法林岳之・石川温・石野純也・佐藤文彦のスマホ会議(仮)

MWC 2025からメルカリモバイルまで! 3月の通信業界ニュースを識者がまとめてチェック

 通信業界を中心に活躍するライター4人による「スマホ会議(仮)」。今回はバルセロナで開催されたMWC 2025や、日本の通信業界で話題を呼んだニュースについて話し合っていきます。

MWC 2025開催! 注目はクアルコムが提示したApple C1モデムのスペック

佐藤
 MWC 2025には、石川さん、石野さん、関口さんが現地取材に行かれていました。クアルコムが出したApple C1モデムとの比較表が、日本でも話題になりましたね。

Apple C1モデムとの比較表

佐藤

法林氏
 比較表を見て気になった、スペック的にApple C1の劣っている部分はわかるけど、実用的にはどうなのかというところ。これは判断が難しいと思います。僕らからすると、対応する部分が多いほうがいいのは間違いないけど、実用上、そこまで差が出るのかがわからない。

 あと、Uplink carrier aggregation(複数の周波数帯域を同時に用いて上り通信を行う技術)とか、Uplink MIMO(複数のアンテナを使って、通信経路を使用する技術)も、キャリア側の設備次第という部分もある。

法林氏

石川氏
 アップルがApple C1を発表したときに、「効率的なモデム」という表現をしている。裏返すと、性能を深追いはしないという内容とも取れます。結局、クアルコム製チップの価格が高いという話で、iPhoneユーザーが必要とする仕様だけを乗せたという言い方かなと思います。

石川氏

石野氏
 そもそも、220MHz幅をまとめて受けられる通信環境が、どこにあるのかという話。160MHz幅ですら怪しい。Snapdragonの場合、400MHz幅が使えるといっても、それはミリ波前提の話で、それをフルで活用できるユーザーがどれくらいいるのか。そう考えると、Apple C1でいいという見方もできます。

 また、クアルコムは消費電力とかには触れていませんし、プロセスノード(半導体の製造技術の世代を表す指標)について聞かれても、ノーコメントとしている。クアルコムも、実は都合の悪い部分は、伏せているので、アップルがこの辺りを追求したら面白いですよね。

 ただ、Apple C1の、DSDA(2つのSIMで、通話同時待ち受けや回線利用、通話中のデータ通信が可能な方式)が非対応という部分は、市場によってネガティブにとらえられかねないですよね。

石野氏

石川氏
 アメリカ市場で、ミリ波はいらないのかなとも思ってしまいます。

法林氏
 クアルコムは3項目を用意しているけど、このスペックを必要とするネットワークが、世界にどれだけあるのか。Apple C1を搭載したiPhone 16eは、そこまでネットワークにお金をかけていない、途上国とかで考えると、充分だと思います。

 日本からすると、足りない部分はいろいろあるけど、実用上はまた微妙なところだよね。

石野氏
 最近の市場動向を踏まえると、Uplink carrier aggregationに対応していないのは、ちょっと痛いところかもしれません。今の市場的に、動画配信とか、画像のアップロードをしたいと考えると、弱い部分です。

 あと、このスペックで、次のiPhoneに搭載できるのかなという疑問もあります。

法林氏
 iPhone 17シリーズのころには、Apple C2になるんじゃない?

関口
 一応、この表はiPhone 16eベースの分析で、iPhone 16eのアンテナとかに依存する部分もあると思います。

石野氏
 とはいえ、筐体的にiPhone 16eはiPhone 14ベースなので、クアルコムのチップと同じアンテナが搭載できるはず。Apple C1のスペックだと、iPhoneの上位モデルには搭載しにくいですし、Apple C2が間に合うのか。

石川氏
 もうしばらくはクアルコム依存が続く可能性もあるよね。

石野氏
 そうですね。とりあえずiPhone 16eに搭載したけど、iPadとかMacに搭載するほうが早いかもしれません。

石川氏
 ハイエンドモデルとして、Galaxy S25とかと通信速度で比較すると、明らかに負けが見えてくるはずなので、これでいいのかなとは思います。また、Apple C1がドコモのBand21に非対応という問題も、実用的にはそこまで感じませんでしたね。

法林氏
 実際に使っている分には、そんなに感じないよね。ただ、キャリアアグリケーションとかを含めたやり取りには、マイナスがあるかも。

石野氏
 まれに遅くなることがあるかもっていうくらいですよね。

石川氏
 それが、モデムの問題なのか、ドコモのネットワーク全体の問題なのかが切り離せない。

法林氏
 判断が難しいね。

石野氏
 そんな状況の中でも、ドコモがiPhone 16eを安く売ろうとしているのは、大丈夫なのかな。ネットワーク部門と認識をすり合わせられているのかがわかりません。

関口
 NTT社長の島田さん(日本電信電話 代表取締役社長 社長執行役員 島田明氏)から、「絶対にシェア35%は死守」と言われていますから。

法林氏
 なにを今更という感じだよね。ドコモは、井伊前社長(NTTドコモ 前代表取締役社長 井伊基之氏)の時代に、いろいろなサービスを切りすぎた感じがあるよね。

石川氏
 当時から言っていますが、ドコモショップを減らしたりとか、あの時代のしわ寄せが来ています。

石野氏
 それでいて、またドコモショップで生成AI講座を始めたりしていますよね。

法林氏
 僕らはそういう認識だけど、ほかの人は、「ドコモはぬるま湯体質だから、NTTが喝を入れている」とか書いている人もいる。でも、それは違うだろうと。

石川氏
 ドコモが復活したとかね。

石野氏
 闘争心がない感じはありましたけど。

法林氏
 NTTから分離されて、モバイルでは一番の会社になって、成功体験とか、安心感があったのは事実だと思う。だけど、あれこれサービスをやめる必要はなかった。

石川氏
 モバイルを知らない人が来てしまったのが、運の尽きだったかな。

法林氏
 不思議なのは、同じくNTT出身の山田さん(NTTドコモ 元代表取締役社長 山田隆持氏)が社長になったときは、そんなにサービスをやめなかったよね。

石川氏
 当時は、モバイル業界にかなり勢いがあったので、何をやってもうまくいくような状態でしたから。iモードの下地もありました。

 井伊さんのころは、コロナ禍の影響もあるし、値下げ傾向にあるなかで、いろいろなサービスを切りすぎて、競争力が落ちた。

石野氏
 Opensignalで品質1位も取れませんでしたからね。

石川氏
 そんなに甘くない。

日本キャリアのブースにはそれぞれの色が出た

関口
 MWCに話を戻すと、KDDIの髙橋さん(KDDI 前CEO 髙橋誠氏)の基調講演もありました。

石川氏
 プレゼン資料も含め、かっこよかったですよね。関係者が多くいる中で、堂々とプレゼンしているなと。

石野氏
 以前はドコモもやっていたんですけどね。

石川氏
 そう。だから、前田社長(NTTドコモ 現代表取締役社長 前田義晃氏)にも、来年はやりましょうと念を押しておきました。

石野氏
 「いやいや」って言ってましたね(笑)

石川氏
 ただ、ボードメンバーもやらないといけないなとは言っていた。

石野氏
 またやる気を出し始めた感じ。

石川氏
 あと、ドコモのブースは、人が集まっているのはいいけど、やっているネタは毎年あんまり変わらない。

石野氏
 そうなんですよ。AIが盛り上がっているのに、ドコモブースにはAIの話がほとんどありませんでした。

石川氏
 相変わらずXRとか言っている。

石野氏
 それはそれでいいというか、コノキューのXRグラスは面白いと思いましたけど、各社がAIと言っている中で、ドコモのAI関連の展示は、ユーザーデータをAIで分析するというソリューションのポスターのみでした。ちょっとトレンドから外れているなと思いましたが、だから社長は「AIエージェントをやる」ってリップサービスしちゃったのかな、と。

石川氏
 そもそも、ドコモのブースのほかに、NTTデータのブースがあって、IOWNのブースがあった。いかにも、縦割りですと世界に示しているような感じになってしまっていました。

石野氏
 でも、サムスンも、端末とチップ、ディスプレイって別になっていますから。

石川氏
 SKテレコムは1つの大きいブースにまとめてたよ。それなら、NTTグループもまとめて空いているエリアに出せばよかったのに。

石野氏
 それで言うと、KDDIも来年はもっとブースを大きくすることを検討しているみたいですよ。KDDIのブースは、中心センターにAIサーバーを置いたり、基地局を最適配置する、テレコム用のAIとかを出していて、トレンドに乗っていました。

 ドコモは、フィールテックに頼りすぎている気がします(笑)。しかも、フィールテックも、年々驚きがなくなっているというか。今年は、映画を見ていると、椅子が震えるっていう。それ、映画館で体験できる、4DXの劣化版では……と思ってしまいました。

 海外のキャリアだと、ドイツテレコムは、クラウドAIを組み込んで、AIフォンを出すという話をしていましたね。ソフトバンクのPerplexityに近いですけど、もっと自分たちでスマートフォンにインテグレートして、ドイツテレコムブランドで出す。キャリアとして面白い取り組みですし、日本では最近見られなくなった取り組みですよね。

 キャリアで見ると、楽天モバイルは、成果発表が中心であまり大きい発表がなかったですね。

石川氏
 Open RANとかの市場が、いまいち見えてこないよね。

関口
 立ち上がっている感じがあまりしませんよね。

石野氏
 ただ、この手のものは、1つ商談がまとまると、大きい金額で儲かっています。

関口
 アジア圏は、中国勢との取り合いになっていますね。

石野氏
 あと、OREX SAIの話を聞いて、FWA(固定ブロードバンド回線の代替として無線通信を用いる)専用キャリアみたいなのが、海外にはあるんだなと思いました。

石川氏
 海外は、FWAの市場がそれなりにあるよね。

関口
 日本は、NTT東西が頑張りすぎたんですかね。

法林氏
 でも、本当はもっと光回線が普及していたはずなんだよ。ADSLに寄り道した分、ちょっと伸びが鈍かった。それでも世界トップクラスだけど。光回線のパフォーマンスが足りないのは、各世帯につながる光ファイバーが十分じゃないという説もある。

石野氏
 そこで最後は、FWAじゃないですか。ミリ波を家に直接たたきつけるっていう。

法林氏
 それこそ、NURO Wirelessのローカル5Gみたいな取り組みは、もっとやっていいはず。ただ、NUROは光ファイバーサービスの方でクレームが多いので、不安はある。

 KDDIに話を戻すと、あんなにコンビニにばかり力を入れていていいのかなという疑問もある。

関口
 KDDIの先進性を打ち出すという意味ではいいと思いますけど、小売店を海外に売るのは、結構ハードルが高いと感じました。

石野氏
 面白いのは、povoのギガをローソンで配ったことで、海外からも小売店と組めないかという話がきているみたいです。

法林氏
 povoは、ようやくいろいろな活かし方が見えてきた感じもする。

石川氏
 コンビニでの取り扱いで、オンライン専用プランとは言えなくなりましたけどね。

石野氏
 でも、Metaと組んだり、TikTokと組んでいるのは面白い。

法林氏
 メルカリと組めばいいのに。やっぱり、サービスと組んで、サービスを契約するときに、回線を引っ付けて売る方法もあるし、All STARパックとか、ドコモの爆アゲセレクションとかもそうだけど、コンテンツを作っている人からしても、こういうバンドルプランが出てくるのはいいこと。

石川氏
 コンテンツもそうですし、去年話題として出ていたのは、海外の航空会社と組んで、日本についた瞬間に、povoでデータ通信ができるとか。アプリに通信を埋め込むのはありです。

関口
 アプリの右上とかに、「ここをタップしたら数百円で通信量がかからない」というバナーを表示するといった世界ですよね。

石野氏
 Facebook経由で、インバウンドにも売っていくとか、アグレッシブで面白い。日本のキャリアはあまりやらないというか、MVNOっぽい切り口でいいですよね。KDDIも、そこをもっとアピールしてもいい。

法林氏
 データのみだから、セールスしやすいという側面もある。

日本ではメルカリがMVNOとしてモバイル市場に参入

佐藤
 MWCから一方そのころという感じですが、日本では3月4日に、メルカリがMVNO市場への参入を発表しました。内容を見ると、かなり難しい部分も感じられましたが、いかがですか?

法林氏
 ただ単に、ギガの単価が下がっていくだけじゃない?

石川氏
 もう少しやりようはありますよね。

法林氏
 実際に20GBプラン(2390円)で契約をして、全部売りに出してみたけど、まったく売れなかった。どれくらい反響があるのか見たかったけど、全然だね。

石野氏
 最低金額の、1GB/200円では売れないということですよね。価格競争が激しくなると、5GB/200円とかで売りに出す人が出てきて、そっちしか売れなくなる。供給量が多いと、最終的に20GB/200円になるかもしれません。

石川氏
 立て付けが悪いというか、購入したギガが、全部月末になくなるのは、どうなのよと思う。自分は、povoとメルカリモバイルが組んだら面白いなと思っています。povoで1年分のトッピングを買ったけど、どうも余りそうというタイミングで、出品するとか。多様なトッピングがあれば、いろんな出品の方法ができて、盛り上がるかもしれません。

 メルカリモバイルの、1GB単位でしか販売できなくて、しかも月末までに使わないといけないとなると、単価が下がるだけ。着眼点はいいけど、詰めが甘いです。

石野氏
 話を聞いたところ、ミニマムでスタートをしたらしいです。物理SIMもau回線もこれからなので、ユーザーの反応を見て、足りない部分は足していくのかなと思います。

 現状だと、メルカリモバイルの契約を行わないと、ギガを売り買いする画面が出てこないけど、それも今後は表に出していって、契約に結びつけていきたいとか。1GB/200円とか、高単価で売れているところが見えないと、うまく人を引き込めないだろうなと思います。逆に、20GB/200円で売っていれば、安さに飛びつく人も出てくるかもしれません。

法林氏
 まず、入り口がよくないと思う。メルカリユーザーであれば、個人情報の入力がいらないという手軽さはあるけど、登録手数料で3300円もかかるのはどうなの。最初はeSIMのみだし、1000円くらいでもできたはず。

 あと、ギガを売る人がいて、ちゃんと売れていれば成立するけど、現状はほとんどが売る人。20GBプランを2390円で契約して、1GB/200円で売って、少しでも儲けようとしている人ばっかりだし、メルカリがユーザーを獲得するために、プロモートしている様子も見られない。売買する市場を活性化するための努力をしていないのに、登録手数料の3300円を支払わせている。自分たちのリスク管理だけをしていて、サービスとして広めていく気持ちが見られない。

石川氏
 3月4日にサービスの発表、開始をして、キャンペーンが始まったのが3月19日。

法林氏
 遅すぎ。

石川氏
 最初に申し込んだ人が、損をしてしまっています。

法林氏
 あと、MVNOのサービスで、データ量の繰り越しがないのは厳しい。全部とは言わないけど、20GBの契約をしたら、10GBは繰り越せるくらいのサービスがないと選ばれない。買う人を増やさないといけないけど、今の状態だと、何のメリットもないMVNOになっている。3300円の登録手数料がかかって、月額2390円で20GBとなると、もう少し使える料金プランがMNOにもある。

石野氏
 値段は安くないですよね。自分で安く買うか、余った分を売ることが前提の価格設定になっているのは、一般のユーザーが注意しておきたいところだと思いました。今の立て付けで、メルカリモバイルに飛びつく人はあまりいないと思いますけど、値段はちょっと引っかかるところです。

法林氏
 メルカードとメルペイがあるので、一番面倒くさい支払いの部分はカバーできているけど、自分たちの儲けしか考えてないように見えてしまう。

石川氏
 結局、メルカリユーザーにとっては選択肢になるけど、それ以外の人が契約をするメリットは、まだないかな。

石野氏
 メルカリユーザーのためのサービスではありますよね。惜しいなと思ったのは、ギガの売買に評価が付く仕組みなら、これからメルカリを始める人が、評価をブーストするために、ギガを売るという選択もできたはずです。

法林氏
 ギガを売り買いする仕組み自体は、これまでにないものだし、面白いと思うけど、ほかのMVNOだとmineoにフリータンク(全国のmineoユーザー同士でパケットをシェアしあえるサービス)がある。そう考えると、これで手数料がかかるのは、ちょっとひどくないかなと思います。

石野氏
 メルカリっぽいですよね。

法林氏
 商売だから仕方ないけどね。

石野氏
 手数料10%は高いですよね。メルカリで出品する最低料金は、普通の商品だと300円で、ギガの場合は200円。ギガは、物量を伴わない売買なので、5%にするとか、もう少し下げてもいいと思います。

 一方で、LINEがカウントフリーになるLINEモバイルとか、楽天ポイントがたまるMVNO時代の楽天モバイルよりも、自分たちのサービスをうまく組み込んでいて、新しいなとは思いました。

法林氏
 最初の発想はよかったけど、組み方があまりうまくない。

石川氏
 例えば、メルカリで何か売ったときに、プラスでギガがついてくるとか。本業とも絡めていいですよね。

石野氏
 現状はメルカリアプリからも直接申し込めなかったり、バナーも貼られていなかったりとか、まどろっこしい形になっている。グーグルで検索したほうが早い。

法林氏
 そういう部分がまだ形になっていないのに、登録手数料はしっかりと取る。

石野氏
 まだ本気じゃない感じがするというか、急いでサービスを始めた感じがありますよね。

法林氏
 そもそも20GB、30GBの容量で各社が競争していて、MVNOでももっと大容量のプランを出し始めているのに、20GB/2390円でいいのか。

石川氏
 メルカリって、メルペイもメルカードも中途半端。

関口
 いわゆる経済圏での勝負を狙ってはいますよね。

石川氏
 経済圏勝負を狙っているし、話題性もあるけど、中身を掘り下げると微妙。

石野氏
 間に10GBプランがあってもよかったですね。

関口
 メルカリとしては、市場に参入する隙間があるというプレゼンをしていましたが、そもそも、メルカリが何をしたいのか。売買できるのはわかりますが、メルカリとしてどんな事業を展開したいのでしょうか。

石野氏
 聞いていて面白かったのは、データ容量を、デジタルアイテムの1つとしてとらえているところ。いまは単純な数字の売り買いになってしまっていますが、これが「法林ギガ」みたいな形で、「法林さんが売っているなら買いたい」みたいになるかもしれません。

石川氏
 メルカリの課題って、ものを売って、儲かったお金をうまく活用できていない人が多いところだと思います。本当はいろいろ買えばいいんですけど、そこに至っていない人の選択肢に、メルペイにして、リアルで使うというものがある。メルカリモバイルも同じく、残高をギガにするという発想なので、いろいろなアイテムのうちの1つであることは間違いないけど、決定打に欠けるかな。

法林氏
 結局、メルカリが何をしたいのかを考えると、儲けたいというところしか見えてこない。あと、データ通信のみでよかった気もする。

石川氏
 メルカリのやり取りは、ギガを消費しない設定でもよかった。結局、MWCの期間にやったことで、我々は取材に行けていないので、真意が伝わらない。

法林氏
 僕はオンラインで見たけど、それでも全然響かなかったよ。

佐藤
 自分は現地にいましたけど、それでも……。

法林氏
 そうだよね。ギガを売買するとか、メルカリで得たお金をどうするかという切り口に、ギガを持ってきたのは悪くないと思うけどね。

石野氏
 真意が伝わってない部分もありそうですが、せめてMWC期間じゃないタイミングで発表会があればもっと話を聞けたのに。通信分野に詳しい人が軒並みいなくなっているMWC中にわざわざ発表会をやるのは、正直疑問に感じたところです。

法林氏
 メルカリのプレゼン資料に、「docomo・au・Softbankのサブブランド、楽天、MVNOの回線比率は3割以上に拡大」とあるけど、楽天モバイルは、docomo、au、Softbankのグループに入れてもらえないのかな。

石野氏
 まだ入れてもらえませんよ。だって、KDDIの新社屋が入る「TAKANAWA GATEWAY CITY」に行ったら、楽天モバイルだけ圏外になるんですよ。

法林氏
 でも、メルカリ的には、MNO、MNOのサブブランド、その他で分けているんだよ?

石野氏
 実際に楽天モバイルが戦っているのは、UQ mobileやワイモバイルですからね。

法林氏
 ただ、この表のおかしなところは、「docomoのサブブランド」というところ。ahamoを指しているんだろうけど、実際はサブブランドじゃないからね。

石野氏
 まあ、メインの料金プランを契約している人が、これだけいるという話ですよ。楽天モバイルは、メインの料金帯ではないと見られている。

法林氏
 楽天モバイルがMNOになる前、菅政権のころにメインのMNOは月5000円、6000円程度だったのが、3000円程度に収まるようになった。大きな進歩ではあるけど、ユーザーが回線を乗り換えない理由には、値段以外にもいろいろな要素がある。それなのに、この切り口だけで、3年間のデータだけを見て、勝ち筋があるとアピールするのが正しいのかはわからない。

石野氏
 ただ、メルカリを見ていて、楽天モバイルこそ、こういうことをやればいいのにと思いました。楽天にも、楽天ラクマがあるし、楽天市場もあるので、本来はただ安いだけではなくて、楽天モバイルを循環させつつ、ギガも売買できるとかをやるべきだった。

 MVNOであればやりやすかったと思いますが、そこを捨ててMNOになり、今はユーザー数が増えて黒字化が見えていますけど、もっとやり方はあったと思います。

いまだに不安が残る楽天モバイルのセキュリティ

石川氏
 楽天モバイルの話を広げると、不正契約の件は大丈夫なのかな。850万契約のうち、どれくらいが不正なのか。

石野氏
 契約回線数も、15分の1で計算しますか(笑)

石川氏
 2023年当時、簡潔な本人確認で、回線契約ができるというのは画期的だったけど、うまいこと隙をつかれている。

石野氏
 楽天モバイルは、IDとパスワードさえばれてしまえば、my 楽天モバイルに入って、結構やりたい放題できます。いくらなんでも危ないという指摘は、以前からしているのですが、微妙な修正しかされません。

 eSIMの再発行は、SMSかメールで届くようにするとか、入り口の扉は閉めずに、奥のほうに鍵をかけているようなイメージ。リビングまでは入られちゃうので、どんどん悪く使われてしまっています。

石川氏
 そもそも、15回線も契約できるというのがおかしい。

法林氏
 これは、詐欺対策として、個人契約回線を最大5回線に自主規制した時の話にさかのぼる。僕は当時、5回線以上持っていたので、身動きが取れない(MNPで転入できない)状態になってしまった。楽天モバイルの関係者は、「うちは15回線までですから」とアピールするけど、その前に契約にしっかりと鍵をかけないとだめ。相当緩いなと思います。

石野氏
 一応鍵はかかっているけど、相当緩い。すぐにピッキングできるような鍵です。

法林氏
 以前、ある議員さんがSIMスワップ(契約者になりすまして再発行したSIMを使い、SMS認証といった本人確認を突破してアカウントを乗っ取る、不正送金をする犯罪の手口)の被害にあった。このタイミングでもいいから、楽天もセキュリティ対策に講じるべきだった。

石野氏
 昨年の今頃にも、楽天はSIMスワップについて言及されていました。僕が試したところ、自分のIDとパスワードを知っているとはいえ、簡単にSIMの再発行ができてしまいました。

 仮にこれが他人のIDをパスワードだとしたらまずいですよね。案内はメールアドレスに届くので大丈夫かと思いきや、オペレーターに言うと、送り先のメールアドレスも簡単に変更できてしまいました。

法林氏
 最近、iPhoneでドコモ回線の5G SAを使うために、SIMの交換をしたんだけど、そのときはmy docomoにログインするために、パスキー認証が入った。

石川氏
 ドコモは逆に、固すぎて不便。本人でもログインできないことがある。

石野氏
 ドコモの場合は、前の回線を失くしてしまったときに、再発行をしようとすると詰むことが多いです。楽天も詰まないで再発行できましたが、最近はセキュリティ向上のために、SMSで確認するようになっています。ただ、追加回線はほぼノーチェックで契約できちゃうんですよね。

石川氏
 今はキャンペーンで楽天ポイントがもらえるし、上限が15回線なので、複数回線を契約している人も多いはず。1回線80ドルとかで不正に売られているような現状を見ると、犯罪の温床になっている可能性もあります。

石野氏
 回線を追加するときに、何1つとして本人確認がなくて、ボタンを押すだけなのはまずい。

石川氏
 悪知恵の働く中高生に狙われちゃうよね。

石野氏
 セキュリティの専門家ではない、僕ですら再現できてしまう。

関口
 基本的には、入り口はフィッシングで、流出してしまうものですか?

石川氏
 もう流出しているものだと思います。IDが何億件も闇サイトで売られているでしょう。

石野氏
 モバイル回線の契約くらい、個人情報がストックされているのであれば、入り口のID、パスワードのところから、せめてSMSでの2段階認証を行うとか、ドコモやKDDIのように、パスキー認証を行うといった対策は必要。

 楽天モバイルは、楽天市場から共通のシステムを使っているので、そこが緩い。楽天ペイとか、お金にかかわる部分には2段階認証やパスキーが入っているけど、モバイルもそうだという認識が足りないと思います。

石川氏
 振り返ると、三木谷さんは、楽天モバイルのセキュリティは、金融もやっているから万全と言っていましたが、実際はゆるゆるだった。あと、eSIMが導入される頃、3キャリアの社長は、あまり乗り気ではなかったけど、便利だからやるべきとメディアが言ったり、乗り換えを促すために総務省も後押ししていたのが、ここに来て狙われている。これはメディアとしても、ちょっと反省するべきかも。

石野氏
 いや、こんなに緩いセキュリティで運用するほうが悪いですよ。

石川氏
 3キャリアはちゃんと動いているからね。

法林氏
 楽天モバイルと楽天市場は緩いけど、楽天証券と楽天銀行は、成り立ちが別なので、仕組みが違う。なので、1つのアカウントを取られると、全部取られるというわけではない。

 ただ、モバイルが入りやすさを重視したあまり、楽天市場から侵入されてしまうと、SIMやeSIMなどの契約も持っていかれてしまう。モバイルは、独自のアカウントにするべきだったと思います。

石野氏
 楽天モバイルも、IDとパスワードの使いまわしはやめてとアナウンスしているけど、自分たちがシステムを使いまわしている。

法林氏
 以前、ドコモも「電話番号をdアカウントにするのをやめて」とアナウンスしていた。かといって、ランダムな文字列にすると、覚えられない場合もあるから、難しいところだよね。

石野氏
 とはいえ、パスキーくらいは入れないとだめですよね。完全仮想化とはいえ、ユーザー管理システムを直そうと思うと、結構ヘビーな作業になるはず。時間はかかるだろうし、今はそこにあまりお金を使いたくないだろうなとも思います。

石川氏
 楽天IDとdアカウントは、立て付けを作り直さないと厳しいですよ。

石野氏
 問題は真逆。楽天は緩すぎるし、dアカウントは固すぎる。