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ソフトバンクの湧川氏が語る、Beyond 5G/6G構想

 ソフトバンクは7月14日、さまざまな最先端技術を体感できる技術展「ギジュツノチカラ」の第3弾として、「ギジュツノチカラ Beyond 5G/6G編」をオンライン開催した。

 本記事では、同社の先端技術開発本部 本部長 湧川隆次氏による講演「ソフトバンクのBeyond 5G/6G構想と12の挑戦」の様子をお届けする。

湧川隆次氏

移動体通信の歴史と、世代ごとの違いとは

 移動体通信には、「3G」「4G」「5G」のようにジェネレーション(世代)がある。4Gまでは、10年ごとに通信方式などの大きな技術革新があり、世代交代を牽引してきた。

 そして、次世代の通信である5Gの無線アクセス方式は、実は4Gの通信方式をそのまま継承している。したがって、「技術的にはすでに極めたといえる」と湧川氏は語る。

 では、5Gの革新性はどこにあるのかというと、使用可能な周波数が大幅に拡張されたことだ。現在の日本国内における4Gの周波数は、「だいたい770MHzの幅を複数の事業者で使っている」(湧川氏)。

 それに対して5Gでは、Sub6(サブシックス)とミリ波の合計幅が2.2GHzとなり、周波数の量がまったく異なる。これにより、高速な通信が実現している。

 そして、6Gの帯域幅は実に100GHz以上になり、5Gの10倍を超える通信性能を誇る。ソフトバンクは今後10年間で5Gを展開し、その先の2030年ごろに6Gネットワークの展開を見込む。

ソフトバンクの挑戦

 ソフトバンクによるBeyond 5G/6Gの取り組みとして、湧川氏は「アーキテクチャの挑戦」「技術の挑戦」「社会の挑戦」の3つを挙げた。

「アーキテクチャの挑戦」

 現在、モバイル向けのデータ通信は、インターネットの技術をそのまま使っている。これが、「パケット交換」というしくみで、ひとつの回線を複数のサービスやアプリケーションで共有する。

 データはそれぞれ「パケット」と呼ばれる小さなまとまりに分けられ、パケットを共通の回線に通すことで、全員でひとつの回線を共有することが可能になる。ただし、通信の性能は混雑度に左右されてしまう。

 それに対してモバイルの電話サービスは、前述のパケット交換とは相反する「回線交換」という技術で成長してきた。電話の受け手と話し手に対して専用の回線が提供されるため、通信品質の保証が可能になる。

 そしてソフトバンクは、インターネットの世界で難しかった「通信品質の保証」を目指す。これは50年来の課題とされており、複数の事業者によって構成されるインターネットの世界では、事業者間の調停などを含めて品質保証が困難だったという。

 そのカギを握るのが、5G時代の技術であるエッジコンピューティングだ。通常はクラウドにあるサーバーを、端末により近い位置(エッジ)に置くことにより、低遅延な処理が実現する。

 そしてこのエッジはソフトバンクのネットワーク内にあるため、単一事業者として品質保証の概念を確立できるというわけだ。

 また、5Gで出てきた概念であるネットワークスライシングは、ひとつのネットワークを分割し、さまざまなユースケース向けにカスタマイズするもの。これが6Gではより細分化され、多様な産業に対応可能なネットワークを提供できる、と湧川氏は強調する。

 湧川氏は、サービスを使いやすくするための「インフラ要求のAPI化」や、ダイナミックにネットワークを動かしていくAIネットワークについても触れ、さまざまな産業に対して革新的なインフラを提供していきたいとした。

「技術の挑戦」

 ソフトバンクはこれまで「人口カバー率」にこだわり、人が住んでいるところに通信インフラを整備してきた。

 湧川氏は、産業インフラとしても機能する5G・6Gに関して、人がいないところにもインフラを整備する「国土カバー率」が重要であると語る。

 これまでは地上局を使ってインフラをつくってきたソフトバンク。同社が見据えているのは、成層圏や宇宙などの上空エリアだ。空からのインフラをつくることにより、もともと2Dだったインフラを3D化していく。

 こうした計画のキーポイントとなるのが、上空から電波を届ける基地局技術「HAPS」「LEO」。

 HAPSに関して、ソフトバンクは4年前から検証を開始しており、2020年にはHAPSのアライアンスを立ち上げた。同アライアンスには、さまざまな企業が加盟している。

 HAPSは、上空20kmから2つの周波数「サービスリンク」「フィーダーリンク」を使ってサービスを提供する。

 サービスリンクはユーザーの携帯端末に届く電波の周波数で、フィーダーリンクは携帯端末の電波を上空に届けるものとなる。

 湧川氏は、成層圏に複数の基地局を打ち上げ、それらをメッシュネットワーク化することで、地上で障害が起きた場合でも上空から復旧させられる「成層圏メッシュNW」の構想も紹介した。

 続いて湧川氏が語ったのは、「周波数の拡張」というトピック。5Gではこれまで使われていなかった高い周波数として、ミリ波帯を活用している。

 そして6Gではミリ波の拡張に加え、その先のテラヘルツ帯も視野に入ってくるという。日本の電波法上「電波」として定義されているのは3THzまでであり、それより先は「光」という扱いになる。

 ソフトバンクはテラヘルツ帯と光の無線の活用を目指し、取り組みを続けていく。

 湧川氏は、周波数の拡張に加え、電波利用の使い方の拡張に関しても紹介した。

 電波は、周波数が高くなればなるほど直進性が高くなるため、たとえばミリ波帯やテラヘルツ帯では、物体を検知するためのセンシングなどへの活用も考えられる。

 また、すでにある技術のワイヤレス充電に関して、現在は「非放射型」の電力伝送が採用されており、端末がワイヤレス充電器から少し離れただけで充電ができなくなる。今後は「放射型」への切替により、離れたところにある端末への給電が実現する可能性もあるという。

「社会の挑戦」

 アナログ時代、周波数は用途や企業によってきっちりと区切られてきた。

 しかし、通信量にあわせて5Gと4Gを切り替えるダイナミックシェアリングなど、電波を柔軟に使える技術が登場。これにあわせ、法制度の改正も進んでいる。つまり、5G、そして6Gに向けて、社会としても枠組みが変化しつつある。

 湧川氏は、量子暗号技術を用いたセキュリティ向上や、障害に強い電話網の構築、カーボンフリーに向けた電力削減の取り組みなどを紹介し、講演を締めくくった。