インタビュー
バルミューダ寺尾社長インタビュー(速報版)――製品や価格への声をどう受け止めたのか
2022年2月2日 22:57
バルミューダの寺尾玄社長は2日、グループインタビューに応じた。同氏はAndroidスマートフォン「BALMUDA Phone」を中心として、さまざまな内容を語った。
本記事では速報版として、寺尾社長の語った内容のうち、一部の話題に絞ってお届けする。
なお、本記事では取り上げていない内容に関しても、ロングインタビューとして別記事で紹介している。
製品の一時販売停止について
寺尾氏
1月の第2週に、(BALMUDA Phoneの)1週間の販売停止ということが起きた。経緯は報道されているとおりだが、京セラさんのほうから「技術適合証明の認証に確認すべき事項が発生した」との一報があった。
我々はスマホ(事業)を始めて1年生なので、「これがどういうことなのか」があまりよくわからない部分もあった。
そこでソフトバンクさんとも相談して、業界的に「主に監督省庁の意向を非常に重要視する」ということもあり、省庁さんに問い合わせた。
ただ、「運が悪かった」とは言いたくないが、省庁さんに聞いたのが(7日)金曜の夕方で(省庁さんは)お休みだった。さらに、そのあとは3連休というなかなかのタイミングだった。
しかし、聞いた以上は「(問題がある)おそれがあるものは販売してはならないんだろう」という判断で、非常に苦しい思いだったが販売停止というかたちを取らせていただいた。
その3連休中にあまりニュースがなかったこともあったのか、まさかテレビにまで取り上げられるとは思わなかったが、我々にとってはマイナスの意味でかなりの話題を作ってしまった。
とはいえ、連休明けの3営業日で解決まで持っていっていただいたので、京セラさんの足腰の強さを感じられたし、その部分は感謝をしている。で、(14日)金曜日から販売を再開させていただいた。
消費者の皆さんに対しては、心配になるような話題がかなり拡散してしまったということで、そこまで続いていた販売の勢いも(販売再開からは)いったん落ちてしまった。現在は、それを取り戻すという作業をしているところ。
当然ながら、現時点では何ら問題のない100点満点の端末になっているので、その部分はご承知おきいただきたい。
とはいえ、お騒がせして申し訳なかったと感じている。「このまま(販売)停止かな」という覚悟もしたが、ソフトウェアアップデートで解決できたことは、「スマートフォンならではの便利さ」なのかなとも感じた。
これが家電だったらリコールになっているが、スマートフォンの場合はソフトウェアアップデートができる。「BALMUDA Phone」は、アプリアップデートや新たなソフトウェアの投入によって体験価値を上げられる機械でもある、と認識したできごとでもあった。
製品に関する議論について
寺尾氏
「BALMUDA Phone」の発表はかなり盛り上がったと思う。2週間で(BALMUDA Phoneの)認知度は35%で、日本人の35%が知っているということになる。「Pixel」シリーズに届くんじゃないかぐらいの認知度は作った(編集部注:バルミューダ広報によれば、『Pixelと同等の認知度』は誤りだったとのこと)。
その理由として、我々のコミュニケーションの方法に一因はあったと思う。
ただ、ここまで盛り上がるというのは、「全員が“当事者”」ということ。たとえばトースターの当事者というのは、キッチンに立つ人かもしれないし、料理好きな人かもしれない。そうではない人は、当事者ではなくなる。
ところがスマートフォンは全員が当事者で、「自分はこう思う」という声の出し主が圧倒的に多い。
そういう人に向けてどのようにコミュニケーションをしていくかを考えたとき、家電製品でもやってきたように丁寧にやっていくしかない。一発で伝わるものではないので。
体験価値というか、生活がどのように変わるかというのは、(デバイスを)持っただけではわからなくて、使ってみないとわからない。過去に何度も直面してきたが、「体験を伝える」というのは難しいと痛感している。
そして、我々が望んでいるポジションと、実際に我々が今いる場所にはギャップがある。これを埋めるためには、着実なソフトウェアのアップデートや後継機のローンチなど、ブランド自体の信頼感を上げることが最も重要だと思う。
まだ我々は「BALMUDA Phone」一台しか出しておらず、我々がどういう行動をしていくのか、それを実際にお見せするには時間が必要だと思っている。
あとは「BALMUDA Phone」の予算もあって、「スペックに対して価格が高いじゃないか」というマイナス面もある。
ただ、自分では「(BALMUDA Phoneは)自分が使ったなかで最も使いやすい端末」と思っていて、それはアプリのおかげ。
スマートフォンの体験は「画面の中での体験」が大部分だと思うので、ひとつのことをするのに10秒かかっていたのが1秒でできるようになると、それは人々に可能性を提供するということを意味する。
洗濯機を例に出すと、それまで手で洗って時間がかかっていたものが自動化されて、人々は「時間」を得た。洗濯にかかっていた時間を使ってほかのことができる、というのが「便利さの正体」だと思っている。
「BALMUDA Phone」は「Snapdragon 765」を搭載しているが、実際の作業が速いか遅いかというのは、チップセットの性能よりもアプリの使いやすさに依拠すると思う。そして、そこへのアプローチができるのは非常に面白いと考える。
「BALMUDA Phone」のコアバリューは「大きさ」。端末のサイズがこれ以上大きくなったら、初代の「BALMUDA Phone」ではないと思っていた。運良く話題にはなったが、ここまで急な角度で投入したからこそ、盛り上がりを作れたと思う。
我々は新参者なので、「おしゃれ家電のバルミューダが間違ってスマホ作ったよ」みたいなことには絶対にしたくなかった。そこで、最初の製品はある程度エッジを立てて参入すべきと考えていた。
そのなかのコアバリューとして「BALMUDA Phone」の「大きさ」を実現するうえで、Snapdragonの8シリーズを使うと、バッテリーが持たなくなる。
「BALMUDA Phone」のバッテリーは最低2400mAhというのは決めていて、これは「iPhone 13 mini」と同等のラインだった。結局はバッテリーを2500mAhとしたが、「BALMUDA Phone」のメモリーやストレージ、Snapdragonの7シリーズも、端末の「サイズ」を達成するための最良のバランスとして選ばれたもの。
製品の価格について
寺尾氏
「BALMUDA Phone」の価格に関しては、デザイン面でのこだわりなども価格に大きく影響している。
たとえばデザインを優先した結果、通常1枚であるはずの基板が6枚もついているというところなど、端末自体の作りにくさなどが原価に影響している。独自アプリの開発費も重いが、そこは投資と見ていて、諦めてはならないと考えている。
できれば価格をもう少し安く勝負したかったというのは正直思うし、素晴らしい価格だとは思っていない。ただ、タイムマシンに乗って(過去に戻り)、「もう一度同じ決断をしろ」と言われていても、「まあこれでいくしかないね」と決断していたはず。
実は「BALMUDA Phone」の企画段階では、目標とする価格はもっと安かった。ただし、コアバリューを守るためにいろいろなことが起きて、最終的に我々のねらいより高い価格になった。
我々のほかの家電でもそうだが、「何を作るのか」と考えたときに、「安いものではなくて、お客さんに喜びを提供できるものや(お客さんの)喜びを最大化するもの」という考えで、設計やデザインを始める。
そのため、企画を始めて実際に作るなかで価格が上がっていくケースが多い。ただし、作っていくなかで徹底的にコストダウンして、「すごくいいものを可能な限り一番安い価格で提供する」というのがバルミューダの考え方。
同じものだったら、1円でも安いほうが、売れるチャンスが増える。(売れるチャンスを増やし)1人でも多くの方に使っていただきたいという願いをもって、すべての商品を作っている。
ソフト更新の展望
寺尾氏
2022年に関しては、「BALMUDA Phone」は8月にAndroid 12に対応する予定。来年も予定を組んでいる。
サポートという意味では、走ってみないとわからないところもある。チップセットとOSというのはグーグルやクアルコムとの関係性で、(OSアップデートは)1つのチップセットに対して2~3年しか彼らが約束しない。
したがって、OSアップデートとしては、(BALMUDA Phoneが搭載する)「Snapdragon 765」ができるところが限界になる。
ただ、我々が提供している独自アプリに関しては、サポートができるだけ長いほうがいいと思う。今のところなるべく長くサポートしたいと思っているが、今は具体的に答えられるだけの材料は持ちあわせていない。
細かい使い心地の向上や、独自アプリの改善などは、数え切れないくらいのものを毎月やっていく予定。「BALMUDA Phone」未搭載のアプリも開発しているし、具体的な数字は明かせないが、驚きの開発費をかけている。
ハードとソフトの関係性は最強だと思っていて、私としては一番可能性を感じているところ。「アプリケーションで生活が変わる」ということを、バルミューダテクノロジーズでみなさんに提供していきたい。
また、我々のコアバリューは「究極の利便性」。それを目指して積極的にアプリ改善などに取り組み、「(BALMUDA Phoneが)毎月少しずつ便利になる」という姿も見せることで、信頼感を得ていきたい。
そして、事業をさらに大きくしていくなかで、利便性をなるべく多くの人に提供していきたいと考えている。
【お詫びと訂正 2022/02/03 15:33】
記事初出時、「基板」とすべきところを「基盤」としておりました。お詫びして訂正いたします。