ニュース

KDDI髙橋社長が「ローソン海外進出のサポート絶対やりたい、日本ぽくていいでしょ?」

 6日、KDDI・三菱商事・ローソンの3社が新たな資本業務提携を発表した。通信企業であるKDDIが、小売業であるローソンの株式の半数を取得し、共同経営に乗り出すことになるが、その狙いは「コンビニエンスストアにITテクノロジーを取り入れる」というものだ。

 会見の詳報や質疑は別記事でお届けし、本稿では、会見・質疑のあとに実施された囲み取材の模様をお伝えする。

 囲み取材に応じたのは、三菱商事取締役コンシューマー産業グループCEOの菊地清貴氏、ローソン代表取締役社長兼CSOの竹増貞信氏、KDDI代表取締役社長兼CEOの髙橋誠氏。

左から菊池氏、竹増氏、髙橋氏

単なる人手不足対策ではなく、DXで付加価値を

――竹増さんのプレゼンテーションで、「グローバルリアル×テックコンビニエンスストア」というコンセプトが示されました。いつ頃の実現をめどに進めていきますか。

竹増氏
 ローソンから最短15分でお届けするデリバリーサービスは、2024年~2025年を中期経営計画のひとつの山にしていきたいと思っています。

 ただ、現在は、店舗の在庫との連携がまだ進んでおらず、(デリバリーサービス上で)3割ぐらい欠品しています。そのため、マーケティング(広告宣伝)をまったく展開していません。

 これは4月に在庫管理システムと連携し、欠品がほぼなくなるような状態になりますので、グッとアクセルを踏んでいきたい。

 連携は、やはりKDDIさんの通信、そういうパワーをいただきたいです。

 リアルの店舗も、実はこれから人手不足がひしひしと迫っています。2025年の大阪万博もありますし、これから、いろんなイベントが日本で開催されるとなれば、コロナ前よりも(人手不足が)ひどくなるんじゃないかと。

 店舗のDX(デジタルトランスフォーメーション)を試行錯誤していますが、KDDIさんの力をお借りして、単なる人手不足対策ではなく、「リモートでの服薬指導」「リモートで金融相談」やauショップ代わりのスマホの相談といったことも、デジタルテクノロジーを活用して付加価値で提供できます。

 リアル店舗とデリバリー、テック、これを金融でしっかり巻いて、エンタメとスーパーが盛り上げていく。

 半年ほど考えてきたのですが、本当に深く(KDDI側と)お話してきて、(ローソンの目標に向けて)本当に渡りに船というか、スピード感が出るんだと。

これまでの発想を変える

――ローソン、KDDI、それぞれに銀行があり、互いに重複する部分もあると思うのですが、どうされるのでしょう。

髙橋氏
 たぶん、その発想がもう古いと思います。これまでコンシューマー向けビジネスでauでしたが、これからの法人ビジネスはオープンです。

 いろんなサービスに通信を組み合わせて活用、となった場合、お客さまにとって、auであろうとドコモであろうと、ソフトバンクであろうと関係がない。だから、その発想を変えなきゃいけない。

 (KDDIとして)to C(消費者向け)は、auにこだわります。ただ、実際、ローソンの店頭でau(の回線、スマホ)を販売することに着目しているわけではありません。

 通信の力を使って、ローソンさんの発展を考えると、そこには、auかソフトバンクか、という概念はたぶん存在しないのではないか。

 ローソンさんが発展されることを、我々は一生懸命支援するっていうのが今回の大きなポイント。

 そこをauのためにやった瞬間、ぎゅっと発想がちっちゃくなっちゃう気がします。

 auのサービスのオススメもしていきたいですが、発想・考え方をがらりと変えた方が面白いかなと。

――auショップ自体の役割もスマホ販売だけではなくなってきています。

髙橋氏
 au Styleという店を展開していて、通信の付加価値サービスを提供していて、これはどんどんやっていきます。

 一方、(国内は)人口が減っており、地方ではショップが減少しています。すると「今までauショップがあって手続きできたのに、できなくなったじゃないか」とお客さまから怒られる。

 これは、たとえばローソンさんの店頭にリモートの接客・講座を作れば解決される。

 そこまで行かずとも、キャラバンカーを持っていって巡回することはあり得る。そんなコラボはauのためにもなる。

 でも、ベースは、ローソンさんに通信を活用してもらい、ローソンさんがいかに発展するか、というのが一番大切。

 竹増さんにも質疑で、(KDDI創業をリードした京セラ創業者の稲盛和夫氏がよく語っていた)「利他の心」を褒めてくださったが、そういうことなんです。

竹増氏
 いや、ほんと、そう思っています。

――KDDI内にある知恵・知識といったものをローソンへ提供することは?

髙橋氏
 あると思います。たとえば、我々の(au/UQ)ショップでも端末を購入され、その次の来店まで時間がちょっと空きます。その間に、どれだけ多くのお客さまにリーチしていくのか、いろんな取り組みがあり、ローソンさんも実施されている。その辺の共有はできるかなと思います。

出資のメリット

――業務提携レベルでも実現できるのか、と思うが、KDDIが4900億円という巨額を投資する理由は?

髙橋氏
 ローソンさんの50%の株式を取得するわけですが、ローソンさんは年間500億円もの利益を上げています。その点でも出資するメリットがあります。

 そういう関係なので、もっと深くKDDIのリソースを提供できるというのが出資のメリット。業務提携だけではなし得ないことですね。

――KDDIから人は送る?

髙橋氏
 当然送ります。三菱商事さんからも送ります。ただ、イニシアティブは当然、これまでローソンさんを経営されてきた三菱商事さん。我々は最初、サポートの立ち方がいいのではないかと。主導権争いなんてとんでもないと思っています(笑)。

――三菱商事にとって、子会社化していたローソンを今回の形にするメリットは?

菊池氏
 (ローソン株式をKDDIと)50%ずつになるわけですが、これからまで一緒に伸ばしてきたわけですが、さらなるローソンの成長にはパートナーが必要だろうと。

 そこでこれまで十分に信頼関係もあり、目線も合致しているということで、極めて前向きに、さらに成長を加速させるものと位置づけています。

――資本面でのメリット、効率化の意味でのメリットは?

菊池氏
 当然あります。テクニカルですけどROA(Return On Asset、総資産利益率)など、三菱商事の経営数値はプラスになります。配当も100%配当で、KDDIさんもそうですが、プラスになるだろうと見ています。

――加盟店にとっては、日々の販売や利益へどう貢献するのでしょうか。

竹増氏
 細かな数字はこれからですが、お客さまにとっての使いやすさ、オペレーション面などの効果を出せるかがすごく大事です。

 加盟店からも「お客さまとの接点がどうなるか」「本当にテックカンパニーになるのか」といったメールをいただいていますので、しっかり全国を回って、加盟店さんとも対話して、みんなで(新体制に)入っていきたいです。

ローソンがKDDIに期待する点

――人手不足の一方で、やりたいことを実現させるために必要な人手をテクノロジーで、ということだと思います。どういう点をKDDIに期待していますか?

竹増氏
 リモートだけでも、いろんなサービスを提供できる世の中ににありました。コロナ禍を経て、リモートでの診療・服薬指導ができるようになりました。

 もっともっと他の困りごとがありますよね。たとえば介護も、相談する先がよくわからない。それが「ローソンに行って、端末を押せば専門家と繋がれる」ということになる。そんなサービスで、ローソンで生活の困りごとをすべて引き受けるくらいの勢いで、デジタル、テックを使えば発展していけるんじゃないかと。

 お店からスタッフを減らそうとは思っていません。「いらっしゃいませ」「また来てくださいね」という心と心の触れ合いが、やっぱりリアルではすごく大切です。

 そういったことを、あまり必要とされないお客さまには、クイックEC(デリバリーサービス)でどんどん便利さを提供していく。うまく両建てでしっかり作り上げたい。

 でも、ローソンだけでは限界がある。時間もかかる。そこをKDDIさんと一緒に作り上げていく。

髙橋氏
 リモートなら、1人のスタッフで10店舗くらい対応できる。これがやはり一番のメリット。1店舗に1人は難しいけど、リモートで1人いたら10店舗、20店舗対応できる可能性がある。

竹増氏
 生産性を上げることで賃金もアップできると思います。そうやって社会を良い方向でまわっていく。そんな社会を実現したいですね。

――(ローソン傘下で、一時、上場を申請していた)成城石井はどうなりますか。

竹増氏
 成城石井は、いったんIPO(株式公開)を取り下げました。新たなセンターキッチンが立ち上がり、だいたい6~7割くらい来ていますが、まだ余裕があり、しっかり店舗展開をしていく。

 そして、ECもまだ大きく投資していません。グローバルでもまだ手つかずです。もっとやれることがありますので、成城石井の経営陣としっかり確認しています。

 たとえばローソンにできることとして、たとえば海外展開でパートナーを紹介できます。三菱商事もいます。

 国内もまだ、出店のお誘いもあります。

 いったんIPOを置いて、成城石井の競争力や企業価値を上げていきたいですね。

店舗、リアルにデジタルを加える

――リモートであれば自宅でも利用できそうですが、店舗の意義は?

竹増氏
 そこにリアルなお店があるということでしょう。それだけでは、自宅から利用するのと同じです。でも、店舗であれば、お買い物もできるし、リモートで必要なサービスを受けられる。わからないことがあれば店員もいます。

 やはり住みよい社会を、デジタルとリアル、人の温かさを掛け合わせながら作り上げていければと。

髙橋氏
 コロナ禍では、みんなリモートに切り替わるのか、という向きもありましたが、その後、リアルの良さも評価されています。イベントでもエンタメでも、ショッピングでも、本当に得意な人はネットで済ませられますが、やっぱりリアルに行く(人も多い)。

 リアルにテクノロジーを使うと、もっと価値が出るというのは、今、すごく大事なんじゃないかなと思えています。

竹増氏
 お店でも、1日何回も来店される方がいます。コミュニケーションを大事にしたいという感覚もすごくある。

――ローソンの目指す進化はだんだんわかってきましたが、KDDIはどう変化していくのでしょうか。いわゆる経済圏競争になるのか。

髙橋氏
 去年今年はすごく変化してきています。今度、出展するMWCもかつてはスマートフォンの新機種発表の場でしたが、ほとんど今や法人同士のビジネスの展示会です。

 いろんなパートナーさんとお付き合いして、通信企業側の利益を上げるというのは、KDDIが実現したいことです。単純にスマホを売って利益を得るのではなく、通信で、産業を持続可能な成長なものにして、それを事業にするというのが目指すところです。

――今回の取組みでの店舗はいつごろ?

竹増氏
 ……期待してください!

髙橋氏
 実際発表したところです。これまでクローズドでしたから、ここからです。

竹増氏
 なかなか会って話すこともできず、アドバイザー経由でいろんな話をしてきたのがこれまでの実態です。もっと高橋さんとお話したいですし、実務のほうでも進めて、お店づくりをしていきたいですね。

――店舗スペースも限りがありますが、どう対応していきますか。

竹増氏
 実は、我々が一番得意にしてるところです。30坪、40坪のなかで、コロナ禍では冷凍食品を置かなきゃいけないというところで、1万4500店舗のうち、1万数千店舗、一気に改装しました。そういうことができるのは、“変化対応業”と呼ばれるゆえんでしょうし、ニーズがあればいかようにもお店を変えていく気持ちです。

髙橋社長が「海外進出のサポート、絶対やりたい」

 ここでいったん囲み取材は終了……だったが、取材陣からKDDI髙橋社長に「言い残したことはありませんか」という声がかかる。

 そこで、髙橋氏は足を止め、竹増氏にローソンという名前の由来を確認した後、コンビニエンスストアという業態が海外発祥であることを引き合いにしつつ「海外で始まったものを、日本に持ってきて、日本の付加価値を吸って、すごく良くしてグローバルに持っていく。これは僕らが目指している姿」と語り始めた。

 同氏は「スターリンクもそう。海外のものを持ち込んできて、付加価値を作って(編集部注:KDDIはSpaceXからスターリンク活用法を評価されている、とこれまでの説明会で語られていた)日本人らしいおもてなしをする。すごく付加価値のあるコンビニエンスストアを、アジアに、グローバルに持っていくというのは僕らの発想にすごく似ている。海外から来たものに、日本の付加価値を作って、もう一回グローバルにというのはやってみたい」と説明。

 その上で「KDDIに海外拠点はあるが、ローソンの海外進出をサポートするとか?」と応じる声があがると、髙橋氏は力強く「絶対やりたいです」とコメント。

 そして「とくに東南アジアに進出というのは、僕らがやりたいこと。グローバルで通信会社を買うこともありますが、そういう進出の形ではないんじゃないかな。ローソンさんと一緒に、グローバルに通信のテクノロジー込みで進出していく。なんか日本ぽくっていいでしょ? これが言い残したことでした」とほがらかに会場を去っていった。