石川温の「スマホ業界 Watch」

ドコモやKDDIも活用、Amazonのクラウドサービスが携帯電話業界で存在感を増す理由

 Amazonのクラウドサービスである「AWS(Amazon Web Services)」が、モバイル業界で存在感を出し始めている。楽天モバイルの三木谷浩史会長が主張するように、モバイル業界のネットワークは「仮想化」に移行している。そんななか、クラウドサービスの王者であるAWSが着々とモバイルネットワークの世界に参入しつつあるのだ。

ドコモのAWS活用法とは

 2023年4月20日、千葉県・幕張メッセで「AWS Summit Tokyo」が開催された。基調講演にはNTTドコモのネットワーク開発部、音洋行部長が登壇した。

 NTTドコモでは3G時代には専用ハードウェアでネットワークを構築していたが、2016年からVMベースの仮想化に着手。いまでは商用ネットワークの8割以上が仮想化され、さらに5Gのコアネットワーク設備ではコンテナベースの仮想化が行われて、すでに商用投入されているという。そんなNTTドコモがAWSと組んで、ネットワークを進化させようとしている。

 NTTドコモではNECとともに、AWSのプロセッサによるクラウドを用いることで、ネットワークの安定性向上を実現させようとしている。

 たとえば、去年のKDDI通信障害のように、キャリアが持つネットワーク設備が何らかの理由でダウンしてしまった場合、世間に与える影響は計り知れない。

 そこで、NTTドコモでは、自社の仮想化されたネットワーク設備だけでなく、パブリッククラウドであるAWS上にも5G通信を行える基盤を構築し、それらを専用接続回線で結ぶという設計を行った。

 これにより、万が一、ドコモのネットワーク設備が落ちても、パブリッククラウドであるAWS上で5Gネットワークが動作し、通信サービスを継続できるようになるという。

 この際、AWSは、同社が開発した低消費電力なプロセッサーである「AWS Graviton3」で動作している。これにより、従来よりも消費電力が7割も削減されることで、サステナビリティ(持続可能性)にも寄与することができるという。

目指す「ネットワークの高度化」

 通信キャリアがAWSを取り組みたいという背景にあるのには、ネットワークを高度化させたいという狙いもある。

 KDDIは同社のネットワークコア設備内にAWSを置き、安定したネットワーク品質でAWSを利用できる「KDDI WaveLength」をすでに提供している。

 NTTドコモもAWSと組み、ドコモの局舎内にAWSの設備を置くことで、5G端末との通信を超低遅延で行えるという実証実験に成功している。

 AWS Summit Tokyoの会場では、VRゴーグルを使ったデモを実施していた。これまでのネットワーク構成では、5G端末から基地局、さらにインターネットを通り、AWSにつながるため、遅延が発生していた。しかし、ドコモの局舎内にAWSの設備を置くことで、例えば、VRゴーグルに向けて映像を配信するといった際も、描画や反応速度の向上が期待できるというわけだ。

 サービスを提供する側としても、AWS上で開発した物をそのまま、ドコモの局舎内にあるAWSに載せることができるので、開発の負担が減る。

 通信キャリアとして、5Gを始めたものの、なかなか、キラーサービスを提供できていない。5Gネットワークを高度化させ、コンテンツを作ってくれるパートナーを集めやすいという点においても、コンテンツ提供会社に人気のAWSを組んでおくことが不可欠なのだ。

MWCにあわせたAWSの新たな取り組み

 今年2月、AWSはスペイン・バルセロナで開催される世界最大級の通信関連展示会「MWC」に合わせるかたちで「AWS Telco Network Builder」を発表した。

 キャリアが提供するネットワークをAWS上で構築できるようになるというものだ。実はすでに2022年にアメリカで新たに携帯電話事業に参入したDish NetworkはすでにAWSのクラウドサービスを使って、コアネットワークを構築している。

 AWSのライバルとなるマイクロソフトも通信キャリア向けのAzureを提供しており、2021年6月にはAT&Tの5Gネットワークを買収。グーグルもキャリア向けにネットワークを構築できるクラウドサービスをプレビュー発表している。

 仮想化したキャリア向けのネットワークを売っていくというビジネスモデルはまさに楽天グループにある「楽天シンフォニー」と被る部分がある。

 今後、AWSとAzure、Googel Cloudと楽天シンフォニーが、仮想化を導入しようとしている世界中のキャリアを顧客として奪い合うという構図が描かれていくのかも知れない。

 その点においては、すでにAzureはAT&Tと一体とも言えるし、実は楽天シンフォニーとAT&Tはキャリア向けネットワーク設計や構築ソリューションにおいて協業していたりもする。

 一方、AWSはすでにKDDIとは「KDDI WaveLength」を手がけているし、NTTドコモとはハイブリッドクラウドによるネットワーク構築を成功させるなど関係も良好だ。

 AWSとしてはKDDIとNTTドコモ、さらにはアメリカ・DISHとの実績を武器に、世界のキャリアに売っていくのだろう。

 3G時代まではエリクソンやノキア、4G時代はファーウェイが圧倒的に強かったキャリア向けネットワーク設備だが、ここに来てクラウド事業者の存在感が大きくなってきた。

 そんななか、AWSがどのように世界で大化けしていくのか。注目していると面白そうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。