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ドコモが語る「5G」の課題と未来、質疑は「品質低下」に集中
2023年4月26日 19:25
NTTドコモは26日、報道陣向けに今後の5Gネットワークで目指す姿などの将来の展望やつながりづらいといった問題への対策など、ネットワーク戦略に関する説明会を開催した。
説明の場には、NTTドコモ ネットワーク部長の引馬章裕氏が登壇。同社の5Gネットワークのこれまでとこれからの展望を語った。
ドコモが目指す5Gの姿
引馬氏は、ドコモの5Gネットワークの目指す姿について携帯電話のみならず医療分野や自動運転、スマートシティ構築など多様なニーズに応えるものになることを説明。5Gはもちろんのこと、その先の6G時代も見据えた展開を描く。
当初、音声通話のみだった携帯電話ネットワークの役割は、時代を追うごとにWeb閲覧やアプリ、決済などさまざまな用途に幅を広げてきた。ドコモでは、6G時代には「人間拡張」や「ブレインテック」の時代が到来すると予測を示している。
5Gエリアが拡大するとともに増大するトラフィック(通信量)に対応すべく、5Gに割り当てられた専用周波数を用いる「瞬速5G」と4G用の周波数を5Gに転用するエリアを地域ごとに使い分ける。ドコモによれば、4Gの転用はトラフィックがあまり高くない地域が中心で、4Gユーザーへの影響は考慮されているという。
都市部においては、トラフィックの増加への対策として瞬速5Gの基地局を集中して展開中。一方それと同時に都市部では混雑エリアなどで通信しづらくなる問題も発生している。
ドコモではこうした事象を認識していると説明したうえで、その原因をユーザーの増加に伴う、通信量の増大のほか、再開発などでのエリア変動、専用の周波数で5Gを提供する「瞬速5G」の設置が道半ばであることから、4Gの収容量がひっ迫することに起因すると見解を示した。
瞬速5Gの基地局のエリアを容量がひっ迫している基地局までカバーするなどの調整のほか、収容する周波数を分散させる。とくに屋内では800MHzをつかみやすくなるため、ひっ迫するといったことがある。これをほかの周波数で通信させることでひっ迫度合いを軽減するほか、キャリアアグリゲーション(CA)のパラメーターの調整など、各基地局の状況を検討しながら対策を進める。同社では、2023年夏までにも問題の解消を図るとした。
24年度にネットワークスライシング提供へ
多様なニーズに対応する取り組みにはどんなものがあるのか。同社では、2021年~2022年にかけて基地局設備を5G用のもので構成する「SA」(Stand Alone)の提供するといった施策がすでに行われれている。
2023年度は、5G SAをスタジアムや大学、空港などの施設に拡大する。これまでは主要駅や商業施設など、ユーザーが多い場所が中心だったが、今後は上り高速通信の需要が集中する場所を中心にSAを展開する。
このほか、2024年度には「ネットワークスライシング」提供を目指す。それにさきがけて2023年度には1端末で複数のスライス制御や無線区間制御の実証実験が予定されている。ネットワークスライシングは、ネットワークを仮想的に分割して用途ごとに専用の道をつくる仕組み。ほかの通信の影響を受けずあるサービス専用の帯域を用意できるため、低遅延で信頼性の高いネットワークを実現できる。
質疑応答
――回線の品質低下は東京以外でも発生しているのか? いつごろから事象が起きているのか?
林氏
東京が多いが、それ以外の全国の都市部で同様の状況になっているところは、同じく事象が発生していると認識している。この数カ月でそういった声をいただくようになった。
――セルエッジで通信品質が下がる問題がかつてあった。4Gに切り替えるという対策が行われたが、それが今回の品質低下を招いたのか?
林氏
一部でそういったところもあるのではないかと思う。その対策という意味では引き続き、セルエッジ対応はいろいろな観点で検討を進めている。そちらについても改善の取り組みは行っている。
――キャリアアグリゲーション(CA)など活用しているなかで、対策として周波数を分散させる意味は?
林氏
たとえば(端末が)800MHz帯をつかみづらくするような制御をする。屋内では800MHz帯につながりやすくなるので、真っ先にひっ迫してしまう。その時点でほかのバンドが空いていれば、そこに移行する(よう制御する)。場合によってはCAのパラメーターを調整することも検討しつつ、各基地局の状況を見て進めていきたい。
――回線品質の低下を数字で表現してもらえないか? S/N比や通常ならこの程度のdbだが問題の場所ではどの程度の差があるかなど。
林氏
基準や数字での評価を今は持ち合わせていない。今、問題になっているところは電波的に弱いということよりも設備の(ユーザーを受け入れる)容量が足りないということなので、そういった(数字では)かたちでは表現がしにくい。
――4G周波数の5G転用が品質低下に影響した可能性はあるのか。
林氏
トラフィックが高いところでは瞬速5Gで周波数を追加、それほどトラフィックが多くないところでのエリア拡大は4G周波数を転用している。5G転用で4G側が影響を受けないように計画して進めている。今のところ、5G化により影響が出たということは確認していない。
――トラフィック増加の要因は、無制限プランや「Home 5G」によるものか? 5Gで4Gユーザーをカバーする場合、エリアによっては解消しづらいこともあるのではないか。
引馬氏
無制限プランのユーザーの利用でトラフィックが増加しているのは事実。Home 5Gについては、設置場所を把握できているため、対策できている。Home 5Gの影響で品質低下が発生しているということはない。
林氏
基地局はトラフィックの高い場所に設置している。近隣の場所については5Gでトラフィックを吸収する。結果として5Gにトラフィックが流れれば、4Gに空きができることになる。
――回線品質の低下について対策する目標のエリア数はどの程度か? 他社では見られない事象だがドコモ特有の事情があるのか?
林氏
全国の都市部で同様の事象が発生していると認識している。東京で言えば新宿や渋谷、池袋、新橋といった主要駅や繁華街など。全体の数字としては控えさせていただきたい。
他社の状況を正しく把握できていない部分があるので、他社についてのコメントは控えたい。ドコモとしては瞬速5Gの早期実現などで改善に取り組んでいく。
――Massive MIMOで容量を増やすという対策もあると思うが、現状での展開状況と今後の対策は? ミリ波の展開についての考え方も教えて欲しい。
林氏
ドコモでは、Massive MIMOが入っていないところもある。これからはそういった技術もしっかり活用しながらエリアづくりをしていきたい。まさに検討しているという段階。
ミリ波については、対応端末がまだ非常に少ない。一方で(基地局)開設計画があるのでそれにしたがって展開するべく進めている。SAでは、ミリ波も活用してしっかり展開しながら対応している。総務省でもミリ波の活用を促しており、ドコモもどこにどういうタイミングでミリ波を入れるかは考えている。面展開は難しくスポット的になる。
――他社では4GからMassive MIMOを入れているところがあるが、そこでひっ迫具合に差が出ているとは考えられないか?
林氏
Massive MIMOに速度や容量の面で優れたところがあるのは、ドコモでも認識している。他社が導入しているとも聞いているので、我々もこれから先しっかりそのあたりも使わなければいけないということで、検討している。
――瞬速5Gと転用の使い分けについて、総務省の資料によるとドコモでは転用の割合が低いようだが現状でどの程度活用されているのか?
引馬氏
個別にどちらが何局とはいえないが、ドコモでは5Gの展開戦略として瞬速5Gでエリアをカバーして多くのユーザーに5Gの速さを体験していただき、エリア拡大ということで4G周波数を転換するということで進めてきた。瞬速5Gを先行していたため、転用周波数の基地局は伸びていない。ネットワークスライシングの活用には5Gエリアが必須。エリアカバレッジもしっかり広げなくてはいけない。2023年度は瞬速5Gも4G周波数転用もしっかりやっていきたい。
――5G SAのエリアは東京都では東京駅の周辺1カ所だけだが、どうしてこんなに少ないのか?
引馬氏
ご指摘はもっとも。2023年度~2024年度にスライシングの新しいニーズを取り込んで新しいビジネスをしていきたい。今は上り速度に着目して展開しているが、これからは新たなユースケースを考慮に入れてSAの展開を積極的に進めていきたい。
――転用周波数の積極的な活用で品質低下の問題は解消する可能性があるのか?
林氏
「難しいです」という答えになる。全体としての容量が増えるわけではないので、今回の問題である容量的な部分を解決するには、瞬速5Gを上乗せしていくのがベストと考えている。
――SAの面的な展開時期といつごろ全国展開が進むか?
引馬氏
上り速度のニーズがあるところは今年度やっていく。新たなユースケースについては、ドコモが作り出す部分もほかの企業が作るパターンと2つある。利用シーンが見えてきてからSAの展開をしていくかたちになる。2024年度に提供できるよう準備をしつつ、そういった新たなユースケースのニーズを見極めながら計画する。この場で具体的にはお示しできない。
――品質低下の件は、設計とチューニングが足りなかったとも見受けられる。再開発やトラフィック増はドコモに限らない。他社の状況についてわからないのでコメントできないというが、外的な要因で何かが起きているというだけではないのではないか?
林氏
他社が同じ状況かというと、特にドコモの品質に対する(疑問の)声が多いと認識している。周波数や再開発については(他社も)同じ状況と思う。そういう意味では、ドコモのエリアチューニングなどが不足していたところはある。そのあたりはしっかり反省しながら、必要なところで必要な対策を見極めながら、短期施策という意味で夏までに改善するとお伝えさせていただいた。
瞬速5Gエリアを早くつくることも大事なところ。そこに向けてもなんとか早く実現すべく努力していきたい。
――トラフィックがじわじわ増えてきたということであれば、ひっ迫する事態は予測できたのではないか? それとも何らかの外部要因があったのか?
林氏
大きな外的要因というよりも、トラフィックが毎年増えていくところはわかっていた。そこに向けてしっかり間に合うように瞬速5Gの計画はしている。4Gの基地局にも載せていく一方新しい設備を設置することもある。ビル屋上で設置しているため、オーナーとの契約や設備増加や電力的な検討などそういったところに時間を要してしまっているのは事実。
予定通り完成していれば対応できたこともあろうかと思う。瞬速5Gの早急な展開を目指していきたい。
――エリア展開に向けて、ahamoなどの影響で収益力低下で設備投資に影響は?
引馬氏
設備投資は堅調に続けている。5Gについては毎年1000億円以上投資して年々増やしている。外的要因でスタンスや戦略が変わったということはない。