インタビュー

ドコモの通信品質が低下した理由は「コロナ禍明けの人流の急増」――キーパーソンとの一問一答

 NTTドコモは7月28日、都内4エリア(新宿・渋谷・池袋・新橋)における通信品質について、改善状況などを発表した。本誌では本日1日、その発表の背景を紹介する記事を掲載した。

 本稿では続報として、キーパーソンとの一問一答の様子をお届けする。回答者は、ネットワーク本部 無線アクセスデザイン部 エリア品質部門 エリア品質企画担当 担当課長の福重勝氏、エリア品質部門 担当部長の佐々木和紀氏、ネットワーク部 技術企画部門 松岡久司氏。

左:松岡氏、中央:佐々木氏、右:福重氏

通信品質が低下したそもそもの理由

――今回、なぜここまで通信品質が悪化してしまったのか。

佐々木氏
 基本的には、コロナ禍明けのトラフィックの戻り(増加)に応えきれなかった部分があります。弊社も適切な設備容量ということでシミュレーションし、計画を立てていました。

 しかし、コロナ禍ということもあり、需要の発生をもう少し先と考えていたので、5Gエリアの拡大にもリソースを振りながら全体をコントロールしていました。

 そういった状況下でコロナ禍が明けまして、予想していた以上に早く需要が戻りました。基地局(完成)の前倒しなどもしていたが、折衝ごとということもあって長い時間を要したため、チューニングでなんとか取り組んでいたというかたちです。

――コロナ禍で人流が変わったのは、他社も同じだと思うが。

佐々木氏
 容量に関する読みといいますか……トラフィックの増加は認識していたが、人流の戻りをここまで予測しきれなかったという部分があります。

――エリアを広げる時期にコロナ禍明けの人流が戻ってきたということで、悪いタイミングが重なってしまったのか。

佐々木氏
 私たちもお客さまに迷惑をかけるわけにはいかないので、容量もしっかり見ながら需要予測を立てていました。そこが若干、市場とアンマッチだったかなと思います。

佐々木氏

改善について

――改善サイクルを90%高速化したという話があったが。

福重氏
 即日でできる対策と、1~2カ月くらいかかる対策があり、だいたい2カ月くらいかかるようなことが多かったです。(アンテナの)角度調整などは即日でできる場合もありますし、効果確認まで含めて1週間以内にできることもあります。

 運用中の基地局の設定変更は定期的に実施していますが、お客さまへの影響が大きいところについては、定期的なメニューから外して、最大2カ月くらいかかることを数日でやるようにしました。

――定期的なメニューではなく、特急メニューのようなものを用意したということか。

福重氏
 そうです。これを今後も続けていくわけではありませんが、お客さまへの影響が特に大きいところについては、そういったメニューも組み合わせて対策してきました。

――基地局の完成時期の前倒しについても、約3カ月くらい短縮された。

福重氏
 通常であれば、ビルの基地局だと1年~1年半くらいかかります。長いものだと2年以上かかる。平均的な期間は出しづらいのですが、通常は1年半くらいかかります。

――基地局の分散制御について、効き目はどれくらいか。

福重氏
 基地局ごとに程度の差があり、偏り具合も差があります。体感を損ねるほど通信速度が低下している周波数があり、ほかの周波数に余裕がある場合には、体感での劣化を改善するくらいの効果は出ています。

 キャリアアグリゲーションのリソースでも(周波数が)同じように使われるので、時間帯によってはアグリゲーションしないといった制御を入れながらバランスをとっています。

――アンテナピクトが下がると「(分散制御によって)800MHzで電波をつかませないから、エリアが狭まったのかな」と思うときもあるが。

福重氏
 エリアを狭めるような調整ではなく、周辺の基地局に任せるようなチューニングです。

 (アンテナピクトの低下が)分散制御の影響によるものかどうかは申し上げにくいのですが、場合によっては一時的に、通信品質が良くないバンドに行くこともあります。ただ、ほかのバンドの品質を見ながら遷移するので、時間が経てば回復するものかなと思います。

福重氏

発表の背景にあるもの

――このタイミングで品質改善を発表した理由は。

福重氏
 4月の説明会で、エリアチューニングについては夏までに完了するとお伝えしていたので。夏になり、発表を出す必要があると思い、このタイミングになりました。

――発表された資料を見ると、エリアごとにスループットの数値がばらつくような印象がある。目標値は。

福重氏
 具体的な数値目標は控えます。まずはお客さまの体感上で問題ない水準を、最低限のものとして目指しました。

 スループットが高ければ高いほどいいのですが、まずはブラウジングや動画視聴など、通常の使い方が問題ないレベルを目指してチューニングしたかたちです。

――今回スループットが発表されたエリアについては、その基準をおおむね満たしているという認識か。

福重氏
 弊社の調査ではそのように認識しております。

――新宿などは少し改善した実感があるが、山手線のターミナル駅だとつながりにくい状況もある。このあたりはいつぐらいまでに改善されるのか。

佐々木氏
 山手線周りの主要ターミナルにつきましても、今、鋭意取り組んでいるところです。パラメーター対応としては8月末をめどに対応していきたい。設備対応が必要なところも一部ありますので、そういったところについては時期が後ろになるかもしれません。

ドコモの3本柱、品質はすべて同じ?

――ドコモの新料金プラン「irumo」「eximo」、オンライン専用ブランド「ahamo」で、基本的に電波の品質に差異はないのか。

福重氏
 カバレッジについては差異はありません。

松岡氏
 所定のデータ通信量をオーバーしたらスピードを制限することはありますが、それはコアネットワーク側の話です。無線の制御というより上位の話です。

――容量超過にかかる制限以外は、基本的に差異がないということか。

松岡氏
 それ(コアネットワーク)より下であれば、無線としては公平に割り当てています。

松岡氏

今後の取り組み

――トラフィックの伸びを予測できなかったということだったが、予測を改善する取り組みは。

福重氏
 トラフィックの伸び自体は、データを保有しています。お客さまの声の収集と分析も強化しながら、ネットワーク構築に反映していくような取り組みは進めています。

佐々木氏
 エリア個々でシミュレーションはしていましたが、渋谷や新宿など、繁華街ごとの伸び率も精度を上げていきたいと思っています。

――ユーザーの声を収集するための取り組みについて、もう少し詳しく教えてほしい。

福重氏
 これまでも、直接弊社に届いたお客さまの声は分析していました。今後はSNSを強化していきたいと思っています。

 従来はマクロ傾向で見ていたのですが、ミクロに分析することで、品質の向上を図ります。

――通信品質の評価などについて、3Dのシミュレーターなどは活用するのか。

福重氏
 シミュレーターも活用しますが、たとえば今回の(都内4エリアの)ような場所では、ビルなどの構造物が多いことに加え、再開発などで状況が変わるなど、複雑な状況が絡み合っています。そのような場合、現地合わせと言って、現地に行くような必要も生じてきます。

――スループット対策としては、やはり設備対策が王道だと思う。他社はMassive MIMOも導入しているが。

佐々木氏
 Massive MIMOの導入については検討している段階です。効果は社内でも確認しています。

――繁華街など、今回の4エリア以外にマークしているような場所は。

福重氏
 具体的な場所はお伝えできませんが、4エリアに準じるようなターミナル駅などをマークして、基地局完成の前倒しも含めて進めています。

――今回の4エリア以外についても、進捗が発表される可能性があるということか。

福重氏
 現時点ではまだ決まっていませんが、検討していきます。