法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

「BALMUDA Phone」から見えるスマートフォン進化の課題

バルミューダ/ソフトバンク「BALMUDA Phone」、約123mm(高さ)×約69mm(幅)×約13.7mm(厚さ)、約138g(重さ)、ブラック(写真)、ホワイトをラインアップ

 2021年5月に開発が発表され、11月に発売されたバルミューダのスマートフォン「BALMUDA Phone」。SIMフリー版に加え、ソフトバンクでも取り扱うなど、鳴り物入りで登場した感もあるが、発表直後から価格とスペックのバランスを中心に、ネット上では厳しい意見が飛び交い、一部には強烈に否定的な反応も見受けられる。

 すでに本誌では速報記事やクイックレビューなどが掲載されているが、筆者も実機を試すことができたので、端末の印象を踏まえながら、そこから見えてくる業界の課題についても考えてみよう。

十数年で大きく変わった市場

 今年(2022年)3月31日に、auが3Gサービスを終了することもあり、最近、3G時代の端末が話題になったり、3G関連のコメントを求められたりすることが増えている。「昔は良かった」などと言うつもりはまったくないが、3G時代の端末は個性的な端末が多く、各社のこだわりや工夫をいろいろな部分に見ることができた。

 しかし、この十数年の主役は言うまでもなく、スマートフォンであり、前回の「Surface Duo 2」の記事でも触れたように、その形状は前面のほとんどをディスプレイが占めるスレート(板状)型のボディに集約されている。本体を前面から見て、機種の見分けができないほど、デザインの差がほとんど感じられなくなっているのも事実だ。

 もっともiPhoneについては、ディスプレイの上下に分厚い額縁を備えていたり、上部に大きなノッチ(切り欠き)を備えているので、Androidスマートフォンではないことがすぐにわかるが、ノッチを備えているからと言って、前面から見ただけではiPhone 11/12/13を見分けるのは難しそうだ。昨年、アップルの創業者であるスティーブ・ウォズニアックが「新しいiPhoneを手に入れた。でも、本当に違いがわからない」とつぶやいてしまうくらいなのだから、当然と言えば、当然なのだが……。

 デザイン以外にもこの十数年で大きく変わったことがある。それは端末メーカーの数だ。昨年11月、auは十数年ぶりにケータイ時代を象徴するブランドのひとつである「G'zOne」を復活させ、「G'zOne TYPE-XX」を発売した。改めて説明するまでもないが、すでにカシオ計算機はカシオ日立、NECカシオを経て、携帯電話市場から撤退しているが、今回のモデルは歴代モデルのCASIOのデザインチームがデザインを担当し、TORQUEシリーズでタフネスの系譜を受け継いだ京セラが製造することで、世に送り出された端末だ。

 ケータイ時代はカシオ計算機やNEC、日立製作所以外にもパナソニックや三菱電機など、十社以上のメーカーが端末を開発し、各携帯電話会社向けに供給していた。しかし、今や国内メーカーはシャープ、ソニー、京セラ、FCNT(富士通)など、数社に限られている。もちろん、これはスマートフォンへ移行や市場原理に基づいた結果なので、仕方のないことだが、端末を供給するメーカーが少なくなったことで、スマートフォンに新しいアイデアが足りなくなり、目新しさが感じられなくなってきた側面もある。

スマートフォン市場に新規参入するバルミューダ

 今回、バルミューダが発売した「BALMUDA Phone」は、既報の通り、バルミューダがデザインを手がけ、端末の製造は京セラが担当している。解釈の仕方はいろいろあるが、国内メーカーとしては久しぶりの新規参入という捉え方もできる。昨年5月、同社がスマートフォンを開発するというニュースを聞いたとき、筆者は「TORQUEシリーズのノウハウを活かし、アウトドアを意識したモデルを出すのかな?」と予想していたが、その見当はまったく外れ、予想以上に個性的なスマートフォンを出してきた。

背面には指紋センサー内蔵電源ボタン、カメラ、LEDが備えられ、中央にはロゴが彫り込まれている

 ちなみに、バルミューダについてはあらためて説明するまでもないが、発表会でも説明されていたように、2003年に設立され、パソコン用スタンド(冷却台)の「X-Base」を第一弾製品として、スタートを切っている。その後、2010年に発売された「GreenFan」は、当時、ほとんどの製品が数千円程度の扇風機の市場に3万円台の製品を投入し、注目を集めた。2015年にはこちらもほとんどの製品が数千円程度のトースターの市場に、2万円を超える「BALMUDA The Toaster」を投入し、これが大ヒットを記録している。筆者は残念ながら、扇風機やトースターに数万円を出すほどの余裕がないため、いずれの製品も持っていないが、ホテルに宿泊したとき、朝食コーナーでBALMUDA The Toasterを体験したり、周囲に同社製品を愛用する知人が居たため、製品そのものは知っていた。

 また、バルミューダに対する捉え方もさまざまだ。記事などでは『デザイン家電』のメーカーと評されることが多いが、同社の製品ラインアップを見てみると、外観のデザインを整える一方、機能などは抑え、シンプルにすることで、扱いやすく、わかりやすい製品を目指しているようだ。たとえば、同社が販売する電子レンジは、他の家電メーカーの製品のような豊富な機能がなく、「あたため」や「解凍」など、よく使われる機能が搭載されているのみ。機能の比較表を作れば、おそらく他製品に劣っているが、5万円弱という価格帯ながら、高い人気を得ているという。どちらの手法が正しい/正しくないというものでもないが、扇風機にせよ、電子レンジにせよ、高機能を追求してきたジャンルの製品だからこそ、同社製品のシンプルなアプローチとデザインが受け入れられ、他社製品よりも高めの価格設定ながら、支持されてきたように見受けられる。

 今回の「BALMUDA Phone」について、ある国内メーカーの担当者に「どう見ていますか?」とたずねられたが、そのとき、筆者は「出るべくして、出たような気がします」と答えた。その理由はスマートフォンがハードウェアのスペックやプラットフォームの完成度が高められ、製品としても市場としてもかなり成熟した状況にあるため、その対角を狙う製品が登場する機運にあったことが挙げられる。

 ただ、それが受け入れられるかどうか、支持されるか否かは、また別の話で、今回の「BALMUDA Phone」に対するネット上の辛らつなコメントを見ると、国内のスマートフォン市場には同社が考えるコンセプトが今ひとつ伝わらなかったようだ。これは同社の説明不足もあれば、価格設定、スペックなども関係している。

手に持ちやすいデザイン

 さて、バルミューダ製品の方向性や市場の背景の話はこれくらいにして、実機を見ながら、その内容について、少しチェックしてみよう。すでに、本誌では「BALMUDA Phone」に関連する記事がいくつか掲載されているので、詳細なスペックなどはそちらを参照していただくとして、ここでは実機の使用感や印象に加え、そこから見えてくることなどについて、説明する。

左側面にはシーソー式音量キーを備える。背面のラウンド具合いがよくわかる
右側面はSIMカードスロットを備える

 「BALMUDA Phone」が特徴的なのは、やはり、その外観、デザインだろう。発表会のプレゼンテーションでも「河原の石ころをイメージした」と説明していたが、背面を独特な丸みを帯びた形状に仕上げ、その中心に「Balmuda」のネームが刻まれている。

下部はUSB Type-C外部接続端子を備える。背面はラウンドしているが、端子部分はほぼ垂直に立っている構造

 「石ころをイメージ……」という表現は、過去にもいくつかの端末のデザインとしてモチーフにされ、ケータイ時代に発売されたau design projectの「PENK(ペンク)」などが思い出される。「BALMUDA Phone」を手にすると、確かにフィット感はいいが、現在のスマートフォンの使い方を考えると、やや扱いにくい形状とも言える。

 たとえば、オフィスや外出先のカフェなどでは、スマートフォンを机の上に置いておくことが多いが、背面が大きくラウンドしているため、本体が水平方向に回転してしまったり、タッチ操作をしようにもゴロンゴロンと動いてしまい、あまり扱いやすくない。ボディそのものはコンパクトなため、138gと軽く、シャツの胸ポケットやパンツのポケットなどに入れたときは、すんなりと収まるが、女性が持ち歩くときのように、カバンに入れると、ボディが実測で14mm程度と分厚いため、今ひとつ収まりが良くない。

 少し視点を変えてみると、発表会のプレゼンテーションで「スマートフォンにとらわれすぎているんじゃないか?」といった説明があり、実は端末を裏返し、机の上でもディスプレイを下向きに置くと、収まりも良く、スマートフォンの通知にとらわれないような使い方ができそうだ。そういった使い方を踏まえてか、背面のカメラの横に備えられたLEDランプは着信中や不在着信時に点灯する設定を用意している。

ホワイト(左)とブラック(右)の背面。独特のシボ感のある仕上げで、手触りはユニーク

 また、このラウンドした背面は、「BALMUDA Phone」の機能をスポイルしている部分もある。そのひとつがワイヤレス充電だ。「BALMUDA Phone」には2500mAhのバッテリーが搭載されており、これを本体下部のUSB Type-C外部接続端子、もしくはQi対応のワイヤレス充電で充電できる。現在、市場で販売されているワイヤレス充電器には、フラットなコースタータイプ、端末を立てて置くスタンドタイプの2種類があるが、「BALMUDA Phone」の場合、コースタータイプには置けるものの、スタンドタイプには端末を置く飛び出し部分があまり大きくないため、製品によっては「BALMUDA Phone」がスタンドから転げ落ちそうになる。外部接続端子による充電は利用できるが、防水防塵の耐久性や端子付近のキズなどを考えると、外部接続端子よりもワイヤレス充電を優先したいが、充電器を選んでしまうのは残念なポイントだ。

背面に備えられた指紋センサー内蔵電源ボタン(左)とカメラ(右)。電源ボタンは少し凹んだ位置に備えられている

 バッテリーについては「2500mAhは少なすぎる」という指摘が多い。確かに、最近ではコンパクトな端末でも4000mAh程度のバッテリーを搭載するモデルがあり、約3割以上、少ない容量は心許ないが、ディスプレイサイズが4.9インチとあまり大きくないため、ギリギリのバランスが取れる容量という解釈もできる。最終的にはユーザーの使い方次第で、足りる/足りないの評価は分かれるが、動画視聴やゲームなど、バッテリー消費が多い用途がないのであれば、実用になるレベルと見ていいだろう。

ピンで取り出すタイプのSIMカードトレイ。メモリーカードの増設はできない

 ボディ背面の上部には、後述するカメラと指紋センサー内蔵電源ボタンが対称的にレイアウトされている。指紋センサーを内蔵した電源ボタンは、他製品でも採用されているが、ほとんどの機種は側面に備えられており、ちょっと新鮮な印象だ。人さし指を会わせやすい位置にあるため、指紋認証はスムーズだが、形状としては少し凹んだ位置にあるため、爪の長い女性などは少し押しにくいかもしれない。

角を丸めたディスプレイ

 ディスプレイはフルHD対応4.9インチTFT液晶を採用する。ディスプレイについても発表会のプレゼンテーションで「4.5インチから5.5インチまで、0.1インチ刻みでモックアップを作り、最適なサイズとして、4.8インチを選んだが、部品が入りきらないため、4.9インチを選んだ」と、サイズ選びにも強いこだわりを語っていた。

 これまでのバルミューダ製品を見ると、こうしたこだわりも納得できると言いたいところだが、ディスプレイのサイズ選びについては、どのメーカーも調達可能な部品とボディデザインの兼ね合いで、何種類ものモックアップを製作しており、「BALMUDA Phone」に限ったものではない。ただ、新規参入のメーカーながら、自らのこだわりを持って、サイズを選んだことは、評価できる。ディスプレイ周りで少しユニークなのは、ディスプレイの4つの角が丸みを帯びた仕上げになっていることが挙げられる。この点は「曲線だけで構成されたスマートフォン」という基本コンセプトを裏付けるものだ。

ホワイト(左)とブラック(右)の2色展開。本体前面も本体と同じカラー

 逆に、ディスプレイで気になるのは、対角サイズだろう。ボディサイズとの兼ね合いで、4.9インチが選ばれたが、正直なところ、あまり視認性がいいとは言えない。もちろん、プレゼンテーションで語られていた「ディスプレイの大画面化に比例して、ボディサイズが大きくなり、扱いにくくなっている」という指摘に納得できる部分もあるが、現在のスマートフォンの用途を考えると、もうひと回り大きいサイズでも良かったような気がする。こういう表現はあまり良くないかもしれないが、大人の手にはやや小さく、ある一定以上の年齢層には見えにくく感じられるかもしれない。後述するアプリの扱いなどを考えてももうワンクラス上のサイズを検討しても良かったのではないだろうか。このあたりは製品のコンセプトや考え方にもよるので、どれが正解とは言えないが、購入を検討する人は現在使っている機種と並べて、同じアプリを起動して、視認性を比較することをおすすめしたい。「スマートフォンに依存しない=あまり画面を見ない」という考えがあったとしてもディスプレイズは、ユーザビリティを大きく左右するからだ。

チューニングしたというカメラだが……

 もうひとつハードウェアで特徴的なのはカメラだ。

 背面カメラは4800万画素CMOSイメージセンサーとF値F1.8のレンズ、前面カメラは800万画素CMOSイメージセンサーとF値2.0のレンズをそれぞれ組み合わせている。最近は普及価格帯のモデルでもマルチカメラが標準で、エントリークラスでも撮影用のイメージセンサーと深度センサーで構成するモデルが一般的だが、「BALMUDA Phone」ではシングルカメラを搭載してきた。

カメラのユーザーインターフェイスは独自のもので、ファインダー内の[△]ボタンをタップすると、こうしたメニューが表示される。料理や人物、夜景などのモードはここで切り替える

 発表時のプレゼンテーションでは「トースターやレンジなど、料理に関わる製品を手がけてきたノウハウを活かした『料理モード』を搭載した」とアピールしていたが、製品が発売されてみると、料理モードも美味しそうに撮れたとは言えず、その後のアップデートで多少の改善が見られたものの、まだまだ物足りなさが残った。筆者が普段、レビューなどで撮影している薄暗いバーでの撮影もノイズが多く、あまりいい印象は得られなかった。昼間の屋外など、明るいところでの撮影は標準的だが、暗いところや夜景の撮影などは少し工夫が必要なようだ。

薄暗いバーで撮影。カクテルのグラスにピントが合い、背景のボトルはうまくボケている
同じ薄暗いバーで撮影したが、こちらは明るさが足りないのか、手前側にかなり感度を上げたときのノイズが出てしまっている

 スマートフォンのカメラは製品によって、目指す方向性が異なるが、普段使いの端末としては、カメラを起動し、何も設定せず、それなりの写真が撮れるというのがベースラインだ。シーンとしては室内、被写体は人物や料理などがターゲットになりそうだが、残念ながら、「BALMUDA Phone」はこれらのシチュエーションで十分な性能を発揮できているとは言い難く、正直なところ、物足りない。シングルカメラでどこまでチューニングできるのかは不明だが、もう一息の頑張りを期待したいところだ。

夜の駅を撮影。やや周囲が暗くなってしまっている
ホテルの部屋からガラス越しに夜景を撮影

注目される独自アプリによる差別化

 「BALMUDA Phone」はボディサイズやディスプレイ、カメラなど、ハードウェアについて、やや力不足を感じたり、もしくは賛否両論が聞かれる内容となっているが、ソフトウェアについては少し注目すべきポイントがある。

 まず、標準でプリセットされる独自アプリとして、「Scheduler」「Memo」「Watch」「Calculator」などが搭載され、ホーム画面もショートカットやカスタマイズができるユニークなものを採用する。

「Scheduler」を起動すると、ウィザード形式の説明が表示される。最近の端末ではあまり見かけないが、ユーザーとしてはうれしい
「Scheduler」の画面。ピンチ操作で動かすと、週や月の表示に切り替えられる

 「Scheduler」はピンチ操作によって、日、週、月、年と切り替えることができ、初期設定時にはピンチ操作による動きを視覚的に理解させるアニメーションも流れる。「Memo」は単にテキストを入力するだけでなく、メモに色を付けたり、ドラッグで位置を変えたりできる。

同じく「Scheduler」のデモ画面。白い2つの●を動かすアニメーションで表現

 「Watch」は一般的な時計アプリと同じだが、腕時計のような回転ベゼルのデザインを採用し、視覚的にわかりやすく表現している。「Calculator」は一般的な数値の区切りに利用する「,」(カンマ)表記に加え、日本語の「億」や「万」といった単位での表示に切り替えられるほか、ドルやユーロなど、諸外国の当日の為替レートに基づく通貨換算にも対応する。バルミューダとしてはボディのデザインだけでなく、アプリによって、他製品との差別化を図ろうという考えだ。

「Calculator」を起動したときもデモ画面が表示される。為替計算や億万表示に切り替えることができる

独自アプリが抱える課題

 こうした実用性を考えた各社の独自アプリは、スマートフォンが登場したばかりの頃、各社が積極的に搭載していたが、最近では見かけることが少なくなっている。

 「端末を裏返すと、着信音を止める」「画面を見ているときは表示を継続」「着信時に端末を耳元に移動すると応答」など、ちょっとした便利機能が実装される程度に抑えられており、スマートフォンの標準的なアプリもAndroidプラットフォーム標準のものに移行しつつある。

パネルのアイコン表示などもオリジナルのデザイン。「音/振動」は少しわかりにくい

 たとえば、撮影した写真や動画を表示するアプリは、Googleフォトと連携した[フォト]アプリに統合され、独自のアプリを提供しているのはGoogleの各サービスが自国で利用できない中国のシャオミやOPPOくらいで、それ以外はサムスンのGalaxyシリーズが何とか[ギャラリー]アプリで頑張っている程度だ。

 日本のユーザーにとって欠かせない日本語入力もAndroidプラットフォーム標準の[Gboard]への移行が進められ、現在はサムスンの「Galaxyキーボード」、シャープの「S-Shoin」、FCNT(富士通)の「ATOK ULTIAS」などに限られており、かつて予測変換の先駆者だったソニーの「POBox」はすでにXperiaに搭載されていない。

 こうした状況になってきた背景には、アプリの開発コストなどが関係している一方、Googleとして、Androidスマートフォンのユーザーインターフェイスを統一していきたいという思惑が見え隠れする。同時に、Androidプラットフォームのバージョンが進んだとき、各社がアップデートで対応できるかどうかという問題も絡んでくる。各携帯電話会社ブランドのスマートフォンがプラットフォームのアップデートに対応できなかったり、バージョンアップが遅くなった要因も各携帯電話会社のアプリの対応が関係している。

Androidプラットフォーム標準アプリで本当に十分?

 では、今回の「BALMUDA Phone」に搭載されている独自アプリはどうか。実は、発表会の質疑応答でも質問が出たが、アプリをアップデートする方針であることは示されたものの、いつまで対応するのか、Androidプラットフォームを何年サポートするのかといった情報は明言されなかった。こうした状況を見て、「なぜ、各社が独自アプリをやらなくなったのかがわかっていない」といった指摘も多くされたが、これはもうひとつ別の視点で考えてみてもいいだろう。

ホーム画面のストライプを斜めにスワイプすることで、指定にアプリを起動できる。カスタマイズも可能

 スマートフォンの使い方は人それぞれだが、時代と共に、こうしたデジタルデバイスに求められる用途やニーズは少しずつ変化しており、デジタルデバイスを体験してきた年代によって、求めるものが違うように見える。たとえば、現在の若い世代のユーザーにとって、InstagramやTwitterなどのSNS、YouTubeやTikTokなどの動画は、スマートフォンのもっとも重要な使い道だが、年代が少し上になると、ビジネスユースが増え、メールやブラウザなどの基本機能に加え、Officeアプリなどを使うことが増え、カレンダーや連絡先なども重要度が増す。筆者の勝手な解釈だが、おそらく40~50代以上のユーザーは、スマートフォンをかつてのPDA(Personal Digital Assistant)と呼ばれていたデジタルツールの進化形と捉え、カレンダーや連絡先、メモといった『電子手帳』的な要素を求める人も少なくない。

[Toolsの設定]ではホーム画面で使うことができるアプリを設定することが可能

 では、現状のAndroidスマートフォンはどうか。[フォト]アプリや日本語入力を見てもわかるように、標準的なアプリはAndroidプラットフォーム標準のGoogleのアプリに半ば固定され、端末メーカーが独自のアプリを搭載することが減っている。端末そのものについてもGoogleアシスタントのための専用ボタンを備えるように端末メーカーに求めるなど、オープンプラットフォームを謳いながら、細かい制約が増えているように見える。

 たとえば、仕事でもプライベートでもスケジュール管理は大切だが、Googleの[カレンダー]アプリは、本当に使いやすいと言えるだろうか。アプリには好みがあるため、どれが正解というつもりはまったくないが、筆者自身はGalaxyシリーズの[カレンダー]アプリの方が好みだ。人によってはほかのカレンダーアプリが気に入っているかもしれない。

 カレンダーに限らず、こうしたスマートフォンで利用する標準的なアプリは、もっといろいろな選択肢があっても良く、Androidプラットフォームが成熟してきた状況だからこそ、取り組む手法が考えられるはずだ。その意味から考えると、「BALMUDA Phone」に搭載された独自アプリの「Scheduler」はひとつのチャレンジとして、評価できるのではないだろうか。もちろん、搭載するからには発売時にアップデートやサポートについて、しっかりと説明することは必須だが……。

「BALMUDA Phone」は高いのか、安いのか

 さて、「BALMUDA Phone」に対する評価で、もっとも多くの人が指摘していたのは価格だ。確かに、搭載されているチップセット、ディスプレイ、メモリーなどの仕様を考慮すると、SIMフリー版の「10万4800円」、ソフトバンク版の「14万3280円」は高いと言わざるを得ないだろう。チップセットで探してみると、オウガ・ジャパンの「OPPO Reno 5 A」、シャープのau及びソフトバンク向けの「AQUOS zero5G basic」などが同クラスになるが、発売時期が違うものの、いずれも5万円前後で販売されている。つまり、「BALMUDA Phone」は約2倍から2.5倍のの価格が設定されているわけだ。

パッケージには本体以外に、SIMピンや書類などが同梱されるシンプルな構成

 これまでバルミューダが同社の家電製品のラインアップにおいて、優れたデザインや使いやすいシンプルな機能で、他製品よりもワンランク高い価格設定の商品を展開し、成功を収めてきた。トースターのように、バルミューダの参入によって、他メーカーも新しい製品に取り組み、市場が拡大したような事例もある。

 ただ、スマートフォンや携帯電話、パソコン、タブレットといったIT製品については、どうしてもスペックによって、判断されてしまう傾向が強い。その影響もあって、ネット上では辛らつな反応、特に価格に対しての厳しいコメントが数多く寄せられた。しかし、価格についても少し冷静に考えたいところがある。

 確かに、スマートフォンやパソコンの性能は、CPUやメモリー、ストレージ、ディスプレイサイズなどによって、大きく変わってくる。しかし、CPUなどの性能だけで、その商品の価値が決まるかというと、そういうわけでもない。ユーザーに支持されるかどうかは別として、デザインや機能、使いやすさなど、いろいろな面で評価されてもいいはずだ。筆者は一連のチップセット性能だけで善し悪しを語る反応を見ていて、CPUなどの性能面ばかりが語られたことで、一気に面白みがなくなり、市場が縮小していったパソコン市場を思い浮かべた。もちろん、性能と価格のバランスはある程度、必要だが、「Snapdragon 765搭載で10万円なんて、あり得ない」といった短絡的な評価は、あまり適切なものとは言えないだろう。裏を返せば、バルミューダ自身もその価格を裏付けるだけのものが十分に提示したり、説明できていないとも言えるわけだ。

 また、バルミューダが約10万円という価格を設定したのは、生産台数との兼ね合いもあるという見方もある。発表会ではソフトバンクの常務執行役員の菅野圭吾氏も登壇し、両社のパートナーシップをアピールしたが、業界内ではバルミューダが国内の各携帯電話会社に納入を打診し、最終的に話がまとまったのはソフトバンクのみだったとも噂されている。真偽のほどは定かではないが、仮に4社、もしくは主要3社が取り扱っていれば、ある程度、台数が見込めたが、それが実現できなかったため、約10万円という価格が設定されたという見方もできる。あくまでも個人的な見解だが、せめて、あと1万円ほど安ければ、随分と印象が異なったような気がするのだが……。

 「BALMUDA Phone」の価格については、ソフトバンクの価格も少し触れておこう。賢明な読者であれば、もうおわかりだろうが、最近のソフトバンクが販売するスマートフォンの価格は、基本的に「新トクするサポート」の利用を前提に設定されている。「BALMUDA Phone」で言えば、月額2985円×48回払いで購入し、24回まで支払い後に端末を返却することを前提に計算されており、この購入方法でソフトバンクが損をしない程度の価格を設定しているわけだ。単純に計算すれば、2年後に7万1640円以上の価値があると計算していることになる。実際には、もう少し差異があるかもしれないが、基本的にソフトバンクの端末価格が高いことは、販売プログラムが前提条件にあるためだ。

 こうした販売方法や価格設定を否定するつもりはないが、メーカーが販売するSIMフリーモデルに対し、40%も上乗せをする販売価格は、さすがにどうだろうか。しかも業界内ではソフトバンクが端末の調達について、「独占販売」を求めることが多いと噂されており、それが本当なら、SIMロックがかけられていないとは言え、ユーザーにとってはあまり望ましい状況とは言えない。当然、こうした状況を生み出したのは、電気通信事業法改正による総務省の端末購入サポートのコントロールであり、昨年末以来、家電量販店などを中心に展開されているiPhoneの安売りなどを見てもわかるように、かなり歪な市場が形成されてしまったようだ。この件は機会があれば、また別途、取り上げたいが、ソフトバンクにはもう少し販売価格の設定について、見直しを期したいしたいところだ。

チャレンジは評価できるが、もっと真摯な説明が求められる

 昨年11月に発表され、国内市場に発売された「BALMUDA Phone」について、その内容を紹介しながら、周囲を取り巻く課題なども含めて、説明してきた。

 冒頭でも触れたように、現在、国内の携帯電話市場ではさまざまなメーカーが端末を販売しているが、国内メーカーはわずか4社ほどしかない。グローバルな製品ジャンルなので、国内だ、海外だという話でもないが、新しいメーカーが国内市場に参入してきたことは、素直に歓迎したい。

 ただ、発表会のプレゼンテーションを見ていて、ちょっと不安に感じられたのは、バルミューダの代表取締役社長の寺尾玄氏のこだわりが強く打ち出されたことで、「自分らは全部わかっている」「こういうのが正しいでしょ」といったアピールばかりが目立ってしまったことが挙げられる。プレゼンテーションで語られた「スマートフォンに依存しすぎているのでは?」「大画面のスマートフォンって、持ちにくくないですか?」「似たようなデザインばかりで面白くないのでは?」など、掲げた問いかけには共感できる要素も数多くあり、実際に端末を触ってみると、「人によっては、こういうのもアリかな(値段は別にして)」と思える部分もある。しかし、スマートフォンをはじめとしたIT機器に興味を持つ消費者に対しては、感覚的なものだけでなく、もう少し真摯でロジカルな説明も必要だろう。

 また、発売後にはカメラ機能の修正などでアップデートが提供されたほか、今月に入ってからは一部の周波数帯域で干渉ノイズが許容値を超える可能性があることが判明し、改めてアップデートが実施された。この件についてはバルミューダ、ソフトバンク、京セラからもアナウンスされ、ひとまず事なきを得たが、ちょっと珍しいケースだったのかもしれない。

 バルミューダは今回の「BALMUDA Phone」を皮切りに、Balmuda Technologiesとして、IT機器をリリースしていく計画だと言う。「次期モデルはタブレット?」といったウワサもあるが、今後、どのようにユーザーの期待に応えていくのか、市場をにぎわせてくれるのかを期待しながら待ちたい。

SoftBankオンラインショップ
BALMUDA Phoneの情報をチェック