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“次世代電池”の開発に取り組むソフトバンク、その現在地は

 スマートフォンやワイヤレスイヤホン、IoT機器――。私たちの生活におけるさまざまなデバイスの動力源として、電池は不可欠なパーツのひとつとなっている。

 そうした電池の可能性を広げるべく“次世代電池”の開発を続けるソフトバンクは2日、複数の関連技術の実証に成功したことを発表した。

 同日には、同社の開発拠点「次世代電池Lab.」の現地見学会が報道陣向けに開催された。本記事では、その様子をお届けする。

ソフトバンクが“次世代電池”の開発で見据えるもの

 見学会の冒頭では、ソフトバンク テクノロジーユニット 先端技術開発本部 先端マテリアル研究室 室長の西山浩司氏が登壇。同社のこれまでの取り組みを振り返るとともに、今後のビジョンについて語った。

西山氏

 ドローンタクシーや最先端のロボット、あるいは“空飛ぶ基地局”ことHAPSなど、さまざまな新デバイスが登場すると、必要とされる電力の増加に伴って電池にも進化が求められる。

 西山氏が考える、現在のバッテリーにおける課題は大きく2つ。1回の充電で多くのエネルギーを生み出す「高密度化」と、充電可能な回数を増やす「長寿命化」だ。

 この両方を一挙に実現しようとすると多くの時間が必要になるため、ソフトバンクはまずドローンタクシーやHAPSなどを見据えた「高密度化」に取り組み、その次のステップとして「長寿命化」を実現しようとしている。

 ソフトバンクは高密度電池の開発により、ドローンタクシーのような次世代デバイスの早期実現に加え、SDGsへの貢献も見据える。

 では、ソフトバンクが目指す高密度電池は、一体どのようなものなのか。西山氏は、現行の~350Wh/kgの電池に対し、次世代の高密度電池として~550Wh/kgと~1000Wh/kgの2種類の電池を挙げる。

 まず、現行の電池における負極の素材を、カーボンやシリコンからリチウム金属に置き換えることで~550Wh/kgの電池を実現させる。その技術を確立した上で、正極の素材を有機系や空気などの新素材に置き換え、~1000Wh/kgの電池を目指すという。

次世代電池開発における技術実証について

 続いて西山氏が紹介したのは、次世代電池開発に関する4つの技術。

 先述の正極材料に関わるものとして「高エネルギー密度全固体電池の研究」「MIを用いた有機正極材料の性能予測」、負極に関わるものとして「520Wh/kgセルの実証」「軽量集電体次世代樹脂箔の開発」が紹介された。

「高エネルギー密度全固体電池の研究」

 ソフトバンクが住友化学および東京工業大学と共同開発した正極は、Li10GePS12系固体電解質を、リチウム過剰系正極材料と組み合わせたもの。これにより、既存正極の容量を上回る初回放電容量として、250mAh/gを記録した。

 「リチウム過剰系正極材料は真新しい素材ではなかったが、液系電池では使用が難しく、成果が出ずに実用化されていなかった」と西山氏。今回は、東京工業大学の持つ固体電解質と組み合わせることにより、一定の成果を出すことに成功した。

「MIを用いた有機正極材料の性能予測」

 西山氏は、「有機正極材料」を探すための手法も紹介した。

 ソフトバンクは産総研と、“とある物質”を正極材料に使えないか3年前から研究を進めてきた。同時に、10の60乗もの組み合わせがあると言われる有機材料の中で最適なものを見つけるため、有機材料の性能を予測する手法の研究を、慶応義塾大学と協力して進めてきた。

 なお、このシステムには機械学習を用いた材料探索手法「MI(マテリアルズ・インフォマティクス)」が用いられているが、ソフトバンクは今回、小規模のデータから高い精度で性能を予測するモデルの作製に成功している。

 西山氏は「~1000Wh/kgを目指せるのではないかという候補がいくつか出ている。現状は机上の計算という状態だが、今後は有効性を確かめたい。そこはスピード感を持ってやれそうだ」と語った。

「520Wh/kgセルの実証」

 ソフトバンクは米Enpower Greentechとの共同研究により、520Wh/kgセルのリチウム金属電池の施策実証に成功した。この電池は、サイクル寿命も100サイクル以上を達成している。

 今回実証に成功した電池の容量は3600mAhで、現在スマートフォンに搭載されているリチウムイオン電池と同等の容量だ。ただし、重量と体積はおよそ半分に抑えられているため、もしこれを同じ重量と体積にした場合は「2倍のバッテリー持ち」が実現する可能性もあるという。

「軽量集電体次世代樹脂箔の開発」

 ソフトバンクは、「軽量集電体」として「次世代樹脂箔」の開発にも取り組んでいる。電池内の化学反応に関係のない部材の軽量化により、電池の高容量化にもつながる技術だ。

 既存の負極用集電体を「次世代樹脂箔」と置き換えることで、約50Wh/kgアップが見込めるとされる。

次世代樹脂箔

次世代電池の安全性を確かめるためのパートナーシップ

 ここまで紹介したように、ソフトバンクが開発に取り組むのは、西山氏が「いわゆる尖った電池」と表現する次世代電池だ。

 電池は高容量化に伴って危険度も増すため、安全性の高い電池としての実用化を見据え、ソフトバンクはエスペックと協業体制を構築した。

 大阪市に本社を置くエスペックは、製品の耐久性や信頼性を確認する「環境試験」において豊富なノウハウを持つ。バッテリーの耐久試験もその中に含まれており、数多くの試験設備を有している。

エスペック取締役 テストコンサルティング本部長の浜野寿之氏

 ソフトバンクは6月1日に「次世代電池Lab.」をオープンさせ、さまざまな電池メーカーと連携した研究体制を強めている。この「次世代電池Lab.」は、エスペックの「バッテリー安全認証センター」内に位置しており、エスペックの設備を借り受けるかたちとなっている。

 「次世代電池Lab.」について西山氏は「(いつまで借り受けるかについては)具体的に期間を設けていない」とし、長期的な研究への意欲をのぞかせた。

「次世代電池Lab.」の内部は?

 「次世代電池Lab.」の中に入ると、電池をテストするための「恒温器(チャンバー)」と呼ばれる試験設備がずらっと並ぶ。本来は電池など可燃性のものを入れるのはNGだが、ソフトバンクの協業にあたってカスタマイズされたものだという。

恒温器
パソコンで試験環境などの設定を細かく変えられる

 さまざまなメーカーから集められた電池は、治具で固定された状態でこの恒温器の中に入れられ、安全性がテストされる。

電池の試験の様子

 ユニークな電池のひとつとして、たとえばAPBによる「全樹脂電池」は一般的なリチウムイオン電池と異なり、釘で刺したりハサミで切り込みを入れたりしても、ほとんど発熱しない。こうした新たな電池を試す中で、ソフトバンクは次世代電池の可能性を探っていく。

全樹脂電池

 西山氏は、「次世代電池の開発は、収益化だけを目的にしたものではない。(我々が)最先端の技術を有しているという事実が、新たなパートナーシップなどの可能性を広げてくれる」と語り、今後の研究への意欲を見せた。