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NTT法、国民不在の議論では禍根が残る――3キャリアのトップが激しく主張

 KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル、日本ケーブルテレビ連盟の4者は4日、「NTT法の見直しに関する意見表明」の記者発表会見を開催し、会見の様子はYouTubeでも配信された。

 今回の会見は、自由民主党「『日本電信電話株式会社等に関する法律』の在り方に関するプロジェクトチーム」による、NTT法に関する提言案への意見を表明する目的で開催された。

 KDDIの髙橋誠代表取締役社長、ソフトバンクの宮川潤一代表取締役社長、楽天モバイルの三木谷浩史代表取締役会長、日本ケーブルテレビ連盟の村田太一専務理事が登壇し、NTT法の廃止について反対する姿勢をあらためて示した。

 髙橋社長は冒頭、「自民党PTによる提言案が多くのメディアで取り上げられている。提言は正式なものになっていないが、我々としてはこのタイミングで再度スタンスを明確化したい」とコメントした。

髙橋社長

 NTT法の廃止はNTTの意向に沿ったもので、「企業や国民の声を十分聞いていない」(髙橋社長)。NTTの国際競争力向上を目的とした技術開示義務の撤廃については、NTT法の法解釈や改正で対応可能であると主張された。

 KDDIらが要求するのは“オープンな場での議論”。公正競争やユニバーサルサービスに影響が及ぶ重要な事項であり、議論を尽くしたうえで方向性を定めるべきとした。

 髙橋社長は「『単に利益を追求する巨大企業を作るのは国民の利益にならない』という観点から制定されたNTT法は、今なおその役割を果たしている」と強調。公正な市場の維持にとって重要な法律であり、廃止されれば健全な競争環境を維持できなくなるとする。

 KDDIやソフトバンク、楽天モバイルらは2020年にも、NTT(持株)によるNTTドコモの完全子会社化に対して意見書を提出していた。NTT法廃止の動きは、当時と同じくNTT市場支配力の強化につながると危機感をあらわにする。

 NTTが有する“特別な資産”についても、会見のなかで説明された。電話加入権などの国民負担で構築された光ファイバー網などは、「競争事業者が構築しえない規模の特別な資産」(髙橋社長)。

 NTT法廃止によって起きうるとされるのは、料金の高止まりやサービスの高度化・多様化の停滞。また、地方などの条件不利地域におけるユニバーサルサービスの維持に加え、通信インフラの安全保障面での影響も懸念される。

 宮川社長は「なぜNTT法をなくさなくてはいけないのか、全然腹落ちしていない。改正ではなぜダメなのか。こういうことに本当にこだわっている人たちが誰なのかというのがまったくわからない」と憤りを見せる。

宮川社長

 NTTの特別資産は“国民の持ち物”であり、それをNTTに払い下げるということであれば、「電話加入権は国民に返す」という議論もあってしかるべきとした。

 宮川社長は、ソフトバンクによる過去の企業買収に関して言及。「我々が日本テレコムを買収する前に、まずリップルウッドという外資系のファンドに譲渡され、もう一度買い戻した。ボーダフォンも、2001年に外資のボーダフォンに売却されて、それを2006年に我々が2兆円もかけて取り戻した」と語る。そのうえで、「NTTのサイズで同じことがあったときに買い戻せる企業があるのかという議論がまったくなく、本当に危険」と語気を強める。

 「大きな不況があって(NTTが)外資の買収対象になったら本当に大きな問題に発展する。日本が終わってしまう」と警鐘を鳴らした。

 三木谷会長は、「日本の携帯通信の一番重要なバックボーンはすべて、NTTの特別な資産に支えられている」とコメント。スマートフォンは、人々にとってはライフラインになっており、場合によっては車などの交通手段より大切であるとする。

 コネクティビティ(接続性)の根幹であるNTT法を議論なく廃止することは「拙速であり、違和感をおぼえる」(三木谷会長)。

 世界はさまざまな技術競争があるなか、今回の議論は「大NTTを復活させようという動き」であると語った三木谷会長は、通信料の値上げに関する懸念も示す。

 三木谷会長は「たとえばNTT法がなかった場合、NTTはいつでも接続料を上げられる」と語り、仮にそのような環境であれば楽天グループは携帯事業に参入していなかったとした。

三木谷会長はオンラインでの登壇だった

 日本ケーブルテレビ連盟の村田専務理事も同調し、ボトルネック設備を有するNTTの優越的立場が競争目的で利用された場合、「他社は明らかに不利な立場に置かれる」と不安を募らせる。

村田専務理事

 髙橋社長は「見方によっては通信会社間のいざこざに見えるかもしれないが、決してそんなことはない」とコメント。国民が使う通信サービスをより良いものにするための議論であることを強調した。

 「すぐにサービスの悪化につながるとは思わないが、5年先10年先、これからのすべてのものに通信が使われる時代に、必ず禍根を残すことになる」と髙橋社長。

 宮川社長は「あと10年経てば、携帯電話は6Gと呼ばれる時代に入っていると思う。あと20年経てば7Gや8Gといった話になると思うが、今の時点で7Gの仕様規格を世界で語れる人はひとりもいない」とコメント。

 続けて「技術革新が速い市場。何が起こるかわからない人たちが決めてはダメ。我々としてはありとあらゆる形で保険をかけないと、日本国は本当におかしくなってしまう。そういう意味で、僕は国民を代表して言っているつもり」と熱を込めて語った。

質疑応答

――“オープンな場”というのは具体的に何なのか。

髙橋社長
 本件について、一度総務省さんの審議会にお呼びいただいて、そのときに発言の機会はいただきました。

 ただ、実は今回の提言、我々はまだ一切見ることができていません。我々キャリアはヒアリングを受けていますが、PTの議事の内容は一切知らされていません。

 我々も知らないくらいなので、国民の方たちもわからない。この問題にどういう問題が内在していて、それについてどう解決しようとしているのかということを、オープンにしなければいけないと思っています。

――こうした合同会見については、どこが主導しているのか。

髙橋社長
 このような重要な課題については、各社渉外(の担当者)同士で情報交換しています。競争と協調のうち、協調の領域で、競争を阻害しない範囲内でやっています。

 実はもともと、NTTさんのネットワークを公正に使おうというときは、ドコモさんを交えていました。アクセスチャージや相互接続の議論もしていましたが、2020年にドコモさんが(NTTの)100%子会社になってから、ドコモさんはこっち側のサイトでは議論してくれなくなったんですね。

 ストラクチャーの変更って言ったらそういうことなんでしょう。今回のNTT法廃止がもしも実現されてしまうと、そのような強大なNTTさんに先祖返りされてしまう、そして議論さえ失われてしまうのではというのが我々の大きな懸念なんです。

――NTT法が見直されてNTTが完全民営化される場合、具体的にどのような事業への影響が出るのか。

髙橋社長
 各社が進めている通信サービスすべてに影響が出る可能性があります。特にモバイルサービスについては根幹となる特別資産をNTTさんがお持ちなので、それが影響するサービスすべてに影響が出てくる可能性があります。

宮川社長
 一言で言うと、国民の生活すべて、それから企業の経済活動すべてです。

 ほとんど毎日のように、すべての国民はNTTさんの光ファイバーの中継網を通って電話をかけていますし、インターネットもやっています。

 それから、企業の経済活動もしかりです。

三木谷会長
 情報通信は、ある意味リアルなインフラよりも重要なインフラだと思うんですね。

 スマートフォンだけではなく、すべての企業や家庭、すべての日本人に多大な影響のある案件だと思います。

髙橋社長
 こういう質問が大事なんです。何に影響するかということも、実はオープンに議論できない。こういうことをたくさん聞いていただいて、我々が答えることによって、オープンにしていきたいです。

――SNSでの投稿もあった。

髙橋社長
 Xでの投稿については3社で示し合わせたけではなく、本当に順番につぶやいただけです。結果的に良かったのは、あのあとNTTさんが公式のXで反論されたじゃないですか。

 こういう議論もなかなかオープンにならない。今回のXのやり取りについては結果的に良かったと思いますが、正式な場でこうした議論がされることが非常に大事です。

――NTT法の廃止に関して、話自体がどんどん進んでいっている印象を受ける。(今回の主張が聞き入れられず)NTT法廃止に向かってしまった場合、たとえば裁判など、その動きを止めるような実効性のある手だてはあるのか。

髙橋社長
 それについては、我々これから議論を進めるなかで考えていかなければいけないなと思っています。

 ただ、今日本当にお願いしたいのは、NTT法廃止って通信事業者のつばぜり合いじゃないんですよ。これからすべて通信がつながっていく、その根幹に関わる大きな議論です。

 国民のサービスに必ず直結するので、世論と言うか皆さんがいかに関心を持っていただくかによって、議論の流れは変わっていくと思うんですよね。(関心の持ち方が)大きな抑止力になると思いますので、ぜひご協力お願いしたいです。

宮川社長
 髙橋さんとまったく同じことを言おうとしていたんですけど、本当に、通信事業者同士の小競り合いじゃないんですよ。我々はこの業界を一番よく知っている古狸として「声を上げないのはまずいだろう」ということで始まったことですし、NTTさん以外の通信会社がみんなそう思ってるのに、なぜ押し切ろうとするのかと。ここが論点だと思うんですね。

 万が一政治の力で決着したということになれば、どなたか日本国内の有識者が、もちろん私どもそうかもしれませんが、誰かがおかしいと思えば裁判になるでしょうね。それくらいのことだと思っています。