インタビュー

ドコモ井伊社長が語る「スマホ1円販売」と転売問題の原因と対策

 NTTドコモの井伊基之代表取締役社長が15日、本誌インタビューに応えた。

 インタビューは、法人事業の強化や店舗戦略など多岐に渡ったが、本稿では、一部の店頭で見受けられる「スマホ1円販売」に関するコメントをまとめた。

――この春、スマートフォンの新機種が1円で販売されることが見受けられました。円安であることから、海外へ転売されているという指摘もあります。この原因と対策はどう見ていますか。

井伊氏
 1円という破格の値段で端末を売ってるってこと自体が、まぁ、尋常な行為じゃないわけですよ。本来なら端末販売事業だけで収支を考えるべきなのに。

 でも、新規契約のきっかけの大半は、端末を新しいものに変えていただくタイミングなんですね。

 新しい端末を安くすることで、(携帯各社では)お客さまを新規に獲得する、つまり他社から自社へ流入させるっていう戦略が起きています。これは基本的には、キャリアチェンジを進める国の政策そのままなんですよ。

 そのために、期間拘束をなくしたり、違約金を下げたりするなど、いろんなハードルをなくしてきた。そうして、端末販売と回線を分離してきましたので、ポートイン(他社から自社への転入)での競争は、起きるべくして起きたことです。

 もちろん、0円、1円での販売を国が進めたわけではありません。

 でも、キャリア(携帯電話会社)は、結局どうしてもそのお客さんが欲しい。端末での利益を諦めてでも回線契約をしてくれれば、それで長期にわたり取り返していくっていう戦略なんですよ。

 回線と端末を分離したけど、結局は端末価格を安くしちゃって、回線で取り返すっていう過去の考え方は変わってないんですよね。

 むしろ、問題として起きたのは「1円端末を買って、そのまま海外などで高く転売をする」という転売屋さんていうマーケットができちゃって。

 それに危機を感じたショップのスタッフが(端末を)売らなかったら、それはルール違反だと指摘を受けた。

 「でも、いや、どう見てもこの人転売屋さんに見えちゃうからね」って反論するわけですが、「それはならん、売りなさい」と言われ、非常に現場の心を疲弊させてるという状況なんですよ。

 だから、私はもう基本的にはもう、もう一度、回線と端末はセットで販売するべきだと思っています。

――なるほど。

井伊氏
 問題は、端末価格を法外に(安くする)、たとえば中古品よりも安くすることがおかしいということ。そこで、真っ当な値下げ幅に規制するか、コントロールするか。

 ほとんどの人は端末買った携帯電話会社で、だいたい回線契約するんですよ。圧倒的にそうなんですよ。

 「他社で端末を買ってドコモ回線を選ぶ」という方は(店頭では)いませんからね。お客さんからすると、(ドコモショップで)全部やってくれるから来ている。バラバラで買う人って珍しい。

 もちろん、eSIMを使いたいから、端末だけ手に入れるという方もいます。SIMをMVNOにするという方も端末だけ買うことがあります。

 しかし、そうした方と転売屋さんとの見分けがつかない。

 もちろん、1回だけ購入するという方なら、端末と回線をそれぞれ手配してお使いになる方でしょう。

 何回も複数で(1円端末を)買われるなら転売目的でしょうと。だから、結局、繰り返し買ってるかどうかっていうチェックで、今、防ごうとしています。

 でも、いろいろ巧妙なやり方をされるのです。いろんな人を動員してきたり、違う店舗で買ったり、3カ月空けて買ったり、回線は契約するもののすぐ解約するとか。

 そんなふうに、いろんな手段で(転売目的で)端末だけを確保するっていうことが起きちゃっている。転売と、端末・回線を分離して手配される方の違いの見分けが本当に難しい。

 この社会問題は、我々だけで解決できない問題です。だから、やっぱり(政策として)端末の1円販売を止めるべきなんですよ。

――ある程度の値引きは?

井伊氏
 それはすると思います。自由経済での競争ですから。しかし、0円、1円での販売ってやっぱりちょっと歪んでますよね。「物の価値」があるのにゼロで売るのは、どこかで埋めているということです。

――2万円という割引上限幅も変えて欲しいという考えですか?

井伊氏
 割引上限は回線とのセット販売の場合ですね。白ロムなら制限はない。

 割引幅の規制は、「中古端末との価格を下回らなければいい」っていう考え方で良いんじゃないでしょうか。

 機種によって中古価格は異なりますが、それを下回らなければいい。中古価格は、中古市場でオープンになっている。「新品は中古より安くならない」というラインでいいのではないでしょうか。

――ただ、割引に関する規制を変えるのもまた大変そうです。

井伊氏
 そこは、総務省の有識者会合で、問題視されるのであれば議論していただいていいと思います。

 一度決めたルールだから変えちゃいけないというわけではないですよね。私は見直してほしいという意見です。

――たとえば次の春に間に合うのかなと……。

井伊氏
 そうですよね。だから、それは深刻さをどう捉えてるかですね。

 我々としては、「箱に名前を書く」とかいろんな方法を採っています。目先のやり方ですが、(異常な転売への)防衛策として箱に(名前を書くことで)“傷”があると、(転売時の)新品としての価値が下がるだろう、ということです。

 もちろん中身だけ新品として転売が成立する世界はいくらでもあるでしょう。特に海外への転売では、どこまで効き目があることかわかりません。

 それでも、ひとつの抑止力として、現場の知恵でやっています。何もしないよりはいいよね、と。