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“計画通りに進んだ”ドコモの通信品質改善、キーパーソンが見せた自信

 NTTドコモは2日、これまで課題としてきた携帯電話サービスの通信品質について、すでに予告していた2023年12月までの計画に関する進捗を発表した。

 ドコモの小林宏常務執行役員ネットワーク本部長が、「『点』と『線』への集中対策状況について」「イベント対策状況について」「体感品質把握に向けた新たな取り組み」「令和6年能登半島地震 災害復旧状況」の4点について説明した。

小林氏

「点」と「線」への集中対策状況について

 ドコモでは2023年10月、ネットワーク対策として、「全国2000カ所以上をモニタリングしながら対策する」と発表。

 この進捗について「12月の計画を若干超えるぐらいの進捗で進んだ」(小林氏)。一方、設備対応が必要なものに関しては少し長期化するとみられ、継続して調整や対応を進めていくという。

 改善が実現した場所のスループットの状況として、トラフィックの一番高い時間帯で、ドコモの品質基準を満たした。5月時点と比較して平均スループットは1.7倍になっており、不便なくHD画質の動画が観られる品質になっている。

 集中対策の事例として、JR大阪駅とJR名古屋駅の事例が紹介された。

 JR大阪駅では4Gの設備増設に加えて5G対応も実現し、最もトラフィックが高い時間帯で平均下りスループットが5Mbps以上(4G)、70Mbps以上(5G)となっている。

 JR名古屋駅でも、9月から5Gエリアの拡充が進んだ。最もトラフィックが高い時間帯で平均下りスループットが10Mbps以上(4G)、30Mbps以上(5G)となっている。

 主要な鉄道動線では、既存基地局を活用した対策として、アンテナの角度や方向、出力やパラメーターの調整が12月までに完了した。ドコモでは引き続き改善を実施していく。

 動画を連続で視聴できる目安として、電車の乗車時間の90%は不便なく動画を視聴できるとする。

 ドコモではSNSも活用し、通信サービスに関するユーザーの声を収集・分析している。2023年3月と12月のX(旧Twitter)で、ドコモの通信サービスに対するネガティブな声は75%減ったという。

イベント対策状況について

 イベント対策としては、12月30日~31日に開催された「コミックマーケット103」に向け、5G基地局の増設などを実施した。

 また、アンテナを狭ビームタイプへ変更するなどのトラフィック対策を実施。結果として下りスループットは夏の「コミックマーケット102」と比べて1.5倍になり、SNS上のネガティブな声も約8割減った。

 今後は花火大会や音楽フェスなどを含め、イベントへの対応を進めていく。

体感品質把握に向けた新たな取り組み

 ユーザーの体感品質の状況を把握する新たな取組みとして、従来実施していたドコモのLLM(大規模言語モデル)基盤によるSNS分析に加え、アプリの利用データを活用する。

 1月からは、「d払い」アプリでバーコードを表示する時間について、品質改善用にデータを確保。ネットワーク品質を可視化し、場所ごとのバーコード表示時間を分析することで、ピンポイントでの品質改善につなげていく。今後は動画やWebにも拡大される予定。

令和6年能登半島地震 災害復旧状況

 令和6年能登半島地震災害の復旧状況について、ドコモでは1月20日、新たに石川県珠洲市で応急復旧した。通信エリアとしても、被災前の96%超まで応急復旧された。輪島市の一部には影響が残っており、対応を進めていく。

 輪島市の一部について小林氏は「立入りが非常に難しい場所が残っている。アクセスルートを日々確認していて、確保でき次第2~3日で応急復旧を実施する」と語った。

 また、ドコモ公衆ケータイとして、1520台のスマートフォンや携帯電話を用意。テレビやタブレットを避難所へ提供し、動画サービスの「Lemino」などの提供も検討している。

質疑応答

――d払いのバーコード表示速度を通信品質のチェックに活用しているということだったが、詳しく知りたい。動画やWebへの拡大計画も教えてほしい。

小林氏
 d払いのアプリ内で、バーコードを表示する時間を保持しています。それをセンター側に報告しています。

 もともとはアプリの使い勝手の改善のために持っていたデータについて、データと無線の品質を連動させて把握し、エリア品質の改善にも使っていこうということです。

 場所に関しては我々のトラフィックデータがあります。d払いで支払うとき、どの基地局で通信したかがわかります。そこでd払いの通信状況がわかるので、地図上にプロットしてピンポイントに管理することを始めました。

 動画やWebへの拡大はまだ検討中です。たとえば動画だと、動画が再生できないときにバッファリングする状況を確認したいです。Webでは、ページ表示にどれくらい時間がかかったかを確認したいと思っています。

――動画やWebというのは、特定のサービスなのか。幅広くしていきたいのか。

小林氏
 幅広くしようと思っていますが、今はちょっと(詳細を)詰めているところです。

 動画はLeminoのように、ドコモが提供している動画視聴アプリで取得できるデータを活用していく予定です。

――Webへの拡大について、ブラウザ上のデータを使うとして、プライバシーは問題ないのか。

小林氏
 今日ご説明したところについては、お客さまの個人情報にかからないような情報から始めています。たとえばGPSの情報は使っておらず、基地局の情報を使っています。

 将来的にはアプリの中にモジュールとして埋め込んで、GPSの情報を使ってやっていきたいです。ただ、このときにはお客さまの同意が必要ですので、許諾を得て使っていく予定です。

 今の時点では、個人情報に引っかからないかたちで活用していくといった取組みです。

――d払いデータの活用は1月からということだったが、効果はあるのか。また、d払いアプリを使っているのはドコモユーザーだけではないと思う。他社回線の分析はしているのか。

林氏(ドコモ無線アクセスデザイン部長の林直樹氏)
 始めたのが1月の中旬くらいで、何か改善したという実績はまだありません。これからしっかり見ていきたいというところです。

林氏

小林氏
 トラフィックデータをチェックするなかで、お店が屋内にある場合と屋外にある場合など、ひとつのエリアでいろいろな状況が起きているのは認識しています。

 「ここのお店で使えないのは電波が悪いからだ」というのは少しずつ見えてきていて、具体的なところまでは至っていませんが、だいぶきめ細かく見えてきました。

 他社回線のd払いの情報も蓄積していますが、ネットワークのトラフィックデータについて、他社さんのデータはありません。

 今は自社のエリア改善にデータを使っていくというところですが、他社さんの品質と我々の品質を比べるという意味でもデータを使えるかなと思いましたので、検討を進めていきます。

――d払いの障害について、おおむね原因というのは、基地局のリソース部分なのか。それとも基地局以外に原因があるケースもあるのか。

小林氏
 通信速度が遅くなったり途切れたりするのは、完全に基地局の無線の品質やリソースの状況です。

――d払いを通信品質の分析のために選んだ理由を教えてほしい。

小林氏
 「決済をする」ということがお客さまの生活のなかで一番大切かな、と思います。「物を買えない」というトラブルがネットワーク品質で起きないようにするのが大切だと思い、まずはd払いから始めました。

――動画視聴やWebへの拡大という話があったが、dメニューなどそれ以外への展開して分析する計画はあるのか。

小林氏
 決済、動画、Webページ閲覧といったところが、お客さまの代表的な使い方だと思っています。ここで対応できれば、大半のお客さまの体感が確認できるのではないかということです。

 まずはこの3つからということになりましたが、ほかにもアプリはありますので、そちらにも展開はしていきたいと思っています。

ドコモの強みをどうアピールするか

――今回の改善を受けて、ユーザー目線での体感品質にどれくらいのアドバンテージがあるのか、率直に聞きたい。たとえば他社では、楽天モバイルは昨年の秋ごろから調査データに基づいて品質改善を発信している。ソフトバンクは大阪でのつながりやすさということで、関西圏限定のCMを出していて、KDDIもオウンドメディアで定期的に情報を伝えている。ドコモとして通信品質の強みをなかなか打ち出しづらかったかと思うが、他社と比べた強みは。

小林氏
 そういう発信は必要で大切だと思っていますので、しっかりやっていきたいです。我々としては、今の状況をどれだけ早く改善し、皆さんに安心していただくための情報を発信していきたいと思います。

 現在も「瞬速5G」を積極的に展開していますし、今後はスライシングなども始めていきますので、そのタイミングで発信もしていきたいです。

――通信品質に関する他社の案内をどう見ているのか。

小林氏
 先ほどソフトバンクさんのお話がありましたが、ソフトバンクさんは「大阪府で一番快適につながる」と言っていて、関西ではCMも流れています。

 ただ、10月にもお話をしましたが、ソフトバンクさんがどういう調査をされているのかがよくわかっていないんです。遅延を計測されているのはわかりますが、どういうデータを流して遅延を計測しているのかがわかりません。

 「大阪府で一番快適につながる」というお話について、根拠がわからないのが正直なところです。

 総務省の速度調査でガイドラインがあって、そういったかたちで一度方向を整理してやったほうがいいのではと思います。

 ソフトバンクさんがアピールしているエリアとして7つくらい挙がっていましたが、我々のほうが快適に通信できる場所というのは、弊社でも確認できています。

 ですから、大阪府のすべてでソフトバンクさんが一番(つながる)というような表現になってしまっていて、消費者庁のご判断にはなりますが、消費者の方が誤認されるのではないか、優良誤認になるのではと心配しています。

 そういうところも注意しながら、我々は速度調査などをやっていきたいと思っています。

――大阪でドコモが優れているところもあるというのは、体感ベースの話なのか。

小林氏
 ソフトバンクさんが大阪について挙げていたのは7カ所ほどだったと思います。「そういうことであれば」ということで、我々もエリア調査を実施しました。

 たとえば海遊館では、ソフトバンクさんの計測方法がわからない部分もありますが、我々が計測していて(ドコモの)遅延は短いですしスループットも速いので、海遊館であればドコモのほうがいいのではないかなと。海遊館以外にもそういう場所が大阪でありました。

――アップルトゥアップル(同条件での比較)になっているのか。

小林氏
 それができないんですよね。ソフトバンクさん側でどういう調査をされているのか、いまひとつ開示されていないので……。我々では自社評価をしたところ、海遊館ではドコモのほうがいいのではという結果になりました。

今後の対策

――今後の対策、特に2024年度に重視する対策を知りたい。

小林氏
 今回は我々、コロナ禍の人流の変化に追従できませんでした。

 コロナ禍のような大きな変化は今後ないとは思いますが、そうした変化に耐えられるような厚みのあるネットワーク構築をやっていくつもりです。

――改善計画の進捗は、12月時点で少し計画を上回っているような印象を受ける。どの程度上積みがあったのか。

小林氏
 もともと「2000カ所以上をターゲットにモニタリングしながら対策する」というお話をしていて、それは12月までに計画通り完了しました。

 残りは設備対応が短期間では難しいところで、その部分について、12月までに数十カ所できた部分もあります。それが上積みになります。

――2000カ所について9割という話があったが、残りはどうなのか。また、2000カ所以外のところについてはどう捉えているのか。改善する予定も含めて教えてほしい。

小林氏
 (2000カ所の改善計画のなかで残っているのは)設備対応が難しいところです。都市部でも、ビルのオーナーさんなどとの調整が難しいところもある。

 あとは建物の内部です。建物の内部は工事が結構大変でして、そういうところが残っています。不便なところがあるのは認識していますので、調整でき次第すみやかに対応していきたいと思っています。

 2000カ所以外について、10月にも申し上げましたが、伸び続けるトラフィックに対して基地局のリソースがどうなのかということは、全基地局で見ています。

 リソースのひっ迫も感知していますので、そこは設備対応を進めていきたいです。工事の時間がどうしてもかかってしまい、タイムリーにできるかどうかという場所も発生してしまうかも知れませんが、すみやかに対応していきます。

――KDDIやソフトバンクと比べて、ドコモの基地局構成にはどのような違いがあるのか。

小林氏
 3GPPの標準化で機能ブロックが決まっているので、基本的には構成や機能配置は変わりません。

 採用している機器のメーカーさんは違いがあります。他社さんはメーカーさんを公表していないので、いろいろな噂で聞くところになりますが、違いはあると思います。

――その違いが、通信品質の違いにつながっているのか。

小林氏
 今回の件については、基地局のトラフィックに対する容量設計だと思っています。

 コロナ禍でリモートワークが続くであろう、という前提で設計したものが失敗してしまいました。そこについては、しっかりトラフィックを把握してすみやかに対応できていれば、問題はなかったと思っています。

――電車における通信品質の調査について、どういう基準で調べたのか。測定方法は。

小林氏
 少しアナログですが、鉄道に人が乗って、トラフィックが最も高い時間帯に、ツールで一定区間のスループットを計測し続けます。

 そのスループットを確認しながら、動画を視聴できるかどうかをチェックします。

 動画の場合はバッファリングという機能がありますので、バッファリングの量も計算に含めつつ、動画を再生し続けられるのはどれくらいになるのか計算しました。

 お客さまが電車に乗っている時間の90%までは、動画を途切れず視聴できるということを計算から出しました。

 では残りの10%はまったく視聴できないのかというとそうではなく、画質が落ちたり、ロード中になったりするということです。もう少し長く、動画を視聴できるようにしていきたいと思っています。

――今回の発表について、MVNOへの周知はしていたのか。ドコモ回線を使うMVNOの顧客への影響は。

小林氏
 今回も前回もそうですが、MVNOの皆さまには事前にお知らせしています。今後もこうした対策をし、(ドコモ回線を使う)MVNOのお客さまの通信品質も改善されますので、情報を共有しながらやっていきます。

 MVNOさまとはほかの部分でも契約条件がありますが、我々のエリア品質による影響がおそらく大部分を占めるのかなと思うので、しっかり情報共有をしていきます。

災害の復旧状況

――災害の復旧状況についてもう少し詳しく聞きたい。

小林氏
 今まだ復旧できていないところは、まだ立入りが難しいところです。道路や電力の回復状況に合わせ、基地局の本格復旧に向けて進めていきたいと思います。ちょっと時間はかかるかもしれないなと思っています。