「局舎全壊は初めて」、NTTが語る大震災の被害と復旧見通し
左からNTTの三浦氏、NTT東日本の江部氏、NTTドコモの山田氏 |
NTT(持株)、NTT東日本、NTTドコモは、3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の被害状況とこれまでの復旧状況、そして今後の予定として、4月末までにほぼ復旧するとの見通しを発表した。
30日には都内で記者会見が開催され、NTT代表取締役社長の三浦 惺氏、NTT東日本代表取締役社長の江部 努氏、NTTドコモ代表取締役社長の山田 隆持氏が顔を揃え、それぞれの立場から被災状況と復旧に関する説明が行われた。
三浦氏は会見冒頭、「今回の震災で亡くなられた方の冥福を祈るとともに、被災された方にお見舞いを申し上げます。今回の災害がいかに未曾有だったかと思う中で、通信の重要性をあらためて痛感した。まだ復旧していない場所にはご迷惑をおかけし申し訳ない」と述べた。
■被災の概要
震災からこれまで、復旧作業を進めるとともに、被害状況の調査が行われた。復旧にかかる費用などの見積もりはこれからで、決算に与える影響も未定(下方修正はないとのこと)という。また立ち入りが制限されている福島原発の周辺は、調査が完了しておらず、通信網復旧の見通しも立っていない。
NTTグループの被災状況は大きく分けて4種類となる。1点目は、NTTのビル設備が津波で水没したり流出したり、損壊したりしたケース。2点目は局舎間を結ぶ伝送路(管路)が破損したりケーブルが切断されたりしたケース。3点目は電柱が倒れてケーブルが切断されたケース。ここまでは固定系設備の被害で、4点目は携帯電話基地局が倒壊・流出し、バッテリーの枯渇でサービスが提供できなかったケースとなる。
被害の状況は4つに分類 | 影響を受けた固定回線と無線局数。初日ではなく2日目、3日目がピーク |
今後の見通し | NTTグループとしての主な取り組み |
災害当日は、バッテリーなど非常用電源で稼働していた基地局・局舎も日を追うごとに電源がなくなり、稼働できなくなった。そのため、固定系サービスで最も影響が大きくなったのは3月13日(約150万回線)で、携帯電話は3月12日(基地局内の無線局あわせて6720局)となった。固定系・携帯系どちらもこれまでに9割回復している。
固定系のNTT東日本の被災状況としては、たとえば三陸鉄道の線路沿いにケーブルが敷設されていた場所では、線路と共にケーブルが崩壊した。ここには新たに電柱が11本建てられ、ケーブルを架けて迂回路として使用されることになった。七ヶ浜の局舎ビルは津波で約500m流されてしまったとのこと。NTT東日本全体で90のルートが切断され、局舎全壊は18カ所に及ぶ。航空写真や同社のデータベースをつきあわせて、約6万5000本もの電柱が流出したと推計され、そこに架かるケーブル(架空ケーブル)も沿岸部で6300km分が流出した。
被害の状況 | 迂回路の確保 | NTT東日本で影響を受けた局舎は、場所によって損壊の度合いが異なる | 最も大きな被害を受けたCランクのビルの復旧目処 |
サービス中断中のビルの復旧見込み | 七ヶ浜の状況 | 女川の状況 | 陸前高田の状況 |
NTTグループでは、社員が1名亡くなり、2名が行方不明とのこと。家族が亡くなった社員は30名いるという。またドコモの社員で亡くなった人はおらず、家族を亡くした社員は10名。販売代理店が展開するドコモショップでは、陸前高田のショップに勤める男性(26歳)が亡くなった。ドコモでは、被災地域のショップを全面的にバックアップする方針だ。被災地域への支援活動として、NTTの社宅(約3000戸)や体育館4カ所が提供されるほか、義援金として10億円を寄付する。
■ドコモの状況
ドコモの山田社長 |
NTTドコモの設備では、たとえば宮城県松島野蒜に設置されていた基地局設備(コンクリート柱)は津波で倒壊し、岩手県野田村の伝送設備も損壊したという。復旧作業を進めながら、復旧完了に向けた本格的な検討を3月22日より着手。その時点で点検が必要だったのは788基地局で、3月28日までに413の基地局が仮設の迂回伝送路、あるいは移動基地局、山頂にある基地局でより広大なエリアをカバーする大ゾーン方式といった手法で回復した。
3月28日時点でサービスが中断していた307の基地局のうち、伝送路に問題があるのが224局、設備の水没が62局、点検中が21局となる。さらに残りの68局は原発から30km圏内で点検できていない。
ドコモでは4月中旬までに150局、4月下旬までに98局を復旧させる予定としている。原発周辺で予定が立たない68の基地局のほか、58の基地局も山間部にあったり、トンネルの損壊などがあったりして、スタッフが現地に行けない状況となっているため、完全復旧時期は5月になる予定とのこと。
被災状況 | ドコモ設備の被害状況 |
無線局とは800MHz帯/2GHz帯の設備個々のこと。それらが設置されている設備は基地局 |
復旧対策の1つである大ゾーン方式は、山頂など高い場所にある基地局が従来よりも広いエリアをカバーするという手法で陸前高田などで利用されている。1基地局あたりに繋がるユーザー数が多くなるため、いわば“電波が薄くなる”可能性がある。ただ、現在はメールや通話が主で、スマートフォンが数多く存在するようなヘビーなトラフィックは発生していないため、当面、影響はないと見られている。このほか、伝送路が断たれた場所への対策として、マイクロ無線と呼ばれる無線方式や衛星回線を利用する。マイクロ無線では、途中で中継局を設置して、局舎~中継局~基地局を結ぶ。
こうした手法を駆使して、4月末までにほとんどの場所でサービスを回復する予定で、その復旧時期の目処は、4月早々にもドコモのWebサイトで公開されている「復旧エリアマップ」で案内される。
点検の結果、主に3つの手法で対策 | 今後の復旧スケジュール | 4月中の復旧基地局数 | 復旧に向けた対策である、伝送路の迂回ルートの利用 |
大ゾーン方式 | マイクロ無線と衛星回線の利用 | 復旧エリアマップには4月から今後の復旧予定を追加 | 被災地への支援 |
■「明らかに違うのは津波」「局舎全壊は初めて」
地震大国と呼ばれ、台風による水害も頻発する日本だが、今回の東北地方太平洋沖地震は未曾有の規模。今回の会見でも、過去の事例と比べて初めてNTTグループが経験した事例が挙げられるなど、“未曾有”という表現を裏付ける状況が明らかにされた。
NTT東日本の江部社長は、従来の災害と比べ、「明らかに違うのは津波の被害」と指摘する。内陸部にある設備で大きな被害が見受けられない一方、沿岸部に被害が集中した。津波を受けた後は、行政や自衛隊によって道路が復旧しなければ、通信路復旧のためのスタッフも動けず、被災状況の把握にも時間がかかったという。
そして局舎全壊もこれまでの災害では経験したことがなかったことの1つ。それも1カ所だけではなく、多くの場所で発生していることも各地を襲った津波がもたらした被害の特徴のようだ。この点については三浦氏も「神戸の地震では局舎、局内設備はほとんど無事で、被害が出たのは(各戸への)アクセス設備が中心だった。ところが今回は津波で、かなりの部分が被害を受け、街も荒廃してしまった。今後は、街の復興計画を踏まえながら、我々も計画を立てていかなければいけない。当面の復旧、そして本格的な復旧は、各地域の事情を鑑みていくことになる」と語った。
また、応援スタッフを派遣する際にも、寝泊まりする場所が確保できず、復旧に向けた前線拠点の構築もまた、阪神・淡路大震災とは違った点だという。
ドコモの山田社長は、江部氏の発言を補足する形で、広い範囲で長時間停電したこと、ガソリンや軽油が入手しづらくなり行動が制限されたことも復旧作業を妨げた要因と指摘。自前でそうした燃料はある程度確保していたものの、追加が難しくなり、移動基地局の稼働に影響が出たという。こうした状況に対して、NTT(持株)の三浦社長は衛星通信の拡充も検討する方針を示した。
ドコモにおける今後の復旧について、2012年3月末で停波するムーバ(mova)の基地局をどうするか。東北のムーバユーザーは現在3万3000人存在するとのことだが、山田氏は、基地局設備の復旧はFOMAを優先する方針を示し、「ユーザーの意向を聴いていきたいが(ムーバを使うユーザーには)FOMA端末を配るやり方もある」と述べた。
■地震当日のトラフィック、スマートフォンへの緊急地震速報
資料を片手に説明する山田氏 |
ドコモが出展を取り止めた米国の展示会で、日本への義援金を呼びかける横断幕も掲げられたという(ドコモ提供) |
大規模災害時には、家族や友人の安否を確かめるため、通話やメールが頻繁に利用される。そのためトラフィック(通信量)が格段に増加してしまうが、これを放置すると、輻輳と呼ばれる現象が発生し、通信ネットワークが使い物にならなくなる。そのため、ある程度、通信規制を行って、繋がりにくくすることになる。
地震が発生した3月11日、ドコモのネットワークのトラフィックは、通常の50~60倍になった。ドコモの設備は、通常の2倍程度まで許容できるようになっているが、今回のトラフィック増は「桁違い」(山田氏)と言えるレベル。そこで音声通話は80%の規制(最大で90%)が実施された。パケット通信は一時30%の規制となったが、すぐに解除された。こうした事態では、音声通話よりもメール、Webのほうが繋がりやすい状況と言え、山田氏も「メールをお使いくださいと案内したい」と述べる。
一方、NTT東日本のネットワークでは、トラフィックの増加はドコモほどではなかったが、首都圏では鉄道が止まり、帰宅困難者が出る事態になった。携帯電話の音声通話は繋がりにくい状況のため、「東日本エリア全ての公衆電話を初めて無料化」(江部氏)することを決断。公衆電話は、災害時に繋がりやすい優先電話となっているため、混乱の中で利用が高まったという。
このほか、たびたび緊急地震速報が発せられたことについて、いわゆるスマートフォンの多くでは受信できず、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)で受信できることについて問われた山田氏は「2011年度、つまり今年の冬モデルのスマートフォンで導入していきたい」とスマートフォンへの導入時期を明言。ただ、アプリでは緊急地震速報が発せられていないか常にチェックする必要があり、バッテリーの持ちに影響することなどから、ソフトウェアプラットフォームの深い部分に手を入れる必要があり、発売済みのスマートフォンで対応することは難しいこと、グローバルモデルでも日本で発売するモデルでは緊急地震速報に対応するよう今後交渉することも明らかにされた。
3月22日から米国で開催された展示会「CTIA WIRELESS 2011」に出展を予定していたドコモだが、地震発生を受けて、展示を取り止めた。ドコモブースが設営される予定だった場所には、CTIAの計らいで、義援金を呼びかける横断幕が掲げられ、献花も飾られた。イベント初日の基調講演では、CTIA会長がドコモの出展取り止めの経緯を紹介する場面もあったという。
2011/3/30 19:58