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情報を送らなくても届く世界が来る? ソフトバンクが取り組む「量子コンピューター」の現在地
2023年9月21日 15:17
さまざまな種類のデータが大量にやり取りされるようになった現代社会。人々の生活は便利になる一方で、データ流出などのセキュリティリスクや、データ処理量の増大といった課題もある。
そんななか、注目されるのが「量子コンピューター」関連の技術だ。ソフトバンクはパートナーと連携しながら、社会実装に向けた取り組みを進めている。同社 先端技術研究所 先端技術開発部 部長の小宮山陽夫氏や同研究員の宮下真行氏らが、今後の展望などを紹介した。
宮下氏が紹介する量子力学の基礎
量子力学は、分子や原子、電子など微細な物理現象を記述する力学のこと。その実用性について宮下氏は、「既存の理論では現実を説明できない場合に役立つ」と語る。同氏は、量子力学なしでは説明できない事象の例として、水素原子スペクトル問題や光電効果問題を挙げた。
量子力学特有の概念として「重ね合わせ」「もつれ状態」があり、量子のもつれに着目した量子テレポーテーションは、“究極の通信”として注目されている。
量子のもつれは、量子同士が強い相関関係にある状態のこと。この状態にある量子のうち片方を観測すると、他方の量子が自動的に決定する。このしくみを通信に利用したのが、量子テレポーテーションだ。
たとえばAさんからBさんへ、ある情報を送りたいとする。AさんとBさんのもとにはそれぞれ量子があり、量子同士はもつれ状態にある。Aさんは自分の量子を観測し、その観測結果をBさんに送る。Aさんの観測によって状態が変化したBさんの量子に対し、観測結果に応じた復元鍵を適用すると、Aさんが送りたい情報がBさんへ届く。
情報を“送る”といった操作なしに、まるで情報がテレポートしたかのようなかたちになることから「量子テレポーテーション」の名がついた。ハッキングや盗聴などによる情報流出のリスクを回避でき、セキュリティ向上にも役立つと宮下氏は語る。
情報の送信自体が不要になる量子テレポーテーションの実現にはハードルがあり、実現は先の話になるという。そこで現代社会では、送る情報を暗号化するなどしてセキュリティを高めている。
暗号化された情報とあわせて暗号鍵の受け渡しを行うのが現在の暗号通信方式で、暗号鍵の抜き出しには膨大な計算が必要になる。しかし、桁外れの計算能力を有する量子コンピューターの登場により、既存の暗号では防御できなくなることが不安視される。
そこで活用されるのが、東芝デジタルソリューションズが開発を進める「量子鍵配送(Quantum Key Distribution、QKD)」だ。量子力学を活用することで、暗号鍵を安全に共有できる。
宮下氏は「現在のネットワークは、つながることを第一に考えて構築された。つながることが当たり前になった今、次に目指すべき安心安全を量子が担っていく」とコメントした。
ソフトバンクの取り組み
小宮山氏は量子コンピューターについて、「スーパーコンピューターで処理できるのは50量子ビットまで。量子コンピューターはそれを超え、計算可能な領域を拡大する」と期待感をにじませる。
量子コンピューターにおける「NISQ(ゲート方式)」「FTQC(ゲート方式)」「量子アニーリング」という3つの方式のうち、ゲート方式として現在利用できるのはNISQ。
量子コンピューターの長所は「すべてのパターンを計算するとき、従来より計算量を減らせるところ」(小宮山氏)。通信キャリアとして、たとえば基地局配置や出力の最適化などにNISQが活用できる可能性があるという。
現時点でも基地局配置などの最適化においてさまざまなシミュレーションが実施されているが、小宮山氏は「アンテナの高さや出力など、いわゆる経験則が用いられている部分もある。考慮しなければいけないパラメーターをある程度まとめて処理できる量子コンピューターにより、今まで気づけなかったことに気づけるかもしれない」と語る。
同氏が語るソフトバンクの役割は「実課題と量子技術の架け橋」。技術開発を担うベンダーや大学と、課題を抱える顧客をつなぐ、“量子技術コンサル”のような役割を担う。スタートアップであるLQUOMとの実験もスタートしており、ソフトバンクではさまざまなパートナーと連携しながら、社会実装を目指していく。
【お詫びと訂正 2023/09/22 13:50】
記事初出時、量子コンピューターにおける方式として「現在利用できるのはNISQ」としておりましたが、正しくは「ゲート方式として現在利用できるのはNISQ」です。お詫びして修正いたします。