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iPS細胞から作った「脳オルガノイド」をコンピューターにできるのか ―― ソフトバンクと東大が実験結果を発表

 脳を模した細胞を培養し、コンピューターとして利用する。「Brain Processing Unit(ブレインプロセッシングユニット)」と名付けられ、SF作品のようにも思える取り組みについて、ソフトバンクと東京大学の池内与志穂准教授が共同研究を実施。その成果が発表された。

脳オルガノイドを活用

 今回、実験に用いられたのは「脳オルガノイド」と呼ばれる“細胞の塊”だ。ヒトのさまざまな臓器にできるiPS細胞から培養し、大脳を模して作られた。

 池内准教授によれば、今回の脳オルガノイドの大きさは1mm程度。3カ月ほどかけて培養したものになる。複数の脳オルガノイドを軸索と呼ばれる組織でつなげたものは1cmになった。このサイズは、現状の手法で製造できる細胞として「ほどよいサイズ」(池内准教授)という。

池内准教授

 血管はなく、培養液に入れて、温度を37度程度に保ち、ph値も整えて数カ月維持できる。複雑な脳の仕組みを全て再現するというよりも、ごく一部を再現した。

脳オルガノイドを“BPU”にできるのか

 今回、ソフトバンクが掲げたのは「BPU」。脳オルガノイドで、コンピューティング処理の能力を実現できるか、というものだ。

 何らかの計算や処理をさせる、ということになるが、脳を模したとはいえ、細胞の塊にそんな力はあるのか。

 実は、脳オルガノイドに、電気で刺激を与えると、イオンチャネルと呼ばれるタンパク質のゲートが開く。そこをイオンが通り、細胞の中へ入ってくる。このとき電位の変化が生まれる。つまり電気信号がデータの入力となり、計測された電位差が出力結果になるのだという。

 脳オルガノイドのデータをデジタル化するため、脳オルガノイドは電極アレイの上に設置されている。1秒に2万回ほどサンプリングし、変化を見る。

 その上で、「刺激なし」「定期的な刺激(1Hz、1秒に1回)」「ランダムな刺激」の3種類を試したところ、刺激なしでは変化なく、ランダムな刺激では活動が低調となった一方、定期的な刺激を与えると活発に動くことがわかった。

 コントロールされた刺激で、脳オルガノイドが動くことがわかり、次のステップでは“ゲームを遊ばせてみた”という。

 これは、バーとバーの間をボールが通るようコントールするというゲームで、脳オルガノイド側の変化を「ボールが上に動かした」あるいは「下に動かした」とみなし、バーとバーの間をくぐり抜けることに失敗すればペナルティーになるような刺激を与え、成功すれば報酬となるような刺激を与えた。どういった刺激かは開示されなかったが、何度も繰り返していくと、成功パターンを学習して反映する割合が高まっていった。

 「電気刺激で制御する」「反応を出力とする」「繰り返して学習させる」といったステップで検証が進められてきたあと、さらに脳オルガノイドを複数、つなげた上で実験してみると、ソロの脳オルガノイドよりも、2つ(デュオ)、3つ(トリオ)の脳オルガノイドのほうが高い精度で回答を示すこともわかった。こうした高度化した脳オルガノイドの学習精度向上が、今回の共同研究の成果として発表されたことになる。

 ちなみに脳オルガノイドをつなげる数を増やすと、数に応じて性能が上がるのか、どこかで頭打ちになるのかは、まだわからないという。

未来のワクワク感を示す

 ソフトバンク先端技術研究所先端5G高度化推進室長の朝倉慶介氏は、今回の取り組みについて「事業化は予定していない」とコメント。実際に共同研究を進めたことで、実用化は30~50年先になるとの見通しも示した。

ソフトバンクの朝倉先端5G高度化推進室長
共同研究を紹介したソフトバンク先端5G高度化推進室研究員の杉村聡太氏

 ただ、それでもソフトバンクとしては、先進的な技術へ積極的に取り組むことで、将来へ期待できる「ワクワク感」を発信することにしたと説明。2月1日~9日、東京・恵比寿で共同研究成果を展示するイベント開催する。会場には、ライゾマティクスの真鍋大度氏との作品も展示されるという。