石川温の「スマホ業界 Watch」

「コンビニ×テクノロジー」、KDDIとローソンが目指すWin-Winの関係

 2月6日、緊急開催されたKDDIと三菱商事、ローソンによる資本業務提携に関する記者会見。帰り道、スマホが鳴ったので出てみたら競合のキャリア関係者だった。

 「石川さん、KDDIはローソンを買って何がしたいんですかね?」

KDDIとローソン、それぞれのメリット

 これまでも、KDDIだけでなくNTTドコモもローソンに2.1%出資をしている。ポイントやデータマーケティングの連携であれば、その程度の出資や業務提携をすれば充分な話だ。

 しかし今回、KDDIは5000億円近い資金を投入し、三菱商事と50:50でローソンの株式を所有することになる。競合のキャリアとすれば「なぜ、KDDIはローソンに5000億円もつぎ込むのか」と不思議がるのも無理はない。

 KDDIにとっての単純なメリットといえば「収益が期待できるから」だ。KDDI 髙橋誠社長は「ローソンは年間500億円もの利益を上げている。その点でも出資するメリットがある」と語る。

 KDDIは楽天モバイルからのローミング収入で年間、数百億円を稼ぎ出していた。6年間、安定して収入が入ってくるかと思いきや、楽天モバイルが一気に全国にエリア展開を進めてしまったため、当てにしていたローミング収入が急激に減ってしまった。ローミング収入が入ってこないという誤算の穴埋めに、ローソンへの出資は効いてくるはずだ。

 もうひとつのメリットとして、一般的に見れば「au経済圏の拡大」というのがわかりやすい。楽天モバイルには巨大な楽天経済圏が存在し、インターネット通販の「楽天市場」はモバイル事業と違って絶好調だ。ソフトバンクには、ヤフーショッピングがあり、LINEとの経営統合でさらに影響力を増す可能性がある(経営統合前は全く上手くいっていなかったが)。

 楽天やソフトバンクがネットショッピングなのに対して、KDDIはローソンを手にすることで、全国1万4000店を超えるリアルのショップを手にすることができる。auユーザーにクーポンをバラ撒き、ローソンの来店頻度を上げ、au PAYで支払ってもらい、Pontaポイントを付与してデータマーケティングにつなげれば、au経済圏の拡大にはつながるだろう。

 KDDIはローソンを手にするが、ただ、KDDIにはauじぶん銀行があり、ローソンにはローソン銀行があるなど、両社には重複している面も多い。しかし、KDDIの髙橋誠社長は「その発想はもう古い」と切り捨てる。

 KDDIはローソンを傘下に収めて、店舗でスマホを売りたいというわけではない。確かに、人口減少地域など、auショップの経営が難しいところはローソン店舗でauの手続き業務を引き継いでもらうということはあり得そうだが、すべてのローソンをauショップ化させることがメインではないようだ。

 ローソン 竹増貞信社長が実現したいのが「グローバルリアル×テックコンビニエンスストア」というコンセプトだ。具体的には、現在試行錯誤中のローソンから15分で商品を届けるデリバリーサービスの実現だ。また、店頭でリモート接客できる端末を置き、銀行や保険、ヘルスケアなどの相談を受けるといった付加価値を提供したいのだという。

 リアルの店舗では人手不足が深刻だ。また物流問題も深刻化してくるなか、コンビニにはDXが求められている。コンビニ経営が効率化していけば、結果としてコストが下がり、賃金を上げることができる。その結果、人手不足の解消にもつながる可能性がある。

 ただ、その実現に向けてローソン単独で動くには限界がある。そこで、通信やテクノロジーに強いKDDIの傘下に入ったというわけだ。

KDDIの得意技をローソンにも

 一方、キャリア側の課題といえば、国内市場は、もはやほとんどの国民にスマートフォンが行き渡った状態だし、人口も増えるわけではなく減る一方だ。キャリアはこれまでのような契約者数を競ったり、通信料収入を上げていくというビジネスモデルからの脱却を図っていく必要がある。

 髙橋社長は「去年、今年とすごく変化している。2月末に出展するMWCもかつてはスマートフォンの新機種発表の場だったが、最近は法人ビジネスの展示会になっている。

 KDDIはいろんなパートナーとお付き合いして、利益を上げて行きたい。単純にスマホを売るのではなく、通信によって、あらゆる産業を持続可能な成長につなげていき、それを事業にするのを目指している」としている。

 KDDIはパートナーと組んでから、それを上手いこと新しいビジネスモデルに仕上げるというのがとても得意な会社だ。

 たとえば、Netflixと組んだ際、Netflixの視聴料を組み込んだ料金プランを作った。これにより、Netflixの解約率が落ちた一方、KDDIの通信料収入も上がった。いまでは国内の他キャリアもNetflixと何らかのカタチで組むようになったし、視聴料をセットにした料金プランは海外のキャリアがよくマネするようになった。このビジネスモデルが成功し、その後、YouTube PremiumやApple MusicなどもKDDIとパートナーを組みたがるようになった。

 最近では、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」も、災害で活用できるというメリットをKDDIが実績化したことで、スペースXが喜んでいるという。スペースXとしても、日本以外の国で、災害に備えてのStarlinkを売り込むことになるようだ。

 髙橋社長は「海外で始まったものを、日本に持ってきて、日本の付加価値をつけて、すごく良くしてグローバルに持っていく。これが僕らの目指している姿」だという。

 ローソンに関しても「日本人らしいおもてなしをする。すごく付加価値のあるコンビニエンスストアを、アジアに、グローバルに持っていくというのは僕らの発想に似ている。(発祥は海外である)ローソンに、日本の付加価値を作って、もう一回グローバルにというのはやってみたい。グローバルで通信会社を買う、というのもあるが、もはやそういう進出の仕方ではないんじゃないか」(髙橋社長)。

 KDDIには海外拠点も多く、ローソンの海外進出に対して、通信やテクノロジー、さらには人的なサポートもすることが可能だろう。

 ソフトバンクはアメリカのスプリントを買収して失敗し、NTTドコモはIOWN、楽天は完全仮想化のネットワークで世界展開しようとしているが、KDDIとローソンは「通信とコンビニを組み合わせた国際競争力」を武器にグローバルへの進出を狙っていくようだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。