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ドローンや空飛ぶ基地局の実用化を後押し、ソフトバンクの次世代電池開発
2021年3月15日 17:42
ソフトバンクは、同社の次世代電池の開発とその展望について報道陣向けに公開した。
昨今の新型コロナウイルスによる影響でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速を見せる中、重要な役割を果たすのがデバイスだ。新たなデバイスがどんどんと登場する中、電力(バッテリー)が担う役割もまた、重要なものとなっていく。
同社では、次世代デバイス実用化の早期実現を目指すべく、より高性能な次世代電池の開発を推し進めている。
ソフトバンクが電池開発に取り組む意義
ソフトバンクで研究開発を進めているのは「二次電池」。スマートフォンにも使われる々充電が可能なタイプだ。こうしたバッテリーの進化は「高密度化」と「高寿命化」の2つに分けられる。
高密度化をすすめることで、同じサイズでもより大容量なバッテリーを実現できる。さらに同じ容量でも低密度なバッテリーよりも本体を小さくできるため、小型・軽量化にもつなげられる。
一方での高寿命化は、その名が示すとおりバッテリーを使用できる期間を長期化しようとするもので、充電と放電の繰り返しで容量が減少していくバッテリーをできる限り長期間、充電容量を減少させないことが目標だ。
ソフトバンク 先端技術本部 先端技術研究室 室長 西山浩司氏は「高密度化と長寿命化はその両方が求められるが、そうした高密度かつ長寿命な電池の開発には長期の時間が必要」と語る。
将来的には1000Wh/kgも
現行の電池は、材料や設計を最適化したとして想定される限界は300~350Wh/kgとされる。ソフトバンクが目指す次世代電池では、最大で1000Wh/kgを目指すという。
電池の構造としても、負極に使われる黒鉛がリチウム金属に変化、600~1000Wh/kgの高密度電池では、正極の材料も有機系・空気などに変わることに関連して電解質もあわせて変えていくという検討がされているという。
多孔度(=隙間、電池容量に関係のないデッドスペース)という視点で次世代の電池を見てみると、現行の電池を見ると次の画像のようになる。負極で25%程度とあるが、リチウム金属を用いる次世代型は0%で、無駄を減らし、さらに銅箔(Cu箔)に置き換えることで、500Wh/kgの実現の可能性が見えてくるという。
また、さらに高密度となる600~1000Wh/kgの電池では、固体電解質や次世代無機正極、従来型とは異なる電池構造を用いるなどして可能な限り多孔度を0%に持っていくことを目指す。
高性能と安全性の両立が必須
ただし高密度というだけでは、実用化したとは言い難い。開発における4つの要素は、高密度・軽量化に加えて電池寿命、安全性、コストだという。大容量で安全性が高く、かつ低コストを実現するためのテクノロジーとして6つのものが重要視されている。
電池に組み込む前に、無機物でリチウム金属の表面処理を施すことで、電解質の分解による不均一な皮膜層の形成からデンドライト(ショートの原因)形成を防ぐことで、長寿命化を図る。
集電体は、負極にリチウム金属を採用した場合、全体重量の21%を占めるもの。現在は銅箔を用いているが、アルミ合金泊や樹脂泊などの活用を目指して同社内で開発中という。
また、レアメタルを削減し安価な正極活物質の開発や現在の重元素メインの構造から軽元素メインとして材料の軽量化を図る検討もされている。最終的にはコストフリーである空気電池を目指す。さらに、高濃度電解液や固体電解質を採用することにより、現行の電解液を使用したバッテリーよりもより安全で高密度を実現できる。
積層スタックと呼ばれる現在の構造に比較して、バイポーラ構造は、現在の電池構造よりも工程の削減による低コスト化かつ小型化が見込めるという。
さらに、電動助材、バインダー、活物質間の隙間を削減することで正極内のデッドスペーを削減。これにより高密度化を狙う。
高密度化を優先して開発する
ソフトバンクが描く次世代電池の開発の方向性は「高密度電池を実現した後に長寿命な電池を目指す」というものだ。
西山氏によると、一般的な電池の開発は長寿命化に重点が置かれている。スマートフォンや電気自動車に用いられるバッテリーは、できるだけ長い期間、交換せずに使えることがユーザーから求められる。
これに対するソフトバンクの姿勢は、少々視点が異なる。ドローンやHAPSなどこれから登場が期待される次世代デバイスは大きな電力を必要とするものが多い。ソフトバンクでは、こうした次世代のデバイスの早期実現を促すために他企業とは異なるアプローチを取っている。
現在の技術では、エネルギー密度の限界は300~350Wh/kgが限界と見られているという。通常の電池開発の手法で400Wh/kgクラスの電池が実現するのは、2020年代後半から2030年代にかけてと予測される。ソフトバンクの場合、寿命はそれに一歩譲ると考えられるが、他社に先駆けて高密度電池を実用化することを目指している。
ドローンなど次世代デバイスを実用レベルに
高密度な電池がもたらす世界とはどんなものだろうか。西山氏によると次世代デバイスの早期実現に加えてSDGsを見据えた電気をストックできる社会の2つがあるという。
現在、実用化されている250Wh/kgのバッテリーを搭載したドローンの飛行時間はおよそ30分。これをたとえば、1000Wh/kgになると120分ほど飛行可能と考えられる。ドローンを活用した配送サービスの実証実験などが進められているが、飛行時間が30分では短いという声が多く聞かれると西山氏。
ただし、ソフトバンクの調査によると飛行時間が倍の60分を超えられれば、一気に実用化に近づく可能性があることがわかっている。これであれば、離島や地方での配達でも拠点を増やす必要なく運用できるという。
次世代電池により、新たなデバイスが実用域に達すれば新しい産業の創出や既存の産業でもDXを促せる。これにより産業の革命に貢献できるのではと西山氏。
SDGsに向けた取り組みにも活用
5人家族が1日に使う電気量をひとつのバッテリーに蓄電しようとすると、現在のバッテリー(250Wh/kg)では120kgほどの重量になるという。これを1000Wh/kgとすると1/4の30kgにまで軽量化できる。
こうしたスペックのバッテリーの活用について「色々な考え方ができる」と西山氏は語る。たとえば、時間帯による電力需要の多寡で電力配分をコントロールするVPP(Virtual Power Plant)の実現などは「バッテリーが街中にばらまかれていることが必要」という。
このほか、災害時における長時間の電力供給などについても取り組む姿勢を示した。同社では、複数の研究機関や大学、企業と次世代電池の実現に向けて取り組みを実施している。また、450Wh/kg級電池の実証、長寿命化の要素技術開発を達成しており、今後は450Wh/kgのバッテリーで長寿命化を目指すという。
また、次世代電池の早期実現を支援するプラットフォームの立ち位置として「ソフトバンク次世代電池Lab.」が6月1日から運用される。自社での設備を持ち、自らで検証することが必要とされたために設立されたものという。
現在は、バッテリー材料の開発をメインに進めているが、同社の技術ノウハウを用いてHAPSモバイルやMONETなど、パートナーと共同で出口に向かった電池の開発を推進できるのも選択肢のひとつという。今後は、次世代電池の普及促進のためコンソーシアムやアライアンスの設立なども検討されている。
西山氏は「ソフトバンク=電池は、ピンとこない人もいるかもしれないが、これもひとつのテクノロジー。技術の進化で未来を現実にしていきたい」と語った。
現在、開発されているバッテリーは比較的大型のデバイスでの活用を想定している。最初からの小型化は困難を伴うためだが、モバイル関連では、携帯電話基地局に備え付けられている非常用バッテリーなどへの活用が検討されているという。