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激化するMNP競争、端末値引き「2万円規制」の見直しなど訴え――総務省の有識者会議

 総務省は28日、競争ルールの検証に関するワーキンググループおよび消費者保護ルールの在り方に関する検討会を開催した。本稿では資料をもとに関係団体や事業者各社の意見を紹介する。

 会合では通信料金と端末代金を完全分離した2019年の改正電気通信事業法、過度な囲い込みを禁止する法改正の効果と課題について各事業者から意見が主張された。ヒアリングの対象となったのは、MNO各社と一部のMVNO、販売代理店や端末メーカーなど。

極端な値引きが横行

 情報通信ネットワーク産業協会からは、通信契約とセットでの端末割引が抑制されたことにより端末の店頭価格が上昇したことやそれにともない、端末の買い替え需要が伸び悩み中古端末市場が活性化したとの分析が主張された。加えて、MNO各社から安価な料金プランが登場したことで、通信料金が下がり消費者の利益につながったとの見方を示した。

 一方で新たに浮上した課題として、端末単体販売での値引きが拡大したことを指摘。「一部の端末で『実質1円』などの販売が実施され、販売が一部端末に集中した」と競争環境が不公平なものになっているとした。

 さらに、新端末の需要が少なくなったことで新製品の価格が高騰。結果的に新たな技術が市場に広がっていないともされ、従来の割引の恩恵を受けていた層の購買欲が下がったことで5G普及やマイグレーションが遅れているとした。

転売が組織化

 違約金の上限設定やSIMロック禁止など、過度な囲い込みを禁止が利用者の通信会社の乗り換えの流動性につながった。

 しかし、その弊害として同協会では過当なMNP獲得競争が誘発され、販売代理店では白ロム割引などのキャンペーンが拡大しているという。端末により設定されている販売インセンティブが異なることから、一部のショップではインセンティブを優先した端末の販売が行われているとした。

 また、MNO各社で行われている残価保証型の端末購入サポートでは、同じキャリアで機種変更しなければならないとユーザーに誤解を受けている側面があるとして、これが乗り換えを阻害していると主張したほか、転売用の端末を安く買い集める転売業者が発生しているとも明かされた。

端末のライフサイクル長期化を

 同協会では、こうした結果から実質1円端末に販売が集中するなど、端末メーカーにとって不公平な環境、転売業者による不公平な取引の発生を問題視。転売業者への販売台数を制限するなどして、公平な競争環境を実現すべきとした。

 加えて、携帯端末は一定期間で新型を発売する必要があることから、ひんぱんな投資が必要とも指摘した。そのうえで少数の機種しか販売しないメーカーはその強みが活かせないとして「機種のライフサイクルを長くするような施策を要望する」としている。

 「料金分離はあるべき姿と考える」としたうえで料金プランとセットでの端末割引は2万円までとしている現行の制度は撤廃し、通信事業者に弾力性を持たせることでユーザーの端末買換意欲を高めるなどの方向性にすべきと主張した。

ミリ波端末優遇を主張するクアルコム

 同じく会合に参加したクアルコムジャパンからは、日本におけるミリ波普及に向けた課題を指摘した。

 ミリ波の基地局や対応端末は徐々に増えているものの、現状の課題として「都市部でもミリ波を利用できる機会は稀」であることや日本のミリ波対応端末が4%ほどで米国と比較して1/10以下であることを紹介した。

 ミリ波自体は各事業者で追加料金なしで利用できるものの、その性能を十分に活用したサービスが普及していない。

 そうしたなか、クアルコムでは、空港や地下鉄など高トラフィックエリアなどでのエリア整備に対してのインセンティブ付与やミリ波を活用するXRサービスの開発促進などを主張する。

 端末販売においては、現状では料金プランとのセット購入で2万円までに制限されている端末割引をミリ波対応端末に限っては4万円までに引き上げることを提案。ミリ波対応端末の普及促進とともに、差額が大きくなることで転売対策も期待できるとした。

 クアルコムでは、通信料金と端末代金の分離施策について、ハイエンド端末の需要が縮退し、ミドルレンジ以下への人気が集中。新たな技術導入の速度が低下したほか、各通信事業者の料金収入が減少したことで、設備投資も抑制され「ユーザーの選択肢が実態上狭まっている」としたほか、5Gの品質が世界の中で相対的に低い評価となりユーザーの利便性が低下したともされた。

過度なMNP競争是正を

 全国携帯電話販売代理店協会(全携協)では、通信料金と端末代金の完全分離により過当なMNP獲得競争が発生していることを問題視し、是正すべきと主張している。

 通信プランと端末代金が完全分離されて以降、携帯電話事業者間でのMNP獲得競争が激化しており、総務省などの資料をもとに消費者からの苦情も増えている実情を指摘した。さらに、SIMロックがなくなったことで、流動性は高まったが結果的に組織的な転売やSIM単体契約で仲介料を請求するなどの構造的な問題が発生していることを挙げる。

 こうした状況を受けて、全携協では端末のみの購入についても値引きの上限を設けることや2万円以上の端末値引きでは分割払いが必須となるような法改正や代理店の評価指標は機種変更に重点をおいたものにする必要があるとした。

主要MVNO2社が規制除外を訴え

 電気通信事業法第27条の3で定められる、端末代金の値引きや違約金の上限はMNOとその一部の関連企業のみならず、移動電気通信役務の割合が0.7%を超すMVNOも対象としている。これに該当するインターネットイニシアティブ(IIJ)とオプテージは、競争の加速・促進としてその割合を3%へ引き上げとすべきと主張していた。

 構成員から意見を問われたドコモでは「利用者の数が100万を超える事業者は競争への影響が少ないとはいえない」と指摘。ソフトバンクとともに現行制度を見直すべきではないとした。KDDIでも同様に制度変更は必要ないとしたが、IIJとオプテージが説明した規制によるコストやマーケティング機会の損失は、同じく課題として規律の簡素化やこれまでの実績を踏まえて手続きの簡素化などを進めていく必要があるとした。

 対照的に楽天モバイルは、「シェア0.7%では市場参入への足がかりすら得られていない」と主張。現在のモバイル市場でシェア0.7%では影響力が低く、法規制の対象となる事業者の基準を7%まで引き上げるべきとして、そのうえで「MVNO同様に当該基準に満たない新規参入のMNOを同じく適用対象外とすべき」とした。

 このほか、IIJとオプテージからは、MNOから設備を借りる立場上、5G SAなど同時期に同様のサービスを提供することが難しい現状やモバイル市場競争における規律・ガイドラインの適応を受けない固定回線代替モバイルサービスは競争上の影響が大きく、規制を見直すべきなどの声が上がった。