【Mobile World Congress 2018】

ドコモ5G推進室室長の中村武宏氏に聞く5Gへの取り組み

 2018年のMobile World Congressの中心的なテーマの一つが5Gだ。5G時代に向けて携帯電話事業者はどう取り組んでいくのか。NTTドコモの5G推進室室長の中村武宏氏に近況を伺った。

NTTドコモ 5G推進室室長の中村武宏氏

――2017年には一般の方が参加できるようなトライアルイベントを多数行ってきましたが、その狙いは?

中村氏
 今まで業界の方といろいろとトライアルをして、展示して、紹介してきたのですが、やはり5Gはコンシューマー向けサービスにしていくことが重要です。ただ、なかなか5Gを一般の方にご理解いただく機会がありませんでした。それを何とかしたいと思い、一般の方に5Gをご体験いたけるような機会をできる限り作りました。それでも十分ではありませんが、5Gをご理解いただけるように何とかやってきています、という状況です。

――一般の方の声を集めて開発現場にフィードバックして行こうということなのでしょうか。

中村氏
 当然そういうのもありますし、そもそも我々の先進性のアピールもあります。これから移動通信システム、皆さんお使いの携帯電話がどうなっていきそうかということを早めに紹介させていただくことで、我々の宣伝にもなりますし、フィードバックもありますので、その両面で一般の方に訴求を図っています。

――実際に5G時代が到来すると、何が一番変わるのでしょうか。

中村氏
 2020年のオリンピック・パラリンピックまでには導入したいと思っていますが、その時点でガラリと社会が変わるかというと、そんなことはなく、じわじわと変わっていくのだと思います。ただ、変わり続けていくためには、5Gを早めに入れておかないといけません。今のLTEも良いシステムですし、まだこれからも改善していきますが、4Gのままではいずれ頭打ちしてしまいます。そうするとお客様に対するより良いサービスというのも頭打ちになってしまうので、2020年から5Gを入れておくことで、2020年代を通してどんどん良くなりますという環境を作りたい。具体的にどうなっていくかは、いろんなパートナーさんと協力しながら、より良いアプリケーションを開発していきたいと思います。

 少なくとも今やっている中では、映像系は非常にキーになります。AR/VRの流行りもありますし、デバイスの進化もありますし。特にスポーツの新たな見方みたいなものも、多視点映像を含め、いろんなところでやられています。どんどん良くなります。我々としてもアクセルを踏んで、それを早めに提供できるように準備をしています。コンシューマー向けにもより良いものを提供できるようにネタ込めを頑張っているところです。

――オリンピックきっかけという点では、スポーツ向けのアレンジを中心に考えていらっしゃるのでしょうか。

中村氏
 それも当然考えているという状況です。今の段階では明確なことは何も言えませんが、我々は商用なので、できるだけ商用のサービスとして何かを出さなければいけません。平昌から2年ほど余裕はありますが、やはり商用たるちゃんとしたものを提供しなくてはいけませんので、より一層チャレンジングになるのかもしれません。

 平昌で見させていただいたことを教訓にして我々も頑張らなくてはいけません。確かにちょっと拍子抜けだったところもあります。我々の場合、トライアルではないので、より一層しっかりやらなければならないという点で危機感はあります。そういう意味ではよい教訓でした。

――5Gの料金面へのインパクトはどれくらいになりそうでしょうか。

中村氏
 何も決まっていないので、明確なことは言えませんが、過去の歴史から言うと、新たな世代のシステムを入れたからといっても、そんな馬鹿高い料金になることはなく、あまり変わりません。性能を数倍、数十倍にしたからといって料金を数倍、数十倍にしているわけではありません。逆にビットコストをそれだけ落とさなければいけない、落とせるシステムです。

――5Gの開発を進めていく中で今の時点での課題は?

中村氏
 課題だらけです(笑)。まだ標準仕様が完了した段階で、動く装置を開発しなければいけないですし、山のような試験をしなければいけません。標準仕様もいっぱいオプションがあるみたいで、どのオプションを使うかで世界と合わせたいと思っていますし、その議論が必要です。

 それから運用面です。今まで使っていなかった周波数帯を使う可能性が高いので、それの運用方法や運用スキルを実験を通して得なければいけません。並行して5Gのサービスやアプリケーションも開発しなければいけません。ネットワークができました、どうぞ、ではいけません。以前は高速・大容量をうたうだけでよかったところもあるかもしれませんが、今回ばかりはできるだけ早めに5G上で提供して皆さんに認知いただくようにしなければいけません。期待も大きいですし、やること満載、課題満載といった感じです。私はエキサイティングだからいいですが、うちの部下はどうだか知りません(笑)。

――「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」も4月には本格的に始まります。こうしたパートナーとの取り組みの中身は一般のユーザーにも見える形にされるのでしょうか。

中村氏
 具体的にどうなるかはパートナーの皆さんとの議論次第ですが、できる限りのことはしたいと思っています。一般の方にも訴求できるような活動をできればハッピーです。ただ、リソースが限られているので、どこまでできるかは分からないのですが、いろんな業界の方と5Gをダシにお近づきになれる機会を作らせていただいたので(笑)、いろんな要望を聞けますし、我々もいろんな情報を提供できます。サービスの具体化に向けた議論もできるようになります。いろんな面で本当の商用サービスを開発することを促進できます。

 今までもデモのシステムを作ってきましたが、やはり口だけで「5Gのご要望は何ですか?」と聞いても絶対に出て来ません。口だけで説明してもなかなか理解していただけない。何か例を作ることが大事で、それをきっかけに次のステップに行ける、さらに具現化できるという風になれます。今までさまざまなトライアルや展示を行ってきましたが、あれを通じて議論を促進できています。まだ打ち上げ花火なので、ポテンシャル的なデモをしているだけで、商用にはまだほど遠い。これをきっかけに商用化、リアルなサービスを開発していけると思っていますし、開発していかなければいけないので、今年の課題はよりリアルなサービス開発です。少しでも商用に近いデモをして、スピードアップして効率的にやっていきたいと思っています。そうすることで、さらに別の業界の方にも幅を広げられます。それをどんどんやっていきたいですね。

――うまくプラットフォームを作り上げれば、いろんな方が相乗りして自然に回っていくという形になるといいですね。

中村氏
 本当にそう思います。こういう場を作ると、我々と他業界の方だけでなく、業界間でも議論が進みます。思いのほか業界の壁が厚く、全然情報共有をできていないケースが多く、こういう場を作らせていただいて業界間で意見交換できるようになると、皆さんにとっても非常に良い環境を作ることができると思います。本当に良いサービス、ビジネスモデルが作れるかもしれません。そこにできるだけ我々も乗っけていただいて(笑)、我々も良いビジネスができればいいなと思っています。

――5Gが普及した時のイメージはどんなものでしょうか。

中村氏
 我々が5Gの検討段階で、2020年代にどんな社会にしたいかというブレストをしました。基本的にはあらゆるものが無線モジュールを付けて通信できるようになったら、特に家電などはそうですが、リモートで何でもできてしまう。思ってもいないようなベネフィットがたくさん出てきます。そういうものをどんどん実現していきたいですね。今までも家電に通信モジュールを付けるというアイデアはありますが、本格的には普及していません。ただ、今はこれだけスマホやアプリやAPIとかいろいろある中で本当に良い環境が整ってきたので、本格的なリモートコントロールが当たり前になる。ある意味恐ろしい世界ですが、それが当たり前になる。今でも家の外からエアコンを入れるとかありますが、エアコンだけでなく、セキュリティでも泥棒入らないように監視できる。安心・安全な社会、便利な社会、そうなれたらいいなと思います。

――ありがとうございました。