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楽天モバイルへのプラチナバンド割当問題と携帯各社が保有する周波数を整理する

 懸案だった楽天モバイルへのプラチナバンドの割当問題が解決へ向かいそうだ。今回は、携帯各社に割り当られている周波数の状況を整理しながら、この問題について考察してみたい。

 基地局など自ら通信設備を保有し通信サービスを提供している携帯会社は4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)だが、電波の割当については、総務省よりその都度、審査を受け携帯会社が決められている。

 現状、携帯会社へ割り当られている周波数帯について整理したのが下記の図となる。

携帯会社別の周波数割当状況
出典:携帯会社IRよりMCA独自作成

 携帯会社にとって周波数の獲得は、『競争力の源泉』に直結する重要な取り組みである。確保できている電波の幅と帯域によって、実現できるサービスや通信速度、更には設備投資額や事業戦略に大きな影響を及ぼすからだ。

 現状、携帯会社向けの周波数では、NTTドコモが840MHz幅、KDDIグループが880MHz幅、ソフトバンクグループが750MHz幅、楽天モバイルが580MHz幅、それぞれ割り当てられている。

 今回の楽天モバイルへのプラチナバンド割当については、2022年10月の電波法改正により、携帯会社が使用中の周波数を再割り当てすることが可能になったことから議論が本格化。この制度を利用して楽天モバイルが他の3社にプラチナバンド割当を要求してきた。

 3社へのプラチナバンド割当の状況としては、上の図にあるように、700MHz帯はドコモ、KDDI、ソフトバンクに、800MHz帯はドコモとKDDIに、900MHz帯はソフトバンクに割り当てがなされている。楽天モバイルの主張はそこから5MHz幅ずつを譲り受け、15MHz幅の割り当てを希望するというものだった。

 楽天モバイルは「1年以内にプラチナバンドを欲しい」「電波干渉を防ぐフィルターを設置する必要はない」「楽天モバイルは工事にかかる費用は負担しない。3社が負担すべきだ」という主張を展開。これに対して他の3社は「移行するとしても10年は必要」「フィルターは絶対に必要」「1000億円前後かかる工事費用は楽天モバイルが負担すべきだ」と譲らず、平行線をたどったままだったが、総務省の有識者会議が楽天モバイルに有利な報告書を提出したことで、他社から猛反発を招く事態となった。

 その論点は、果たして楽天モバイルがプラチナバンドの再割り当てを受け、他の3社が負担した移行コストを上回る社会的価値やメリットを打ち出せるのか。さらに言えば、そもそも5Gエリアの整備が不十分な状況下で、楽天のためにMNO3社が5年間に1000億円規模の費用を負担しなければならない理由がどこにあるのかなどだろう。

 どちらに軍配が上がるにせよ、大きな混乱が予想されたが、そこに第3の道として解決策を提言してきたのがNTTドコモだった。700MHz帯のうち、携帯電話用の部分と、ラジオマイクや高度道路交通システム(ITS)用途との間で、3MHz幅☓2が利用できるという。700MHz帯の未使用分は、3GPPでバンド28とされており、対応するスマートフォンも多い。ドコモの試算では約1100万契約を収容でき、通信速度の理論値は下り30Mbps、上り11Mbpsを実現可能という。

NTTドコモによる700MHz帯の提言
出典:総務省「新世代モバイル通信システム委員会」資料より抜粋

 周波数の割当を行う松本剛明総務大臣が2023年4月に「700MHz帯」の割り当て時期について「審議会で夏頃に割り当て可能との結論が出た場合、2023年秋頃をめざす」と述べており、プラチナバンドを持たない楽天モバイルが最も有利との見方が多い。

 しかし、仮にそうなったとしても、これで楽天モバイルのプラチナバンド騒動が収束するかは分からない。たとえば、楽天モバイルだけの問題に絞っても、有利子負債が1兆7600億円に積み上がった状況下で、プラチナバンドの全国整備がどのくらいの規模とスピードで実現できるのかなど、課題は多いように思える。いずれにしても、プラチナバンド獲得後の楽天モバイルには引き続き注目していきたい。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/