【MWC Barcelona 2025 】

楽天の三木谷氏、MWCで語るOpen RAN──ライセンス戦略と世界展開

 楽天シンフォニーは、24年に開催されたMWC Barcelonaでソフトウェアのライセンス販売を中心に据える方向に事業を転換することを発表した。25年のMWCでは、その成果として、シスコ、エアスパン、テックマヒンドラが同社のソフトウェアを活用することを発表した。MWC会期2日目の3月4日には、楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、同社ブースに登場。報道陣からの質問に答えた。主な一問一答は次のとおり。

楽天ブースで改めて自社の特徴を紹介した三木谷氏

――Open RANへの移行度合いはどう見てますか。

三木谷氏
 新しいネットワークがOpen RANで設計されている。既存のテレコムカンパニーが一気に移るのは難しいと思うのですが、そうはいっても部分的に交換し始めている。実際にはいろんなクラウドがあって、いろんな周波数があって、全部動きますよというサーティフィケーションをしていく必要がある。楽天シンフォニーは95%ぐらいはサーティフィケーションしているわけです。買収前を含めると、17年間やってるので、“にわか”ではないんです。

 クラウド、Open RAN、OSSなどがあって、クラウドは巨大なところも出てきています。一気に取れるようにラインセンスにしているわけです。自分で売っていくのはしんどいので、SIerやエアスパンなどに対してラインセンスを出し、彼らに売ってもらった方がいい。RedHatなんかもそうですよね。

――そう意味だと、しばらくは既存のシステムと共存する。

三木谷氏
 そうですね。それこそLinuxの世界もそうだったように、最初はLinux上で銀行などの金融系サービスを動かすのはありえなかった。でもやっぱり、動いちゃうよねという話になったわけですよね。それと同じように、(楽天シンフォニーのソフトウェアも)あらゆる機器で、あらゆる周波数で、あらゆるクラウドで動くことがほぼ証明できている。広くあまねく使ってもらい、投資を少なくして「Pay per use」という形に変更して、3社(シスコ、エアスパン、テックマヒンドラ)決まりました。年内には、ライセンシーが両手ぐらいまでいければいいですね。

MWCに合わせ、ライセンスを導入する3社が決定したことを発表した

――決算説明会の際にアメリカ市場に言及されていました。

三木谷氏
 シスコはプライベート5Gで我々のソフトウェアを使って展開するということを調印して、コミットしてもらいます。自分で開発しようとすると何だかんだ言っても数百億円かかるんですよ。パソコンだってそうで、Windowsをパソコンメーカーが開発するのは無理じゃないですか。マイクロソフトのエコシステムを使って、ハードウェアだけを作るからできるわけです。我々はOpen RANのWindowsになりたいということです。

――ちゃんと(楽天モバイルで)850万のユーザーがいても動くことも証明されているのも大きいですよね。

三木谷氏
 そうですね。今年は電気使用量を20%抑えることもAIでちゃんとできています。世界中で20%も携帯ネットワークの燃料をセーブできれば、年間で20兆円ぐらいになる。適当な紙の上の計算ですが(笑)。

――楽天モバイルの実績はかなり見られていますか。

三木谷氏
 もちろんです。世界的に携帯料金を下げることがガバメント(政府)として重要で、その1つの例として注目しています。楽天はOpen RANの世界では完全にフロントランナーですから。やはり、赤ちゃんと一緒で、実際に歩いてみないと分からないですからね。

報道陣からの質問に答える三木谷氏

――最初にMWCに参加したときと、見られ方は変わってますか。

三木谷氏
 意外と、(最初から)世界的には評価が高かったんですね。アワードも取っていましたし。世界で本当にOpen RANをやって仮想化しているところはなかった。残念ながらうちは20MHzしか(4Gの)ミッドバンドを持っていないので、ダウンリンクは世界トップは取れませんでしたが、アップリンクやレイテンシーはトップクラスだったんですよね。最初は、電気代がかかる、パフォーマンスが出ないと言われましたが、両方ともそんなことはなかったという話です。

楽天モバイルのネットワークは、調査会社Opensignalからも高い評価を得ている

――だいたい、何年後ぐらいにOpen RANが主流になるとお考えですか。

三木谷氏
 たとえばVodafoneは、2030年までに30%をOpen RANにするとコミットしています。これからSAをやります、次は6Gです、その次は7Gですとなると、全部ハードウェアでやっていけないわけですよね。もうOpen RANが前提みたいなところはありまよね。新規参入だと100%になりますが、そこに対して既存の事業者が古いテクノロジーで競争優位性を保てるかという話もあります。

――既存のベンダーもOpen RANを始めていますが、ライセンシングプログラムに切り替えたのは、そことの差別化で先を行く意味合いもあったのでしょうか。

三木谷氏
 でも、結局、道半ばにして志を追ってしまう人たちが多い。一番のハイライトは(楽天シンフォニーが)ソフトウェアの開発をしたことです。たぶん、他社は年間数百億円をOpen RANのソフトウェアに使っています。年間3億でいいから、売れたらちょうだいねという方がよくないですか。ソフトウェアと言うと簡単そうに見えるかもしれませんが、コードで言えば何百万ラインもあって結構複雑なんです。

――使ってみくださいと言って返答はどうですか。

三木谷氏
 簡単にYESとは言いません。ただ、モバイルの人たち(キャリア)はノキア、エリクソン、富士通、NECといったベンダーに丸投げだった。その丸投げは通用しなくなります。自分たちでやりたいことや、ソフトウェアをやっていく時代になります。

――ライセンシーが1年で3社というのは、どう評価していますか。

三木谷氏
 最初はこんなもんじゃないでしょうか。ラインとしてはたくさんあるので。シスコがサインアップして、エアスパンもある。あとは小さなフェムトのメーカーも乗ってくると思います。デファクトスタンダードにしたい。

――AIがこれだけ普及してくると、ネットワークに求めらえる要件も変わってくるのでしょうか。

三木谷氏
 1つはエッジコンピューティングと言ってますが、たとえばセンターサーバーが落ちたときにミッションクリティカルのサービスをどうするんですかという話があります。そういうときにエッジが必要になります。うちが作っている1BのLLMは携帯端末でも動きますが、そうじゃない大きさのものはエッジ側でやりましょうという話になってくる。エッジコンピューティングは重要だと思っています。