法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「Zenfone 12 Ultra」、AIでカメラやユーザビリティを進化させる一台

 パソコンやPCパーツ、スマートフォンなどを展開するASUSからフラッグシップモデル「Zenfone 12 Ultra」が発売された。今年3月28日に発売されたゲーミングスマートフォン「ROG Phone 9」シリーズに続く、ハイスペックモデルだ。筆者も実機を試用することができたので、レポートをお送りしよう。

フラッグシップモデルの方向性

 半導体や物流、人件費など、さまざまなコスト増により、物価高が続いているが、スマートフォンも価格が高騰する傾向が続いている。なかでも各社のフラッグシップモデルは、高価格化が顕著で、今や20万円前後以上の価格を付けるモデルも少なくない。

 こうした状況に対し、各携帯電話会社では端末購入サポートプログラムを提供し、少しでもユーザーの負担を減らそうとしているが、端末購入サポートプログラムでの購入は、通常、2年後に端末を返却して、次の製品を買うか、分割払いを継続するかを考えなければならないという制約もある。

 そんななか、パソコンなどでもおなじみのASUSからスマートフォンのフラッグシップモデル「Zenfone 12 Ultra」が発売された。2025年モデルの最高峰チップセットとされる米Qualcomm製「Snapdragon 8 Elite」を搭載しながら、約15万円前後という価格を実現したモデルになる。

 従来の「Zenfone」シリーズはコンパクトなモデルを中心に展開し、支持を拡げてきたが、2024年の「Zenfone 11」シリーズからは大画面ディスプレイを搭載した「Zenfone 11 Ultra」を主力に据え、「ROG Phone」シリーズとのプラットフォームの共通化を図りながら、それぞれの方向性をしっかりと見出した強力なラインアップを展開している。

 スマートフォンに何を求めるかは人それぞれで、各社のモデルの方向性もさまざまだが、「Zenfone 12 Ultra」はトップクラスのパフォーマンスを追求しながら、高品質なカメラや優れたユーザビリティ、そして、現在のスマートフォンに欠かせないAIを活かした機能をバランス良く充実させたフラッグシップモデルとして、仕上げられている。

 販売については、ASUS Storeをはじめ、各社ECサイトや家電量販店でも取り扱われる。価格は別表の通り。

モデル価格
RAM 12GB/ROM 256GB14万9800円
RAM 16GB/ROM 512GB16万9800円

手にフィットするナチュラルなデザイン

 外観から順にチェックしてみよう。ボディは幅77.0mmの大画面ディスプレイ搭載モデルの標準的なサイズにまとめられ、背面もマットでサラッとした手触りの仕上げとなっている。指紋や手の跡が残りにくく、きれいに使うことができる。

ASUS「Zenfone 12 Ultra」、サイズ:163.8mm(高さ)×77.0mm(幅)×8.9mm(厚さ)、220g(重さ)、カラー:セージグリーン(写真)、エボニーブラック、サクラホワイト

 前述のように、「Zenfone 12 Ultra」はすでに発売されている「ROG Phone 9」シリーズと事実上の『兄弟モデル』のため、ボディサイズなどはほぼ同じだが、「ROG Phone 9」シリーズのストライプをあしらった背面仕上げやLEDで演出する「AniMe Vision」などもなく、非常にスッキリとしたナチュラルなデザインとなっている。背面のカメラ部も若干、デザインが異なり、「ROG Phone 9」シリーズのカメラ部のような切り欠きもない。

左側面のボタン類や端子は備えられていない。カメラ部の突起は約3mm
右側面には中央付近に電源キー、上部側にシーソー式の音量キーを備える
背面はすっきりとしたデザイン。マットな仕上げにより、指紋や手の跡が付きにくい

 耐環境性能はIPX5/IPX8の防水、IP6Xの防塵に対応する。防水防塵は国内向けモデルで必須とされているが、昨今の急変する気象状況などを鑑みれば、やはり、安心して利用するうえで、欠かせない仕様であることに変わりない。

バッテリーはデュアルセルシステムを採用

 「Zenfone 12 Ultra」の他製品と違った特長は、「デュアルセルシステム」を採用したバッテリーだ。「Zenfone 12 Ultra」のスペック表には「5500mAh相当」と表記されているが、これは2750mAhのバッテリーセルを2つ搭載することにより、充電時の発熱を分散しながら、効率良く充電できるという特長を持つ。

本体下部は左側面寄り(写真内右側)にUSB Type-C外部接続端子、中央付近にピンで取り出すタイプのSIMカードスロット、右側面寄り(写真内左側)に3.5mm径のヘッドホンジャックを備える

 同様のシステムは「ROG Phone 9」シリーズにも採用されており、ゲーミングユーザーからも評価を得ている。充電はQC5.0/USB PD3.0対応の最大65Wの急速充電が可能だが、パッケージにはACアダプターが同梱されない。Qi規格準拠の最大15Wワイヤレス充電にも対応する。

 充電にも利用する外部接続端子はUSB Type-Cを採用するが、位置は本体下部中央ではなく、左側面寄りにオフセットした位置に備えられる。「ROG Phone 9」シリーズに採用されていた左側面の「サイドマウントコネクター」は備えられていない。

 バッテリーや充電の設定については、[設定]アプリの[バッテリー]で設定できる。たとえば、システムモードでは「高性能」や「ダイナミック」、「省電力」などを選ぶことができ、「高性能」ではゲームなど、スペックの要求が高いアプリを利用するのに適した設定に切り替えられる。「バッテリーケア」ではバッテリーの充電能力を確認できるほか、バッテリー性能の劣化を防ぐため、発熱やエネルギー消費を抑えられる[低速充電]を設定したり、最大充電容量を90%や80%に制限する[充電制限の選択]も選択できる。

6.78インチAMOLEDディスプレイ搭載

 ディスプレイはフルHD+(2400×1080ドット表示)対応の6.78インチSAMSUNG製E6 Flexible AMOLED(有機EL)を搭載し、ガラスはキズが付きにくいCorning Gorilla Glass Victus 2を採用する。リフレッシュレートは1~120Hzの可変で利用できるほか、ゲームプレイ中は144Hzに設定することができる。出荷時には追加の保護フィルムなどが貼付されていないが、ASUS Storeで専用の「抗菌強化ガラススクリーンプロテクター」(3480円)が販売されている。

パッケージには本体のほかに、USB Type-Cケーブル、クリアタイプのカバーが同梱される。カバーはゲームなどの利用を考慮してか、両側面が保護されないタイプなので、落下などには注意したい

 ディスプレイの輝度は非常に高く、最大輝度で1600nits、HBM輝度で2500nitsとなっている。画面表示は「夜間モード」や「目の保護モード」などが設定でき、スタンバイ時に時計やテキストを表示する「Always-in Panel」も設定できる。時計スタイルも複数から選べるが、「Always-in Panel」を有効にできる時間帯を指定したり、タップ時に表示するように設定できるので、就寝中、枕元に置いても気にならない。

 生体認証はディスプレイ内の光学式指紋センサーによる指紋認証、インカメラによる顔認証に対応する。指紋センサーはディスプレイのやや下寄りに内蔵されており、片手持ちのときは端末のバランスを崩さないように注意したい。ちょっと変わっているのは、指紋認証を端末のスリープ解除に利用しない設定も選べることだ。

 つまり、画面ロックはPINやパスワードなどで解除し、指紋認証はサイトへのログインやアプリの起動などの認証のみに使うわけだ。通常はロック解除に利用するだろうが、ビジネスユースなど、よりセキュアに使いたい環境では、こうした設定も選べる。顔認証についてはスペック表に表記がないものの、マスク装着でもロック解除をすることができた。

2025年モデルの最高峰「米Qualcomm製Snapdragon 8 Elite」を搭載

 チップセットは冒頭でも触れたように、2025年モデルの最高峰に位置付けられる米Qualcomm製Snapdragon 8 Eliteを採用する。他メーカーでもフラッグシップに搭載されているが、AIやゲームなどの環境でも最高のパフォーマンスを目指すチョイスだ。

ホーム画面から上方向にスワイプすると、アプリ一覧が表示される。最上段には最近起動したアプリが表示される。アプリ一覧内でフォルダーを作成することはできないため、アプリが増えてくると、縦のスクロールが長くなる
[設定]アプリの[拡張機能]-[スマートキー]で、[ダブルタップ]を有効にすると、電源キーの二連打で、特定のアプリを起動できる。各社のコード決済アプリなどを登録しておくと便利だ
[設定]アプリの[拡張機能]-[ジェスチャー操作]ではジェスチャーによる操作の設定が可能

 メモリーとストレージはRAM 12GB/ROM 256GBとRAM 16GB/ROM 512GBの2モデルが用意される。ゲームアプリやAI機能を含め、「Zenfone 12 Ultra」で想定されている通常の用途であれば、256GBモデルでもまったく不足を感じないが、より多くのアプリ、大容量のアプリを利用したり、AIを利用した機能をさらに快適に活用したいのであれば、2万円の予算を追加して、512GBモデルを狙うのも手だ。

 ネットワークは5G NR/4G LTE(TD-LTE/FDD-LTE)/3G W-CDMA/2G GSMに対応する。5Gについては国内各携帯電話会社のSub6に対応する。ミリ波には対応しないが、海外メーカー製端末でサポートされないことが多いNTTドコモの5Gに割り当てられた「n79」にも対応する。MVNOにはNTTドコモ網を利用したサービスが多いが、これらのサービスでも安心して利用できる。

 今年の春頃からGSMの電波を発する違法な『偽基地局』が話題になり、その対策のひとつとして、端末側で2G(GSM)をオフにする方法が紹介されたが、「Zenfone 12 Ultra」も[設定]アプリ内の[SIM]のメニュー内に、[2Gを許可]という項目があり、これをオフにすることで対策ができる。

 SIMカードは2枚のnanoSIMカードとeSIMをサポートする。ただし、有効にできるのは2回線分で、2枚目のnanoSIMカードはeSIMとの排他利用になる。ユーザーの利用状況に合わせ、どちらの環境でも利用できるメリットは大きい。

SIMカードトレイには表裏に1枚ずつ、合計2枚のnanoSIMカードを装着可能。ただし、eSIMを利用する場合は、2枚目のnanoSIMカード(SIMカードトレイ裏側)は排他利用になる

 Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/n/ac/ax/be(2.4GHz/5GHz/6GHz)に対応する。ASUSはWi-Fi 7対応のWi-Fiルーターやメッシュ対応Wi-Fiも販売しており、実績面での安心感もある。BluetoothはBluetooth 5.4対応で、Qualcomm aptX Adaptive、aptX Losslessでの高音質な再生も可能だ。衛星による位置情報の測位は、米GPS、露GLONASS、中国BeiDou、欧州Galileo、日本QZSS(みちびき)、印NavICをサポートする。FeliCaも搭載し、おサイフケータイにも対応するほか、マイナンバーカードを登録する「スマホ用電子証明書」にも対応済みとなっている。

Android 15を搭載

 プラットフォームはAndroid 15がプリインストールされ、日本語入力はAndroidプラットフォーム標準の「Gboard」が搭載される。発売時のOSのバージョンアップやセキュリティパッチの提供期間が明示されていなかったが、その後、ASUSの「ZENBLOG」で明らかにされ、「Zenfone 12 Ultra」はOSのメジャーアップデートを2回実施する予定で、セキュリティパッチの更新は2030年まで実施される予定となっている。

シンプルな構成のホーム画面。最下段のDockは固定で、4つのアプリアイコンが表示されるが、グリッドサイズを変更すれば、5つ表示することも可能
画面右半分から下方向にスワイプすると、クイック設定パネルが表示される。左半分は通知が表示される。クイック設定パネルのアイコンは並べ替えなどの編集が可能だが、サイズの変更はできない

 最近、各端末のOSバージョンアップとセキュリティパッチのサポート期間は、端末メーカー間で『長期化競争』がくり広げられており、それらに比べると、「Zenfone 12 Ultra」はやや遅れを取る形になる。ユーザーとしては長く安心して利用できることは望ましいものの、数年間に渡り、OSを何度もバージョンアップしたとき、十分なパフォーマンスを確保できるのかは微妙という指摘もある。そういう意味では「Zenfone 12 Ultra」が掲げる2回のバージョンアップ、5年間のセキュリティパッチ配布というスタンスは、ある意味、現実的な提案と言えるのかもしれない。

 AI機能については、文章や記事などを要約できる「AIドキュメント要約」や「AI記事の要約」、音声通話を翻訳できる「AI通話翻訳」、[音声レコーダー]アプリで会話の内容をリアルタイムで文字起こしができる「AI文字起こし」、Googleでおなじみの「かこって検索」、オリジナルの壁紙を生成できる「AI壁紙」などが搭載される。後述するが、カメラにも新たにAI機能が追加されている。

「AI記事の要約」では要約したい記事を表示し、すべてを選択すると、ポップアップが表示される
「Zenfone 12 Ultra」発表時の記事を要約してみた。スペックなどを中心にひと通りの内容がまとめられている

 これらのAI関連の機能は、それぞれのアプリなどから起動できるが、[設定]アプリの[Zenfoneヒント]に[新しいAI機能]という項目が用意されており、ここで説明を確認しながら、それぞれの機能やアプリを利用できる。

[設定]アプリの[Zenfoneヒント]で「新しいAI機能」を選ぶと、利用できるAI機能が表示される。各項目をタップすれば、説明が表示され、各機能のメニューへ遷移できる

 各社共、AI関連の機能の充実させているが、それらの機能がどのように利用できるのかが端末のメニュー内に説明されていないケースも少なくない。[Zenfoneヒント]で実例を確認しつつ、実際の機能のメニューに遷移できるのは、はじめてAI機能を利用するユーザーならずとも便利だ。

新センサーを採用した6軸ジンバルモジュール搭載トリプルカメラ

 カメラについては「ROG Phone 9 Pro」搭載のものと共通仕様となっている。メインカメラはソニー製LYTIA 700(1/1.56インチ)を採用した5000万画素イメージセンサー/F1.9の広角カメラ(23.8mm相当)で、6軸ジンバルモジュールによるブレの少ない静止画や動画を撮影できるほか、ロスレス2倍相当のズームにも対応する。

 背面中央の上部寄りに搭載されているのが1300万画素イメージセンサー/F2.2の超広角カメラ(12.7mm相当)で、最大120度の画角でワイドなシーンでもレンズ歪みを抑えた撮影が可能。超広角カメラの下側に搭載されているのが3200万画素イメージセンサー/F2.4の望遠カメラ(65.3mm相当)で、広角カメラの約3倍に相当する光学ズームで撮影ができる。

背面にはトリプルカメラを搭載。左側がソニー製「LYTIA 700」を採用したメインの広角カメラ。右側には超広角カメラと望遠カメラを備える

 インカメラはディスプレイ上部のパンチホール内に内蔵され、3200万画素イメージセンサー/F2.05(22mm)の仕様で、ピクセルビニング対応により、暗いシーンでも明るく撮影することができる。

 撮影モードは「写真」「動画」「ポートレート」などに加え、新たに「ポートレート動画」や「AIトラッキング」、「AI流し撮り」などが追加されている。ポートレート動画は静止画のポートレート同様、メインの被写体にピントを合わせ、背景をぼかす撮影モードで、夜のシーンなどでは背景の灯りが玉ボケ効果で演出され、印象的な動画が撮影できる。

ポートレートで撮影。[ギャラリー]アプリで表示すれば、背景のボケ具合は自由に調整ができる。モデル:葵木ひな(Instagram:@hina_aoki_officialX(Twitter):@hina1006ta_aoki、所属:ボンボンファミン・プロダクション
街行くタクシーを[AI流し撮り]で撮影。そんなに速く走っているわけではないが、流し撮りの効果で速そうに見える

 「AIトラッキング」は動画撮影時に動く被写体が画面中央に位置するように自動的にトラッキングする撮影モードで、子どもやペットなど、動きのある被写体を撮影するときに役立つ。「AI流し撮り」もユニークな撮影モードで、AIのモーション分析により、メインの被写体にピントを合わせつつ、背景を流す写真が撮影できる。モータースポーツの写真などでもよく見られる撮影方法だが、スマートフォンのみで撮影できるのは、撮る楽しみが拡がる。

 撮影した写真や動画は、これまでのASUS製端末同様、独自の[ギャラリー]アプリで確認や編集ができる。編集にもAIを活かした機能が用意され、[AI消しゴム]や[AIピンボケ補正]が利用できる。Googleフォトと連携する[フォト]アプリもインストールされているため、撮影した写真や動画をGoogleのクラウドにバックアップ(同期)できる。

撮影した写真や動画、スクリーンショットは[ギャラリー]アプリで表示できる。[フォト]アプリを利用すれば、Googleフォトにバックアップすることも可能
[AI消しゴムキット]をはじめ、AI関連の多くの機能は別途、モジュールのダウンロードが必要になることがある。あらかじめWi-Fi環境などで、ひと通りのソフトウェアをダウンロードしておきたい

AIでカメラや使いやすさが強化され、バランスの良さが光るフラッグシップ

 冒頭でも触れたように、各社のスマートフォンのラインアップの中でもフラッグシップに位置付けられるモデルは、価格高騰や機能面の成熟の影響もあり、徐々にその在り方や方向性が微妙になりつつある。

 フラッグシップとして、ハイスペックを追求すれば、自ずと価格は高騰するが、各携帯電話会社での販売に関しては、端末購入サポートプログラムという『魔法』があることで、それを前提にした価格設定が増えているのも事実だ。

 これに対し、今回取り上げた「Zenfone 12 Ultra」は、2025年モデルの最高峰チップセットや高品質な大画面ディスプレイを搭載し、防水防塵やおサイフケータイなどの日本仕様もしっかりとサポートし、AIによるカメラやユーザービリティも強化された端末に仕上げられながら、価格は15~17万円におさえられている。

 市場全体として、スマートフォンの価格が高くなる傾向は否めないが、そんな中でも「Zenfone 12 Ultra」は価格とスペック、機能、ユーザビリティのバランスが非常に良く整ったモデルと言えるだろう。

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