インタビュー
KDDI髙橋氏が語る「ローソン協業」もうひとつの狙いや「povo」海外進出で目指す姿
2024年2月27日 17:05
KDDIが初めて、通信関連の国際展示会「MWC 2024」に出展した。自社サービスを海外へアピールし、世界中の事業者と積極的にコミュニケーションを図る構え。
そんななか、同社代表取締役社長の髙橋誠氏が本誌を含むグループインタビューに応え、MWCで見えた潮流やKDDIの取り組みについて語った。
トレンドとなった「AI」とクラウド
――MWC 2024はAIがトレンドのひとつになっています。
髙橋氏
まだ一部しかチェックできていませんが、昨年あったようなメタバースやVRといった展示はほとんどない。
どこ行っても、必ず生成AIの展示がありますね。
「ネットワーク品質向上」「企業での効率を上げていく」、そして「お客さまとの接点」がAIをどう活用していくか、という観点でのお話が多いです。
それから、Galaxy S24を触りましたが、グーグルの新しい検索「かこって検索」はすごいですね。
生成AIの活用を進めていく社会になるなら、エッジ側(ここではスマホ内などデバイス上)で個人情報に関するものを処理し、それ以外はクラウドという形になりそうですね。
――生成AIということでは、ソフトバンクがAI-RANアライアンスを発表しています。構想のひとつに、基地局設備でAIを駆動させるというものがありました。一方、KDDIはO-RANをふくめ、RAN(ラジオアクセスネットワーク、無線設備)について、KDDIはあまり大きな動きがないように見えます。
髙橋氏
KDDIとしては、仮想化を含めるvRANがあって、それはもう当たり前。その上で、O-RANをどう位置づけるか、ですよね。vRANへの検討はかなり進んでいて、必ずやります。O-RANも導入しようとしています。
――他社の動きでは、AWSがAI-RANアライアンスにもいますし、NTTドコモのOREXのパートナーにも参画します。
髙橋氏
どう仮想サーバーを作るか、というところでAWSが選択肢になるという話ですよね。vRANの流れ自体は間違いなくその通りだと思っています。どう仮想化を実現していくのか、というところですね。
5G SAを活かすアプリケーション
――先日の決算会見で、2024年度に5G SAを本格化させるという話が示されました。5G SAで何が変わりますか?
髙橋氏
そこはまだハッキリしていませんので、社内でも「お客さま目線で何ができるのか」と議論を進めています。
トレンドとしては、APIを用意して、通信ネットワークをプラットフォームにして開放していく、という話があります。
昨年、GSMAの取り組みとして、「Open Gateway」としてAPI共通化を発表しましたが、この1年で、NTTドコモやソフトバンクも参画しています。
KDDIでは、その一環で、5G SAを使い、ゲームを快適に楽しむというトライアルをソニーさんと一緒に進めています。
――通信事業者のしくみがAPI化されると、たとえば第三者によるiPhone向けアプリストアに活用されそうでしょうか。
髙橋氏
かつてアップルがキャリア課金に対応するとき、1社1社、交渉していく必要があったんですが、(キャリアがAPIを用意するという話は)そこで間に立つイメージです。
povoのAPIに「あれは面白い」
――APIつながりで言えば、KDDIのブースで、「povo2.0」のしくみをAPI化することが紹介されています。
髙橋氏
あれは面白いよね!
いわゆるZ世代に向けた、新たな通信サービスのあり方を、API化してオープンなしくみで提供しようと。
(APIを導入するとあるサービスのユーザー)コミュニティから見ると、API経由で通信サービスのデータを買える。
povo自身は表に出ず、いわばホワイトレーベルになります。今回、各国のキャリアと話をしていて、povoはこれから国際展開という。
モビリティへの注力、出資先の上場
――povoの国際展開という話ですが、「海外のものを日本流にアレンジして、また世界に」というのはローソンとの協業の説明会でも触れていました。
髙橋氏
今日のKDDIブースで一番ウケていたのは、スターリンクとT-mobileと一緒に紹介した事例紹介のセッションでしたね。あれ(KDDIがスターリンクのさまざまな活用法を生み出していること)もそうかなと。
――今後、いろいろ広げていきますか。
髙橋氏
ソニー・ホンダモビリティさんとの協業を今回、発表しています。
その分野も広がっていくと思います。グローバルメーカーとも商談しています。
――ソフトバンクが2023年12月、アイルランドに拠点を置くコネクテッド・カー向けMVNOのキュービックテレコムに出資しています。
髙橋氏
競合ですね。日本の通信事業者が海外で競い合っていくと。
――米国に会社を作ることになりますか?
髙橋氏
やっぱり(KDDIの大株主である)トヨタさんはすごく安全性に重んじられる。
たとえば海外のEVメーカーは、コネクティビティにエンタメなどを活用する考えです。
我々はトヨタさんに育てられているので、かっちりやりながら、そのままでは米国に持っていっても難しいでしょうから、米国のスタッフとスタートアップという組み合わせで、会社を設けて。
――海外での通信サービスとなると、KDDIグループで上場する方針のソラコムもあります。
髙橋氏
ソラコムでもいいんですが、別の地域でトライしていて。ソラコムと新会社のコラボもあり得ると思います。
ソラコムは上場が承認され、その一方でもうひとつ上場する出資先があります。「KKBOX」という音楽配信サービスを展開している出資先のKKカンパニーが、拠点を置く台湾で上場します。
台湾でも音楽配信サービスの競争が激しくなるなかで、KDDIが手掛ける映像配信サービス「TELASA(テラサ)」のバックオフィスとか、各ストリーミングサービスが独立したコンテンツを保有することがなかなか大変になってきたので、KKカンパニーのしくみを使いたいという話も増えて。
KDDIの出資先には、アイレットというAWSを用いるソリューションカンパニーがあるんですが、そのアイレットと同じように、KKカンパニーもAWS活用のソリューションを展開するよう軸足を変えてきて、上場するに至ったと。
KDDIではかねてより「スイングバイIPO」といって、スタートアップをいったんKDDIといっしょになってもらって、上場をはかってきました。だいぶ育ってきたとお伝えしたいところです。
今、本当にいろんなことが面白くって。
KDDIとしてサテライトグロース戦略を掲げて、通信を中心にして、周辺領域を成長させていく方針にしていますが、近々、その戦略のリニューアルを考えています。
今回のMWCも、通信以外の事業者がかなり増えています。出展側も半数以上が通信以外と聞きました。
かつてはスマホの新機種発表の場でしたが、今は、法人向けが多い。その上で、デジタルトランスフォーメーションの未来形が示される場になってきたなと。
面白がられるようになったローソンとの協業
――話は変わって、ローソンの話、反響をどう見ていますか。
髙橋氏
なんで小売りなんかに手を出すんだっていうのが最初の反応でしたが、最近、周囲は「すごく面白い」とおっしゃっていただけるようになってきたなと。
僕らは基本的にバーチカル(縦方向)タイプのビジネスモデルをやりたい。
auユーザーの延長線上にコンテンツも用意し、金融も欲しい。エネルギーもある。
そんななかで、「auユーザーにはこんな良いサービスがあります」とやっている一方で、その世界が、あとでホリゾンタル(水平)にひろがっていく。
一方、ソフトバンクさんや楽天さんは、どちらかと言えば、先にホリゾンタルに広げている。楽天ペイやPayPayはみんな使えますよ、その上で後から垂直統合を志向する。PayPayを使うならクレジットカードは、ですとか、楽天ポイントをより多くえられる回線は楽天モバイルに、と。
だから、いわゆる経済圏と呼ばれる。
僕らは、まずauユーザーに向けていくというのがお客さま目線かなと。
――金融やエネルギーをすでに手掛けるなかで、足りない分野はありますか。
髙橋氏
今、サテライトグロース戦略を改定しようと進めています。
DXと金融とエネルギーは、完全に通信を軸としたサテライトのひとつ。そのもうひとつ外側で、何をし続けるか、ということになりますね。
ひとつは衛星通信でしょうし、モビリティ(通信を活用した自動車など移動に関するサービス類)もあるんでしょう。
ローソンとの取り組み、auユーザー向けもちゃんとやる
――高橋さん、ちょっと楽しそうです。
髙橋氏
KDDIには、個人向けのサービスを手掛ける部門と、法人向け部門があります。個人向け部門は、auやUQなどのお客さまに「ローソンだと良いことがありますよ」と取り組みます。
法人向け部門は、ローソンさんがより発展するような戦略を採る。生活者としては、auユーザーだけではなく、ローソンを使うすべての方々が対象にあります。
個人と法人、2軸で進めるということになります。
先日の会見では法人向け部門の狙いだけをお伝えしました。個人向け部門の取り組みも言ってもよかったんですが、「auユーザーがローソンに行くと良いことがあるよ」だけだと、ちょっと面白みに欠けますよね。
――なるほど、ありがとうございました。