【Mobile World Congress 2017】

「5G標準化の早期策定」で合意、ドコモ尾上氏にその裏側を聞く

 Mobile World Congressに合わせ、ドコモやKDDIを含む世界のキャリア、ベンダーが、5Gの仕様策定を早期化することで合意した。これによって、最短で2019年には、5Gを商用環境でスタートするキャリアが登場する。ドコモの、その合意のテーブルについた1社だ。同社で技術陣を率いるCTOの尾上誠蔵氏が、発表の意義や発表に至った経緯を解説した。また、ドコモの5Gに向けた道筋も語ってもらった。

ドコモの尾上氏

――基調講演で韓国のKTは、2019年に5Gを商用化すると発表していました。

尾上氏
 標準化を加速していけば、十分ありえることです。ドコモにとっては、2020年をより確実にしたということで、大きな意味がありました。

――それがMWCでの、5Gに関する成果でしょうか。

尾上氏
 MWCの前に色々な人たちと集まる機会がありますが、そこでは、5Gの標準化をもっと早くできないかという議論を1年ぐらいやってきました。MWCに合わせてプレスリリースを出すことができましたが、もっと早める、そのためのやり方も含めて、コンセンサス(合意)ができました。

――そのやり方というのは、どういったものでしょうか。

尾上氏
 あれも欲しい、これも欲しいとなっているとダメで、いつまでたっても決まりません。5Gには、5Gを単独で使うスタンドアローンと、4Gなどとインターワークしながらにするノンスタンドアローンの2種類がありました。最初に入れるのはノンスタンドアローンの方でいいのではという意見がなかなか通りづらく……。ノンスダンアローンを今年中に、そして3GPPのリリース15にスタンドアローンを入れて来年6月ぐらいにやろうと提案したところ、賛同する方が増えました。

――5Gとはいえ、いきなりエリアを広げられるわけではなく、設備投資も必要です。普通に考えると、ノンスタンドアローンの方を急いだ方がいいようにも思えますが……。

尾上氏
 (各社)色々な事情があり、誤解もあります。中には、スタンドアローンの方が安いと思っている人もいます。じゃあ、マイグレーション(移行)はどうするのか。その辺の理解が進んだこともあるのかと思います。

 あれも欲しい、これも欲しいの例で言うと、IoTとブロードバンドのどちらを優先するのかという議論もありました。これも、今となってはドコモの主張が大体その通りに認められた形です。

――どういった主張でしょうか。

尾上氏
 もともと、IoTの技術はいっぱいあるので、5Gについては、モバイルブロードバンドを先にやろうと思っていました。LTEベースのIoT技術をしっかりやっていけば、それが自然と5G IoTになるからです。ところが、何もないところから、まず5GのIoTが欲しいという人たちもいて、それに「まあまあ」と言って説得してきました。モバイルブロードバンドだけを先にやるのはダメだという意見は、当初からありましたからね。

 コアネットワークの話にしてもそうで、ネクストジェネレーションコアとして、何か新しいものが欲しいという人がたくさんいましたが、最終的には、今のコアをそのまま使って5Gの無線がつながるアーキテクチャーにする方向性が固まってきました。それもこの1年ぐらい、やってきたことです。

――IoTという意味では、ドコモはLoRaも始めます。これはどのように使っていくのでしょうか。

尾上氏
 LoRaにはセルラーと違う面があります。セルラーIoTで全部カバーできるかというと、そんなことはありません。そういう意味で言えば、LoRaだけでなく、Wi-FiやZigBeeなど、IoTのソリューションはいっぱいあって、その1つとしてRoLaが使われるのはもちろんあると思います。

 ただ、SIGFOXやLoRaなどの新しい無線方式で、ネーションワイドに設備を打つのが本当に正解なのかというと、それには疑問があります。今回ドコモがやるのは、農業などの場所ごとに適用するソリューションですね。

――範囲が広いWi-Fiのようなイメージでしょうか。

尾上氏
 そうですね。気持ちとしてはセルラーで世界制覇したいというのはありますが、なかなかそこまでは届かない。LoRaは1つ基地局を打てば、広くカバーできるのがメリットで、そういうケースはあると思います。あとは料金を含めて、どういう提案ができるか。お客さんにとって一番いいソリューションを提供する中で、組み合わせを考えなければなりません。

――MWCではLAA(アンライセンスバンドでのLTE)の展示も増えていますが、こちらについてはどうお考えでしょうか。

尾上氏
 使えるものはなんでも使うべきだと思っています。LAAにはいろいろな評価もありますが、Wi-Fiで使うより効率が良くなるというデータもあります。あとは優先順位ですね。結局、あの技術は(ほかからの)切り替えというより、キャリアアグリゲーションで速度を上げるためのものです。ただし、キャリアアグリゲーションするバンドは、ライセンスバンドがたくさんあります。バンドが少ない地域よりも、深刻さはないと言えるでしょう。その先に、5CC、6CCのキャリアアグリゲーションが当たり前になってくれば、アンライセンスバンドも含めてアグリゲーションすればいいと思っています。

――2020年に導入する5Gまで、どのようなステップで進化していくのか、そのイメージを教えてください。

尾上氏
 LTEがどんどん進化しているので、5Gの登場感はしっかり出していきたいですね。さまざまなユーザー向けのサービスを、どう見せていくのかの検討はしっかりやっていきます。MWCを見ても、一般的に皆さん同じことを言われていて、どこを歩いてもARだったりVRだったりしますが(笑)、そういった形のものがコンシューマーには手っ取り早いのかもしれません。ただ、ビジネス的に新たな収入を得られるようにするには、お客さんに感じてもらえる価値が必要です。

 ドコモには「+d」があり、“B2B2X”でやっていくのが方針です。今年から始める5Gトライアルサイトも発表していますが、具体的なパートナーと組んで、具体的なユースケースをお見せできるようになるのではと思います。

――ソフトバンクのように、要素技術の一部だけを入れるということはあるのでしょうか。

尾上氏
 ありえると思います。個々の具体的な経営判断として、費用対効果を見ればいいのだと思います。ただし、これは長期的に見なければいけない。LTEが始まる前にHSPA+を入れて細かな改善をしたところもありますが、それが本当に正解だったのか。長期的に見て投資効果があれば、やってもいいと思います。

 もう1つ、別の面ではマーケティング戦略がありますが、それも含めて効果があればですね。

――本日はありがとうございました。