インタビュー
ドコモのまだ見ぬ大規模災害に向けた取り組みとは、東日本大震災からの取り組みを聞く
2021年3月9日 06:00
2021年3月11日で、東日本大震災から10年を迎える。通信インフラを支える携帯電話各社は、当時どのような被害があったのか。被害からの復旧と、大規模災害を教訓とした新たな災害対策、復旧支援など各社の取り組みを取材した。
今回は、NTTドコモの取り組みを同社災害対策室の瀧本氏に聞いた。
全国6720の基地局で被害
――東日本大震災発生時の被害状況を教えて下さい。
瀧本氏
2011年3月11日14時46分に地震が発生し、(地震だけでなく)“津波”という大きなものが発生しました。
ドコモの基地局では、東北地方だけで4900局、全国で6720局でサービスの中断が発生しました。
また、当時はフィーチャーフォンが多く、コミュニケーションに音声通話を使用するのが主流でした。このため、地震発生直後に安否確認の電話などが急増し、東北で通常の60倍、都内で50倍の音声トラフィックが集中し、電話が繋がりづらい状況でした。
基地局の中断の原因は、「停電」、「親回線の伝送路障害」、「基地局の損壊」です。震災時はこれまでの災害とは違い、広範囲にわたる「広域停電」の発生や、津波で光回線や基地局自体が流されるなどの被害がありました。
――どのような形で復旧されたのでしょうか。
瀧本氏
停電した基地局には、発動発電機や移動電源車を設置して電源を確保し、伝送路の障害を受けた基地局には移動基地局車や衛星による通信手段を確保し、サービスを再開しました。
当時は、全国の拠点から約4000人の作業員を導入し、急ピッチで復旧作業をすすめ、4月末ごろには震災前の水準に復旧できました。
サービス中断が長期化するなか、全国各地のリソースを集中させ、私を含め多くの社員が設備の復旧作業や復旧支援、に取り組みました。
大規模災害に対応した新たな基地局
――東日本大震災後、災害復旧の体制に変化はありましたか?
瀧本氏
ドコモでは、翌年度までに役場等の重要な拠点をカバーする全国1900の基地局へのバッテリー電源の24時間化や無停電化に取り組みました。また、平行して移動基地局車や移動電源車の増強を行いました。
――東日本大震災を契機に、取り入れた災害対策を教えて下さい
瀧本氏
東日本大震災のような大規模災害時には、広範囲で多くの基地局でサービス中断が発生しました。そこで、生命を守り救うための音声通話といった重要な通信を確保するため、広範囲をカバーできる「大ゾーン基地局」と「中ゾーン基地局」を全国に配置しました。
大ゾーン基地局は、全国106カ所、都内では6局設置しています。広域停電などで広範囲で基地局のサービスが中断した場合に稼働し、1つの大ゾーン基地局で約半径7キロメートルをカバーします。
災害時に使用し、、平常時は使用しておりません。大量にデータ通信を使用するような用途ではなく、災害時に音声通話などのライフラインを確保する目的として設置しています。
災害はどこで起こるかわかりませんが、全国の県庁所在地や人口密集地などに設置しており、全国の人口の約35%がカバーできるようになっています。
次に、中ゾーン基地局ですが、こちらは全国2000カ所以上の基地局を強靭化し、「より災害に強い基地局」として設置しています。
主な対策として、光回線などの伝送路の2ルート化やバッテリーなどで24時間電源を確保しています。
設置場所は、過去の災害などを考慮しつつ、災害発生時の災害対策本部となる役所などの行政機関や、災害拠点病院などをエリア化できるように設置し、災害時に重要となる場所の通信を確保しています。
このほか、衛星エントランス基地局といった災害対策機器の増強などを進めています。
ドローンや船舶を使った新たな取り組み
――基地局の強靭化以外の取り組みはありますか?
瀧本氏
ドコモでは、「ドローン」と「船舶」を使用した取り組みを行っています。
「ドローン」の取り組みは「災害状況を確認するドローン」と臨時の基地局となる「有線ドローン」の2つがあります。
災害が起こり道路が寸断された状態では、基地局などの被災状況が見えない場合があります。このような場合に、ドローンを飛ばし上空から被災状況を確認できます。
もう一つの「有線ドローン」は、ドローンが基地局となりエリアを確保するものです。24時間程度であれば稼働させられ、山中での捜索活動など一時的な通信確保のためにスポット的なエリアを確保できます。
船舶を活用した取り組みでは、沿岸をエリア化できる「船上基地局」を配備しています。
陸から電波を飛ばせない場所などに対し、海上の船にある基地局から電波を飛ばしてエリア化します。広域災害時でも、船上からだと広域にエリア展開できるため、一度に広いエリアの通信手段を確保できます。
ユーザーへの災害支援活動
――ここまで、通信エリアの災害対策を伺ってきました。我々ユーザーが実際に災害に遭った場合、ドコモからどういった支援を受けられますか?
瀧本氏
ドコモでは、全国の避難所やドコモショップで、無料の充電サービスや無料Wi-Fiサービスを提供しています。
また、全国各地にドコモが持っている自社ビルを開放し、充電などでお客様に活用してもらえるようにします。実際に、2018年に発生した北海道胆振東部地震の際は、北海道のほぼ全域で停電(ブラックアウト)しましたが、ドコモ北海道ビルをお客様に開放し、充電など活用いただきました。
――停電中でも、ドコモのビルでは電源確保できるのですね。
瀧本氏
はい。ドコモの主要ビルは停電時でもネットワークが止まらないようにエンジン(発電機)を備えています。
また、光ファイバーの多ルート化、交換機の二重化三重化などでネットワークが止まらない工夫をしています。
――自治体などへの支援も教えて下さい。
瀧本氏
ドコモでは、自治体や災害復旧を支援する自衛隊などと災害時の協定を結び連携して復旧活動を進めています。復旧活動や支援活動に必要な衛星電話などの貸し出しを行い、通信インフラとしての災害復旧支援を行っています。
また、全国のドコモグループで災害時の基地局復旧の訓練を定期的に実施しています。自衛隊とは、ドコモの訓練に自衛隊が参加したり、自衛隊の訓練にドコモが参加したりするなどで、災害時の連携を確認しています。
災害時はデータ通信の活用を
――大規模災害時に、ユーザーが知っておくべきサービスや気をつけておくことはありますか?
瀧本氏
ドコモでは、大規模災害発生時に災害用伝言板のサービスを提供しています。
また、安否確認の電話は音声をパケットで送れる「+メッセージ」といったアプリや、SNSなどを活用いただきたいです。
――音声通話よりデータ通信のほうが繋がりやすいのですか?
瀧本氏
はい、音声通話はリアルタイム性を求められるため、(許容量をオーバーした場合)繋がりづらくなります。
一方、データ通信では多少遅延が生じても確実にデータを届けるようになっています。実際、東日本大震災発生時は、音声通話が50~60倍のトラフィック量だったのに対し、データ通信は数倍程度に収まっています。災害時はデータ通信のほうが通信がしやすいですね。
――最後に、災害対策についてユーザーにメッセージがあればお願いします。
瀧本氏
ドコモでは、過去の災害を経験しながら強靭化したネットワークでサービスを提供しています。災害は起きるもので仕方のないことですが、なるべく早く通信サービスを再開させられるよう、日頃からの訓練などライフライン確保に努めています。
お客様への支援も全社一丸となって対応しており、安心していただけるよう災害対策に取り組んでいます。
今後も、お客様に安心してサービスを利用してもらえるよう、引き続き災害への取り組みを続けていきます。
――本日はありがとうございました。