インタビュー

写真・動画編集アプリ「Picsart」の石田氏に聞く、今後の展望

 日進月歩の勢いで進化を続けるスマートフォンのカメラによって、手軽に美しい写真を撮れるようになった。さらに、編集アプリを使えば、より完成度の高い写真を生み出すこともできる。

 「Picsart(ピクスアート)」は世界中に多くのユーザーを抱える写真・動画編集アプリで、月間アクティブユーザー(MAU)の数は実に1億5000万以上。一般ユーザーだけでなく、クリエイティブな活動を生業とする「プロシューマー」と呼ばれるユーザーも、同アプリを愛用しているという。

 今回は日本・韓国担当のゼネラルマネージャーである石田直樹氏へのインタビューを実施し、「Picsart」ならではの強みや今後の戦略について聞いた。

インタビュイー
  • Picsart 日本・韓国担当 ゼネラルマネージャー 石田直樹氏
石田氏

――「写真・動画編集」などと調べると多くのアプリが出てくると思いますが、そのなかで「Picsart」ならではの強みは何でしょうか。

石田氏
 「Picsart」の強みは、「テクノロジー」「コンテンツ」「コミュニティ」という3つだと思っています。

 テクノロジーに関して、「Picsart」ではAIを活用したツールが3000以上用意されています。こうした機能を使うと、たとえばワンタップで人の輪郭を認識して、その人以外の背景を変更するような複雑な処理も可能になります。

 次に2つ目のコンテンツについて、「Picsart」では自分が撮った写真以外にも、3億を超える写真やステッカーなどのコンテンツを利用できます。

 最後はコミュニティです。「Picsart」には、全世界1億5000万人の月間アクティブユーザー(MAU)がいて、ユーザー同士が一緒に新しいものをつくることも可能なプラットフォームになっています。

――それでは、まずはテクノロジーからお聞きします。先ほどおっしゃった「AI」はスマートフォン業界でも大きな話題のひとつだと思っていて、たとえばグーグルも画像加工処理「消しゴムマジック」を発表しました。そしてこれには、同社独自のチップセット「Tensor」のAI性能が大きく寄与しているようです。こうしたハードウェアの進化が、アプリケーションの機能にもたらすものは何でしょうか?

石田氏
 ハードウェアがより賢く強力になったおかげで、我々のサービスもよりクリエイティブかつパワフルになっていると思います。

 たとえば画像処理のスピードが向上したことで、背景の除去や顔認識などが可能になるということもその一例です。チップセットの性能向上のおかげで我々のツールもより良くなるという流れは、今後も続いていくと考えています。

――そうしたハードウェアのアップデートに合わせて、御社ではどのようなかたちでアプリ開発をしているのでしょうか?

石田氏
 私は、Picsartはテクノロジーの会社だと思っています。Picsartの社員は約1000人ですが、その8割はエンジニアです。たとえばハードウェアのアップデートがあった場合も、エンジニアチームがまずはそれを認識してプロダクトチームへ情報を共有し、プロダクト開発につなげています。

――世界中にユーザーを抱えているアプリということで、ローカライズの大変さはありますか。

石田氏
 ローカライズに関しては、非常に奥が深いものだという印象を持っています。一言でローカライズと言っても2つあると思っていて、それが「アプリ」「コンテンツ」それぞれのローカライズです。

 アプリのローカライズでいえば、たとえば説明文を英語から日本語にするような翻訳だけでなくて、UI/UXの改善も対象です。たとえばその地域のユーザーの使用頻度の多いツールを表示するなど、ABテストを何百回も繰り返して、各リージョンに最適なローカライズを行っています。

 もうひとつはコンテンツのローカライズで、先ほど「Picsart」ではさまざまなコンテンツを用意していると言いましたが、国が違えばユーザーに刺さるコンテンツも違います。ですから、日本人のユーザーに好きになってもらえそうなコンテンツを自社で作成し、アプリの中に用意するようにしています。

――日本人に合わせたコンテンツをつくるとおっしゃいましたが、ほかの国でも同じようなことをされているんですか?

石田氏
 いえ、我々のオペレーションという意味では、日本は最も進んでいる国のひとつです。カントリーマネージャーがいたり、コンテンツをつくるクリエイティブチームを実際に抱えていたり、というのはすべての国でできているわけではないので。我々としても、日本は重要なマーケットのひとつとしてとらえています。

――「Picsart」は、日本のどのようなユーザーが多く使っているのでしょうか。

石田氏
 日本に関しては、250万人の月間アクティブユーザー(MAU)がいます。そのうち35歳以下のユーザーが80%で、性別で言えば女性のユーザーが多い傾向にあります。これは日本に限らず、ほとんどのマーケットで似た傾向にはなっています。

――なるほど。ユーザー層に関して、アプリのローンチ当初から変わってきた部分などはありますか。

石田氏
 サブスクリプションで課金をしているユーザー数の比率に向けると、趣味よりもビジネス目的で使う人たちがかなり増えました。我々が「プロシューマー」と呼んでいる人々です。

――「プロシューマー」というと、具体的にどのような人々のことを指すのでしょうか。

石田氏
 具体例はさまざまですが、クリエイティブな活動によって生活の一部かすべてをまかなっている人たちです。たとえばフリーランスの方もそうですし、いわゆる“インフルエンサー”と呼ばれる人もプロシューマーに含まれます。

――プロシューマーの人たちが、「Picsart」をよく使う理由はどのあたりにあるのでしょう。

石田氏
 我々のアプリは“オールインワンアプリ”として提供しているので、これひとつで複雑な処理も簡単にできるということが大きいと思います。

 今のプロシューマーには、たとえばSNSで一気に有名になるように、ネットの世界での夢を持っている“Z世代”の人たちも多くいて。そういう人たちには、写真や動画の編集が簡単かつスピーディーにできるプラットフォームは、親和性が高いのではと思いますね。

――そうしたZ世代の方へアプローチしていくうえで、「Picsart」が重視している部分はどのあたりにありますか。

石田氏
 AIなどのテクノロジーの力で、ユーザーの方がやりたいと思っていることをサポートすることですね。Z世代の方にとっては、パソコンよりも使い慣れたスマートフォンでいろいろ加工できる、というほうが良いのかなと思っているので。

 我々が目指している世界は、イマジネーションとクリエイティブ、つまり想像と創造物との間にバリアがない世界です。思っていることや考えていることをすぐに可視化するためのツールとして、「Picsart」のテクノロジーやコミュニティが役に立てばと思っています。

――2021年8月には資金調達も実施されました。この資金調達も、テクノロジーの強化などを意図したものだったのでしょうか。

石田氏
 はい。我々はやはりテクノロジーの会社だと思っていまして、そのなかでも複雑な編集を簡単にする、という意味ではAIの力が重要になってきます。

 12月には、マシンラーニングに特化した「ディープクラフト」という会社を買収しました。これによって「Picsart」のテクノロジーを強化していく目的があって、このような買収も将来的に増えていくと思います。

 もちろん社内でも、AIに長けた人材を育てていって、社内外の両方でテクノロジーの強化を図っていきたいと考えています。

――ありがとうございました。