インタビュー

ドコモが直面した能登半島地震、復旧の裏側とさらなる対策への考えを聞く

 2024年の元日に北陸地方一帯を襲った「令和6年能登半島地震」。発生から半年以上が経過した現在も、復興活動は進められているが携帯電話ネットワークについては復旧が完了した。

左から、NTTドコモ 成田氏と竹内氏

 その影にはどんな困難があったのか。NTTドコモ ネットワーク本部 サービスオペレーション部 災害対策室の竹内宏司室長と同 成田知恕氏に同社の復旧への道のりを聞いた。

現場にたどり着けない

 「地盤の隆起が大きく、被災地に行けないんです。基地局にたどり着くのが困難でした」と竹内氏は当時を振り返る。発災直後の被災地は道路インフラの損傷が大きく、復旧作業に向かえないケースが多かった。全体を見ると、東日本大震災のほうが災害の規模としては大きい。しかし、幹線道路の数が限られることや山中の基地局など、能登半島特有の事情が復旧をより困難なものにさせたという。

 ピーク時の1月17日には最大で260基地局が停波した。過去の災害の教訓から、基地局の予備電源対策は進めてはいたものの、3~4日ほども電気が復旧せず、基地局の元へたどり着くこともできない状況では限界があった。

 土砂崩れなどに加えて、幹線道路の数が少なく渋滞しやすい地理的な問題も状況の悪化に拍車をかけた。立ち入り困難となった基地局は1月17日時点で34局と停波した基地局全体の10%ほどを占めたという。

さまざまな連携があった復旧活動

 ドコモでは通常、大規模な災害が発生した時には「誰が何をするのか」役割が事細かに決められているという。竹内氏らが所属する災害対策室は情報の集約、広報担当者は利用者やマスコミへの周知広報活動などだ。

 その対応について、竹内氏は「体制は速やかに立ち上がり、サポートもできたのでは」と振り返る。今回の災害では同社として、KDDIとの共同での船上基地局の運用など、初めての取り組みも複数あった。そのうちのひとつが自衛隊の艦艇による人員・物資の輸送がある。「エア・クッション艇」(LCAC、エルキャック)と呼ばれるホバークラフトの一種だ。

 陸路での移動が制限されるなか、現地へ赴く手段を模索していたところに自衛隊側から海上を経由して物資の揚陸ができるという話が持ちかけられ、ドコモが手を挙げた。自衛隊とは災害時の対応で協定を結び、ヘリコプターでの物資輸送訓練も実施しているが、ホバークラフトを用いるのは初めての試み。

 ヘリコプターの場合、スペースや重量の都合で搭載物品はかなり綿密に決定する必要があるという。一方で船の場合はより柔軟な対応が可能だったと、竹内氏はその有用性を振り返る。「(自衛隊艦の活用など)こういうことがどんどんできれば早期の復旧につながる。国の機関との連携は非常に大事だ」と話した。

 過去の災害でも洪水や土砂崩れなどに直面したケースはもちろんあった。しかし、能登半島ではとにかく地盤隆起が激しく多数の場所で起きていたことを、竹内氏は今回の特徴として説明する。場所によっては歩いて復旧作業に向かったケースもあったという。

最後に残った舳倉島も含めて完全復旧

 6月下旬、能登半島沖合の舳倉島の基地局が復旧したことで被災地域におけるドコモのネットワークは完全に復旧した。同島の住民は発災後に全員避難しており、幸い通信が不通なことによる影響は少なかった。

 舳倉島は輪島市から直線距離でおよそ50キロ程度の沖合にある島。船では数時間かかるという。一般的に、離島の基地局は長期間稼働できるように予備電源が備えられており、場所によっては伝送路も強靭化されているという。しかしながら、大規模災害時には移動手段が課題となるほか、発電機の燃料の輸送手段なども確保する必要がある。

 竹内氏はこういった部分の対応の必要性を説く。同社では台風接近時における離島(有人島)での対策として、必要があれば前もって人員を配置するといった対策を取っている。発電機などの復旧資材についても災害の可能性があれば、他地域から取り寄せることもあるという。

 こうしたドコモの尽力により、災害発生から4カ月弱が経過した3月21日には舳倉島を除く地域ではネットワークが復旧。6月27日には舳倉島を含めて文字通り全被災地域での復旧が完了した。投入された人員は延べ1万人以上。復旧に要した期間は東日本大震災の約2カ月を超えるおよそ3カ月だった。

復旧はまだ終わらない

 今回の災害を通じて痛感したことがあるという。それは「通信速度の重要性」だ。従来型の衛星通信を用いる移動基地局車で緊急的にエリアを確保したものの「通信速度が遅い」という声が寄せられたという。

 これは、スマートフォンが通話など以外にも、データ通信で情報取得に用いられることが影響している。現在では、より地球に近い軌道を通り高速で通信できるスペースXの「Starlink」などがあり、ドコモでも法人顧客向けに提供している。竹内氏は今後、こうした新しい宇宙通信技術も、より積極的に災害復旧へ活かしたいと語る。

 ネットワークの復旧と並行して、避難所での被災者へ誰でも利用できる「ドコモ公衆ケータイ」などを提供。ユニークなところでは映像配信サービス「Lemino」の視聴環境の提供もあった。長期化する避難所生活における「心と体のサポート」という試みだった。ほかにも離れた場所で避難生活をおくる被災者とかかりつけ医を結ぶ「オンライン再診」も初めて実施した。

 被害を受けたネットワークは一通りの復旧が終わったものの、竹内氏らの仕事が終わったわけではない。災害全体としては復旧はまだ道半ばといったところ。仮設住宅に住む被災者は今なお多い。

 仮設住宅が建設される場所は通常、人口が少ない地域だ。そのような地域は電波が弱いことがあり、実際にそういった声があることは把握しているという。今後は仮設住宅のエリアでレピーターの設置など電波環境の改善を進めていく。

 「現地では、まだまだこれから復興に向かっていくところです。そこを(ドコモとしても)しっかりやっていかなくてはいけません。今回の教訓を活かして平時の訓練も続けていきます。『終わりのない仕事』とよく言うんですが、本当にその通りだと思っています」(竹内氏)。