インタビュー

楽天モバイル向けのソフトウェアを他社にも提供、三木谷氏が語る意義

 MWC Barcelona 2024の会期2日目にあたる2月27日(現地時間)に、楽天グループがイベントを開催。同社代表取締役社長兼会長の三木谷浩史氏が登壇し、MWCに合わせて発表した「リアルOpen RANライセンシングプログラム」の意義や今後の見通しなどを語った。

 同イベント終了後には、三木谷氏が日本の報道陣のグループインタビューに応じ、その詳細を語った。

楽天グループのブースで講演を行った三木谷氏

 リアルOpen RANライセンシングプログラムとは、楽天シンフォニーが構築し、楽天モバイルやドイツの1&1に展開してきたCU(集約ユニット)やDU(分散ユニット)などのソフトウェアを、サブスクリプション型で他社に提供するという取り組み。

 三木谷氏は「誰もがソフトウェアを使えるようにすることで、産業の方向性を変える」とその意義を語った。楽天シンフォニーのソフトウェアは、楽天モバイルなどでの運用実績があるため、「競合と比べ、Open RANのソフトウェアとして成熟している」(同)という特徴もある。

楽天シンフォニーは、MWCに合わせ、リアルOpen RANライセンシングプログラムを発表した

 三木谷氏との主な一問一答は以下のようになる。

――ライセンシングプログラムを導入しましたが、その背景を教えてください。

三木谷氏
 誰もがバーチャライゼーション(仮想化)やOpen RANは難しいという中で、うちは5年前からそれを始めています。大体のOpen RANは“なんちゃってOpen RAN”ですから(笑)。

 そもそも、Open RANにたくさんのソフトウェアがあってはいけない。OpenRANが安く、みんなが使えるようになれば、いろいろなハードウェアがそこにつながります。その中でハードウェアメーカーはハードウェアを作るのに集中してください、というのが正しい世界だと思っています。

 ただ、今はエリクソンのOpen RAN、ノキアのOpen RANという形になっている。これは変えなければいけない。

 今のところ、うちのソフトウェアは一番マチュアだ(成熟している)と思っているので、それをリーズナブルな価格で提供し、「皆さん使ってください」とやっていきます。競合も利用するかもしれませんが、それはそれでいいということで、戦略を進化させました。

 ある意味、Linuxのようなものにしようとしたということですね。Linuxもピュアなものだけでは使えないので、Red HatやRocky(のようなディストリビューション)がある。

 素のLinuxを使っている会社はそんなにないわけじゃないですか。それでも、古い話だとサン・マイクロシステムズのSolarisと比べるとずいぶん安かったりする。ハードウェアとOSをバンドルしていたわけですから。

 楽天シンフォニーはクラウドやOSS(運用支援システム)といった機能を持っているので、ついでにいかがでしょうといったセールスもできます。

 コミュニティも作り、NECや富士通も接続テストを自分たちでやってよ、という形にしています。ライセンスしたので、テストもやってよということですね。Androidもそうで、機種によって不具合はありますが、アップデートで直す。それと同じような形です。

報道陣のインタビューに応じた三木谷氏

――手を出そうとする事業者の規模感はどんなところですか。

三木谷氏
 それは分からない。今、話をしているところですから。全員がいきなりやるというわけではありませんが、皆さん関心はありましたね。

――エコシステムを作れそうな印象はありますが、短期的に楽天シンフォニーが稼いで、楽天モバイルの赤字を埋めるのは難しいのではないでしょうか。

三木谷氏
 楽天モバイルは(単体で)黒字化します(笑)。ただ、自分たちだけでOpen RANのソフトウェアを売っていくのがいいのか。

 基地局にはフェムト(セル)もありますが、あれにもRANのソフトウェアが載っています。そこまでいくと、おそらく何億という数がある。今は、そこに個別のソフトウェアをチクチクと開発していますが、おそらく、そちらの(範囲までソフトウェアを提供した)ほうが利益は上がると思います。

――1&1(ドイツで楽天シンフォニーが支援した新興キャリア)のような丸抱えは、それに合わせて規模を拡大する必要があります。そういった形よりも、広く薄くやっていきたいという戦略でしょうか。

三木谷氏
 そうですね。テコが効きますから。すでに、今日だけで4~5社、やりたいという話がありました。彼らがやってくれればいいと思っています。

――逆に、楽天シンフォニーが全面的に支援するような案件はまだ出てくるのでしょうか。

三木谷氏
 出てきますし、何件か進んでいます。1&1ほど巨大なものは難しいですが、発展途上国を中心に引き合いが多い。1つのポイントはセキュリティですが、ウクライナもネットワークが1回破壊されていますからね。

――24年のMWCで、何か変化はあったと感じていますか。

三木谷氏
 今年のテーマもOpen RANやAIですが、AIという意味では仮想化していなければあまり意味がない。仮想化にいち早く舵を切った戦略は正しかったと思っています。

――AIでは、OpenAIと通信業界向けソリューションを開発する話もありました。

三木谷氏
 自動運転ならぬ自動運用ですね。自動運用することによって、1つは大規模障害を事前に防げる。運用コストも、大幅に下がることになります。サム(・アルトマン OpenAI CEO)と話したときに、「AIでやるけど一緒にやらない?」と言ったら、「やる」となって話が決まりました。

OpenAIとともに、キャリア向けのAIツールを開発していくことを表明した

――キャリア向けのものが出てくるということですね。

三木谷氏
 はい。(通信障害には)なんだかんだ言っても前兆があります。それを事前に予知して対応を打っていく。IPネットワーキングを自動化したりということもあります。そういったことに、仮想化の意味が出てきます。

 人がやっていると、ケーブルを挿し間違えたりといったことがありうる。他社の障害(22年に発生したKDDIの大規模通信障害を指しているとみられる)が3日も続いてしまったのは、結局、ブラックボックスだったから。仮想化だけだと人手がいるので、それを自動化していきます。

OpenAIとの取り組みは、三木谷氏とアルトマン氏の会話から始まったというエピソードを明かした

――逆に、楽天モバイルは昨年、大規模障害が起こっていません。なかったことはアピールしづらいかもしれないですが、何か注目してほしいポイントはありますか。

三木谷氏
 (楽天モバイルのネットワークは)ブラックボックスじゃないということです。

 どんなソフトやハードにもやっぱり故障はありますが、故障したときの冗長構成が自動的にちゃんと動くか。大体そういう冗長構成は動かないわけですよ(笑)。でも、うちのは一応動いている。動かなかったとしても、自分たちで開発しているので対応は極めて速いです。

 以前(障害が起こったとき)は1時間ぐらいかかってしまいましたが、ちゃんとやっていればそれが5分でできていた。そこは反省材料ですね。

――MWCでは、ドコモもOREXの法人化を発表しました。その受け止めを教えてください。

三木谷氏
 分からないです。本当に勉強不足で分からないのですが、なんとなく1周遅れ感はありますよね。どちらかと言うと、オープンにしていこうというのが我々の方向性です。ただ、もしかしたらそこでコラボレーションができるかもしれないですね。