法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

証券サービス連携で金融強化を図るNTTドコモ・au・ソフトバンク、各社の戦略を考える
2025年8月8日 00:00
契約数やARPUから「経済圏」の拡大へ競争の場を移しつつある各携帯電話会社。クレジットカードや銀行、保険などに加え、証券サービスでも各社の動きが活発になりつつある。
今回はNTTドコモ、au、ソフトバンクの証券サービスの連携や取り組みを振り返りながら、各社の方向性について、考えてみよう。
金融サービスの拡充で楽天グループを追う三社
NTTドコモの住信SBIネット銀行買収をはじめ、各携帯電話会社の金融サービスに注力する動きが活発になっている。
これまで各携帯電話会社は、回線契約の獲得やARPUの向上、光回線などの固定回線の拡大などで激しい競争をくり広げてきたが、ここ数年は「経済圏」の拡大へ競争の場を移しつつある。各社が発行するポイントサービスの拡充やクレジットカードの利用拡大、銀行や保険、証券などの金融サービスの強化を図っている。
各社のこうした動きの背景には、一般的に回線契約の獲得やARPU増が頭打ちで、契約の維持(リテンション)に欠かせないとされているが、「経済圏」競争を拡大していくうえで、2020年に携帯電話サービスを開始した楽天グループと楽天モバイルの存在が挙げられる。
楽天モバイルは携帯電話サービスは最後発であるものの、国内最大級のECサイト「楽天市場」をはじめ、国内トップの発行数を持つ「楽天カード」、ネット銀行では最大口座数の「楽天銀行」、SBI証券と並ぶ二強と言われる「楽天証券」などをグループ内に抱え、「経済圏」競争ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに一歩先んじている。
今後、主要三社が「経済圏」を拡大していくには、楽天グループに対抗し、クレジットカードや銀行、保険、証券などのサービスを拡充する必要があるわけだ。
こうした携帯電話サービス以外の競争軸は、クレジットカード、銀行、保険、証券など、それぞれジャンルごとに各社が取り組んできたが、新NISAがスタートした今年は、証券サービスの取り組みが活発になりつつある。ここでは各社の取り組みと思惑について、振り替えてみよう。
「かんたん資産運用」で「投資未経験」への普及を目指すNTTドコモ
2023年10月にマネックスグループと資本業務提携を結び、マネックス証券を傘下に収めたNTTドコモは、2024年1月から本格的な業務提携をスタートさせている。
当初はオウンドメディア(自社メディア)での連携や口座開設キャンペーンなどを実施していたが、昨年7月頃からdポイントによる還元を軸に、通信と証券を連携したサービスを提供しはじめている。
まず、昨年7月からはdカードでの投資信託積立が可能な「dカードのクレカ積立」の提供を開始し、積立金額に応じて、最大5%のdポイントを還元するキャンペーンを実施。
続く同年8月には、これをベースにしたNTTドコモの料金プラン「eximoポイ活」の提供を開始している。
今年6月から提供を開始した新料金プランでも「ドコモ ポイ活MAX」と「ドコモ ポイ活20」をラインアップし、2024年4月から提供する「ahamo ポイ活オプション」と共に、マネックス証券での積立金額に応じて、dポイントの還元率を高めている。
そして、7月31日からは[d払い]アプリを使い、マネックス証券の口座開設と資産運用を簡単にはじめられる「かんたん資産運用」をスタートさせている。
詳細は本誌記事でも解説されているので、そちらを合わせて参照していただきたいが、NTTドコモのユーザーの多くが普段から決済に利用している[d払い]アプリに、「かんたん資産運用」のメニューを用意し、手順を簡素化することで、わずか数分で証券口座を開設できるようにしている。
実際の投資についてもいくつかの投資信託を組み合わせた「ビギナーセット」、「スタンダードセット」、「アクティブセット」の3つのセットを用意し、投資がまったく未経験のユーザーでも気軽にはじめられるように、配慮している。
これらのNTTドコモとマネックス証券による取り組みは、NTTドコモの強みであるdポイント、dカード、d払いを軸にしながら、マネックス証券での口座開設を促し、投資をはじめるユーザーを増やしたいという方針だ。
資金的な余裕がないユーザーでも貯めたdポイントで投資信託を購入できるようにするなどの配慮もうかがえる。
ただし、今のところ、マネックス証券でdポイントで購入できるのは投資信託のみで、株式の購入はできない。少額や少ないポイントでも購入できる単元未満株式の取引サービス(単位株が100株の銘柄でも1株から購入できるサービス)も提供されていない。
ちなみに、dポイントが利用できる単元未満株式の取引サービスとしては、2020年3月からSMBC日興証券の「日興フロッギー+docomo」、2022年2月から大和証券グループの「CONNECT」の「ひな株」でそれぞれ提供されており、NTTドコモとマネックス証券としては、これらのサービスに対し、どのように整合性を取っていくのかも注目される。
KDDIは全方位に切り替え、まずはSBI証券との提携
マネックス証券を傘下に収め、証券サービスとの連携を強めているNTTドコモに対し、対照的な動きを見せたのがKDDIだ。
KDDIは2008年に三菱東京UFJ銀行(現在の三菱UFJ銀行)と共に、じぶん銀行(現在のauじぶん銀行)を設立し、携帯電話会社としてはいち早く金融サービスに参入。
2019年4月にはKDDIグループの決済や金融サービスを統括するauフィナンシャルホールディングスを設立し、同年6月に三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、三菱UFJ FG)傘下のカブドットコム証券(現在の三菱UFJ eスマート証券)の株式をTOB(株式公開買い付け)によって傘下に収め、名称も「auカブコム証券」に変更した。
当時、KDDIとしては、銀行やクレジットカードに、証券サービスを加えることで、auのユーザーに対して、広く金融サービスを提供し、企業としての成長を目指す戦略を持っていた。
auカブコム証券スタート後も「auで株式割」やauじぶん銀行との「マネーコネクト」などを提供。2023年9月に開始した料金プラン「auマネ活プラン」、2024年11月に開始した後継プランの「auマネ活プラン+」では、au PAYカードの利用だけでなく、auカブコム証券での「クレカ積立」で最大3%のPontaポイントを還元する施策を打ち出していた。
ところが、2024年11月、KDDIは三菱UFJ FGとの協業の見直しを発表。auカブコム証券を三菱銀行に売却し、auじぶん銀行をKDDIの完全子会社化した。三菱UFJ FGと共同で運営してきた2つの会社をそれぞれが保有し直す方針を打ち出したことになる。
2025年1月から新NISAが開始するタイミングでの証券サービスの売却は、やや不可解な印象もあったが、KDDIとしては証券サービスとの関わりを見直し、全方位で各証券会社と連携する方針に切り替えたわけだ。
三菱UFJ FGは三菱UFJ銀行とau IDを連携させることで、Pontaポイントを付与する「メインバンク プラス ポイントサービス」を提供しているが、その一方でNTTドコモとも「dスマートバンク」という名称で、同様のサービスを提供しており、特定の携帯電話会社との連携に限らない姿勢を見せていた。
ちなみに、三菱UFJ FGが今年6月に発表した新しい総合的な金融サービス「エムット」では、独自のポイントサービス「エムットポイント」を発行し、貯まったポイントを外部提携先と交換できる予定であることを明らかにしている。
つまり、三菱UFJ FGとしてもKDDI同様、全方位で他社のさまざまなサービスと連携していく方針を目指したわけだ。
こうした流れを受け、今回、発表されたのがauフィナンシャルグループとSBI証券の業務提携だ。具体的には、auじぶん銀行経由でSBI証券の口座が開設できるようになり、SBI証券とauじぶん銀行の間でリアルタイム口座振替も可能にし、円普通預金の金利優遇も提供する。
これらのうち、リアルタイム口座振替は三菱UFJ eスマート証券で提供されている「マネーコネクト」と同様のものになる。
SBI証券については、今年5月、親会社のSBIホールディングスがNTTとの資本業務提携を結び、NTTからの出資を受けていることから、今回のauフィナンシャルグループとの提携が不自然に感じられるかもしれない。
だが、SBI証券はポイントサービスを利用した投資についてもdポイント、Pontaポイント、Vポイント、PayPayポイント、JALマイルに対応した「マルチポイントサービス」を提供しており、こちらも言わば、「全方位」でサービスを展開しているため、自然な流れという見方もできる。
KDDIによれば、今のところ、SBI証券以外の証券会社との提携は決まっていないが、基本的には条件の合う証券会社と提携し、口座開設やポイント投資なども検討していくとしている。
携帯電話会社と違い、証券業界は非常に多くの証券会社が存在しており、すでにそれぞれのユーザーがいずれかの証券会社で口座を保有していることから、より多くの証券会社と連携できるようにすることで、幅広いユーザー(顧客)のニーズに応えていきたい方針だという。
NTTドコモがマネックス証券に注力する方針とは対照的な姿勢だが、どこまで証券会社との連携を広められるかが注目される。
PayPayにPayPay証券サービス融合を進めるソフトバンク
Yahoo!、LINE、PayPayなど、さまざまなブランドを抱えるソフトバンクは、金融サービスについては「PayPay」が持つブランド力を活かしながら、事業を展開する体制を整えつつある。
ソフトバンクは元々、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)との関わりが多く、直近でもソフトバンクとOpenAIによる大企業向けAI「Cristal(クリスタル)」を金融業界として、みずほFGがはじめて導入するなど、積極的な提携が目を引く。
現在のPayPay証券も元々は2016年と2017年にみずほ証券と共に出資した「One Tap Buy」がはじまりになる。
One Tap Buyはスマートフォンに特化したネット証券で、米国株を1000円単位で24時間365日、取引できるなど、他のネット証券には見られない特長を持つ証券サービスとして、支持を拡げた。
2016年にソフトバンクの持ち分法適用会社になり、2021年2月には称号を「PayPay証券」に改め、現在はPayPay傘下の証券会社として、事業を展開している。
一方、PayPay証券とは別に、ソフトバンクは[PayPay]アプリ内で、保有するPayPayポイントを疑似的に運用を体験できる「ポイント運用」(当初は「ボーナス運用」)というサービスを2020年4月から提供してきた。
「ポイント運用」はPayPayと傘下のPPSCインベストメントサービスが提供するもので、PayPayの利用で付与されたPayPayポイントを増やせるサービスとして、急速に人気を集めた。
サービスを開始した2020年当時は、まだ日経平均が2万円以下の状況で、社会的にもコロナ禍からの回復を目指す時期だったが、当時、サービスを利用し始めたユーザーは、景況感の回復とも相まって、わずか1~2年程度で、2倍以上の運用益を上げることもあったとされる。
PayPayポイントを運用するためのコースも徐々に追加され、現在は指標と連動する「スタンダードコース」、「テクノロジーコース」、より大きな運用益を狙う「チャレンジコース」、「テクノロジーチャレンジコース」、暗号資産と連動する「ビットコインコース」、「イーサリアムコース」など、計10種類のコースに投資できるようになっている。
投資するコースが充実し、利用者も拡大した「ポイント運用」だが、[PayPay]アプリ内のメニューとして提供されているため、PayPay証券のアプリとは連動しておらず、証券口座の開設やポイント投資などの導線もなく、実質的にそれぞれのアプリを使い分ける状態が続いていた。
こうした状況に対し、一昨年あたりから[PayPay]アプリに[PayPay証券]のメニューである[資産運用/NISA]が追加され、現在は[PayPay]アプリ内で「ポイント運用」と証券サービスのどちらも利用できる環境を整えている。
PayPayポイントで疑似的に運用を体験できる「ポイント運用」の手軽さを活かしながら、PayPay証券の多彩な投資メニューも提供することで、証券口座の開設や証券サービスを利用するユーザーの拡大に結びつけたい構えだ。
対する楽天モバイルは?
ここまでNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの証券サービスを中心とした金融サービスへの取り組みを見てきたが、主要三社がこうした取り組みを進めてきた背景には、冒頭でも触れたように、楽天モバイルと楽天グループの存在がある。
各社が「経済圏」競争を展開する中で、携帯電話サービス以外の事業をほとんど揃える楽天グループは、否が応でも対抗していく必要があった。
では、楽天モバイルと楽天グループ自身はどうだろうか。楽天モバイルがサービスを開始するとき、携帯電話サービス参入は最後発だが、楽天グループ内の楽天市場や楽天トラベル、楽天カード、楽天銀行、楽天証券などのリソースを最大限に活かすことができれば、主要三社に対抗できる可能性があることを本コラムでも触れた。
しかし、実際には楽天モバイルと楽天グループ内の各社の連携はなかなか思うように進まなかった印象が強い。
楽天モバイルの契約ユーザーが楽天市場などのサービスを利用したとき、付与される楽天ポイントの倍率が増えるというメリットは、よく知られているが、楽天グループ内の各社で楽天モバイルの契約を促したり、楽天グループ内の各サービスで特典を受けられるような施策はほとんど見られなかった。
ようやく昨年あたりから、楽天銀行や楽天証券の口座開設で楽天ポイントを付与するなど、グループ各社で連携するキャンペーンや特典が実施されたが、それでも楽天モバイルのサービス開始当初に予想していた範囲(期待)から考えると、主要三社が脅威に感じるほどのインパクトは残せていない。
楽天モバイルとしては、1000万回線突破を目前に控えているとされるが、今後、契約数を伸ばしていくには、もう一度、グループ内のリソースの活かし方を見直す必要があるだろう。
「貯蓄から投資へ」を後押しできるか?
契約数やARPUによって評価されてきた各携帯電話会社だが、ここ数年は本誌の各記事でも触れられているように、ポイントサービスを起点とした「経済圏」の拡大競争が顕著だ。
なかでもクレジットカードや銀行、証券などの金融サービスは、スマートフォンや携帯電話が生活や仕事に欠かせない存在であるがゆえに、非常に重要な競争軸になりつつある。
ただ、各社が同じような取り組みを進めているかというと、本稿でも触れたように、少しずつ方向性の違いが見えている。
我々ユーザーとしても各社の発表内容や背景などをしっかりと確認しながら、どの「経済圏」を中心に据えていくのかを見極める必要がありそうだ。















