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「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」「Pixel Watch」いよいよ正式発表、グーグルがもたらす体験とは
2022年10月7日 03:19
米グーグル(Google)は、Androidスマートフォンの新モデル「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」と、スマートバンド「Pixel Watch」を発表した。
発表会では、デザイン、セキュリティ、機械学習(AI)を活用した新機能、そしてさらに進化したカメラなど、幅広い内容が紹介された。本誌では、各製品について別記事で紹介しているが、こちらでは6日の発表会で触れられた、Pixelシリーズの根底にある考えやデザイン言語、セキュリティ、AIがもたらす体験などの内容をまとめた。
なお、カメラ機能については、Pixel 7シリーズの記事をぜひご覧いただきたい。
ニューヨークから生中継
最初に登壇したのは、グーグルでデバイス&サービス部門のシニアバイス・プレジデントを務め、ハードウェア開発をリードするリック・オステロー(Rick Osterloh)氏だ。
米ニューヨークのブルックリンにあるライブ会場にいる、と語った同氏は、新たな「Pixel」製品群を紹介すると説明。「新しいデバイスがどのように連携し、没入感のあるアンビエント体験を生み出すか、ご紹介する」と述べてプレゼンテーションを始める。
ここで言う「アンビエント」とは、いつでもどこでも環境や周囲に溶け込んだコンピューターの力を活用できる状況を意味する。
オステロー氏は「いつでも、どこでも、必要なときに、必要な助けを得ることができるようになる」と述べ、Pixelシリーズが、モバイルコンピューティングの世界で、唯一無二の存在であり、「ぼやけた写真を一瞬でシャープにしたり、写真に写りこんだ邪魔なものを魔法のように消してくれたりする、電話の向こうのバックグラウンドノイズを自動的に低減し、スパムメールなどからあなたを守る」とアピールする。
Pixelの差別化ポイントは「グーグルの技術力」
Pixelを通じたグーグルの機械学習の力を活用することで、100種類以上の言語を理解できるようになり、今日は運動をしたほうがいいのかまでわかる。そんな世界観を示すオステロー氏は、その基礎に「AndroidとTensor(グーグルオリジナルのプロセッサー)の組み合わせ」があり、グーグルの技術力こそが差別化要因になると語る。
オステロー氏
「グーグルは、ユーザーの役に立つ体験を創造するために、限界に挑戦し、AI イノベーションを起こすことで、コンピューティングを完全に変えています。そのイノベーションをハードウェアデバイスに活かすことで、真に斬新な機能と性能を実現することができます」
そのTensorは、グーグルが挑戦するAIイノベーションへのアプローチをひとつの半導体に拡張したもの、と位置づけるオステロー氏は、Tensorが、新たなパラダイムをサポートし、最先端の機械学習モデルをスマートフォンへ搭載するためにカスタム設計されたもの、と説明。オリジナルチップを開発することはグーグルがPixelシリーズへ長期的に投資することを意味するとした。
同社が開発し、Pixel 6で初めて搭載されたオリジナルのプロセッサー「Tensor」は、今回発表された「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」は、新たなTPU(Tensor Processing Units)が追加され進化した「Tensor G2」を搭載する。
そのTensorは、廉価版モデルであり今夏登場した「Pixel 6a」にも搭載されている。
Pixelシリーズのデザイン言語
続いて登壇したのは、イザベル・オルソン(Isabelle Olsson)氏。グーグルのインダストリアルデザイナーだ。
「Pixelファミリーを見渡すと、すべての製品にPixelらしいデザイン言語が共通していることに気づく」と語りだしたオルソン氏は、ユーザーの日常へフィットしようとする「Pixelシリーズ」の姿を紹介する。
たとえば、腕時計の場合、夜の外出でドレスアップした場面にもマッチできるようにし、それでいてキャンプや山登りにも使える耐久性が必要、とオルソン氏。
長時間の航空機への搭乗、短い時間のウォーキング、ハードなトレーニングとさまざまなシーンでも、快適に使え、なおかつハンズフリーでユーザーを助けてくれる必要がある。
また、スマートフォンはもちろん、タブレットでも、カフェのような外出先、自宅のソファやキッチンなど、これまた幅広い場面でユーザーのお供にふさわしい活躍が求められる。
スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、いずれに対してもグーグルのデザインチームは考えを巡らせて製品デザインに取り組んだ。
たとえば、いつも身の回りにあることから、スマートフォンやスマートウォッチは、手や腕にしっくりと馴染むよう、滑らかで丸みを帯びた形状に仕上げられた。
カラーによっては、異なるトーン、テクスチャーに仕上げられ、グーグルのハードウェアで楽しめるカラーコンビネーション、仕上がりを実現している。たとえば、Pixel 7シリーズでは、絹のような手触りというジルコニアブラスト加工が施されたアルミニウムや、金属の輝きが際立つというポリッシュドアルミニウムが用いられている。
オルセン氏は、メタルとカラーのエレガントな調和を目指し、そしてソフトウェアとの連携も考慮され、ハードとソフトを横断する体験を味わえるのが、2021年に発表された「Material You」のコンセプトだと解説する。
Pixel Watchのデザインとバンド
オルセン氏
「腕時計は、手首につけてこそ役に立つ。だからこそ、Pixel Watchをどんな場面でも美しく、手触りのよいハードとソフトにデザインした」
そう語るオルセン氏は、たとえばPixel Watchの3Dカバーは、「水滴の連続した表面からインスパイアされたドーム型のデザイン」と紹介。
実用的で、快適で、シャツや袖を邪魔せず、ユーザーごとに異なるスタイルにあわせて楽しめるとのことで、宝石からインスパイアされたステレンススチールのPixel Watchのボディはブラック、シルバー、ゴールドの3色が用意されている。
Pixel Watchのバンドは、本体とバンドをひねるようにスライドさせて取り外せる。簡単にバンドを交換でき、雰囲気や場面にあわせて変えられる。メタルバンド、レザー、シリコンなどさまざまなものが用意される。
タブレットのデザイン
Pixelシリーズで今後登場するタブレットもまた、同じデザイン言語で仕上げられる。
自宅に馴染み、エレガントな印象を与えることを目指し、磁器の繊細な質感から着想を得て、新たに開発されたという、ナノセラミック・コーティングが、再生アルミニウムのボディに塗装される。
環境にも配慮した開発・製造工程になっているとのことで、グーグルのハードウェアチームでは、二酸化炭素排出量を2030年までにゼロにするという目標は、「製品に含まれるすべての要素を再構築するため、アートとサイエンスを融合させることを意味する」(オルセン氏)のだという。
グーグルのデザインチームでは、エンジニアチームと連携し、リサイクルされた金属、プラスチック、ガラス、布地を取り入れる新しい方法を生み出し、6日に発表されたすべての製品にリサイクル素材が活用されている。
たとえばPixel 7シリーズのアルミニウムボディは100%リサイクルされたもの。ボディ全体の製造にかかる二酸化炭素排出量は35%以上削減される。
Pixel Watchのケースは80%リサイクルのスチームレススチールで、バンドのうちストレッチバンドの生地も、100%リサイクルされたもの。
持続可能性に対して私たちは責任があるとオルセン氏は語り、「地球を救うためにインパクトのある仕事をしているチームの一員であることを、とても誇りに感じています」と胸を張った。
プライバシーとセキュリティへの取り組み
Pixelシリーズは、ユーザーがつねに使うものだからこそ、どのようにデータが保護されるか、という点は重要なポイントだ。
ここで登壇したのは、ジェン・フィッツパトリック(Jen Fitzpatrick)氏。米グーグルで最初のインターンシッププログラムに参加し、そのままグーグル初の女性エンジニアとして、Googleマップなど、さまざまな製品の開発に携わってきた。
今回発表された「Pixel 7」「Pixel 7 Pro」は、最も安全で、プライベートな携帯電話として開発されたとするフィッツパトリック氏。それを支えるのは、Tensorチップと、セキュリティ専用チップの「Titan(タイタン)M2」だ。
Titan M2は、グーグルのクラウドデータセンターを保護するために用いられているチップから派生して開発されたもの。銀行や通信事業者など信頼する、厳格な保護ガイドラインに適合しているとうたう。
また、Pixel 7シリーズでは、5年間のセキュリティアップデートが保証されるとのことで、長期にわたって最新のセキュリティ環境を維持できるとフィッツパトリックはアピールする。
プライバシーの保護については、「個人を特定できるデータを最小限にする」「個人を特定できる情報を削除してユーザーと紐付けられないようにする」「エンドツーエンドの暗号化などの技術によりデータへのアクセスを制限する」という3つがPixel 7シリーズに盛り込まれている。
「ライブ翻訳」のような機能やスパムの検出、メッセージ、スマートリプライなどの機能は、Pixel 7内でリアルタイムに処理され、デバイス上にデータは残らない。
一方で、ユーザーからの許諾を得れば、睡眠を計測して、咳やいびきを分析して睡眠の質を把握することもできる。そうしたデータは、グーグルに送信されることはなく、デバイス上で管理される。
さらに、Webブラウジングをより安全な環境でたのしめるよう、VPN(仮想専用線)環境が提供される。
Android 13では、プライバシーとセキュリティの設定が一元化された。また新しいアクションカードは、安全上のリスクを通知し、プライバシーとセキュリティを強化するための手順をわかりやすく提供する。こうした機能はPixel 7シリーズだけではなく、ほかのPixelシリーズで2022年後半、その後、ほかのメーカーのAndroid端末でも利用できるようになる。
Pixel 7シリーズで体験できる「AIの力」
Pixel 7シリーズについて、本誌では別記事でご紹介しているが、そのなかでも、AIなどを駆使した体験についてはあらためて触れておきたい。
Pixelシリーズでは、ロック時でも時刻や通知などを常に表示する「常時表示」や、Pixel 3で導入された夜景を明るく撮影できる「ナイトサイト(夜景モード)」、天体撮影機能、3年前に導入した自動車事故の検知機能などがある。
これらは、ソフトウェア、AI(機械学習)の力で実現したもので、Pixelシリーズでは、OSバージョンアップとは関わりなく、数カ月に一度のペースで「Feature Drops」として新機能が追加されてきている。
それらを盛り込み、さらに新たな機能が追加されるPixel 7シリーズはどのように進化したのか。
紹介されたポイントは外観から始まり、ディスプレイの明るさ25%向上、バッテリーセーブの向上、カメラ機能の向上などが続く。
たとえば、インカメラは自撮りだけではなく、顔認識にも活用される。指紋認証に加えて用意される顔認識では、先進的な機械学習モデルを使うとのことで、一目でロックを解除できる。
新たに搭載される「Tensor G2」は、すべての主要なサブシステムが連動するように設計されているとのことで、機械学習の複雑な処理を担い、その処理能力は先代よりも60%高速化した。
Tensor G2では、ビデオの録画、音楽ストリーミング、音声認識など、幅広い場面で力を発揮しており、音声アシスト能力も向上。ライブ翻訳もスムーズになり、Googleアシスタントへの質問もよりスムーズになり、簡単にメッセージを送れる。
たとえば、Googleアシスタントへの音声入力は、キーボードを使うよりも平均で2.5倍速いが、Pixel 7シリーズでは音声入力時、その内容に関連する絵文字を自動的に提案してくれる。
音声メッセージを書き起こし
音声入力だけではなく、もし音声のメッセージを受け取った場合、イヤホンがなければ、音を大きく出すのもはばかられることがある。
そうした場面で、Pixel 7シリーズのメッセージアプリは、音声メッセージをテキスト化してくれるという。
レコーダーアプリ、発言者を識別できるように
Pixel 7シリーズのレコーダーアプリは、2022年後半の機能改善で、スピーカーラベル(発言者の識別)が導入される。会議やインタビューで、発言者それぞれが識別されることになるという。
グーグルが届けたい「もの」
最後に、プレゼンテーション前半を担当したオステロー氏の言葉を紹介したい。それはPixelシリーズの商品群を通して、グーグルが何を提供したいのか、ということを示すものだ。
オステロー氏は「私たちはまだ始まったばかり」として、スマートフォンだけではなく、ワイヤレスイヤホン、そして今後登場するタブレットなど幅広い製品群を挙げつつ、それらの製品群がグーグルの目指す「魔法」を届けるために連動している存在だという。
私たちにとって、Pixelは単なる電話の体験ではない、それはパーソナルでインテリジェントな、一体感のあるコンピューティングなのだ――
オステロー氏が語るこうした未来像は、これまでも同社から示されてきたもの。
Pixelシリーズといえばスマートフォンが想起されるが、これまでにワイヤレスイヤホンの「Pixel Buds」シリーズも登場していた。
そして、今回、Pixel Watchがラインアップに追加されたこと、そして家庭用の「Nest」シリーズの存在を踏まえると、グーグルがソフトウェアやサービス、AIの開発のみならず、ハードウェアもあわせて提供してきたことがよくわかる。
これは、グーグルが開発する機械学習の技術を体験できる接点がスマートフォンに代表される各デバイスであり、その接点を通じて、「魔法のような未来、体験」を、一貫としてユーザーへ届けようとしている姿勢があらためて今回の発表会でも紹介されたことになる。