インタビュー

ソフトバンクの災害復旧対応、東日本大震災時と広域災害などへの取り組みを聞いた

 2011年3月11日に発生した、東日本大震災。東日本全域の広大な範囲で地震やそれによる津波などで、大きな被害があった。

 通信事業者も想定を上回る被害が発生したが、当時はどのように復旧対応にあたったのか。

ネットワーク運用本部運用企画統括部長の喜安 明彦氏

 今回は、ソフトバンクのネットワーク運用本部運用企画統括部統括部長の喜安 明彦氏から、復旧対応の様子や震災後の取り組み、ユーザーサポートなどを聞いた。

東日本大震災では約3700局で障害が発生

 東日本大震災では、ソフトバンクの3786の基地局で障害が発生した。全体の8割が停電による障害で、当時は大きな余震も続く中、安全確認をしながら復旧対応した。

 ソフトバンクでは、全国から1200人強の社員が復旧対応にあたったという。

 震災発生後約1カ月後の4月14日には、震災前と同等レベルまで復旧できた。ソフトバンクでは、この震災をきっかけに、一日でも早い障害復旧を目指し、「設備の強靭化」「応急復旧機材の増強」「伝送路の多ルート化」などを進めてきた。

基地局障害時の復旧方法

 喜安氏によると、復旧対応にあたっては、障害原因によって手段や使用する設備が異なるという。

 停電時など電源を喪失した基地局には、電源車や可搬型の発電設備を派遣する。特に伝送路の障害などほかの障害が発生していない基地局には、「(後述の)移動基地局を派遣するよりも、基地局本来のサービスエリアを確保できる」(喜安氏)ため、電源復旧機材を派遣することで、速やかな復旧ができる。

 次に、光ファイバーなど基地局の親回線となる伝送路に障害が発生した場合には、通信衛星経由で通信できる衛星アンテナなどで代替の通信回線を確保する。

 基地局自体の損壊や、応急的にエリアを復旧させる場合は、移動基地局車や可搬型基地局を用意。これらの応急復旧機材を適材適所に手配して、サービス再開を行う。

 なお、震災時には、エリア復旧にあわせてユーザーの端末を充電できるようにするなど対応する場面もみられたという。

震災後の取り組み「設備の強靭化」「多ルート化」

 ソフトバンクでは、震災後に「ネットワークセンターの強靭化」「基地局設備の強靭化」「ネットワークや通信設備の多重化」を実施した。

 ネットワークセンターでは、震度7クラスの地震に耐えられるよう強靭化。また、長時間の停電にも耐えられるよう72時間の停電に対応できるよう電源設備を確保した。

 基地局設備にも、停電に備えてバッテリーを搭載している。また、災害発生時に重要な役割を果たす役場や災害拠点病院などをカバーする基地局(全国で約2200局)においては、停電中でも24時間以上サービスが継続できるよう非常用電源を備えている。

 広域災害に備え、全国のネットワークルートのリング化や通信設備の二重化も実施した。全国のネットワークセンターや通信設備などをリングでつなぐように多ルート化する。これにより、片方のルートで障害が発生してももう片方で通信を維持できる。

 また、西日本と東日本でそれぞれ設置されているネットワーク通信設備を、相互でバックアップできる体制にした。喜安氏によると、震災以前も一部対応している機能があったがこれを本格的に導入したとのこと。各設備内でのバックアップ体制に加え、広域災害時の体制が確保された格好となる。

震災後の取り組み「応急復旧機材の増強」

 障害発生時に派遣される移動基地局車などの「応急復旧機材」も震災後に増強した。

 エリア応急対応機材では、移動基地局車を100台に、可搬型移動基地局を200台にそれぞれ増強し、全国に配置した。

 既存基地局復旧機材も増強した。停電時に活躍する移動電源車を82台に、可搬型発電機を1000台に増強。

 伝送路障害時に活躍する衛星アンテナは、82台を用意。また、これまで合計90キログラム近くあり3分割して運ぶものだったが、約30キログラム弱に軽量化を図った新型衛星アンテナを開発。新型衛星アンテナを全国に100台配置している。

 このほか、代替伝送路としてマイクロエントランスを全国に128対備えている。

震災後の取り組み「係留気球やドローンを活用」

 これまでの応急復旧機材以外に、ソフトバンクでは「係留気球」や「ドローン」を活用した取り組みを進めている。

 係留気球では、地上の基地局や移動基地局車などからの電波を中継する形でエリアを復旧させる。係留装置には、電源供給用のケーブルを備え、電源車などから電源供給することで一定の期間サービスエリアを確保できる。

 喜安氏によると、実際に2016年の熊本地震において、係留気球によるエリアの応急復旧を行っているという。

 ドローンでも、係留気球と同様に、基地局などからの電波を中継する形でのエリア展開を図る。

震災後の取り組み「災害対策マニュアルの見直し」

 ソフト面での対策も強化している。震災を経験しこれまでの「災害対策マニュアル」を見直した。

 災害発生時にスムーズに動けるように、ソフトバンク社員の災害発生時の役割の明瞭化など初動部分の改善を図った。

 なお、台風接近時など予め災害の発生が見込まれる際は、対策本部や支援体制を準備しておくという。2019年の「令和元年東日本台風」の際は、上陸の2日前に対策本部を設置し、前日までに支援班の移動を完了させた。

震災後の取り組み「自衛隊や関係省庁との連携」

 震災のような大規模災害への対応として自衛隊や海上保安庁との間で協定を締結した。協定では、有事の際にソフトバンクから衛星携帯電話や携帯端末を貸し出すことと、自衛隊・海上保安庁が災害現場での基地局復旧に必要な機材や人員の輸送に協力することが含まれている。

 また、実際の応急機材を持ち込んだ輸送訓練を定期的に実施。各地で実施される訓練にネットワークの運用拠点の担当者が、機材を持ち込み巡視艇や航空機などに機材を積み込む訓練をするなど、連携を再確認する機会を設けている。

 喜安氏によると、直近では2020年の熊本豪雨災害において、長時間の雨で道路が冠水し陸路で進入が難しい基地局に向けて、自衛隊の協力を得て応急復旧機材を搬入したという。

 また、前述の小型化された衛星アンテナなど、機材の小型化により、自衛隊のヘリで機材を運びやすくなったほか、離島などの基地局に向けて、漁船など小型の民間船を借りて運搬するケースもある。

ユーザーサポート

 ソフトバンクでは、災害時避難所において、端末の充電サービスや無料Wi-Fiサービスの提供を行う。

 また、ユーザー同士の安否確認ツールとして「災害用伝言板」や「災害用音声お届けサービス」を提供している。

 ソフトバンクでは、災害時の被害状況や復旧状況を災害マップとして公開する。充電サービスの提供場所なども同マップで確認できるという。

 最後に、喜安氏は「これまで、災害での備えを継続的に強化し、生かしてきた」と災害対策に自信をみせた。その一方で、「災害に対する取り組みはこれで終わりではなく、継続的に改善を図り、一人でも多くのユーザーの通信を速やかに確保していく」とし、「通信はライフラインを意識し、(今後も)ネットワークの安心安全に努めていきたい」と、安定した通信サービスの継続にかける想いを語った。

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