インタビュー

ドコモ井伊社長がざっくばらんに語る、「ahamo」開発の舞台裏

 14日、NTTドコモの井伊基之社長が本誌を含むグループインタビューに応えた。話題は、注目を集める新料金プラン「ahamo」や、競合他社の動きだけではなく、新たに取り組む領域、固定回線に代替するサービスへの考えなど、多岐に渡った。

 本誌では一部の話題を先行してお伝えしてきたが、本稿では、グループインタビューの内容をお伝えする。2020年6月にNTT(持株)副社長からドコモ副社長へ転じ、そして同年12月、ドコモの新社長へ就任したばかりの井伊氏は、アグレッシブにドコモを変えていく考えを披露した。

au発表会、どうでした?

――13日のauによる発表の受け止めから教えてください。

井伊氏
 さすがだなという印象です。5分通話定額をスパッと分けてこられるところが試合巧者だなと。

 私たちも実は考えたんですよ。でも面倒くささを排除した、というかパックにしたというか。

 僕らの考え方では、1/3くらいの方は5分(の通話定額)でいい。また別の1/3は不要、もう1/3はかけ放題にしたい。かけ放題になるとプラス1000円ほどいただかなければなりません。つまり2/3は、通話定額がついていたほうがいいと思って付けたのです。

 そこをスパッと取ってこられた。20GB程度をお使いの方にとっては、フリーの通話アプリもありますし……想像はしていたのですけども、そこを突いてきて、『業界最安値』と言われちゃったな、やられたと。じゃんけんは後から出すものですね(笑)。

 それでも(20GBで5分通話定額込みの2980円が)真似されるようになった。これまでは追いかけてばかりだったから、褒めてやってください。

後出しじゃんけんは?

――まだじゃんけんを出すタイミングはあると思いますが……?

井伊氏
 価格はほぼ、3社で見れば横並びになりました。ahamoを出す段階でキャッチアップされることは予想していました。

 「最後は価格競争ではない、プロモーションや使い勝手などが争点になる」と(社内では)言っていたんです。だから想像通り。

 それでも、これまで(中容量の市場は)我々の商品がなかったのです。ワイモバイルさん、UQ mobileさんだけ紹介される形だった。ここに(ahamoという)ワンピースを提供できることは、結果的に、私たちのお客さまが他社へ乗り換えることが抑止できるかなと。

 MNP(携帯電話番号ポータビリティ)ではこれまで他社への流出のほうが多かったのですが、2020年12月単月では、プラスに転じたのです。

 もちろんahamoはまだ提供していませんから、まだ流出を抑止する程度。これまでのプランでの獲得にも頑張ってもらっています。2つの相乗効果で、2009年1月にプラスを記録してから、12年ぶりにプラスへ転じました。

 ああ抑止力はこういうことか、と感じてます。逆に言えば、流出をいかに見過ごしていたか、ということでもあります。

「20GBに注目。背中押された」

――この3カ月どうでした?

井伊氏
 戦争のようでした。完全子会社化のTOBが成立するまで、株価に影響を与えるような情報を出したらまずい。それは苦しかったです。プロジェクトコード名を付けてやってましたよ。

 ahamoの開発では、若い方に意見をうかがったら「ショップに行かない」と言われたので、踏ん切ったわけです。発表後には「ショップで売らないのはけしからん」「サブブランドだろう」とお叱りをいただいたりして。

 私のようなモバイル事業の素人には、どうして「メイン」「サブ」とブランドの違いにこだわるのか、疑問が尽きませんでした。

 前任の吉澤はサブブランドをやりたくないと言ってきましたが、「メインのドコモ」に対する「廉価版のサブ」という固定観念があったのかもしれません。

 でも僕は、廉価版と考えているわけではなく、ちょうど20GBに僕らのメニューがなくて、他社へ抜け放題になっていた。なんで止めないんだと。

 そしたら20GBに陽があたり始めた。政府からの指摘です。こりゃあもういただきですよ。背中押されたようなもんです。20GB、値下げ、メインブランドだと。

 もちろん「サブブランド」にする作戦を考えたことは考えました。

総務省「こりゃサブブランドだろ!」

 最終的に、総務省さんへ事前に説明へ行ったんです。これはサブではありませんと。そしたら総務省から「これはサブだ」と言われたんですよ。キャリアメールもないし、ショップでも扱わない、どう見てもサブブランドでしょうと指摘された。

 でも僕らは「サブじゃないです。メインブランドの料金として持ってきたんです」と。当時は名称も、料金も(総務省とはいえ)明かしていません。明かしたら漏れますから。コンセプトをちゃんと説明したんです。

 ちょうどその頃、メールアドレスの移転についての議論があった。だから(ahamoでキャリアメールが使えないことに総務省側から)「あてつけか」と言われたりして。

 そんなの関係ないですよ、20代の人はもうキャリアメールにこだわってないですよ、なんて話をしても、僕ら含めて年代高いので誰もわからない。「そんなことはない」と言われて。

 逡巡してオプションでドコモメールを使えるようにしたらどうか、と社内にも言ってみましたが、「要らない」と言われました。無駄な機能を開発しないでくれ、コストがかかるから、って。

国際ローミングエリアは「安い地域」

 ahamoを若い社員に意見を得て開発を進めたことは、正直感謝しています。僕らじゃあの割り切りはできなかった。テザリングもずっと使えますよ。

 海外ローミングも使えます。会場でも質問されましたが、なぜあの国数なのか。ahamoの価格でやろうとすると、ローミング契約の安い国しか選べないんですよ。でも対応地域は、だいたい日本人が訪れる場所だから、十分なんです。

 その違いでも「サブブランドじゃないか」という指摘はありましたが、この価格を絶対条件にして開発したので、こうなっちゃうんですよ。

 海外から来ている方のご家族が一時的に帰国したときのことを考えて「ahamo」を使いたいなんて声もあります。たとえば在日米軍関係のご家族です。在日米軍内のショップはソフトバンクさんだけしかないんですけど、ahamoはオンラインですからご契約いただける。だからahamoの英語化も進めます。まだできてませんが頑張ります。

家族の割引にカウント

井伊氏
 今日、初めて言いますが、家族の割引にカウントされるんですよ。あんまり早く言うと真似されるから。

――これまでの原稿でカウントされない、って書いてました。

井伊氏
 ごめんなさい、言わなかったから(笑)。ahamoのユーザーは、割引は効かないんです。

 もうちょっと言っちゃうと、ギガライトのお父さんからahamo回線の息子へ電話をかけると通話料は(ファミリー割引の家族内通話無料で)タダなんですよ。でも、ahamoの子供からお父さんにかけると5分だけタダ。「掛け直して」と言えばずっとタダですよ。

 だから、そういうところも含め、単にカウントだけではなくて、同じドコモの料金プランですから。

 サブブランドだったら、これはできなかったです。

――サブじゃないですね。

井伊氏
 家族全員がahamoになっちゃうといけませんが、たとえば家族のうち誰か一人でもギガライトなら、3人分、(みんなドコモ割で)割り引かれるんです。

 これをいつ言うか。先に言って真似されたらイヤなので、黙ってました。そういうのは最初から考えていたんです。

 発表後、テレビでも観たんです。当社ユーザーではなかったのですが、「私が抜けたら家族に迷惑がかかる」って。発想として当たったと思いました。

――確かに家族で利用しているケースではデメリットになると考えていました。

井伊氏
 移行も出入りも自由です。オンラインでできますから。ahamoへ切り替えて、その後できれば、大容量へ変えていただきたいという流れも想定していますから。

 影響額は大丈夫か? と社内でも確認して、大丈夫ということだったので。迷っている方の背中を押したいと思いまして。

店頭での対応は

――今後、ahamoは本当にオンライン専用だけにするのでしょうか。

井伊氏

 基本的に「ahamo」はオンライン専用にしたいです。ただ、店頭を訪れて、ahamoのことを質問される方もいます。

 ショップでは、今後、本当にすべてオンラインで手続きできる方なのか、サポートがいる方なのか、お話をうかがうとわかります。いっとき、価格に魅力を感じてもその後不自由になってはいけません。

 その場合は、まずギガホ、ギガライトはいかがですかと、今はオススメしています。ahamoへの切り替えはいつでもできます、ということで、通常の料金プランをまずオススメします。(サポートが必要な方でも)どうしてもahamoがよいということであればチラシをお渡ししています。

 おかげさまで、とても話題にしていただいています。たとえばショッピングモールのような場所で「ahamo」の旗を立てると、さまざまなお客さまが話を聞きに来てくださるんですよ。

 お話を聞いていると、「ahamo」じゃないプランを契約する方も結構いらっしゃる。それが先述した「ポートイン(転入)が増えた」理由かもしれません。

 もちろん他社さんも追随してきましたので、それも長くは続かないでしょう。

ドコモショップはどうなる?

――オンライン手続きのahamoが伸びると、将来的にショップにとっては運営が厳しくなりませんか?

井伊氏
 現実としてショップに依存してる販売形態については、見直しを進めなければならないという経営課題があります。販売にコストをかけすぎていると思うんです。

 ドコモショップは全国に2300店舗ほどあります。年間で数千億円ほどかかります。手続きで30~40分かかるわけで、加入コストがそれだけの規模になっているのはどうなのか。

 もちろん、割引内容のご説明が必要など、ドコモ自身が悪い点があります。

 しかし本来、シンプルな料金パックであれば、「必要かどうか」だけで良いですよね。ahamoでの減収をカバーするためにもコストを下げる必要があります。経営コスト的には、ここを下げていかないといけない。

 では代理店さんをどうしていくのか。

 やはりフェイストゥフェイス、対面の場ならではの価値を提供する場所にならなければなりません。もちろんそれは、ボランティアではなく、有償ベースです。

 当社に関わる部分はもちろん、マイナンバーの普及・利用促進などは、直接お話をしないと理解しづらい、という方はいらっしゃるでしょう。これはデジタルデバイドの課題だと思います。

 オンサイトで、説明員がいて、それなりのスペースがある場所へお越しいただいて、支援する。その財源をきちんと自治体や国からいただいて運用するですとか。

メルカリ教室のような展開を

井伊氏
 あるいは、現在進めているメルカリ教室もひとつの例です。メルカリを通じて物を手放す際、コンビニエンスストアなどから発送はできます。でもキレイに梱包することって大事ですよね。そこに注意を払わないと全体の品質にも影響するそうなんです。

 ドコモショップでもメルカリ教室を開催してきましたが、ドコモショップにはメルカリさんからのプリンターが設置されていて、送付状をすぐ用意できます。ドコモショップのメルカリ教室でレクチャーを受けると、梱包したものをそのままドコモショップに置いておいていただけると、翌日、宅配便に集荷してもらえるようにしています。抵抗感なく使っていただけますよね。

 当社ではなく、他社さんのサービスのために使っていただいて、収益源にする。それがドコモショップの新しい活用法ではないか。代理店の収入にもなります。それを進めたい。

――すると店舗数は現状を維持していく考えですか?

井伊氏
 今のところは。

 しかし僕自身は、そこまで(ドコモショップが)たくさんなくてもいいと思っているんです。

 利用率、収益率をちゃんと見ないといけないです。でも、ドコモショップの規模は大きいですから、急激に進めるとショックが大きい。だからトランスフォームする時間も一定量、必要でしょう。

 代理店さんも、新しいことをやりたがっているんです。でもそれをドコモが止めてきた歴史があります。「ドコモショップの機能」という制約が強かった。

 でもソフトバンクさんに一度、「ドコモショップは広すぎる。人も多すぎる。こんなコストをかけていちゃだめ」と指摘いただいたことがあります。確かにそのとおり。ソフトバンクさんのショップは私たちの半分程度で、効率が良いです。

 その広さ、人員を逆手にとり、活用していく新たなビジネスや場にしていくほうがいいのでしょう。

 もちろん僕から「やりなさい」と言って実施していただけるわけではありませんが、単純に仕事がなくなり、ショップの役割が減っていくことを看過するのではなく、どう生き残るのか。外からの仕事を取ってきて何かできないか。

 必ず(対面が必要な方は)残ると思うんです。全ての方がオンラインになるということはありません。そのときに、新たな場を作ることはすごく大変です。複数の役割を果たすマルチな機能の場所は大事です。そのとき、ドコモの看板を外しても良いくらいです。ただ、街にそうした“ステーション”は必要でしょう。

――それは端末のサポートも含めてですか。

井伊氏
 そうです。

 副社長のときに、ショップも訪れましたが、端末コーナーにはどなたもいらっしゃらない。空気だけですよ。

 これは新型コロナウイルス感染症の対策として、予約制にしたことで、ぶらっと訪れて端末を見るという人は誰もいなくなったんです。でも「ドコモショップのスペック」としては端末コーナーが必須。アップルさんの商品も厳格なルールが決まっていて。
 そういうあたりを工夫してスペースを生み出していく。さまざまなことを手がけられる空間に転じて、スタッフも新たに学んでいく。これは狭い店にはできないことでしょ、というふうになればいいなと。今後1~2年で立ち上がっていかねば意味はないでしょう。

ahamo減収をカバーする「決済」「エンタメ」とコストカット

――12月の「プレミア」プラン発表時にahamoの減収を決済・金融や、エンタメ領域でカバーするという話がありました。具体的にはどんな取り組みになりますか。

井伊氏
 まずはコストカットです。営業、ネットワークなどは、私から見ると宝の山です。削減できる部分があります。

 ただカットするだけでは続きませんから、増収に向けては、僕はそんなんじゃいけないと思いつつも、イージーなやり方としては、非通信の金融事業があります。dカード、d払い、ポイントといったあたりで収入に繋がります。これは時代背景もあってか、伸びています。

 コンテンツについては、バカ売れしてくれればいいのですが、Disney+やAmazonプライムビデオという別格の存在があります。「d~」として展開する当社のサービスも、まだ続けていくのかどうか、というものもあります。入れ替え戦が必要です。

 月額350円でも利用していただければ、7000万契約、8000万契約の数%と計算すれば結構な額になりますから、地道に進めていきます。

――この年末年始で、「dTV」は作品ラインアップがかなり増えていますよね。これはさっそく手を打たれたのかなと思ったのですが……。

井伊氏
 はい。でも、もっと手を打ちますよ。まだ言えませんが。

 ご指摘の通り「dTV」は注力していきます。ディズニーさんと組んだおかげかなと思うんですが、ディズニー自身の作品に加えて、フォックス系(現20世紀スタジオ、かつての20世紀フォックス)をお持ちです。そうしたコンテンツを我々が調達できたんです。

 ディズニーさんは、流血するような作品はだめなんですよ。彼らはコンテンツを保有していても使えないんです。

――Disney+では配信しづらいと。

井伊氏
 そうです。ディズニーファンのような客層と合いませんよね。彼らの所有するコンテンツのうち、私たちが求めるものを、適正な価格で調達して活用させていただくと。

 あとは(ひかりTVを展開する)NTTぷららをどうしようかと思っています。ぷららはドコモの子会社ですが、ちょっと分離しているので、dTVへ載せていかなければなりませんね。

金融サービスへの考え

――先日、ドコモの金融事業については、三菱UFJ銀行と提携するという報道がありましたよね。

井伊氏
 当社が出したものではないですよ、違いますよ(笑)。

――どこかと組んで展開していくのでしょうか。

井伊氏
 ああいうことをやりますよ。金融事業も、ドコモは遅れています。

 たとえばPayPayさんを見ても、サービスがフルラインアップです。決済や資金移動業、レンディングサービスのようなことは、ひとつひとつ取り組まねばなりません。でも、ドコモに金融事業のノウハウはありません。

 どこかと組むか、会社を一緒に作るか、人をスカウトするのか。新しい事業を立ち上げるのはハイブリッドな方法しかありません。私たちと価値観がマッチし、互いの資産をかけ合わせて良いことができるパートナー。これに限ると思っています。

 その条件に合って、なおかつ、Win-Winになる方を探さなければいけません。

――読者の反響を見ていると、引き続き、ポイント還元への関心が高いです。そのあたりはいかがですか。

井伊氏
 ポイント関連は、基本的に頑張って展開しなければ無理です。PayPayと比べて、店舗数や、基盤となる顧客数は横並びになるまでd払いは成長してきました。でも、利用頻度がぜんぜん違うんです。

 ユーザーの方が「これで払う」と思わないとだめです。そのときに「おトク」とならなければなりません。セブン-イレブンさんでの還元など特定のお店でのプロモーションを進めていますが、決済のメイン手段にしてもらえる方向にしないと、だめだと思います。そのためには還元です。

 でも、のべつ幕なしに還元すると黒字化できません。特定の店舗さんと協力するケースでは、購買データの活用を進めています。マーケティングです。たくさんショッピングしていただかなければデータは生まれません。

 dカードも同じです。普段使いのカードになれるかどうか。

――ahamoのプロモーションでもdポイントのブーストをしていきますか?

井伊氏
 3000ポイント還元を実施していますが、そうですね、そういう形ですよね。dアカウント会員でなければ新たな会員にもなっていただきたいですね。

――dポイントで株式投資できる「日興フロッギー+docomo」がありますよね。そうした路線を強化する考えは?

井伊氏
 やりたいですね。個人的にもどれだけメリットがあるか体験しています。投資へ関心がなかった人も簡単に始めていただけるメリットがあります。やるべきだと思います。

 金融事業はまだまだ弱いです。個人向けだけではなく、法人事業で、金融機関を私どものお客さまになっていただきつつ、金融機関さんからコンシューマーへ提供する、といったB2B2Xという形もやらなければいけませんね。その二刀流をやる。そのために必要なら出資、買収が必要なら実施するという戦略です。

5Gへの考え

――5Gについて、今後の成長に向けた考えを教えてください。

井伊氏
 2020年末で130万契約になりました。今年度末の目標は250万件です。担当は「順調です」と言ってます。あと3カ月で、ほんとか? なんて聞くと「順調です」と(笑)。

 新機種を提供して急激に伸びています。料金プランも使い放題の「ギガホ」が伸びています。今、成長しているところです。

 他社さんは既存周波数を5Gへ転用していかれますが、ドコモでは、いずれやりますが当面、周波数を4Gと5Gと分けて展開します。4Gのお客さまがたくさんいますので、急に混ぜるわけにはいきません。

 5Gを体感できるエリアを増やすことがひとつ、そして速さを実感できるサービスがないと、「4Gでいい」となるでしょう。4Gも結構速いですからね。僕らのキャリアアグリゲーションでは結構なスピードが出ますから。

 何が何でも5Gというほど基地局をまだ展開できていませんが、容量をたくさん使っていただけるようなモードに変えていかねばなりません。

 自宅だとFTTHがありますよね。外でパケット、自宅では控えるというのは、やはり(モバイルデータ通信料が)高いということだと思うんです。

 (ahamoの)20GBをできるだけ外でお使いいただいて、結構速いねと体験していただいて、それじゃ足りないとなれば、大容量プランへ切り替えていただけるでしょう。

 ドコモは、シェアが大きいわりに、大容量プランの方が少ないんです。みなさん7GB以下なんです。その経営課題を突破するために今回、ahamoによる中容量セグメント、そして「プレミア」プランでの大容量プランの値下げを実施しました。

 成熟市場で、新規加入者が爆発的に増えるわけでもありませんし、他社からの乗り換えが急激に増えるわけではありませんから、より多く使っていただけるようにしたいですね。

屋内での設備共用

――さきほど、コストカットの話で「ネットワーク」と挙げておられましたが、インフラシェアリングのことですか?

井伊氏
 それもありますが、すぐ効果は出ないでしょう。

 それよりも基本的なコアネットワークの作り方です。増設設備をどう見るか。先々の需要に対して、前もって用意するものです。

 長期的には大量に必要。でも、短期的には「容量が減ってきたら追加する」という形がある。それは面倒ですが、コストをコントロールするには、そういう手法がおそらく必要です。

 そしてひとつの回線にどれくらいのお客さまを収容するか、収容率をどれくらい上げるのか。

 それで速度が遅くなっては意味がありません。でもひょっとしたら、今まで、ノードなど装置によって、混雑しているところと空いているところがある。それをどうロードバランスするのか。ネットワークコントロール技術がコストを下げていきます。

 単純な投資抑制ではなくトラフィックに見合った容量なのか、そういう感じなんですよ。

 お金があると1年分どーんと設備投資しますが、それではだめ。かといって、あんまり短期対応にすると、物よりも工事の人件費がかかります。そのバランスをどうとるか、です。

 シェアリング関連では、まずやるべきはビルです。オフィスビルやショッピングモールですね。キャリアごとに設備を置くのは困るというオーナーさんはたくさんいらっしゃいます。イオンさんなどは、いろんなお客さまがお越しになるので全てのキャリアへの対応が必要。そこで共通アンテナになるのです。

 屋内設備を手掛けるJTOWERがありますが、ドコモが直接出資すると他社に使ってもらえなくなる、ということで、NTT(持株)から2割出資となっています。

 これは「ドコモもJTOWERをちゃんと活用してシェアリングをしろよ」というメッセージを含めて、(井伊氏が持株時代に)やったんです。

 インフラシェアリングは、ルーラルエリア(郊外)だけではなく、実は屋内需要に対するシェアリングが必要です。5Gでは、ミリ波などでは届かない。屋内にアンテナがないといけません。

固定回線としての活用

井伊氏
 話を勝手に進めちゃいますけど、僕は、ソフトバンクさんの「SoftBank Air」をすごく脅威に感じているんです。

 テナントや賃貸の住宅では、工事して光回線を導入していただけるかというと、簡単な設置でLTEで通信できてWi-Fiが使えて、家族の通信量をオフロードできるものは、アリです。LTEではなく5Gでもいい。最後のアクセスポイントの高度化がまだ残っています。

 NTT東日本/西日本にも「FTTHにこだわったらガラパゴスだぞ」って言ってるんですよ。

――それはドコモが、NTT(持株)の完全子会社になったことで、実現しやすくなるわけですか?

井伊氏
 いえ、完全子会社化とNTT東西は関係がありません。だからドコモがやるしかないと思っています。

 でも、まだ(社内は)みんな賛同してくれないんですよ(笑)。コストがいくらになるのか、何のためにやるんだと財務部長に指摘されましてね。

 でもお客さまからは「ちょっと単身赴任するんで、SoftBank Air買っちゃったよ」なんて声を聞くわけです。そうだよな、そういうところだよなって。

 我々はFTTHがあるから(SoftBank Airのようなサービスがなくても)いいんだと、安心感というか……危機感がない。

 持株時代、スイスのチューリッヒを訪れたんですが、5Gが始まるころでした。すると現地では、自宅内に設置するための端末で5Gの電波を利用できるようにしているわけです。その端末から宅内はWi-Fiで繋げられれば、4Gのスマホでも十分、ビジネスになる。

 僕らはなまじ5Gの電波をフィールドで展開しているから、みんなに届けようとしている。でもエリアが狭いのであれば、こういう発想になるんだと。

 今後、5G、6Gの時代に向けて、NTT東西には「電柱があるんだから、そこに宅内に向けて電波を届ければいい」と言ってるんです。でも気がついていないのか、やらないのかわかりませんが、モバイルの通信量をじゃぶじゃぶ使えるようになればいいんですが、まだ時間がかかる。(宅内向けの)アクセスの無線装置は、絶対成長の余地があると思っています。

――リモートワークが広がっていますが、マンションなど通信速度が遅いという声もありますよね。

井伊氏
 そうですよね。頑張ります。出したいんですよ。

――それは2021年度にも?

井伊氏
 そうです、やりたいです。せっかちなのは、(NTT持株社長の)澤田譲りです。

 ドコモに足りないのはせっかちさ。何か新しいことをやるときも、全てではありませんが実証実験をまず進めて、と手順を踏む。何年かけるつもりだと。技術の確立を非常に重んじているというか。滑って転んでもやればいいんです。

――そういう印象はNTTグループ全体にあります。

井伊氏
 そうですよね。中の人を変えていくのは大変です。外からスカウトして、権限持ってもらってガンガン進めると、ドコモ社内も変わります。実際そういう事例はあります。

 でもホントは、次の世代のひとたちがやってくれるといい。マインドはあるんです。でも、僕からするとスピード感が足りない。もっと早くやればいい。

 開発にはもちろん一定の期間がかかります。だったらスタートを早くすればいい。でもスタートまでに時間がかかっている。

――FWA(無線を使った固定ネットワーク)は歴代のドコモ社長が否定的でした。東西へ遠慮していたのかなとも思ったのですが。

井伊氏
 NTT東日本にも13年いたのですが、FTTHの立ち上げを進めていました。今はもう、導入してもらえるところには行き渡っています。

 たとえば賃貸住宅向けに、傷を付けないような設備なども考えましたが、どうしても穴は必要です。だからエアコンのダクトを使うといった手法も考えました。FTTHは、建設時に配管を用意するなら良いのですが、後付けは大変です。

 FTTHは、局内装置のアップグレードで高速化できるというメリットがあります。でも無線の威力はすごい。センサーなどIoT向けデバイスでは、低速・低容量のモバイル通信が活用されています。

 それ以上の速度の用途でも今後、補完的に必要になります。

――その時代での料金ってどんな考え方になるんでしょう。

田畑智也氏(NTTドコモ料金企画室長)
 SoftBank Airの料金は4880円(税抜)ですよね。そこは考えていきます。

井伊氏
 それよりも安くなきゃだめだね。

田畑氏
 (フレッツ光の)マンションタイプが4000円程度です。そのあたりですよね。あとはギガ数(通信量)の付け方ですね。

――セット割のような考え方はいかがでしょう。

井伊氏
 しないほうがいいでしょうね。このサービスは、ドコモユーザーじゃなくても良いんです。どなたでもいい。ドコモのためでやってはだめです。ただ、そういう商売をやることを総務省さんが認めるかどうか。そういう規制のほうがあると思います。通信品質の問題とか、(宅内向けモバイル回線経由で)110番がかからないとなるとまずいですよね。

――ギガホプレミアは無制限になりましたが、そういう用途も想定していたんですか?

井伊氏
 そこまで含める芸はないんです。ただ、ギガホの世界にみんな移って欲しいんです。

 だけど「使わないときも取るのかよ」とお国が言うので、「3GB未満なら1500円引き」という安全保険を用意した。これは他社もやっていたので、正直真似をしました。とはいえ、「使ってもいないのに(それに見合わない料金を)取っていた」ことの証明になります。

 本来は、お使いになるということで契約いただいていて、それを使わないのは、お客さまの自由とも言えます。しかしその考えは「高く売りつけて荒稼ぎしてるんじゃないか」と厳しく批判を受け始めましたので、それはまずいと3GBで線を引きました。

 他社さんに学ばせていただいたので、ahamoを真似されるのも致し方ないですね(笑)。

低容量プランは

――13日のKDDIの発表では、UQ mobileではかなり安いプランが発表されました。

井伊氏
 あれ、すごいですね、3GB1480円が最大のインパクトですよ。

――どう対応されるんでしょうか。

井伊氏
 ギガライトで対応するつもりはありません。第3のMVNOのセグメントでやるべきかなと思っています。ギガライトを下げるとMVNOと差がなくなります。そこを下げると、もうこれでいい、と使っていただけなくなるかもしれません。

 12月のahamo発表会では、MVNOと連携する方針も紹介しました。どんな組み方があるのか、僕はやっぱりdポイントだと思っています。

 dポイントの会員基盤に、プロバイダーのキャリアが入っていただく。僕らは回線容量を提供している、OCN モバイル ONEやIIJといった方々がいますが、それに限らず、dポイントに入って、dポイントを発行してくださる、dポイントビジネスみたいなものに賛同していただける方が仲間だと。

 dポイント経済圏を増やしていくには、ひとつの鍵かなと。僕らが(MVNOプランを)売るわけではないので、リコメンドか、彼らが積極的に「dポイント使える」とPRしていただくとか。

 dポイントはもちろん原資が必要です。MVNO事業者は体力(資金的余力)が大きくないですから、潤沢に何ポイントも発行していただけないかもしれない。でも、dポイントでMVNO料金に使えるとか、そういう形にしていくことが「MVNOとの連携」の意味でもあるのかなと。

――NTTコミュニケーションズの子会社化も影響しますか?

井伊氏
 彼らは(MVNO)イネーブラーにしようと思っています。NTTコミュニケーションズ子会社のNTTレゾナントで、OCN モバイル ONEをやる。OCNというISPそのものもNTTレゾナントにやらせようかなと。それは12月25日の総務省の会合に出しました。

 他社さんからは「ズルをするんじゃないか」「回線をNTTコミュニケーションズに渡しても、それをさらに安く提供するんじゃないか」と指摘がありましたが、それを思いつくこと自体、「そういうこと普段から考えているのかな」って思っちゃいますよ。

 僕ら真っ正直な会社で、いつも見られているので、そんなことできるはずがない。

 料金よりもdポイント、“d”の効用で、連携したい。ギガライトで対応できない低容量、低価格をお求めであれば、MVNOがいいでしょうと。「dのつながり」があればオススメもできるかもしれません。

 回線の卸は透明化されていますから便宜を供与できません。ほかの付加価値でどう結びつくか。MVNOからするとドコモショップで推奨してもらいたいというご要望もあるでしょう。

――ドコモショップでMVNOの商品を扱うとか。

井伊氏
 扱うと言うかリコメンドですね。

――量販店のように吊るすとか。

井伊氏

 それはありえますね。良いアイデアをいただきました。

 だから、eSIMもやりますよ。すでにドコモとしては2017年にタブレットの「dtab」で対応していました、課題は本人確認、なりすましと、セキュリティの担保です。

 eSIMの発行会社って世界中に存在します。プロファイル情報の扱いなどによっては、“クローンSIM”のようにユーザーの回線契約を複製される懸念があります。あの世界は自由。このセキュリティの問題だけで、ぜんぜんやりたい。良いと思っています。

 これでだいたい、皆さんの疑問にお答えできましたかね。

――そういえばahamoでのApple Watchは? そもそもiPhone対応かどうかも表明されていませんが……。

井伊氏
 iPhone、うち対応しますよ。言っときましょう。当たり前でしょう。

 悩んでいるのは廉価な端末を用意すべきかどうか。

 端末を持ち込み、SIMだけという考え方もありますが、本当の廉価端末ではだめではないか。“人気の端末”が適合して使える、あるいは型落ち、中古で使えないと面白くない。どう実現するか、今、一生懸命考えている。iPhoneを使えなければ話にならないですよ。

 ただ、ahamoにおけるApple Watchとかガジェットのことは、あんまり考えてなかったです。まずはメインの端末について。

 eSIMはタブレットに入れるとかあるので、いろいろ考えます。ただ、アップルさんいろいろとハードルが高い。交渉事がたくさんありますから。

――ありがとうございました。