石川温の「スマホ業界 Watch」

楽天モバイルの新料金「最強プラン」、KDDI髙橋社長の「そんなに貸さないからね」の真意とは

 5月16日に行われたKDDIが高輪ゲートウェイに本社を移転するという記者会見。受付で並んでいると、リハーサルを終えたらしき髙橋誠社長を発見。会釈をしたところ、高橋社長がおもむろに筆者のもとに近づいてきた。

 すると、開口一番。

「そんなに貸さないからね」

と言い残し、JR東日本の深澤祐二社長のもとに行ってしまった。

KDDI髙橋社長(5月16日撮影)

 もちろん、筆者が高橋社長に金を借りるという話ではない。先日、発表された楽天モバイルに対するKDDIローミングの話だ。

 楽天モバイルとKDDIはローミングの契約を見直し、2026年9月までローミング提供を延長すると発表した。新協定ではこれまでローミングに含まれなかった東京都23区、名古屋市、大阪市を含む一部の繁華街エリアを対象とし、一部のインドア(地下鉄、地下街、屋内施設)やルーラルエリアも引き続き、ローミング提供すると合意したという。

 新契約を受けて、楽天モバイルは6月1日より「最強プラン」を提供すると発表した。

 2020年4月の本格サービス開始以来、ローミングエリアでは月間5GBという制限があったが、これを撤廃。楽天回線エリアとローミングエリアを合わせた人口カバー率99.9%の通信エリアでデータ使い放題が提供されることになる。

 これまで楽天モバイルでは人口カバー率で98.4%まで来ていたが、新契約により、日本地図をピンクで染め、99.9%を名乗るようになった。

 SNSでは「auネットワークと同等品質にも関わらず、データ使い放題が3278円で使える」という点が評価されている。確かにauで使い放題プランである「使い放題MAX 5G」は、月額7238円だ。同じ使い放題が半額になるというのであれば、auから楽天モバイルに乗り換えようかなという検討したくもなる。

 しかし、そうした世間の風潮に対して、高橋社長は「そんなに貸さないからね」と、言いたいようなのだ。

 実際、KDDI関係者に話を聞くと、楽天モバイルに貸し出される周波数帯は従来通り、800MHz帯でしかない。あくまで、地図上をピンク染める、面を広げ圏外をなくすためのローミングであるのは間違いない。

 都心部の繁華街などビルが林立して、楽天モバイルが持つ1.7GHz帯では電波が届きにくいような場所でも、これからはauの800MHzをつかむことで、圏外ではなくなる。ただし、 サクサクと快適に使えるか は別の話だ。

 筆者は先のゴールデンウィークに子どもを連れて静岡県にある伊豆ぐらんぱる公園を訪れた。子どもをトランポリンで遊ばせている間、ちょうど同じ時間帯で開催されていた自動車レース「SuperGT」を見たくて、iPhone 14 Pro MaxでJSPORTSオンデマンドを立ち上げた。長時間にわたるレース動画が流れてくるため、使い放題の回線がいいと、楽天モバイル回線をつないでみた。

 しかし、サイトにはかろうじてつながるものの、一向に映像が流れてこない。しびれを切らしたので、デュアルSIMとして入っていたpovo回線に切り替えた。すると、あっと言う間に映像が流れてきて、しかも実に綺麗な映像でレース中継を楽しむことができた。

 ホテルに戻って確認したところ、伊豆ぐらんぱる公園は楽天モバイルのパートナー回線エリア、つまり、KDDIにローミングしているエリアであった。

 ローミングで圏内ではあるものの、ネットワーク品質はイマイチなのだ。結局のところ、KDDIの800MHz帯にはつながるが、混雑しているか、無線区間ではなく、バックホール部分が上手くいっていないのではないかということのようだ。

 つまり「KDDIローミングエリア=auと同等の通信品質」というわけではないのだ。

 povoの場合、800MHz帯以外でもつながるためにスムーズに通信が可能だ。もちろん、複数の周波数帯を束ねて通信を行う「キャリアアグリゲーション」を使うこともあるため、安定的かつ高速な通信が可能となる。

 楽天モバイルの場合、KDDIとのローミングが実現し、仮に電波が重なり合っていたとしても、当然のことながらキャリアアグリゲーションは行わない。

 楽天モバイルがローミングエリアでもデータ使い放題を提供することで「KDDIのネットワーク品質に影響はないのか」という疑問が沸くが、KDDI関係者は「トラフィックが混雑するような場所はローミングに提供しない。エリアというか基地局単位でコントロールするため、auユーザーに影響が出るようなことはない」と話す。

 現在でも、楽天モバイルのユーザーによるKDDIローミングのデータ通信量は5%程度に留まっている。KDDI関係者は「ローミングでの通信量は急激に減っている」といい、今後も減少が見込まれているため、auユーザーへの影響はあまり考えられないようだ。

 楽天モバイルはこれから「人口カバー率99.9%」を全力でアピールするだろうが、KDDIのローミングエリアでは通信品質に期待できない可能性が極めて高い。

 ユーザーを落胆させないためにも、結局は楽天モバイルが地道に設備投資を続けてネットワーク品質を上げ続けていくしかなさそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。