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スマホ「白ロム割」にも規制、割引は中古価格を参考に――総務省で4キャリアが提案

 総務省は11月29日に「競争ルールの検証に関するWG(第37回)」を開催し、NTTドコモとKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4キャリアから、公平な競争環境整備に関する振り返りや、今後の政府施策の提案などが行われた。

 今回のWGでは、主に「端末割引の上限規制」や「長期継続割引の是非」などを中心に、4キャリアからその効果と今後に向けての課題が示された。あわせて、販売代理店による「端末のみの販売を拒否する」法令違反などへの対応についても発表された。

NTTドコモ「割引上限を中古販売価格程度までにすべき」

これまでの取り組みと、端末のセット販売について

 ドコモでは、通信料金の低廉化とともに、解約金の撤廃やSIMロックの原則撤廃、MNP手数料の無料化など、ユーザーがキャリアを乗り換える障壁を下げた実績をアピール。

 端末と通信を分離するという政策のなか、キャリアが端末を販売する目的として「セットで進化させることで新たな価値を提供する」ことや、「ユーザーがキャリアショップによるサポートを望んでいる」ことを挙げた。実際に、ドコモで端末と通信をセットで提供する比率は、法改正前の2019年で100%だったものが、2022年には98%とほぼ横ばいであることが示された。

 一方で、料金の低廉化が進んだ状況下においては、スペック差が無い端末同士では価格競争せざるを得ない環境になっており、実態として、上限2万円規制がある「通信とのセット販売」に加えて、上限規制のない「端末のみ(白ロム)の販売」が行われていることを指摘。この結果、局地的に過度な割引が実施されることで、ユーザー間の不公平や転売問題、白ロム販売拒否などの法令違反が生じてしまっているという。

中古販売価格やスマホ版「レッドブック」の提案

 ドコモとしては、乗り換え障壁が下がっていることを評価する一方、端末販売についてはユーザー間の不公平が生じないような環境を構築すべきとし、通信とのセット販売においては、「割引上限を中古販売価格を参考に適正価格で販売する」競争環境を構築するべきだと提案した。

 競争環境構築に際しては、キャリア主導で取り組むには、競争対抗の観点で困難だとし、業界一律で見直すべきだとした。

 ドコモは、割引上限として、いわゆるSやAランクといった“ユーザーが抵抗なく使用できる”状態の「中古販売価格」を参考にすることを提案。また、発売からの期間に応じて金額を一定率で引き下げる方法や、自動車の平均的な取引価格を掲載する「オートガイド自動車価格月報」(レッドブック)のようなイメージで、業界一律に基準を決めるのがよいのではないかとした。

 なお、規律見直しとなった場合、現在提供している端末購入プログラム「いつでもカエドキプログラム」について、2年後の買取予定価格を上回る特典となった場合、上回る分を2万円上限割引に含める現行ルールで対応するとしている。

KDDI「端末とのセットによる転売抑止」を

転売が活発化する環境に

 KDDIにおいても、端末によって異なる通信料金の割引や、高額なキャッシュバックが解消となったほか、2年を超える期間拘束契約の禁止や違約金の低廉化、SIMロック原則解除やeSIMの促進など、乗り換え障壁低減に取り組んだとアピール。これにより、通信料金の低廉化と新規契約と解約数の増加が進み、競争促進に効果があったとした。

 一方で、政府が掲げるデジタル田園都市構想実現に貢献すべく5Gエリアの整備を積極的に進めているなか、端末料金の支払金額が多く、買い換えサイクルも長期化していると指摘。現行のセット割引2万円上限では、ユーザーの端末買い換えニーズに応えにくい状況となっているという。

 さらに、事業法の規律外となっている端末単体(白ロム)割引(上限なし)で端末価格を下げることで、市場競争やユーザーの買い換えニーズに対応している現状では、1社が安値販売を始めることで他社も対抗し割引が行きすぎることになってしまうと指摘。

 くわえて、回線利用しないいわゆる“転売ヤー”による不適切な取引が顕在化しているとした。特に昨今の半導体不足や円安により、国内の中古端末が海外に輸出されることが活発になり、より転売が助長される環境になっているとした。

 「5Gの普及」と「端末購入促進」「“転売ヤー”対策」とともに、公平な競争環境促進に向けて、KDDIは「4G→5Gへの端末切り替えに国が補助/支援をする」方法や、「5Gへの移行時には、端末と通信をセットにした取り組み」を実施することを提案した。特に端末と通信をセットにすることで、すぐに端末を売却する“転売ヤー”対策にもなるとしている。

 この、「5G移行に国の支援」という提案については、WG内で「魅力的なサービスを事業者が出さないから普及しないのではないか? それを税金を使って後押しを促すことには違和感を感じる」という意見が出された。この意見に対してKDDIでは「事業者同士での営業施策ではどうしても過激になってしまう」とし「機種変更時と限定した環境で、ニュートラルな施策として実施いただきたい」と公平な競争環境構築を促すためと理解を求めた。

 一方、ドコモの「中古販売価格」やソフトバンクの「中古買取価格」(後述)を基準にする案については「リアルタイムの価格を反映するにはコストがかかりすぎる」との意見を示した。

長期継続割引について「囲い込みを意図しないものは対象外に」

 長期継続で特典を付与することを規制する「継続利用割引の規律」について、KDDIは「囲い込みを意図しないものについては規制の対象外」にすることを要望した。

 たとえば、施策にかかわらずたまたま同一の料金プランを長期間契約しているユーザーに対し、新しいプランの通信料金を割引することでユーザーの移行を促進する施策については、規制の対象外にするよう要望している。

 このほか、3G→4Gへの移行に際してのみ提供可能とされている通信量割引について「ユーザーの乗り換え先を制限しかねない」とし、3Gサービスを終了/提供していない事業者に対しても提供できるようにすることや、コネクテッドカーに対して2万円規律を撤廃する提案などが示された。

ソフトバンク「中古買取価格を上限に」

中古買取価格を参考に割引上限を設定すべき

 ソフトバンクでも同様に、低廉な料金プランの提供や乗り換えの円滑化に向けた取り組みを進めてきた一方で、極端な端末のみ購入(白ロム)の値引きにより“転売ヤー”問題など弊害が生じたと評価。

 ソフトバンクでは、セット購入による通信料値引きや継続利用条件値引きの禁止規制はそのままに、端末料金の値引き規制や、回線のみ(SIMのみ)契約時の2万円規制の在り方について見直しが必要と考えを示した。

 ソフトバンクでは、回線セット販売時の上限2万円に加え、端末単体(白ロム)値引きを含めた割引上限額を設定してはどうかと提案。この割引上限は、端末の「中古買取り価格」を目安に規定することを提案した。中古買取り価格がない場合は、合計2万円までにすることを合わせて提案している。

 また、SIMのみ契約時の2万円規制について、現在「事業者からユーザー/代理店に対して合計2万円以内」の規制があるが、「代理店からユーザー」への利益提供については規制がない。これを「事業者/代理店からユーザーへの提供」を2万円以内とするべきだと提案した。この提案に対しては、ドコモとKDDI、楽天モバイルは賛同の考えを示した。

継続利用割引規制

 継続利用割引の規制について、ソフトバンクは「契約時に特典を明示していないユーザーに対し特典を付与する」場合を規制の対象外とすべき旨を提案した。本来の規律趣旨の対象外となる「継続促進効果がない」事例については、規律対象外にするべきとした。

 このほか、3G→4Gへの移行促進に関する「端末無償提供」できるものを、「3G専用プランユーザー」に加え、「3G/4G共通プランで3G端末を利用しているユーザー」に広げる旨を提案した。

楽天モバイル「シェアが低いMNO」も規制の対象外に

セット販売時の上限を2万円/価格の20%までに

 楽天モバイルでは、改正電気通信事業法の施行後新料金プランへの移行が進み国民負担の大きな軽減につながっていると評価するものの、「端末の過度な安値販売」や「長期にわたり移行しないユーザーが多数存在している」課題を指摘。

 現行の「セット販売時の上限2万円割引」規制を、回線とのセットかを問わず端末への利益提供を一定額までに制限することを提案した。

 上限額として、楽天モバイルは「10万円未満の端末は2万円まで」、「10万円以上の端末は、対照価格の20%まで」とすることを提案した。

継続利用割引

 楽天モバイルは自社の調査で、長期にわたり料金プランを乗り換えないユーザーが乗り換えない理由を「プランが多く複雑であるため、どれが自分にとっていいか正しい判断ができない」旨が半数以上に上っていることなどを取り上げ、公正な競争について利用者の認識が追いついていない実態を指摘。

 行き過ぎた囲い込みを防ぎつつも利用者の流動化を図り競争促進を促す規律が必要とし、シェアが低い事業者を対象外にしてはどうかとした。そこで、現行の長期利用割引で制限を受けないとされている「シェアが0.7%未満のMVNO」を拡大し「シェアが10%未満のMNO」と「すべてのMVNO」に拡大することを提案した。

 この提案に対し、WGからは「我田引水なのでは?」という指摘が上がったほか、ほかの事業者からも「見直す状況ではないのでは」(ドコモ)や、「楽天モバイルもすでに500万契約を超えているので、(規模の小さいところを除外する)趣旨を考えると適切ではない」(KDDI)、「当初定められたときの状況を見直す状況になっていない」(ソフトバンク)とそれぞれ考えを示した。

構成員からは「キャリアに端末販売をやめてもらいたい」と意見も

 セット販売時の割引規制により、一定程度の効果が見られたものの、端末単体(白ロム)販売時の値引きという“抜け道”により、不公平な競争環境化や“転売ヤー”の問題など新たな問題が発生した。

 構成員からは「通信料金を原資とする端末値引きはおかしいのではないかということで始めた議論だったが、結局端末1円販売など全く変わっていない」と指摘し「キャリア自体が“抜け道”を見つけてはじめられては不信感しかない。キャリアには端末の販売をやめていただきたいくらいだ」と厳しい意見も出た。

“転売ヤー”対策には4社とも「一定の成果」を強調

 公正な競争環境の確保に向けた取り組みとして、4社の取り組みが紹介された。

 端末のみ(白ロム)販売の拒否については、各社ともに「覆面調査」や「eラーニングの実施」「マニュアルの更新」など対応するほか、店頭掲示物や値札に「契約の有無にかかわらず購入できる」旨を明確に示すなどをアピール。

 また、“転売ヤー”に関しては、「割引を1端末1人まで」に限定することや、店舗を横断した購入履歴の共有、店頭での開封や外箱にユーザーの氏名を記入する(ドコモ)、開封の上動作確認を実施する旨などの取り組みが紹介された。

ドコモの取り組み
KDDIの取り組み
ソフトバンクの取り組み
楽天モバイルの取り組み