石川温の「スマホ業界 Watch」

楽天モバイル三木谷氏、「プラチナバンドは今年5月導入へ」

 楽天グループは2024年1月25日、「楽天新春カンファレンス2024」を開催。基調講演に登壇した三木谷浩史会長が、終了後、一部メディアとの囲み取材に応じた。

 基調講演は「AI」が話題の中心であったが、やはり気になるのが楽天モバイルの動向だ。楽天モバイルは昨年末に600万契約を超えたばかりだ。

 三木谷会長は「(新規契約者は)季節変動がつきものだが、12月は年末と言うことで、法人からの駆け込み需要が結構あった。何よりもカバレッジが他社と遜色なくなったということで、解約率も他社と変わらないようになってきた。どこの会社とは言わないが、解約率を比較して、ウチの方が低かったというところもあったくらいだ」と語る。

 この「解約率の低減」を実現したことで、楽天モバイルの新規獲得がさらに加速していくようだ。

 「新規契約者を獲得しても解約されてしまったら増えていかない。その点、解約率を下げ、コストを下げるというのが2023年の目標であったが、成功した。今年の第2四半期以降はさらにギアを上げていきたい」と三木谷会長は自信を見せる。

 通信業界的には2月、3月は新生活を始める人が多いということで「春商戦」と呼ばれる繁忙期に突入する。

 楽天モバイルとしては「広告でアピールするとともに多少なりとも新しいサービスアップの計画はしている。ただ、そもそも安すぎるので、これ以上、安くするのは難しい」(三木谷会長)という。

 確かに楽天モバイルは早期の黒字化を目指す上で、これ以上の値下げは難しい。値下げ以外の、今後の新規顧客獲得策を記者に聞かれた三木谷会長は「たとえばファミリープランを追加するとか。他社のファミリープランより、ウチの最強プランを家族全員で契約した方が安いはずなのだが、人間の心理がそうさせるのか、なかなかファミリープランを辞めてウチを契約してくれない」とボヤいていた。

 かつてNTTドコモやKDDI、ソフトバンクは家族まるごと取り組むことに注力し、家族割引や固定インターネット回線との割引を強化してきた。最近では家族というより複数回線契約で、1回線あたり数百円を値引くといった施策になりつつあるが、それでも「家族まるごと」で同じキャリアを使うという囲い込み策が効いているのは間違いない。

 実際に楽天モバイルでファミリープランが実現するかは不透明だが、プロモーション的には「家族全員で最強プランを契約すると他社のファミリープランよりも安い」というアピールを続けていくようだ。

プラチナバンドは5月に

 昨年、悲願のプラチナバンドを手に入れたが、三木谷会長は「今年の5月からプラチナバンドを投入していく」と明らかにした。総務省に提出した開設計画では「2026年3月開始」、獲得時の説明では「2024年中」との開始と言及されていたが、より具体的に「今年5月」という日程が上がってきた。

 三木谷会長は「いきなり1万局を建てるということはないが、発射できるところは問題なくサービスを提供できるのではないか。ただ、地上デジタル放送との調整もあり、了承を取るのが面倒くさい」と本音を漏らした。
 まさに、プラチナバンドの開始とともにギアを上げていくのだろう。

 現在、楽天モバイルにおける新規顧客獲得の原動力となっているのが「法人契約」だ。

 三木谷会長は「ひとつは価格競争力が高いのが大きい。カバレッジも他社と遜色ない。働き方改革として、オフィス以外で働くスタイルになると、通信料金を会社で負担するという流れになるだろう。いま、他キャリアと法人契約をしている会社では3GBや10GBというプランが多いようだが、『それでは容量が足りない』という声を聞く。楽天モバイルのデータ使い放題を提案すると、結構、契約してくれる」と語る。

 楽天グループには楽天市場や楽天トラベルなど、店舗やホテルといった企業が多い。そうした企業から法人契約を獲得しつつ、「安くて使い放題」を体験した人たちに個人や家族でも契約してもらうという流れを作っていきたいようだ。

 三木谷会長は「楽天グループ全体で90万社との取引があり、そのうち20万社とはコアな取引関係がある。今後、積極的に営業することで、法人契約から、今後は個人に広げていきたい」という。

 ちなみに現在の新規顧客獲得は「60%がオンライン契約なので、楽天のなかでもインターネットマーケティングの精度を上げていきたい」(三木谷会長)という。

 損益分岐点である800万~1000万契約という大台も射程圏内に入ってきたようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。