インタビュー

「AQUOS R8/R8 pro」の秘密を開発者に訊く――2台体制になったワケ、放熱の仕組みやカメラの進化は

 2023年5月に発表されたシャープ製のAndroidスマートフォン「AQUOS R8/R8 pro」。前モデル「AQUOS R7」から磨きをかけた1インチセンサーカメラ。新たに花火/星空モードが搭載された経緯や2モデル体制になったワケを訊いた。

 インタビューに応じてくれたのは、シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任の平嶋侑也氏、同 回路開発部 技師の宮原健氏、同 第一ソフト開発部 技師の内田夏綺氏、同 商品企画部 主任の石川晩人氏の4人。聞き手は弊誌 編集長の関口聖とライターの法林岳之氏。

左から宮原氏、石川氏、内田氏、平嶋氏

2台体制になった経緯は

――AQUOS R8とAQUOS R8 proの2台体制に分かれましたね。この決断に至る理由はなんだったのでしょうか? いろいろと話し合いがあったのではと想像します。

平嶋氏
 本ッ当に議論しました……。

石川氏
 やばかったですね。

平嶋氏
 1年半くらい前までは1モデル体制でもいいんじゃないか? というのが既定路線でした。社内ではどうするか、という話にはなってたんですが、お客様の使い方を見てみると、プレミアムモデルで趣味を楽しみ、最新のテクノロジーを使いたいという方と価格も含めてここまでじゃなくてもいいけど効率的に使いたいという方というようにニーズが如実に分かれているのが見えてきました。

 従来は、AQUOS Rシリーズは1モデルで(すべてのニーズを)カバーできると踏んでいました。しかし、2023年にはいる前、新たに求められるニーズが顕在化してきたということで2モデル体制も検討してみようか、というのがことの発端でした。

 趣味に特化したモデルと効率特化を重視されるお客様の使い方に、より合わせて使ってもらえるように目指した形を考えてみてもいいんじゃないかというのがもともとの(2モデル体制への)出発点でした。

――つまり、AQUOS R6が発売されてAQUOS R7の開発がスタートしたあたりということですね。あえてR8のような価格を抑えたモデル1本で行くお考えはなかったのでしょうか?

石川氏
 最初はそういう話もありましたね。

平嶋氏
 組み上がったものが、お客様のニーズや求められるプレミアムハイエンドのなかで合致するものになりにくかったんです。あまり(価格・性能を)下げすぎても期待に添えるパフォーマンスを確保できない、といったことが見えてきました。

 「Pro」という最新技術を投入するモデルと、効率化のためのハイエンドとするほうが、お客様の選択肢を増やせます。さらに期待に沿いやすい2モデル体制に落ち着いたというところです。

――つまり、ニーズに応えるうえではAQUOS sense plusシリーズなどでは難しかったということですね。

平嶋氏
 性格が異なるかなと思います。我々は「こだわりハイエンド」と言いましたが、明確な意思を持って選ぶというお客様の中で、ハイエンドに期待されるのはレスポンス、リアリティ、リライアビリティ(信頼性)で、一番合致するのはハイエンドモデル。Rシリーズでお応えするのが一番順当なのかなと考えています。

 AQUOS senseシリーズでは「時代に合わせた必要十分」をアップデートしていくもので、Rシリーズを求めるお客様とは層が分かれているのかなと思います。

――発表会当時、AQUOS R8 proでは「技術的にも大切」といった意味合いのお話をされていましたが、その戦略の中身を教えてください。

平嶋氏
 ハイエンドモデルという市場自体が縮小しているのは大きいです。そこにどう明確に答えるか。縮小していても期待は大きいと感じています。ハイエンドだからこそこういう使い方がしたい、こういう物が欲しいというのはあると思うので、一番最新のものがほしいというニーズと快適に使いたいニーズは、若干性格が異なっているので、そこに最初からそこ当てはめていこうという戦略を考えていました。

 5~10年前からは確実に変わっていて「なんとなくハイエンドを選ぶ」というところから「こだわりを持って選んでいただく」ということになってきて、そのこだわり方がかなり変わってきました。戦略的にこのタイミングでこだわり方に2つのモデルで寄り添ってお届けしていこうということです。

――(法林)絞りの調整なんかできれば便利ですが、あくまでスマートフォンです。

平嶋氏
 「Pro」(モデル)といえど、そこに突き進みすぎると……上手い言い方が見つかりませんが「ついてきてください」ではなく、お客様がどう使っているかが一番重要です。何も考えずにきれいに撮れるというのが、一番嬉しいのではないでしょうか。

 カメラに限ったことではありませんが、そこ(撮影テク)に脳のリソースを割かずとも目の前の家族を綺麗に撮りたいとかそういう想いにリソースを割くべきかなと。あくまでスマホは生活の質を向上させる道具です。そこに寄り添えるために守るべきところはキープして、捨てるところもあれば特化するところもありつつということで、商品構想を進めています。

AQUOS R8のほうが悩んだ

――Rシリーズの冠がある以上、ここは合わせなきゃ、ここは変えなきゃというところもあったのではないでしょうか。どういう考え方で今回の製品にいたったのでしょうか?

平嶋氏
 「Rの約束」であるリライアビリティ、レスポンス、リアリティ、ロボティクスの4つのRの期待に応えられるというのが大きなところです。

 ディスプレイの画質ということでどちらも「Pro IGZO OLED」を搭載しています。レスポンスという観点では、ハイエンドのチップセットを投入しました。メモリーの性能もそうで、ストレージのUFSやメモリーでは最新のLPDDR5Xを採用していて、Rの約束に叶うからどちらもキープしました。

 そのなかで、趣味特化のためのProとしての要素、効率を重視した使い方を重視する方向けにどういったスペックに落とし込むか、というのは最終的なスペックの結果となって表れました。基本的に大事なのは4つのRが思想で、一貫して共通しています。

――ここを変えていこうというのは結構すんなり決まったんでしょうか?

平嶋氏
 AQUOS R8のほうが悩みましたね。

石川氏
 カメラをどうしようとかメモリーはどうしようかとかですね。メモリーも大きければ大きいほどいいですが、値段とのバランスがあります。


平嶋氏
 使い方も大きいです。容量的なものも1インチセンサーで撮影するとキャッシュも大容量を要します。実用性に耐えうる容量で十分じゃないか、ということで(ProとAQUOS R8で)メモリーに差が出ているということはあります。

――Proのほうがスペックは上回っていると思いますが、AQUOS R8のほうが優れているところはありますか?

石川氏
 MIL規格ですね。ツッコミどころは皆さんそこなのかなと……。

平嶋氏
 日常の中で気軽にガシガシ使ってもらえることを目指したのがAQUOS R8です。そのために必要があったのが耐久性、軽さのバランスです。これはAQUOS R8特有のカラーかと思います。

――AQUOS R8 proでMIL規格に準拠するのは難しかったのでしょうか?

平嶋氏
 技術的には可能です。背面パネルを厚くしたり、電池を下げて重量を軽くしてということで実現できます。しかしProという製品特性上求められるものを、求めた結果難しい要素も出てきたということです。

 持ちやすいように背面カーブをつけてありますが、そうなると落下時にMIL規格で要求される性能を確保できないということがありました。性能を突き詰めるためにはMIL規格の優先順位は低くなるかなと。効率的に気軽にガシガシ使っていただけるというのを目指すには、AQUOS R8が一番と思います。

「放熱性能」へのこだわり

――放熱もひとつの特徴ですね。

宮原氏
 サーモマネジメントのキーはこのカメラリングです。特徴が3つあり、ひとつは金属製のカメラリングです。金属製で熱伝導率が非常に高く、CPUやカメラからの大きな発熱をカメラリング全体に広げることができます。

 AQUOS R7と比べてもリングがかなり大きくなっており、表面積で76%ほどアップしています。放熱フィンのようにして筐体の外に放熱できるのが大きな特長です。さらに背面パネルがちょっと出っ張っているのですが、この凸構造により基盤やCPUの熱を吸い上げるということになっています。

――接する面は台形部分だけなのでしょうか?

宮原氏
 厳密に言うと、このあたりも完璧に接しているわけではありません。完全にくっついてしまうとここ(カメラリング)が熱くなりすぎてしまいます。

平嶋氏
 お客様が触るところでもあり、(安全の)基準に抵触してしまいます。

宮原氏
 CPUの熱とカメラの熱を吸い上げる部分を、どちらもより近づけることで空気層を薄くして、熱を伝わりやすくしています。


――この発想はR7のころにはなかったのでしょうか?

宮原氏
 カメラリングを放熱に使うということはありましたが、ここからCPUの熱を吸い上げるということはしていませんでした。

石川氏
 積極的にカメラリングを使おうということになったのが、AQUOS R8 proの検討中ですね。「これいいんじゃないか?」って宮原さんから提案が来ていたような……。

――(法林)最初はその効果を疑われていたようですね

石川氏
 「嘘っぱちやろ」みたいな感じでした。

――この発想はどこから来たのかが気になりますね

宮原氏
 ずっとスマートフォンの放熱について考えていまして、他社製品からもアイデアを収集していたんですがそれでもまだ足りず……。新しい価値を作るにはスマートフォンだけではなくノートパソコンの放熱も参考に、いろいろと情報収集していました。

 そのなかでも放熱フィンの表面積を広くして熱伝導率も高くする、という発想がスマートフォンには足りていませんでした。ヴェイパーチャンバーなどを使っても、外に熱が出ていきません。AQUOS R8 proでは放熱フィンのような構造を作れないか、というところからスタートしました。

――放熱だけを考えると全面金属パネルにするといったこともありなのかなと思いましたがどうですか? イケてないですか?

平嶋氏
 イケてないかどうかの試行錯誤はしていまして、スマートフォンに求められる様相になっているかというとちょっと違うよね、という話になり完成形になっていったという感じですね。

 AQUOS R8 proは機能美をキーワードにしていて、美しいだけ、役に立つだけ、ではなくてデザイン性を兼ね備えつつ放熱効果があるという、さりげない機能美を追求してデザインしました。ある程度逸脱しすぎないなかで、効果があるものを宮原が作ったということです。

石川氏
 R6、R7と続いてきて、消費電力が大きいというのはひとつの課題でした。CPUもカメラの熱もなんとかしたいということでアイデアを出しました。

――これからの時期は熱でスマートフォンが止まってしまったり……ということがありますが、この仕組みでどれくらい変わるものなんでしょうか?

平嶋氏
 撮影では2倍の長さ、ゲームでも3倍以上の長さで楽しんでいただけるようになっています。あとは炎天下でどれくらい動作するかというところですね。

宮原氏
 夏場の環境での試験じゃないと意味がないということで、気温35度の環境を作ってその中で評価を行いました。

石川氏
 熱中症になりかけたのは……?

宮原氏
 それ別の人ですね。

――気をつけてください……。この結果どれくらい炎天下に耐えられるようになったのでしょうか?

宮原氏
 どういった環境で使われるかの推測が難しいです。想定する夏場の環境は35度ですが、この環境であれば、AQUOS R8 proは止まることなく録画し続けられます。

花火・星空モード、進化したカメラのソフトウェア

――カメラのモジュール自体はAQUOS R7と同じということですが、ソフトウェア部分は大きく変わったようですね。

内田氏
 お客様に「簡単に良い写真を撮って欲しい」という想いがありました。それを実現したのがスペクトルセンサーです。色味をきれいにしたというところと「花火モード」「星空モード」を搭載して、簡単に星空や花火を撮影できるようにしました。それにペットは動きが早いので、捉えるのが難しいということで「ペットモード」の追尾性を向上させました。

 お客様のSNSを拝見して「こういうふうに使ってくれているんだ」と感じるところがあり、今回新たに花火と星空のモードを搭載しました。あとは、処理速度も改善しました。「撮影までの時間が長い」という声を頂いていたので、HDRの処理速度やポートレートモード、HDR、美肌補正も今回のチップセットに合わせて処理速度向上やアルゴリズム変更しており、かなり頑張ったところです。

――各モードの仕組みはどうなっているのでしょうか? ソフトウェア的な裏側を教えてください

内田氏
 チップセットの進化が大きいです。顔認識をして次に追いかけるというこの処理をちょっと変えました。これまでは、ハードからソフトに渡して、ソフトの中でまたいろいろなものに渡していたんですが、ハードから画像をもらいその1段階目で追尾させることで、

平嶋氏
 スマートフォンの画像処理は結構複雑で、ハードからの情報をどこで処理するかで結構変わってくるのですが……。アプリ層の中で画像をソフトにわたす部分が複数工程あるのが普通で、そのあとでHDR処理を行うことになります。今、ご説明したようにハードから来た画像を一番最初のステップで処理することで、高速化につなげました。

内田氏
 センサー側では処理せず、AI処理の工程を早くして被写体の追尾を高速化しました。チップセットでの関係としては、検出回数を増加させました。宮原とバトルになったりもしましたが……。

宮原氏
 検出回数が増えると発熱も増えますから……。「お客様の求めるものはこうだ」ということでやりあいましたが、最終的には合意に至りました。

――花火モードでは何か特徴的なことはあるのでしょうか?

内田氏
 花火モードでは、これまで花火を検出してから花火モードにしていましたが、これでは間に合いませんでした。そのため、花火モードをあえて設定しました。合成処理してしまうとおかしくなるのでそれをやめ、色味の計算、フォーカスの計算も固定することでシャッターを切るまでのスピードを高速化しました。シャッタースピード自体は環境にもよりますが、最長で1/30秒でホワイトバランスは屋外モードで、フォーカスは打ち上げ花火を想定しているので、無限遠になります。

――花火モードでぜんぜん違うものを撮っても大丈夫ですか?

内田氏
 撮影できますが画質は担保できないです。

石川氏
 花火モードも、お客様の方が新しい発見をしてくれたり、我々の想定していない使い方があるかもしれません。私も星空モードでホタルを撮れないかと思い、試してみたことがあります。ナイトモードでも難しくマニュアルでどうにか、というとことですが星空モードでそこそこ良い写真が撮れました。

星空モードで撮影したホタルを見る一同。

――星空モードでどうしてホタルまで撮れてしまうんでしょう?

内田氏
 星空モードは本当は手持ち撮影にしたかったんですが、それでは画質が担保できなかったので三脚で固定するモードとしています。これにより、通常のナイトモードよりも露光時間を長く取れるのでホタルの光の軌跡を表せるということです。

――(法林)夏休みに家族でお出かけしてこういう写真が取れるという提案ができるのはいいですね

内田氏
 SNSを見たら、AQUOS R7で星空を撮影している方がいて、我々も撮影できるものなんだとびっくりしました。それで多くの人に体験してもらえれば、ということで今回星空モードを搭載しました。

――AQUOS R8でも同じように撮影できるんでしょうか?

内田氏
 画質としてはAQUOS R8 proのほうが良いかと思います。しかし、AQUOS R8のお客様にも同じように体験してほしいということで花火モード・星空モードを搭載しました。

活用の余地はまだある

――AQUOS R8 proの1インチセンサーは前モデルから変わりなく、同じものを搭載したとのことですが、そこを変えようというお話はなかったんでしょうか?

平嶋氏
 まだ1インチセンサーを活用する余地は残っていると思います。色合いが環境に左右されないようにどうするかなど、1インチセンサーの良さをもっと身近に感じてもらって「何も考えずに撮れる」というようにするには、もう少しこのデバイスの潜在能力を引き出せるんじゃないか、というところでもう少しやってみたいと思っていました。

 センサーを変えることの検討はしていました。ただ結局、ベストはこれだよねということになりました。

――スペクトルセンサーを搭載されましたが、AQUOS R7から変わった点はありますか?

内田氏
 屋内で木目を撮影すると暖色系の照明と勘違いして青みをかけてしまうというのが今のオートホワイトバランスの仕組みなんですが、それを光の波長の波形と画像を組み合わせるとちゃんと木の色だと認識させて、色を戻してあげるということができるようになります。

 今までにない仕組みだったので、どう組み込んでいけばいいのかというところから始めなくてはいけませんでした。他社さんで使っている例もありますが、認識できる色のCh数が少ないんです。仕組み自体はあるものの、14Chを組み込むというのは苦労しました。

 他社さんでも使われていないセンサーを使ったため、仕組みがないなかで光源推定エンジンに渡して色計算のエンジンに渡してというあたりが苦労しました。

平嶋氏
 これらの仕組みはシャープの自前です。

――そう考えると14Chというのはだいぶ無茶したんですね。

内田氏
 正直「最初からあるものを使ってくれ!」とも思いましたが……。

平嶋氏
 2023年だけを考えているわけではなくて、長期的なスパンを見て、どれくらいのものを必要か。今あるものを使って来年それが本当に(市場の要求に)叶うものか? というとそうではない。そういうことを考えて、弊社のAI開発チームが内田に言ってくれたのかなと。

――スペクトルセンサーを得た色情報をカメラ以外で活用することは考えていますか?

内田氏
 検討段階ではそういう話もありましたが、今回はカメラでの利用のみとしました。今後、使える機会を増やせたらいいな、とは思っています。

――(法林)良い端末でとてもご苦労されたんだなと思います。ただ、ポートレートがちょっと遅いかなと。写りは良いですが。

平嶋氏
 ポートレートは、AQUOS R7のころから(時間が)かかるよねとは思っていました。あとはどれだけロジックなどを効率化して処理を高速化できるかということになります。ちょっと話はずれますが、以前ご指摘のあった画面内指紋センサーのガラスフィルムも完成しました。

石川氏
 もしかしたらこれが皆さんに一番喜ばれるかもしれませんね。

平嶋氏
 超音波式のセンサーは、接着剤などで反射が変わってしまうということですがシャープだけではできないということで、クアルコム、ディーフ、シャープの3社プロジェクトとして、正直かなり手を入れてつくったフィルムです。


AQUOS R8のカメラやライカとのエピソード

――AQUOS R8のカメラについてです。デザインはよく似ていますが超広角カメラとメインカメラという組み合わせです。Proモデルとの組み合わせの違いにはどんな考えがありますか?

平嶋氏
 1点目はセンターカメラレイアウトです。カメラとして構えたときに被写体と直線上に並ぶようにと共通性を持たせています。2点目にカメラの選択ですが「気軽にサクサク」撮ってもらえることを目指したときにどれが最適化という観点で選びました。

 私自身、自分の子どもを撮ることが多くて、その時は子どもを追いかけるのに必死で「こういうモードで、こうして」と考えている暇がないので、気軽にガシガシ撮ってキレイに残したいという考えがありました。「全面位相差AF」に対応しているのは、そういう意味でかなり重要なポイントです。

 明るさの部分でも、1/1.55インチセンサーはハイエンドモデルの中ではスタンダードな機能ですから、期待にも応えられると思います。「ガシガシ使うために」このカメラ構成にしたということです。

――アルゴリズムやソフトウェアは2モデル共通なんですね。R8のほうはコンセプトにあわせてサッと撮れるような機能はないのでしょうか?

内田氏
 AQUOS R8だけに入れているものとしては、超広角と広角というカメラですので、切り替えがスムーズなように少し変更している部分があります。ソフト面ではありませんがAQUOS R8 proはセンサーサイズが大きいのでボケやすく、AQUOS R8は被写界深度が深いためボケにくく使いやすいのかなとも思います。

石川氏
 ソフトウェアのベースは一緒ですが、個別の調整はしてあります。

――レンズについているブランドも違いますね。

平嶋氏
 Hektorレンズは、ライカの小型カメラに由来するもので、このカメラに名付けるなら「Hektorが最適だよ」と(ライカに)言っていただいたので、モデルの特性に合わせて名付けました。

石川氏
 「クラシックライカ」と呼ばれるモデルに使われていた名称で発表当初は「マニアックなレンズをつけてきたな」という声も一部ありましたね。

平嶋氏
 気軽に扱えるカメラのブランドということで、AQUOS R8と同じくガシガシ使っていけるというコンセプトが一緒なので、ライカさんにも(我々の意図を)汲んでいただけたのかなと。

――ライカさんとのエピソードでなにか面白いものはありますか?

内田氏
 毎年言われるのは「色味が理想的じゃない」だとか、HDR処理の合成ズレなどです。ある写真の一部分をズームして「ここがダメ(ズレている)です」とか……。

石川氏
 3ドットくらいの、ほとんど解像感がないようなところの「ここ!」とか。

平嶋氏
 良い意味でノウハウを吸収させてもらっています。客観的に厳しく見ていただいているからこそ、お客様の期待に応えられる調整ができているのかなと思っているので、協業の意味を見いだせています。我々もスマホメーカーであってカメラメーカーではないので、協業できてよかったなと。血反吐は吐いてるんですが(笑)。

内田氏
 「こんなところ……! ……いいのに、いや(逃げちゃ)ダメだ!」と思うこともありました(笑)。

――AQUOS R6で協業を開始して数年経ちますが、それでもまだ指摘はあるんですね

平嶋氏
 全く同じチップセットやセンサーで3世代作り続けられるなら……。しかし、技術進化は止まりません。クアルコムのロジックやチップセットのスペック、スペクトルセンサーの変数など、いろいろあると……。誤解を恐れずに言えば、8割の状態には持っていけますが、最後の2割を追い込むのが大変です。

今後の展開は?

――大きさはどちらのモデルも同じくらいですね。

平嶋氏
 動画を見る機会が圧倒的に多くなっています。そのときにどうかと考えると動画を楽しんでいただくにはこれくらいのサイズのほうがいいのかなと、悩みながら設定したところではあります。「じゃあコンパクトモデル出したらどうか」ということにもなりますが……。我々もAQUOS R2まではコンパクトモデルを出していましたが。

石川氏
 私が開発時代の機種です。

――(法林)大きさは国・地域でも変わるので難しいですね。形がうまく最近の貴社のまとめ方にならっているので、この路線を続ければAQUOS senseシリーズのステップアップモデルとして良いところになるかなと。

平嶋氏
 スマートフォンの使い方が高度化していることから「良いものを」となるのかなと。逆にこのままで良いという方にもAQUOS senseシリーズがあります。シャープとしては「面」で応えられるようにラインアップしているのは我々の強みでもあります。

 年ごと、シーズンごとに見直してもいますがこういう路線はずっと続けていきたいです。「未来永劫これでいきます!」というのもかっこいいですが、お客様の使い方は変わります。それにあわせて適宜見直していくのは愚直ですが、PDCAを回していくのは重要なことかと思っています。

――本日はありがとうございました。