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iPS細胞から作った「脳オルガノイド」をコンピューターにできるのか ―― ソフトバンクと東大が実験結果を発表
2025年1月17日 16:10
脳を模した細胞を培養し、コンピューターとして利用する。「Brain Processing Unit(ブレインプロセッシングユニット)」と名付けられ、SF作品のようにも思える取り組みについて、ソフトバンクと東京大学の池内与志穂准教授が共同研究を実施。その成果が発表された。
脳オルガノイドを活用
今回、実験に用いられたのは「脳オルガノイド」と呼ばれる“細胞の塊”だ。ヒトのさまざまな臓器にできるiPS細胞から培養し、大脳を模して作られた。
池内准教授によれば、今回の脳オルガノイドの大きさは1mm程度。3カ月ほどかけて培養したものになる。複数の脳オルガノイドを軸索と呼ばれる組織でつなげたものは1cmになった。このサイズは、現状の手法で製造できる細胞として「ほどよいサイズ」(池内准教授)という。
血管はなく、培養液に入れて、温度を37度程度に保ち、ph値も整えて数カ月維持できる。複雑な脳の仕組みを全て再現するというよりも、ごく一部を再現した。
脳オルガノイドを“BPU”にできるのか
今回、ソフトバンクが掲げたのは「BPU」。脳オルガノイドで、コンピューティング処理の能力を実現できるか、というものだ。
何らかの計算や処理をさせる、ということになるが、脳を模したとはいえ、細胞の塊にそんな力はあるのか。
実は、脳オルガノイドに、電気で刺激を与えると、イオンチャネルと呼ばれるタンパク質のゲートが開く。そこをイオンが通り、細胞の中へ入ってくる。このとき電位の変化が生まれる。つまり電気信号がデータの入力となり、計測された電位差が出力結果になるのだという。
脳オルガノイドのデータをデジタル化するため、脳オルガノイドは電極アレイの上に設置されている。1秒に2万回ほどサンプリングし、変化を見る。
その上で、「刺激なし」「定期的な刺激(1Hz、1秒に1回)」「ランダムな刺激」の3種類を試したところ、刺激なしでは変化なく、ランダムな刺激では活動が低調となった一方、定期的な刺激を与えると活発に動くことがわかった。
コントロールされた刺激で、脳オルガノイドが動くことがわかり、次のステップでは“ゲームを遊ばせてみた”という。
これは、バーとバーの間をボールが通るようコントールするというゲームで、脳オルガノイド側の変化を「ボールが上に動かした」あるいは「下に動かした」とみなし、バーとバーの間をくぐり抜けることに失敗すればペナルティーになるような刺激を与え、成功すれば報酬となるような刺激を与えた。どういった刺激かは開示されなかったが、何度も繰り返していくと、成功パターンを学習して反映する割合が高まっていった。
「電気刺激で制御する」「反応を出力とする」「繰り返して学習させる」といったステップで検証が進められてきたあと、さらに脳オルガノイドを複数、つなげた上で実験してみると、ソロの脳オルガノイドよりも、2つ(デュオ)、3つ(トリオ)の脳オルガノイドのほうが高い精度で回答を示すこともわかった。こうした高度化した脳オルガノイドの学習精度向上が、今回の共同研究の成果として発表されたことになる。
ちなみに脳オルガノイドをつなげる数を増やすと、数に応じて性能が上がるのか、どこかで頭打ちになるのかは、まだわからないという。