インタビュー

IIJmioの新料金「2GB/780円~」の狙いとは、キーパーソンに聞く

 IIJが個人向けサービス「IIJmio」で新たな料金プラン「ギガプラン」を発表した。

 各社から新料金が続々と発表されるなか、現状では最安値と言える価格帯になる「ギガプラン」はどのような狙いで開発されたのか。IIJ 執行役員 MVNO事業部長の矢吹重雄氏、同事業部 コンシューマーサービス部長の亀井正浩氏、同事業部ビジネス開発部 兼 事業統括部 担当部長の佐々木太志氏に聞いた。

ここまでの流れ

――ここ数カ月、どうでしたか。

矢吹氏
 「携帯電話料金の4割削減」という話が出て以降、いろいろな情報が錯綜し、混乱したところはありました。

矢吹氏

 ただ、アクション・プランが策定されたことで、総務省の方針、あるいはMVNO向けの方針がかなり明確になり、その点は安心感がありました。ただ、それがどう実行されていくか、時間の面でやきもきしているところはあります。

――ドコモから12月に「ahamo」が発表されました。その内容は想定外でしたか?

矢吹氏
 想定外と言えば想定外ですが、近いものは出されるだろうと思っていました。

佐々木氏
 直前に発表された、UQさん、ワイモバイルさんの“幻のプラン”がありました。それらと比べ、ahamoの2980円という設定は、かなり意表を突かれたところはありましたね。

佐々木氏

楽天モバイルへの対抗・兼ね合いは

――このタイミングでのIIJmioの新プラン提供は、楽天モバイルの無料期間終了の時期を見据えたものだったのでしょうか?

矢吹氏
 結論から言えば「狙っていません」となります。もともと、料金改定自体は、昨夏に実施したいと考えていました。

 しかし今回の料金を実現するには、システムを抜本的に設計しなおす必要がある、大がかりなものになることがわかり、後ろ倒しすることを決めたのです。

 同時期に従量制プランを開発しており、そちらは昨夏、提供を開始しました。

 新プランの詳細な要件を詰め始めたところで、官邸の発言があり、アクション・プランが発表され、という流れになり、そのあたりから発表のタイミングを検討し始めたのです。

 そして2020年11月~12月ごろの段階で、「2021年6月にサービスを開始する」ことを決めたんですが、12月以降、市場の動きが加速し、4月1日から主要機能を提供し、5G対応や追加クーポンなどを6月に提供する、ということにしました。

――今回の新プラン、楽天モバイルの新料金プランと組み合わせると、楽天より安くなるという声もあります。あの「0円」を利用する狙いはあったのでしょうか?

亀井氏
 そんな巧妙に狙っているわけではないです(笑)。

 eSIMはとにかく使っていただきたいと。料金プランに組み込むのであれば、まず使っていただける価格設定にしようと考えていました。

 「1500円で楽天と組み合わせ」という考えは想定外の発想でした。

 お客さまの声をサポートセンターでうかがっていると、地方の方など、ローミングで5GBに引っかかる方がいらっしゃって、それをeSIMで運用して、というお声がありましたので、それを反映したいと考えていました。

プラン刷新の背景

――IIJmioとして、初めて大幅なプラン刷新になる。これまでの3つのプランを改定するという選択肢を採らなかった理由は?

亀井氏
 既存プランを改定しバージョンアップすることは考えました。しかし最近加入した方にとっては、機能の積み重ねによる今の使い勝手が伝わりにくいところがありました。それならば、と再設計したのです。

亀井氏

 特に難しいと思われた部分は「追加SIM」という概念です。今の容量に追加する、というかたちで提供したのですが、「主回線を解約しても副回線が残ってるのはなぜか」という問い合わせも多かったです。なかなか使われにくいとも感じていまして、「なんとなくよしなにしてくれるんじゃないか」というご期待を持たれがちですから、1契約で1回線にして、シェア機能を分けようと。

――大手キャリアの料金が出揃った。MVNO各社の料金も出てきた。一見すると、大手キャリアのほうがシンプルで、MVNOのほうが詳しい人向けのようになったように感じるところもある。

亀井氏
 ビックカメラさんでも、やはり店頭では低容量帯が、お客さまに伝えやすいと聞いています。まずMVNOという方にはそこ一択ではないかなと。

 お客さまの声を聞くと、より大きな容量がないと困るという話もあります。今回の新料金では2GB~20GBまで、5種類の容量を用意しましたが、3種類に絞って「15GB」「20GB」を出さないということも、いったん考えました。しかし、大手キャリアさんから新料金プランが発表されたこともあり、5種類用意することにしたのです。

 それでも、IIJmioを選ばれるような方は、おトク、賢く使いたいという前提で、2GB、4GBをまず選ばれるのだろう、というシンプルさにはなっていると思っています。

――既存のファミリーシェアプランで複数SIMを使うユーザーにとっては、今後どうなるのか、ちょっと疑問があるようだ。

亀井氏
 ファミリーシェアプランに魅力を感じていらっしゃる方をカバーできるようデータ容量を調整しました。

 とはいえ事前の価格シミュレーションをしたところ、全て網羅できていないかもしれないものの、改悪になるケースはレアながらあるかもしれません。

――シェアと容量繰り越しを組み合わせると、どんな順番でデータは消費されるのか。

亀井氏
 繰り越しが先に優先されます。そのあとシェア分が使われるかたちになります。ここは従来どおりです。

音声通話について

――音声SIM、データSIMの価格差が100円と小幅だ。その理由は?

亀井氏

 本来であれば、音声付帯料がいくらか示すことになります。ただ、コストは事前に予測して内部で設定したものとデータ通信をあわせえて(2GBで)780円になっています。現状の値差は仕入れ値の差ではないんです。

――音声契約を獲得するために戦略的な価格を設定したということか?

亀井氏
 音声契約でファーストスマホとして使っていただく方に契約して欲しい、継続していただけるようと考えました。その上で、eSIMでデータ通信していただけるようにしました。

佐々木氏
 KDDIさんと、ソフトバンクさんはプレフィックス自動接続の約款が開示されています。そこ(00XY)では、交換機で自動的にプレフィックス番号を付与するもので、その機能を使えるSIMカード1枚あたりの基本料が83円です。一方、データ通信は1枚81円でして、結構、縮まっています。かつてはキャリアに「音声は600円」くらい支払いましたが、音声とデータの差はすごく縮まっています。

 ただ、音声通話サービスを提供する上でのコストは、MNOからの仕入れだけではなく、本人確認の手続き、お客さまからの問い合わせ対応など、IIJ側にかかるコストもあります。

――自動プレフィックスサービスは年内にも提供するのか?

矢吹氏
 そもそも自動プレフィックスにするかどうか、まだ決定していません。もちろんどこか早いタイミングとは思っています。

 ただ、システム要件を見ていくと、IIJの場合、MVNE事業もあり、単独での判断がどうできるか考えているところです。とはいえ、なるべく早い段階で、優位な価格設定を勝ち取りたいなと。

――通話定額のようなサービスはどう考えているのか。

亀井氏
 通話定額のようなサービスが求められていることは理解しています。3分、10分では足りないかなと。でも、IIJmioのユーザーさんでは、(時間限定の通話定額の)付帯率があまり高くないのです。

 もしサービスを作ったとしても、どれだけ収益性を見込めるのか。はたまたキャリアさんの判断として、「通話し放題を卸す」という話にはなっていません。リスクをIIJ側でどれだけ吸収できるか、試算上、必要になってきます。

――音声卸の料金低減で今はまかない、将来的に1枚83円で使えるようになる、との見通しをもとに採算をあわせるという考えか?

佐々木氏
 基本的な考えはそのとおりです。

――初期費用の手数料は、今回、3000円のままとなっている。大手キャリアは無料化を進める方針だ。

亀井氏
 年度を通じてキャンペーンで「(手数料)1円」といった施策を実施しており、ほとんどご負担いただかないかたちで、新規の方に契約していただけるキャンペーンを、これからも考えています。

 初期費用を無料化できなかったことは事実ですが、既存ユーザーさんのプラン変更については、お待たせしていますし、手数料がかからないかたちで4月1日に臨む格好です。

 この手数料3000円は、0円にはなかなかできないのが実態です。

eSIMについて

――eSIMサービスでの通話はどうすれば実現できるようになるのか。

亀井氏
 データ通信だけになっているのは、フルMVNO基盤でeSIMサービスを開発しているためです。ライトMVNOとして、MNOから機能が開放されることで、eSIMでの音声通話も実現できるようになるのかなと思っています。

――IIJのeSIMに加えて、キャリアのeSIMを使うということか。

亀井氏
 キャリアさんのeSIMの上に音声通話機能を載せるかたちになります。

――MVNOがeSIMを調達して、サービスを提供するとき、MVNOにもコストはかかるのか。

亀井氏
 網側設備を按分する概念と同じようなかたちになると聞いています。

佐々木氏
 MVNOとして、RSP(リモートSIMプロビジョニング)と呼ばれるSIMを配る機能は持たないです。今、ドコモさんからALADIN(アラジン、ドコモの顧客管理システム)の端末を借りている形態と同じということになります。

 「eSIM版アラジン」のようなかたちで、RSPを使わせていただき、その対価を払うことになる。それがライトMVNOでのサービス形態でしょう。

 接続に付随するものとしてSIM発行機能は用意されていますので、RSPが開放されることになれば、ルール上、適正な価格を設定いただいて利用する、ということになるのでしょう。

 ただ、その部分の議論や、負担のあり方はまさにいま総務省で議論されているところになります。

――IIJmioの新プランは最安値になったと思うが、その一方でかなり料金での差別化が難しい水準になってきたように見える。今後をどう見ているのか。

矢吹氏
 今回の料金は、来年、あわよくば再来年におけるMVNOの標準的な価格になるのではないかと思って設定したという位置づけです。

 大手キャリアさんとの価格差は縮まりましたので、さらなる差別化は必要でしょう。サービス面では、フルMVNOの機能だったり、データ容量のシェアなどは引き続き取り組みたいです。本質的には、IIJmioを買っていただける、格安SIMを楽しみたいと思っていただけるように取り組みたいですね。

 事業全体で見ると、個人と法人のトラフィックについては、調達する帯域を効率的に活用していくことが、収益に直結します。バランスが崩れると良くないため、今後もそのあたりは重視したいです。

――大手キャリアにとって通信はコストセンターになり、それ以外の領域での収益化を目指しているように思える。IIJの戦略はどうなっていくのか。

矢吹氏
 法人は、案件ごとにトラフィックが多種多様です。現在のボリューム感は、多種多様な案件を平然と受け入れられるような状況ではありません。法人のIoT領域がもっともっと洗練されれば、将来の予見性、収益面の見通しがはっきりしていくでしょう。でも、現状は案件単位で見ているのが実情です。規模を拡大して、法人利用のトラフィックを、統計多重効果が出るようなところを狙っていきたいです。

――今回の料金改定を踏まえて、通信品質はどうコントロールしていくのか。

亀井氏
 4月1日の新規申込への動きを予測し、回線調達に動いています。発表後の反響を踏まえた追加も検討していきます。

 プランの値引きだけで終わりにしておらず、300kbpsの低速通信にするなど、再設計なども実施しています。新プランでは、これまでお客さまからいただいていた声をもとに改善を図っていきます。
 調達する帯域は個人・法人分けていません。しかし旧プランと新プランでは分けています。たとえば低速通信のとき、旧プランでは200kbps、新プランでは300kbpsとなりますが、そこは識別できるようにして、契約ごとにコントロールしています。

――ドコモが、低容量の領域でMVNOとの連携を考えているとのことだが、IIJに打診はあるのか。

矢吹氏
 いろんなところでもその質問が聞かれまして、(IIJ自身の)経営層からも聞かれるんですが(笑)。そういう話は、過去からずっとやっている。過去、dマガジンの取次などをやってきました。

 井伊社長の発言を受けて、そのあたりが大きく変わったかというとそうではないのです。井伊さんの発言と現場の動きがリンクしているかどうか、我々からはまだ見えないです。

――楽天の1GB未満0円は問題がないと見ているのか。

矢吹氏
 公正取引委員会の取扱事項になるかもしれないが、我々からすると判断しづらい。

 それ以外にも、「300万回線まで1年無料」というあたりも、そろそろ達成されるのであればどうなるのか、疑問はありますが、我々からは言いにくいところです。

佐々木氏
 (楽天モバイルの)「300万回線まで無料」というのは、電気通信事業法 第27条の「値引きしてはいけない」という大原則からすると、腑に落ちないところはあります。ガイドラインでは「新規契約者向けに、一定期間、無料で提供してはいけない」と明記されています。しかし楽天モバイルさんにはMVNOサービスのユーザーがいます。MVNOからMNOへの移行をプラン変更とみなして、「新規だけではなく既存ユーザーも1年無料だから、ガイドライン上はセーフ」という解釈で落ち着いているのだと思っています。

 ガイドライン上、ただし、「著しく既存ユーザーが少なく、新規契約ユーザーの特典をどんどん付ける」ことになっていると、事実上、ガイドラインが骨抜きになった状態ではないかと。楽天さんが十分に、MVNOからMNOへの移行を進めていただくべきだったと思うんです。しかし移行が十分ではないという話もあります。移行が不十分なら、ガイドラインにきちんと則っているのか、問われてしかるべきかなと思います。

――これまでMVNOが低価格の料金帯を開拓し、賢い消費者はすでに移行済みのように思える。MNOに残ってる人は乗り換える意識がないとも見えるところで、どう消費者にアプローチし、市場を成長させていくのか。

矢吹氏
 ある意味、我々の努力不足というか、「MVNOは経済合理性のあるもの」と知っていただけるようにすべきでしたし、今後も周知を図りたい。

 2年ほど前だと、価格差も大きかったですが、移行がその際進みませんでした。これは価格弾力性が低いのか、安定バイアスが効いたのか、といった商品特徴があることは認識しています。私たちのサービスが安心できるものと伝えることは努力していきたいです。
 一方で、アクション・プランなどもあって、乗り換えの手間がどんどんなくなっていきます。今後も注力したいです。

――サブブランド、オンライン専用プランでは、MNO内だけでの切り替えが進む可能性はないか。MNPが無料になって、乗り換えしてくれる人は増えるのか。

矢吹氏
 そもそもの考え方として、IIJmioは市場全体の数%に満たないシェアです。どう拡げていくのか、まだやりようはあるかなと思っています。

佐々木氏
 総務省のスイッチング円滑化タスクフォースでは、ワンストップ化という考え方で、1回の手続きでMNPできるようにしようとしています。

 大手キャリアさんのプラン変更と同等で、ワンストップ化が実現すれば、IIJに切り替えも手続き1回で済むようになります。

 キャリアメールについても、物議を醸していますが、リテラシーが高くない方、乗り換えを考えたこともない人にとっては、キャリアメールが(乗り換えを妨げる)足かせになっていることもあるんですよね。どこかで超えなきゃいけない壁だとも思います。

 MNO、MVNOの価格差がかつて大きかった時代、面倒な手間を乗り越えて利用していただいたわけです。

 今後は、数百円の違いだけになっていきます。スイッチングコスト、乗り換えのハードルは、これまで違約金1000円にするなど、すでに撤廃された部分はありますが、さらに低減してワンストップ化に踏み込むことで環境を整備していく。その上で、我々も努力していきます

――ありがとうございました。

【お詫びと訂正 2021/03/04 11:44】
 記事初出時、低速通信時の速度を128kbpsとしておりましたが、正しくは200kbpsです。お詫びして訂正いたします。