【Mobile World Congress Shanghai 2016】

ドコモCTO尾上氏が「5Gの神話と真実」解説、先行導入で断片化の懸念も

 スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress 2016に続き、Mobile World Congress Shanghai 2016(MWC上海)でも、「5G」は主要なテーマの1つになっていた。5Gは、2020年の商用化が予定されており、日本でも、ドコモなどが導入を表明している。4Gを超える高速化や、低遅延化などが特徴で、現在、グローバルで標準化が行われている。

 MWC上海では、この5Gに関するセッションも開催され、日本からは、ドコモのCTOで「LTEの父」とも呼ばれる、取締役常務執行役員 尾上誠蔵氏が講演を行った。

5Gの神話に反論したドコモの尾上CTO

 尾上氏は、5Gのユースケースを示す動画を紹介。これはドコモが作成したもので、ホログラムを相手にテニスをする様子や、スマートグラスで子どもが家族を見つける利用シーンなどが流された。この動画は、YouTubeの「ドコモ公式チャンネル」で見ることができる。

【5Gの世界観を示すドコモの動画】
スマートグラスで家族を探す様子
高速、低遅延なネットワークなら、ホログラムを相手にテニスもできる可能性を示唆した

 このような、ある意味“バラ色の未来”を示す一方で、尾上氏は5Gに関する、誤った認識が広がっていることに対し、警戒心を示す。同氏はこれを「5Gの神話」と呼んでおり、MWC上海の講演ではそのうちの3つを紹介した。

時間の関係上、5つある神話のうち、3つが紹介された

 1つ目の神話が、「5Gはホットスポットのようなもの」という認識だ。現状より高い周波数の利用が計画されている5Gでは、カバー範囲がさらに狭くなり、スポット的にしか効果を得られないと思われがちだという。これに対し、尾上氏は「私のチームが作った設備では、カバー範囲は数kmになる」と反論。Massive MIMOや高度化C-RANなどを用いれば、広い範囲をカバーできるといい、「スモールセルだけにする必要はない」と語る。

Massive MIMOや高度化C-RANで、カバー範囲を広げることができるという

 2つ目の神話として挙げていたのが、「すべて新しいものが必要になる」というもの。LTEからシームレスに進化する5Gは、既存の設備や端末なども利用できるため、これも誤解だ。これに対し、尾上氏は「多くの人が、5Gのバンドワゴン(行列の先頭の音楽隊)に乗ろうとしているためだ」として、1枚のスライドを紹介。このスライドは他の講演で披露した際にSNSで話題になったとして、「ぜひSNSにアップロードしてほしい」と述べ、会場の笑いを誘った。

SNSでシェアしてほしいと語られた、5Gを取り巻く状況

 尾上氏が3つ目の神話として挙げたのが、1つ目、2つ目の神話の結果として、「多額の設備投資が必要になる」という認識。これは、「非常にたくさんのセルが必要になり、設備も刷新しなければならないので、投資が膨大になる」という危惧に対する反論となる。尾上氏は、こうした声に、「安心してください」と語る。

1つ目、2つ目の神話の結果が、多額の設備投資の懸念に結びついてしまうようだ

 その証拠して挙げたのがドコモの設備投資額の推移。尾上氏は「このグラフを見て、いつが3Gの立ち上げで、いつが4Gの立ち上げかが分かりますか?」と会場に問いかけながら、3Gを立ち上げた2001年より、LTEを始めた2010年の方が、設備投資の金額は小さくなっている状況を解説した。一方で、データトラフィックは2000年から、6300倍になっており、対2005年でも200倍になっており、費用対効果は大きく上がっているとした。

ドコモの場合、3G導入時より、LTE導入時の方が設備投資額は下がっている

 5Gの神話を3つ解説した尾上氏だが、もう1つの声として、「5Gの断片化」が心配されていることを紹介した。2020年がターゲットになっている5Gだが、「最近になって、多くのキャリアがそれより早い立ち上げを発表している」という。具体的には、韓国が2018年の平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックに合わせたプレサービス開始を発表。米国でも、2017年に導入される報道があるという。

2020年を待たず、5Gをスタートする国が出てくる可能性があるそうだ

 こうした状況に対し、尾上氏は「心配しないでほしい」としながらも、ドコモが「3Gのとき、苦い経験をした」と語る。ドコモは、3Gを世界に先駆け導入したが、「早く始めすぎてしまった」。「リリース99」の標準化が固まるする前にサービスインした結果、「誰も追いかけてこず、孤立したシチュエーションに陥ってしまった」という。その後、ドコモはリリース99と互換性のある規格を導入。現在でも、過去の端末がネットワークにつながるよう、3Gでは2つの規格を併存させているという。

世界から孤立した状況を、「ガラパゴス」と呼んだテレビ番組を紹介し、笑いを誘った
現状でも、ドコモは3Gで2つの規格を併存させている。こうした失敗例を挙げることで、歩調を合わせることの重要性を説きたかったようだ
3G導入時の反省を生かし、LTEでは世界の先頭集団と同時期にサービスを開始した

 この反省を生かし、LTEは「先頭集団として始めた」。世界最速ではなく、標準化の動向を慎重に追い、導入の早いキャリアに歩調を合わせたのだ。尾上氏は3Gでの失敗例をユーモアを交えながら紹介することで、「フロントランナーには、そのぶんリスクもある」と強調したかったようだ。