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次世代ネットワークや自動運転など、ソフトバンクの技術展「ギジュツノチカラ」を見てきた

 ソフトバンクは、技術展「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」を東京・竹芝で開催している。一般の参加者も受け入れており、事前登録は不要。

 3月22日と23日の2日間にわたって最先端技術が展示され、カテゴリーは「次世代ネットワーク」「HAPS」「自動運転」「次世代電池」「量子技術」「次世代コンテンツ」の6つ。

 今回は報道陣向けのツアーに参加し、展示の内容を取材した。

「ギジュツノチカラ」とは

 「ギジュツノチカラ」は、ソフトバンクが2020年8月から開催している技術展。同社が2022年4月に「先端技術研究所」を設立してからは初の開催となり、さまざまな展示のほか、オンラインでも視聴可能なトークセッションがプログラムとして用意される。

 報道陣向けのツアーに先立ち、先端技術研究所 所長の湧川隆次氏が登壇。「先端技術研究所では、新たな事業やサービスにつながるような研究に取り組んでいる。我々の最新技術を楽しんでいただければ」と語った。

湧川氏

次世代ネットワーク

テラヘルツ

 一般的に0.1THz(100GHz)〜10THzの帯域のことを指す「テラヘルツ」。5G通信の次の世代として「Beyond 5G/6G」に関する開発が進むなか、通信速度の向上などを実現するために注目されている帯域だ。

 しかし、テラヘルツ波は低い周波数との比較で伝搬損失が大きく、さらに雨などの影響を受けやすい。こうした特性を持つテラヘルツ波の有効利用に向けて、ソフトバンクでは「回転反射鏡アンテナ」などを開発し、さまざまな検証を実施している。

上空における通信ニーズに応えるために

 ドローンの活用が進む最近では、上空における通信ニーズも高まっている。地上と異なり、建物のような遮へい物が存在しないため、電波が遠くまで届いて干渉してしまうといった課題が存在する。

 そこでソフトバンクはセスナ機を活用し、上空における電波伝搬特性などを検証。国際的な通信業界の団体「3GPP」のモデルよりも広い範囲での検証に成功し、検証の精度も高かったという。

次世代の映像圧縮方式

 今後の爆発的なトラフィック増が見込まれるモバイルデータでは、その8割を占めるとされる映像データについて、次世代映像圧縮方式のH.266/VVC(Versatile Video Coding)を開発。従来のH.264/AVCの約1/4のデータ量で映像を伝送でき、高精細・低ビットレートの映像配信の実現に寄与する。

次世代コンテンツ

 ソフトバンクは次世代コンテンツの創出に向け、「XR基盤技術」の開発を進める。

 「XR基盤技術」では、一体感のあるライブエンターテインメントを生み出すべく、「リアル空間とバーチャル空間の境界線を取り除くボーダーレス技術」「ユーザーがリアクションなどを入力できるインタラクション技術」「没入感を高める高精細な映像の配信技術」の3つに重点を置く。

 たとえば2022年10月6日~29日には、東京・池袋の「Mixalive TOKYO(ミクサライブ東京)」で、観客参加型の講演「講談のおそ松さん」を開催。満員の回もあり、「技術課題はあるが、次世代のエンタメとして手応えは感じた」という。

量子技術

 特定のパターンの計算について、スーパーコンピューターを凌駕する計算能力を持つとされる量子コンピューター。将来的に汎用型の量子コンピューターが実用化された場合、現時点では安全な暗号の解読につながる恐れがあり、セキュリティリスクが指摘されている。

 そこでソフトバンクでは、対抗する暗号技術として、PQC(耐量子計算機暗号)やQKD(量子暗号通信)と呼ばれる技術の開発を進めている。

 会場では、IBMによる量子コンピューターの模型も展示されていた。筆者の印象では大人の身長と同じくらいのサイズ感で、その大きさの理由は「熱対策」。0.01ケルビン(摂氏換算で約マイナス273度)でないと、計算ができなくなるそうだ。

自動運転

 4月1日に施行予定の改正道路交通法により、特定の条件下での自動運転を認める「レベル4」が解禁される。とはいえソフトバンクによれば、コストや安全性など、課題は山積しているという。

 同社では、自動運転の運用プラットフォームを開発し、多くの自動運転車を効率的に監視できるようなしくみづくりを進める。

 また、LTEや5Gといったモバイルネットワークを活用し、自動車とさまざまな情報をやり取りする「セルラーV2X(C-V2X、V2XはVehicle-to-everythingの略)」を推進。自動車の安全運転を支援する技術として、本田技術研究所とともに技術開発に取り組んでいる。

C-V2Xの通信モジュール(アルプスアルパイン製)
自動運転車の車両

HAPS

 ソフトバンクが“空飛ぶ基地局”として開発を進めてきたのが「HAPS(High Altitude Platform Station、ハップス)」。上空から広く通信ネットワークを提供するシステムとして期待されているが、成層圏の過酷な環境に耐えうるコンポーネントの開発など、避けては通れない課題もあった。

 同社が2020年4月に設立した業界団体「HAPS Alliance」には、2月時点で53の企業や団体が加盟。現在は実用化を視野に入れた開発が進められている。

次世代電池

 先述のHAPSの開発が契機となり、ソフトバンクが取り組むのが“次世代電池”の開発だ。自社での開発に至った理由は、「(HAPSで求められる)軽量化を最優先事項としたリチウムイオン電池が、市場にはなかったから」。

 負極を黒鉛(カーボン)からリチウム金属にするといった変更などにより、軽量化(重量エネルギー密度アップ)に成功。あわせて、レアメタルフリーなどを実現する有機正極二次電池などの開発にも取り組んでいる。