体験ができると思う。入り口はゲームでもそこから広がっていく。MECはとても重要な技術になっていくと思う」。
料金はどうなるのか?
菅官房長官の「4割下げられる発言」や、かつてのソフトバンクは携帯電話業界に革命を起こすと言いながら入ってきた。いまやその役割は楽天に移ったようだ。山田氏は「まだ料金は発表していないが、やはり期待されている低廉な料金で参入していきたい」とした。吉澤氏は「5Gは通信だけでなく、サービス、ソリューションなどを含めた融合料金になるのではないかと思う」と語った。「通信量込み」という料金の形になるのではないかと予測する。
KDDIは、すでに5G時代を意識した料金プランを提供している。高橋氏は「これからは多様性の時代だと思う。素晴らしいネットワーク、サービスを体感したい人もいれば、安ければいいという人もいる。その両面を見た料金設定にしなくてはいけない。ただ、5Gでいちばん重要なのはまず使ってもらうこと、そういう環境を我々は作っていきたい」。
宮川氏は「デバイスは時間が経てば安くなるが、今の4Gと同じルールで売っても隣に安い4G端末があれば普及しない。5Gをやる前に議論する場を作ったほうがいいのではないか。いや、決して官房長官に逆らっているわけではなく」と市場原理主義的視点から語る。「中長期的にはモノがつながって当たり前の世界ができる。(これまでのような)接続料がいくらというビジネスモデルは本当に変わっていくと思う」と予測した。
変化するビジネスモデル
KDDIと楽天が協業を行うということについて、将来のライバルと手を組むという状況だが、徐々に業界が変わりつつあるのだろうか。これに対して、高橋氏は通信業界だけが特異なのではないと指摘する。「物流業界では、ヤマト運輸と佐川急便が共同で実験を行うなどの例がある。世の中全体の流れが変わってきたのではないか」と語る。
これに対して山田氏は「4Gと5Gとで変わってくるのはインフラの作り方だと思う。業界としても変えなくてはいけない課題なのではないか。海外では鉄塔を提供する『鉄塔会社』というものがあり、その鉄塔に各事業者がアンテナを設置するというスタイルがある」と語る。
日本では、それぞれが設備投資を行い、競争を働かせているため、これまでには考えられなかったスタイルだ。「しかし、5Gでは電波特性から基地局数は増える。しかし、そこで鉄塔会社をやるかというと、結局楽天が参入した意味が……ということもある」。
宮川氏は「競争関係があったからこそ、3G、4Gの爆発力もあったと思う。アメリカの携帯電話会社は平均的に5万局の基地局を持っているが、日本の3キャリアは平均10万基。だからこそ高品質なネットワークができた。競争政策の是非はこれからはあっていいと思うが、そういう過去があるのは確か」。
そこで、KDDIと地方で基地局設備を共有するのはそれほど5Gが大変だからだと宮川氏。産業カバー率を99%とすると、キャリアにとっては不採算なエリアばかり。しかしやらないと、日本の産業は発展しないからやろうと決断したという。「ここで、日本のインフラのあり方を見つめ直す、というのがKDDIとの協業という形に現れた」と宮川氏。
5Gで日本メーカー復古も?
3G時代、「iモード」などに代表される技術はまさに世界が注目するものだった。しかし、4G以降は、通信機器のベンダーや端末のメーカーなども海外勢の勢いが増してきている。日本メーカーの影が全体的に薄くなってしまった感は否めない。この状況は5Gで変わるのだろうか。
吉澤氏は、日本はさまざまな課題を抱えていることを指摘し「課題解決をするためのプラットフォームをつくることで、それを海外に対して普及させていくということもやっていかなくてはいけない。ネットワークの提供だけではなく、それを使ったソリューションを提供する。それが(日本企業の)国際競争力にもつながる」と語る。
山田氏は決定事項はないが、と前置きした上で「仮想化ネットワークについては、ひとつのパッケージに整えてネットワークの構成自体を通信業界のクラウド的存在として展開できないかとは考えた」という。
宮川氏は「モノからコトへ世界は変わろうとしている。自動車業界なんかは、自動車を作るだけではなくサービスを提供するようになっていくだろう。そうしたサービスをしっかりを作り込んで海外に売り出しに行くべきなのではないかと思う」と語る。これからはサービスセットで売り込んでいくビジネスモデルを実験し、それを武器に海外に出ていくのにちょうどいい時期なのではないかとも指摘する。
高橋氏は「日本の5Gは立ち上げが遅れていると言われている。まずは立ち上げなきゃいけない。それが頑張らなくてはいけないこと。いかに端末を浸透させていくかという点が重要。そうしないと3G、4Gのような成功を得られない。まずはそこに全力を尽くす。国際競争力の源泉をつくるというのが、来年我々がやろうとしていることだ」と語る。