石川温の「スマホ業界 Watch」

狭帯域の「プラチナバンド」は本当に楽天モバイルを救うのか

 楽天モバイルが悲願のプラチナバンドを手に入れることになりそうだ。

 総務省の作業部会は4月18日、隙間となっていた未使用部分のプラチナバンドについて、隣接する周波数帯との干渉を防ぐ対策をすれば、携帯電話向けに利用できるという報告書案をまとめた。

 これを受けて、松本剛明総務大臣は「秋ごろの割り当てを目指して手続きを進める」と表明。楽天モバイルも早期に割り当てを希望しており、早ければ年内中にも、楽天モバイルがプラチナバンドを手に入れる公算が高まった。

 そもそも楽天モバイルが携帯電話事業に参入した際、4Gは1.7GHz帯しか持たずにいたため、業界内からは「プラチナバンドがなくて大丈夫か」と不安視されていた。

 当時、楽天モバイルは「ウチの1.7GHzはつながりやすい」(山田善久社長、当時)と謎の自信を見せていたが、やはりプラチナバンドがないため、山間部やビル内などのエリア展開に苦戦し、結果として、他社からの顧客獲得にも苦労している状態だ。

 そんな楽天モバイルに配慮したのか、総務省では、楽天モバイルに新たに渡せるプラチナバンドは存在しないとして、既存3社に割り当てているプラチナバンドの一部を返上させ、楽天モバイルに割り当てるという奇策を展開。しかも、プラチナバンド以降に関する工事費用は既存3社が負担するということになり、既存3社からの反発を食らっていた状態であった。

 このままでは虎の子であるプラチナバンドが奪われると危機感を募らせたNTTドコモが「ITS(高度道路交通システム)に隣接している、わずかな周波数帯が使えるのでないか」と提案。総務省の作業部会によって、技術検証が行われ、今回、晴れて「携帯電話向けに使える」ということになったのだ。

 これにより、楽天モバイルは早期にプラチナバンドを獲得し、ネットワーク品質の向上、さらに顧客獲得に繋げられると期待される。

 楽天モバイルは、これまで自社でネットワークを構築できていない場所は、KDDIのネットワークにローミング接続している。これにより、楽天モバイルからKDDIに対して、ローミング接続料を支払っており、これが数百億円規模で経営を圧迫していた。楽天モバイルでは、エリアが拡充し、ローミング接続料の支払額が減れば、楽天モバイルの黒字化も近づくことになる。

 ただ、ここで気になるのが、新たに割り当てられる周波数帯だ。

 特定ラジオマイクやITSに隣接した隙間であるため、従来の15MHzや10MHz、5MHzよりも狭い、わずか3MHz幅しかない。

 とはいえ、3GPPでは利用の規定がされており、実際、アメリカやベトナム、インドなどで3MHz幅での運用が行われている。

 この帯域の利用を提案したNTTドコモによれば、NTTドコモの契約者数と帯域幅から計算すると、3MHz幅で約1100万契約のユーザーを収容できるとみられている。楽天モバイルの契約者数は500万程度であるため、当面は問題のない数字だ。

 同じくNTTドコモの試算では、3MHz幅あれば下り30MHz、上り11Mbpsの通信速度になるとしている。

「プラチナバンド」が影響する

 しかし、ここで思い出されるのが、最近のNTTドコモでのネットワーク品質だ。

 ターミナル駅周辺などの繁華街において「つながっているけどデータが流れてこない。遅い」といったユーザーの声が相次いで出ており、NTTドコモも原因を特定していると認めたのであった。

 その原因のひとつとして、NTTドコモが説明していたのが「プラチナバンドがつながり過ぎる」という点だ。

 ビルのなかで、ユーザーのスマートフォンがプラチナバンドをつかんで通信をしてしまうと、他の周波数帯などに移行することなく、プラチナバンドで通信をし続けてしまう。結果、他の周波数帯は空いているにもかかわらず、プラチナバンドだけが混雑してしまい、ユーザーからすると「つながっているのにデータが流れてこない。遅い」という体感になっているとのことだった。

 今後、楽天モバイルもプラチナバンドを運用していくと、このような状態に陥ったりはしないのだろうか。

 NTTドコモの試算では1100万契約、下り30Mbps/上り11Mbpsというスペックを実現できそうだという見込みになっており、一瞬、問題なさそうにも感じる。

 しかし、厄介なのは楽天モバイルの料金プランは「データ使い放題」が売りとなっている。3278円でデータ使い放題ということで、NTTドコモのユーザーよりも大量にデータを消費する人たちなのだ。

 実際、楽天モバイルの決算資料でも、既存3社の月間平均利用データ量が9.3GBなのに対して、楽天モバイルのユーザーは18.4GBも使っているという。

 「データをバカスカ使いたい」というユーザーが、 わずか3MHz幅しかないプラチナバンドにつながりつづけたら、どうなるのか 。「使いたいのにデータがちっとも流れてこない」というユーザー体験になってしまわないのか。

 狭帯域のプラチナバンドが早期に楽天モバイルに割り当てられたとしても、それはあくまで、応急処置に過ぎない。

 既存3社と同様の99.9%の人口カバー率を早期に達成できるかもしれないが、早晩、トラフィックが混雑し「データが流れない」という状況に陥る可能性が極めて高い。

 楽天モバイルとしては、狭帯域プラチナバンドでエリアカバーを広げつつ、継続的に1.7GHzと5Gの周波数帯により、データ使い放題を維持できるだけのネットワーク容量の拡大への設備投資を続けていく必要がありそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。