【Mobile World Congress 2017】

2020年「5G」導入で何が変わる?――NTTドコモ 5G推進室の中村氏に聞く

 世界各国の携帯電話事業者や関連メーカーが取り組んでいる次世代携帯電話サービス「5G」(5th Generation)。3GやLTEにおいて、技術面でもリーダー的な立場として、関わってきたNTTドコモも早くから5Gの開発や標準化に取り組み、今回のMWCでもデモンストレーションを行っている。NTTドコモの先端技術研究所 5G推進室室長の中村武宏氏に、NTTドコモの5Gの取り組みについて、お話をうかがった。

NTTドコモ 先端技術研究所 5G推進室室長 主任研究員の中村武宏氏

LTEからスムーズに移行、今までのサービスがより使いやすく

――ドコモはこれまでもMWCなどのイベントで5Gのデモを行ってきましたが、いつ頃を目途に5Gのサービスを開始しますか。

中村氏
 これまで今までもいろいろな場面で語られてきていることですが、やはり、オリンピックイヤーということもあり、2020年には開始したいですね。

――5Gは2020年にスタートするというお話ですが、これは世界初を狙っていたりしますか。

中村氏
 いや、世界初は3Gで痛い目を見ていますので(苦笑)、特に固執していません。世界の先頭集団として、導入するというスタンスですね。

――5Gになると、何がどう変わっていくのでしょうか。かつての3Gではテレビ電話などが挙げられましたが、5Gでは具体的にどんな事例が考えられているのでしょうか。

中村氏
 5Gで何かガラッと変わるのかという質問を受けることが多いのですが、実はそういうものではなく、現在、みなさんが利用しているサービスなどがより使いやすく、より快適になるという方向で進んでいると思ってもらった方がわかりやすいでしょう。

 かつてのテレビ電話のように、キラーサービスとして期待されながら、あまり活用されなかった例もありますが、現在のスマートフォンのように、LTEが普及したことで快適に利用できたものもあります。

MWC 2017のドコモブースでは、5Gのデモンストレーション展示を行っている

――5Gが導入されるにあたり、ユーザーが負担するコストは増えるのでしょうか?

中村氏
 過去の歴史を振り返ると、2Gから3G、3Gから4Gと進むにつれ、データ量も数倍になってきたわけですが、料金も数倍になったというと、そうではありませんでしたし、実質的な単価は下がっています。現段階ではまだ何とも言えませんが、3GからLTEになったときと同じような形になると思います。

――ユーザーの端末の買い換え周期は2年から3年と言われています。現状はLTE対応端末が増えてきていますが、まだ3G対応端末をお使いの人もいます。5G開始が2020年だとすると、「また変わっちゃうの?」という考えをお持ちの方もいるかもしれません。どういう形で5Gが導入されていくのでしょうか?

中村氏
 5Gは新しいサービスですが、端末については現状のものに追加される形で提供されることになると思います。従来の2Gから3G、3GからLTEの時よりもスムーズに移行できるのではないでしょうか。

――4Gのときは北米などで、なし崩し的に4Gという言葉が使われるようになってしまいましたが、5Gでもユーザーが使っていた4G技術がいつの間にか5Gに変わっていた、という風に移行していくのでしょうか。

中村氏
 その可能性は考えられますが、ユーザーのみなさんに向けて新技術をどのように紹介していくのかについて、業界的には盛り上がっています。

――かつての3G、LTE導入時もそうでしたが、新しい通信技術が導入されると、端末のバッテリーに大きな影響があります。これは5G導入時も同じなのでしょうか。

中村氏
 データ通信の速度を高速化するため、データ処理の負荷が増え、電力消費は増えることになります。過去の歴史を見てもわかるように、新しい技術が導入された当初は、チップなども含め、電力消費の制御が完全ではないため、電力消費は増えます。

 これがこなれてくると、リーズナブルな電力消費に落ち着いてくるという流れになります。おそらく5Gも同じような流れになると思いますが、そこはチップベンダーさんと共に、ユーザーにみなさんのご負担にならないように、技術を開発していきたいですね。

――5Gでは高い周波数帯を利用することもあり、MIMOをはじめ、アンテナ技術が重要と言われています。

中村氏
 高い周波数にチャレンジしていくというのは、5Gのひとつのトピックですが、ちょっとそこがアピールされすぎている印象もあります。確かに、技術的には新しい取り組みですし、アンテナも多素子アンテナが採用されるなど、注目される点はいくつもあります。

 5Gは高い周波数帯を使う技術だと思われている部分もありますが、これは誤解です。既存の周波数帯に加えて、高周波数帯も使う。つまり、あらゆる周波数帯を使って高速通信を実現しようというものです。たとえば、LTEでは使い切れなかった高い周波数帯も5Gでは活用できるという意味なのです。そこで、十分な性能が発揮できるように、いろいろな技術を組み込んでいます。

ドコモ5G推進室の取り組み

――ドコモの5G推進室はどのようなことをしているのでしょうか?

中村氏
 5Gに関連する標準化、トライアル、あとは技術開発や研究開発ということになりますね。最近はトライアル関係に力を入れていまして、無線技術だけでなく、サービスの種を生み出そうと言うことで、さまざまなパートナー会社さんと協力させていただいていて、いろいろなチャレンジをしています。

――具体的にはどのような企業と協力しているのでしょうか。

中村氏
 昨年11月に、R&Dオープンハウスというイベント(NTTドコモの最新技術を展示するイベント)を開催したのですが、その際には警備会社のALSOKさん、ディスプレイでジャパンディスプレイさんにご協力をいただきました。それからスカイツリーでいろいろな取り組みを検討していることもありまして、東武鉄道さんにもお願いしました。コンテンツが大事なので、VRのコンテンツをたくさんお持ちの凸版印刷さんともお話をさせていただいています。

 また、かつてアイデアソンやハッカソンといったイベントに取り組んでいましたが、こうしたところで提案されてきたものを具現化するようなことをやっています。目に見えるモノ、手で触れるモノを作っていきたいですね。

――ハッカソンでスマートフォンをテーマに掲げてしまうと、スマートフォンとしての限界が見えてしまう気がします。

中村氏
 そうですね。普通にアイデアソンを実施しても意外に今すぐにでもできそうなアイデアが出てきてしまうことがあります。私自身としては「もっとぶっ飛んだモノを!」とお声掛けするのですが、なかなか飛び切れていないのも事実です。

 5Gは2020年にスタートする計画ですが、そのもう少し先の2025年くらいを意識したアイデアを出していただくようにお願いしています。それでもぶっ飛ばしきれないくらいなので、難しいですね。実は、SFチックな世界を思い描くくらいの話じゃないと、いけないのかもしれませんね。

――振り返ってみると、今から二十数年前、3Gが始まる頃にNTTドコモは未来を描いた映像を制作していましたが、実は描かれていたサービスなどの多くは、現在、実現されていますね。

中村氏
 今回も5Gのビデオを作りましたが、あれも2020年代のうちに実現できるんじゃないかという想定のもとに、制作したんですよ。

MWCではクルマに注目

MWC 2017のドコモブースでの展示。詳細は追ってお伝えする

――話は変わりますが、今年のMWCを見て、何か面白いものや注目されているものはありましたか。

中村氏
 やはり、5GやIoT関係が多いと思いますが、クルマ関係が盛り上がってきているように見えますね。NTTドコモとしてもコネクティッドカーなどに取り組んでいます。

――クルマ関係と言えば、2020年に自動運転を実現させようとしているという話題を耳にしますが、NTTドコモとしてはどのようにお考えでしょうか。

中村氏
 自動運転は楽しみな取り組みですが、すべてを通信で実現するようなものではなく、やはり、クルマが自律で動作する方向だと思います。ただ、無線を介して、クルマに情報を提供したり、クルマから得られた情報を吸い上げて、またクルマに戻すというような活用が考えられます。

――読者に向けてのメッセージをお願いします。

中村氏
 5Gへ向けたものとしては、いろいろなものを画策しています。毎年、2大イベントを実施していて、ひとつは「ワイヤレステクノロジーパーク」、もうひとつは「5G東京ベイサミット」です。

 今年も開催する予定のこの2大イベントでは、5Gの無線技術によって今まで以上にパワーアップさせて、5Gのポテンシャルをお見せしたいと思います。また、秋にはパートナー企業さんとの取り組みを、ユーザーの方が体感できるような形にして、ご提供したいと考えています。

――本日はどうもありがとうございました。