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ドコモ、200億円規模のさらなる災害対策を解説
きっかけになった台風21号や北海道胆振東部地震への対応、大ゾーン基地局の運用も紹介
2018年11月5日 15:01
NTTドコモは、今後2年間で200億円規模の災害対策を追加的に実施する。10月31日に開催した上期決算の説明会で明らかにされたもので、11月5日には記者向けに説明会が開催され、契機となった今夏の災害対応とともに、追加投資の内容が解説された。
2018年は、6月に大阪府北部地震、7月には西日本を中心に豪雨(平成30年7月豪雨)が発生。さらに9月に入ると、9月3~5日に台風21号が上陸・通過し近畿地方を中心に大きな被害が発生。直後の6日には北海道胆振東部地震が発生し、台風と地震が重なった「複合災害」として、生活インフラだけでなく通信ネットワークにも大きな被害をもたらした。なお、6月と7月のドコモの災害対応については別途ニュース記事を掲載している。
ドコモでは、9月の台風21号と北海道胆振東部地震の被害で、最大約2800局の基地局でサービスの中断が発生。グループや関係各社でのべ約2500名体制で復旧にあたった。ドコモが定める基準での「復旧報」は、台風21号では発生から約10日間、北海道胆振東部地震では発生から約5日間で“暫定復旧報”(避難などで人のいないエリアを除いたもの)にこぎつけている。
実は和歌山で検討していた大ゾーン基地局の運用
ドコモの多くの基地局は、遠隔操作で電波の向きを調整できるため、損傷や停電、バッテリーの枯渇などでダウンした基地局のサービスエリアを、周辺のダウンしていない基地局がカバーする体制を敷いている。
一方、停電が長期化すると広範囲にサービス中断エリアが拡大するため、こうした予想される最悪の事態を救済する最後の手段として用意していたのが「大ゾーン基地局」だ。担当者をして「予備の予備」と言うほどの、最終手段として用意されているもので、東日本大震災を機に全国の主要都市などに整備されている。北海道には札幌、旭川、釧路に大ゾーン基地局が設置されており、今回の北海道胆振東部地震では釧路にて、全国でも初めてとなる大ゾーン基地局の運用が行われた。
説明にあたったNTTドコモ ネットワーク本部 サービス運用部 災害対策室長の小林和則氏によれば、前述の周辺の基地局のカバーに限度があったことと、停電の長期化が予想されたことから、釧路で大ゾーン基地局の運用を決定したという。大ゾーン基地局は自家発電設備を備え、最大で半径7kmをカバーできるが、ダウンしていない基地局に干渉してしまうため、今回は状況をみて半径3kmに絞って運用したとのこと。3km以内で稼働していた基地局は大ゾーン基地局に譲る形で一時的に運用を止めて対応したという。復電が進んだことで、釧路での大ゾーン基地局の運用は約1日間で終了した。
なお、大ゾーン基地局の整備が開始された頃は3Gが主流だったが、現在の設備はLTEにも対応、ドコモが利用するすべての周波数帯に対応している。また、今回の釧路の運用中に大ゾーン基地局のトラフィックが逼迫することはなかったとしている。
ドコモの小林氏は、大ゾーン基地局の全国初の運用は、直前(9月3日~)の台風21号の被害を受けて、和歌山県の和歌山市にて運用を検討していたことも明かしている。復電が進んだことで結果的に運用しなかったが、復電の見込み予測や慎重な判断に反省もあったとし、その直後の北海道の大停電では、復電の情報や周辺基地局でカバーする状況を見ながら運用を決断したという。
「充電」対策を強化へ
北海道胆振東部地震ではまた、停電が比較的長期化したことから、携帯電話・スマートフォンを充電できる設備に長蛇の列ができるなどの状況も発生した。ドコモショップでは、一部では“充電待ち”に3時間といった状況が発生、充電は一人20分までといった対応がとられたという。こうした状況は、今後のさらなる災害対策で対応が図られる見込み。
小林氏は、北海道のブラックアウト(大停電)は想定外だったとするが、バッテリー対策などを強化していたことで、全体的には速やかな対応ができたと振り返る。
またドコモ社内で災害対応のレベルが引き上げられていたことから、副社長を含めた幹部も災害状況を目の当たりにし、「今までもやってきたが、足りない」と判断、災害対策の追加投資につながったとしている。
追加投資、より機動的な基地局復旧策も検討
今後2年間で200億円規模の追加投資を行うという、さらなる災害対策では、長時間停電への備え、重要通信の確保、早期復旧、被災地支援の強化など対象は多岐にわたる。
これらのうちドコモショップでは、具体的には蓄電池や太陽光発電システムの設置、車載インバーターやマルチチャージャーの配備を、代理店独自施策ではなくドコモ主導で進める。
また、通常時も運用し電源強化や伝送路二重化などを図った中ゾーン基地局の充実を行うほか、移動基地局車もさらなる配備を行う。加えて、比較的大型な移動基地局車では道路の被災状況次第で現場に近づけないことがあり、発電機と可搬型の衛星設備を人が背負って向かったという事例もあったことから、より可搬性にすぐれた設備の拡充も検討していく。