インタビュー

バルミューダ寺尾社長ロングインタビュー、「BALMUDA Phone」の開発秘話など

 バルミューダの寺尾玄社長は2日、グループインタビューに応じた。同氏はAndroidスマートフォン「BALMUDA Phone」を中心として、さまざまな内容を語った。

 本誌ではすでに速報版として、寺尾社長の語った内容のうち、一部の話題に絞ってお届けした。本記事では、速報版の記事で取り上げなかった部分を中心に、一問一答というかたちでお届けする。

寺尾社長

端末開発のきっかけ

――「BALMUDA Phone」開発のきっかけについて教えてほしい。

寺尾氏
 2020年1月に、社員に向けて「スマートフォンを作りたい」という話をした。その1月に、プロジェクトリーダーの高荷(高荷隆文氏、モバイルデバイス事業部 プロジェクトリーダー)が中国の深セン地区などにすぐ飛んだ。

 我々は当時スマートフォンに関してまったくの素人だったので、(スマートフォンが)いったいいくらで作れるのか、どれくらいの期間で作れるのかもわからなかった。

 そこで高荷がいろいろな現地メーカーに直接会って、聞ける範囲で情報を聞き出し、おおよその開発費をつかんで帰ってきた。

高荷氏(バルミューダ モバイルデバイス事業部 プロジェクトリーダー)

 高荷によれば「これくらいの規模の開発費で、まあ無理だと思います」という話だったが、「これは頑張ればできるんじゃないか」と思って、GOサインを出した。

 正直、我々にとってはかなりの背伸び。

 ただ、背伸びをしないと企業は成長しないと思っている。バルミューダも、いろいろな失敗やチャレンジを経て、血を流して膝を擦りむきながら成長させてきた。

開発秘話、京セラとの試行錯誤など

――京セラとタッグを組んだ決め手は。

寺尾氏
 やっぱり私にとっては「ブランド」。信頼や安全という意味では、圧倒的に京セラさんがブランド力が高いと私は感じていた。

――国内メーカーにこだわっていたわけではないのか。

寺尾氏
 そうではない。国内では京セラさんとしか話をしていない。海外メーカーに関しては、多くのメーカーと話をした。

――「BALMUDA Phone」が今のようなかたちになるまで、どれほどの試行錯誤を重ねてきたのか。

寺尾氏
 最終形に至るまで、300台のモックを作ってきた。モックにはミリ単位でしか違わないようなものもあって、試行錯誤を重ねてきた。

ずらりと並んだモック。これでも、300台のうちの一部だという

――モックのバリエーションはどの程度あるのか教えてほしい。

寺尾氏
 最初のモックとしての1番から、大きい番号で分類すると10番まである。それぞれの番号の下に枝番もあるので、結果的に300台という数字になった。

「BALMUDA Phone」の最初のモック

――「BALMUDA Phone」のサイズを実現するうえでの苦労話は。

寺尾氏
 京セラさんと話をしはじめたころ、先方は部品をCAD上で詰め込んでいった。そのCADを見せてもらったところ、画面は平らだったが、後ろのボディからはいろいろな部品が突き出していた(笑)。

 「これではとても入らない」ということになって、「少し大きくしなくては」という話になった。しかも「5G対応」という仕様が加わり「さらに入らない」となったが、私は“大きさ”にコアバリューがあると思っていた。

 そこで「大きさはそのままにして、画面を大きくして縁をなくす」という発想になり、現在のような形状になった。

「BALMUDA Phone」のモック。実際の製品より縁が太い

――丸いボディにパーツを配置するうえで、京セラとのやり取りはどのような感じだったのか。

寺尾氏
 (京セラさんとは)ものすごいやりあった。向こうとしてはいかに平らにさせるかということでアプローチが何度もあったが、我々が「どうしてもこれをやりたい」ということで押し通した。

 ただ、普通はこういうことはしないので、彼ら(京セラ)も「結構根性あるな」と思った。

「BALMUDA Phone」のフレーム

――曲線中心のデザインを実現した工夫を教えてほしい。

寺尾氏
 通常であれば基板が1枚~2枚のところ、「BALMUDA Phone」の場合は基板が6枚ついていて、ラウンドバックを実現するためにいろいろな工夫が施されている。

「BALMUDA Phone」の基板

――ディスプレイも曲線にこだわった、とのことだが。

寺尾氏
 液晶の光る部分もストレートには作っておらず、曲線でできあがっている。光る素子も曲線に沿って並べているので、ディスプレイメーカーに嫌がられた。

 デザイン携帯を作りたいと思ったら、メーカーさんが持ってる携帯の“ガワ”を作り変えるというのが一番速いと思うが、我々はそうしなかったので、なかなか険しい道を自ら選んでしまった。

 ただ、そこまでしてやりたかったスタイルということ。自分がどうしても欲しいと思ったものを作りたくて貫いたところはある。

――カラーリングで白が出たタイミングはいつごろか。

寺尾氏
 本開発が始まるころに2色で行こう、ということになった。

――白いカラーのモデルに関して、フロントパネルのベゼルも白にしようとした意図を教えてほしい。差別化を図ったのか。

寺尾氏
 差別化というよりも、実際に付けてみたときに「白ボディで黒ベゼル」というのが異様だった。白ベゼルはいろいろな不具合が起きるとされているし、現在の市場からはほとんど姿を消しているので、ディスプレイメーカーは嫌がった。

“幻”のモデル名

――背面に「KYOTO」という文字が印字されているモックがあるが。

寺尾氏
 実は「KYOTO」を(BALMUDA Phoneの)商品名にすることを考えていた。

右上に「KYOTO」の文字が確認できる

――その名称候補の由来は。

寺尾氏
 「BALMUDA Phone」のデザインの元ネタは、「京都の寺院にあるような、水を張ったくりぬかれた石」というイメージ。

 今回は当然ながら日本市場向けのみの展開だが、「BALMUDA Phone」のプロジェクトを始めたとき、「世界でどう見えるか」ということも最初から考えていた。

 そこで「KYOTO」という名前のスマートフォンがあったら、世界で面白がられるのではというイメージで候補としたが、法律的に実現しなかった。

――法律的に、というのは具体的にどのようなことなのか。

寺尾氏
 まず、商標が取れない。

 あとは「BALMUDA Phone」は国内産だが、京都産ではない。それなのに「KYOTO」と名乗るのは、「京都市から何か言われる可能性がある」と法務に指摘されたので断念した。

――「BERLIN(ベルリン)」と印字されたモックもある。

寺尾氏
 開発段階でデザインなどが「KYOTO」から大きく変わったタイミングだった。自分たちがわかりやすいように、仮にコードネームを「BERLIN」とした。

「BERLIN」と印字されたモック

――最終的な商品名に決まった理由は何だったのか。

寺尾氏
 実は商品名に関しては、私が1000くらい考えていた。ただ、どうしても決められなくて、最終的にタイムアップとなった。「印刷物の関係でそろそろ間に合いません、社長」と言われて「では、“BALMUDA Phone”で」という決め方だった。

――最終的にかなりシンプルな名前になった、という印象がある。

寺尾氏
 スマートフォンには本当にいろいろな機能が入っているので、名前をつけようとしたときに商標で引っかかる範囲がとても広い。カメラやオーディオ分野なども考慮すると、使える名前があまりない。

 個人的に「BALMUDA Phone」にはかわいらしさも感じており、私が名称候補のなかで最も気に入っていたのは「バンビ」。当然ながら巨大な会社に商標を押さえられていたので断念した。そのようなものがいくつもあって、「レモネード」もだめだった。

 「BALMUDA Phone」は、散々悩んで決まらなかった末の名前。「これだったら誰も文句言わないだろう」というものになっている。

――バルミューダのほかの家電製品同様、「The Phone」にしなかったのには理由があるのか。

寺尾氏
 まず、バルミューダとバルミューダテクノロジーのブランドとしての違いがある。

 あとは、たとえばロングスパンで売るものだったら「The」は付けやすいと思うが、スマートフォンは毎年変わっていくので、「The」はないだろうと思った。

生産体制と今後の目標

――「BALMUDA Phone」の生産体制に関して教えてほしい。部材不足などの影響は。

寺尾氏
 (BALMUDA Phoneについては)京セラさんにお願いしているが、京セラさんは世界中でほかの端末も売っているので、調達能力は高いと思う。

 「BALMUDA Phone」の部材に関しては昨年にすべて仕込み終わっているので、部品切れや供給切れというのは、今のところは認知していない。

 我々のスマートフォンチームに関して、設計は自社ではやっていないが、設計をレビューする能力は持っている。本当はすべて自分たちで手がけたいと思っているが、それをしようとしたらスマートフォン業界に参入できなかったと思う。

 今後は、少しずつ自分たちの責任範囲を広げていきたいと思っている。

ユーザーの反響

――「BALMUDA Phone」に対するユーザーからの反響はどのようなものなのか。

寺尾氏
 「小さくて見にくい」「エッジが手に痛い」という声をいただいている。

 一方で、「人に褒められる」という話も聞いている。「コンビニで『かっこいいですね』と言われた」というような話もあり、ルックスの良さもご評価いただいている。

 あとはやはり、「独自アプリが使いやすい」というお褒めの言葉が一番多い。

――そうした一般ユーザーからのフィードバックは、どのようなかたちで受けるのか。

寺尾氏
 コールセンターやメールベースが多い。

――端末のカラーリングで、白と黒はどちらが人気なのか。

寺尾氏
 黒のほうが若干人気が高い。

価格や販路について

――バルミューダのブランド性を保つ意味などで、「逆に価格が高いほうがいい」という考えはあるのか。

寺尾氏
 一切ない。我々の家電もそうだが、たとえばトースターは裏面まで塗っている。ほかにも、部品の点数が多かったり製造過程が複雑だったりということで高くなる。

 ただ、「安いものではなく、お客さんに喜びを提供できるもの、喜びを最大化するものをつくる」という考えを重視している。そのうえで徹底的にコストダウンし、「すごくいいものを一番安い価格で提供する」というのがバルミューダ。

 (コーヒーメーカーを指差しながら)このコーヒーメーカーの価格は5万9400円だが、企画段階では3万9800円だった。ただ、作り込んだ結果、部品の点数なども増え、我々がつけられる最安値が5万9400円になった。

 ほかの商品でも、企画段階から価格が下がったケースは記憶にない。

――「BALMUDA Phone」の販路についての考えを教えてほしい。今回、ソフトバンクとのタッグがなければ「BALMUDA Phone」発売は実現しなかったのか。

寺尾氏
 今回の「BALMUDA Phone」に関しては、ソフトバンクさんとパートナーシップを結べたので、GOをかけられた部分はある。

 さすがにSIMフリーだけで、「俺たちだけで売ろうぜ」というかたちであれば、投資額に対して社員も株主の方も納得しなかっただろうと思う。

スマートフォンの“本質”とは

――スマートフォンの“本質”に関する考えを教えてほしい。

寺尾氏
 「利便性」だと思う。「BALMUDA Phone」に限った話ではないが、冷静に考えるとスマートフォンは素晴らしい道具。

 なんで素晴らしいかというと、やはり便利だから。「便利さの本質は『時間』の提供にある」と思っていて、それは人々に対する可能性の提供を意味する。

 究極の利便性を目指した結果、人々の可能性を最大化するというのが、スマートフォンという道具の本質だと思っている。

――「BALMUDA Phone」も、その本質に根ざしているのか。

寺尾氏
 我々が今回提案したかったのは、「生活密着型」のスマートフォン。いかに人々の生活が良くなるかを考えた。

 たとえばパスタを茹でるときのタイマーをセットしたり、目覚ましの時刻をセットしたりなどということが、「BALMUDA Phone」の独自アプリではスピーディーにできる。

 このスピードは、「人々の可能性」を創出するためのもの。

ソフト更新などの予定

――今後、ソフトウェアのアップデートなどについて考えていることは。

寺尾氏
 実はすごくいっぱいあって、アプリのバグ修正などの保守を、1カ月に1回程度は実施し続けていこうと思っている。

 2月には、「ウォッチ」アプリを「天気と時間」というアプリにリニューアルする予定。これまでは時間だけが表示されていた場所に、世界時計と世界の天気予報も含まれるようになる。

左:アップデート後の「天気と時間」、右:アップデート前の「ウォッチ」

 「計算機」アプリもアップデートする予定。これまで「億万表示」「通貨換算」を特徴としていて、現在は5つの通貨だけだが、それが21カ国の通貨に対応する。また、単位換算もできるようになる。

「計算機」アプリのアップデートも計画中だという

 また、独自アプリについて、夏や秋にも大きいニュースを提供できると考えている。「スケジューラ」というアプリが個人的に一番できがいいと思っているが、これも秋口には大進化させようと思っている。

――「スケジューラ」に関しては、「もっと大きな画面で使いたい」という意見もある。

寺尾氏
 我々としては、いろいろな可能性を確認して検討している。我々は開発会社なので、ほかのタブレットでこのアプリを動かせるが、実際にやってみると非常に便利。

 こうしたアプリを本気で広めていく選択肢もあるし、ハードウェアとセットで提供してハードを成長させていくことも可能で、いろいろなことができると思っている。

 それが、“アプリとハードの塊”であるスマートフォンやタブレット、パソコンの素晴らしさだと感じる。

新たなケースも

――「BALMUDA Phone」に関して、そのほか何か新しい情報があれば教えてほしい。

寺尾氏
 「チェスターフィールド」というケースを発売する予定。素材にはTPUを採用している。

新たなケース「チェスターフィールド」

――こうしたケースのデザインなどに、寺尾社長のこだわりは入っているのか。

寺尾氏
 独自アプリ同様、ケースも私が原案を出して、デザイナーに「こういうものを作ってください」とお願いしている。最後の仕上げに関しても、私がクリエイティブの部長でもあるので責任を持っている。

――今回の新ケースに込められた意図というのは。

寺尾氏
 そもそも「BALMUDA Phone」というのは、使っている姿の美しさをすごく考えて作った商品。昔、オバマ大統領がブラックベリーを鬼のように使っていたときに、「まるで聖書を見ているようだ」と言われたことがある。

 スマートフォンは年中使う道具なので,そういう“所作”のきれいさというのは必要だと思ったし、それを提案していきたいという思いがあった。

 第2弾となる今回のケースは、チェスターフィールドのソファーをモチーフにして作った。

 今後は第3弾、第4弾も企画している。ケースは気軽に付け替えできるので、お好きなものを選んでいただいて、自分らしく使っていただきたいという思いがある。

左は第1弾のケース「スキニー」

今後の展望

――バルミューダテクノロジーズの商品として、たとえばパソコンの周辺機器などにも興味はあるのか。

寺尾氏
 個人的に、周辺機器みたいなことはあまり考えていない。やるんだったらパソコンをやったほうが面白いと思う。

 かつてパソコン用の台を作り始めたとき、「本当は上をやりたい」という悔しさがあった。今回、製造は京セラさんにやっていただいたが、やっと自分たちのブランドをつけたコンピューター(BALMUDA Phone)を出せた。

 それをきちんと育てていくということを考えるにしても、やっぱり(周辺機器ではなく)真ん中をやりたいという思いがある。

バルミューダによる、パソコン用の台

――「BALMUDA Phone」の後継機については。

寺尾氏
 後継機か、もしかしたら併売になるかもしれないというモデルの企画は始まっている。一度リングに立ったので、「もう打ち続けるしかない」という覚悟で、全社を上げて取り組んでいる。

 詳細はお伝えできないが、「スマートフォンとは呼ばないだろう」というサイズのディスプレイのデバイスも、開発が超初期段階にある。

 まだ「BALMUDA Phone」しか世に出していないので、「もしかしたらこれでやめるのでは」という心配もあるかもしれないが、我々としてはまったくそんなつもりはない。

――新たな端末で“肝”になってくる部分は。

寺尾氏
 チップセットが割と肝になってくる。我々は、OSアップデートを最長化したい。

 今回の「BALMUDA Phone」は「Snapdragon 765」を搭載しているが、別モデルでは、OSアップデートを最長化できるチップセットを選びたいと思っている。

――新たな端末の開発期間は、もっと短くできるのか。

寺尾氏
 できると思う。今回「BALMUDA Phone」のラウンドボディをやることで、我々としても京セラさんとしても試行錯誤を重ねてきたので、次に同じようなコンセプトのものを作るとしたら、期間は短縮できる。

――今後、ラウンドフォルムはアイデンティティとなっていくのか。

寺尾氏
 当面は非常に重要なアイコンになるのでは、と私は考えている。

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