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「転売ヤー」対策やモバイル市場の概況は? 総務省の「競争ルールの検証に関する報告書 2022」

 総務省は22日、「競争ルールの検証に関する報告書 2022」を公開した。「競争ルールの検証に関するWG」における「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」について、7月23日~8月26日までの期間で意見を募集し、その結果を踏まえて取りまとめられたもの。モバイル市場の競争環境や、「転売ヤー」対策の課題などに関して、211ページにわたってまとめられている。

報告書が公開された背景など

 2019年10月に施行された「電気通信事業法の一部を改正する法律(令和元年法律第5号)」によって、「通信料金と端末代金の完全分離」「行き過ぎた囲い込みの禁止」などの制度が整備された。「競争ルールの検証に関するWG」は、こうした施策がモバイル市場に与えた影響などについて評価・検証を実施すべく、2020年4月に「電気通信市場検証会議」の下に設置された。

 同WGでは、2020年10月に「競争ルールの検証に関する報告書 2020」を、2021年9月に「競争ルールの検証に関する報告書 2021」を公開。2022年7月には、「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」が公開された。

 「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」では、MNOとMVNOの料金の差が接近しつつあるといった通信市場の動向や、スマートフォン端末市場の動き、「転売ヤー」対策などについて触れられている。

 今回公開された「競争ルールの検証に関する報告書 2022」は、先述の「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」に対して提出された26件の意見を踏まえたものになっている。

2021年度は高価格帯スマホの割合が増加

 2021年度のスマートフォンの売上台数について、価格帯別に見た場合、中価格帯の割合が減り、高価格帯の割合が増えているという。背景としては、「人気がある端末の価格が上がっていること」「端末の大幅な値引き」が挙げられている。

 2022年春には、iPhoneの1円販売も店頭で数多く実施され、今回の報告書で触れられた「端末の大幅値引き」のことと見られる。

「競争ルールの検証に関する報告書 2022」の概要

提出された意見の一部

 「競争ルールの検証に関する報告書 2022(案)」に対しては、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、JCOMやオプテージなどの法人・団体に加え、個人も含めて合計26件の意見が提出された。

「転売ヤー」問題について

 たとえばドコモは、「転売ヤー」問題について、「各事業者が実効性のある対策を講じることが第一優先であり、当社では、1人1台に販売を制限するなどの取り組みを実施している。ただし、対策のすき間を狙った新たな手口が次々と発生していることから、各事業者の取り組みだけでは根絶は難しいと考える。そのため、電気通信市場の健全な発達の観点から、総務省において『転売ヤー』問題を踏まえた規制の見直しを検討してほしい」という意見を提出。

 これに対して総務省は、「いわゆる『転売ヤー』に関しては、まずはMNO各社において実効性のある対策を検討し、実施することが適当」という考え方を示している。

対応周波数について

 携帯電話端末の対応周波数については、過去のWGで、「『各キャリアの主要な周波数への対応』をルール化・標準化すること」「複数のキャリアの周波数に対応していない端末が販売される場合は、わかりやすいかたちで情報が提供されること」などが提案されていた。

 楽天モバイルは、「情報提供のあり方の検討にあたっては、公開の場で丁寧な議論をしてもらいたい」という意見を提出。これに対して総務省は、「楽天モバイルが指摘した点を踏まえることが適当」という考え方を示した。

 また、楽天モバイルは「国内で一定以上の販売シェアを有する端末メーカーには、すべてのMNO(の周波数)へ対応するよう義務づけるべき」という意見も提出。総務省は、「意見は、参考として承る」としている。

「一部0円プラン」について

 携帯電話の料金体系のうち、“0円”の幅が存在する「一部0円プラン」については、過去のWGで、こうしたプランが「価格圧搾」に該当するかどうかということが議論されてきた。ここでいう「価格圧搾」とは、MNOが自社サービスの小売料金を引き下げるなどしてMNOとMVNOの価格差を縮め、MVNOの事業を困難にすることを指す。

 過去のWGで結論づけられた「価格圧搾の問題を含め、小売料金が不当な競争を引き起こすかどうかについては、単に料金プランの形式のみで判断するのではなく、競争への影響度合いなどを踏まえて総合的・客観的に判断すべき」という方向性に対し、ソフトバンクや楽天モバイルは、賛同する姿勢を示した。

 これに関連してオプテージは、「移動系通信市場はこれまで、MNOとMVNOの競争を通じて料金の低廉化やサービスの多様化が実現されてきた。この公正競争を実現するためには、MNOとMVNOのイコールフッティング(競争条件などの同一化)の確保が重要」とした。

 また、「MVNOは、携帯電話サービスを提供するうえで、MNOの設備を借りざるを得ない構造。事業者間の交渉などにおいて、MVNOよりもMNOの交渉力が強く、優位になりやすい」としたうえで、「仮にMNOが、MVNOへの接続料や卸料金を引き上げたり小売料金を引き下げたりすることは、『一部ゼロ円』料金プランに限らず、価格圧搾として公正な競争を阻害する可能性がある」とコメント。

 オプテージは総務省に対し、「MNOの料金プランなどによる競争環境への影響を引き続き注視し、課題が生じた場合は速やかに措置を講じてもらいたい」と意見した。

 総務省はこの意見について、「MNOとMVNOとの間のイコールフッティングの確保については、総務省で引き続き注視し、必要に応じて対応を検討することが適当」という考え方を示した。

MVNOの位置づけについて

 JCOMは、「MVNOの市場シェアについては、12.1%(2021年3月末)から11.3%(2022年3月末)へ低下しており、縮小傾向にある。一方で、報告書案には『独自のサービスを提供するMVNOは引き続き競争の軸として重要な役割を果たすことが期待される』との記載もある。現在は、同じ価格帯でMNOとMVNOが競合している状況」とコメント。

 そのうえで、「競争の軸としてどのような役割を持つべきか、MVNOの政策上の位置づけについてあらためて確認が必要。たとえばMVNOに対する特例や、『独自サービス』の提供を認めるなど、具体的な方策についても検討してほしい」という意見を提出した。

 これに対して総務省は、「意見は、参考として承る」としている。